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2009年11月26日
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 数日後。


「ちょっと……一緒に来てくれないかな。」

 いつになく真剣な顔の景時の顔に、望美は多少たじろぎながらもついていった。
 いつも通りつないでくれる手も、どこかぎこちなさを感じるのはどうしたわけだろう。 景時は何も言わず、どんどんと歩いていく。いつもなら休んでいこうと誘う喫茶店も通り過ぎ、鳩に餌をやっていく鶴岡八幡宮の前さえ通り過ぎた。夕闇迫る中、絶えることない観光客の人並みもなく、街が静かに夜の時を迎えようとしている時間。

(どこへ行くんだろう……)

 細道を急に曲がった。

(ここの突き当たりは……)

 大蔵御所の跡地の向こうの……頼朝墓。景時は、正面の階段をものもいわず上っていった。

「望美ちゃん。」



「オレの話、聞いてくれるかな。」

 望美の心はひやりとした。あのときのことは忘れていない。荼吉尼天を倒して、いよいよ元の世界へ帰るというその日、二人で来た……。

 景時の腕が伸び、そっと望美の肩を抱いた。突然の事に、望美は大きく目を見開いたまま固まった。

「ごめんね……ここでなら言える……いや、きっとここでしか言えないんだ。もしも、君の気持ちがあのときと変わっていないなら……」

 望美は見開いた目で景時を見上げた。あのときとは全く違う、穏やかな、でも少し緊張した面もちがそこにあった。

「オレと……結婚してくれるかな。」
「景時さん!」

 変わってなどいない。変わっているはずがない。この日を待ち焦がれていた。
 望美は景時を抱き返した。思い切り力を込めて抱きしめた。

「私の気持ちが……変わるはず、ないじゃないですか……!」
「望美ちゃん……。」



 いつの間に?

 左の薬指に、指輪が光っていた。景時の鎖骨の間で光っていたのと同じ色の。
 いぶかしげに見つめる望美に、景時が言った。

「気に入らない?」

「ええと、こっちの世界ではこうするんじゃないの? こういうとき。」
「こういうときって……ええ!?」
「え? 違うの? 確か、この間、『てれび』で……」
「違わない、違わないけど、景時さん、これ……」
「うん。オレの気持ち。幻術じゃないよ。もらいものだけど、さ。」

 譲を手伝って蔵を片づけていたときに見つけたのだ。祖母のものだと譲は言った。きっと、例の夢見で予感していたのだろう、「景時さんに必要な物だろうと思うから取っておいてください。」と言った。「その方が祖母も喜びます。」と付け加えて。

「スミレおばあちゃんの……。」

 景時と縁をつないでくれた、星の姫。
 指輪をじっと見つめる望美の肩を、景時が抱いた。暗くなった道を、二人並んで歩いた。吹く風は冷たいのに、全然気にならないほど暖かい。二人、一緒。幸せだから。



 春日の家の前で別れるとき、もう一度、キスした。離れがたいと思ったけれど、望美は自分から体を離した。薬指の指輪は、もうすぐ景時といつも一緒にいられる約束の印。我慢しようと思った。これから歩む道を、汚すことのないように。

「じゃあ、また。」
「うん!」

 明るく手を振って別れた。有川家の玄関へ向かうかと思いきや、景時の足はそのまま春日家の裏庭へ向かった。有川家の離れへの近道だ。望美はまるで景時が自分の家の敷地の中に住んでいるような錯覚に陥った。

(もう、景時さんたら。)

 遠くない。遠くない。それはまるで、同じ家の別の部屋にいるのと同じ。
 望美は元気よく玄関の扉を開けた。

「お母さん、見て!」

 景時さんからもらったのと、指輪を見せた。晩酌していた春日の父が寂しそうに笑った。





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最終更新日  2009年11月26日 19時30分26秒
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