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何年か経って振り返った時、はじめてわかることってありますよね。それは、自分にとって何かしらのキッカケである場合が多いです。最初から全てが見えていれば、そんなに遠回りはしないのですけどね。きっと今を精一杯生きている人には関係ない話ですけど(´・ω・`)
2013/06/27
続きです。初稿:2013.06.24編集:0000.00.00<< 前の話 次の話 >>※月ノ章の本編です4-04【出立】 数刻後、ミュークは夜も明けきらぬ内に目を覚ました。 人族ほど睡眠を必要としない屍族には十分過ぎる休養だった。 気の利いた給仕の勧めで湯浴みを済ませ、これまた気前良く用意された上質の肌粉を皮膚に塗りこんで陽光対策を施す。 身支度を終えて宿を出ると、冷たさを増した空気が火照った体に心地よかった。 青白く輝く夜光雲が次第に暖色を滲ませて、忌まわしくも焦がれて止まない陽光が肌を刺す。 荷箱を担いだ露天商や、朝摘みの草花を入れた花筐(はながたみ)を持った娘と歩調があう。 程なく、テーベ・ミトラ噴水広場に到着した。 周囲を見渡すが、疎らな人影があるのみだ。 手持ち無沙汰に突っ立ていると、規則正しい足音が近づいてくる。「ご機嫌麗しゅうございます」 目の前に銀髪碧眼の少女が佇んでいた。 フリルを誂えた可愛らしい袴服は、かぼちゃを連想させる。 腰付けの革帯にはラッパ銃と思しき火器が収められており、優美さよりも運動性を重視した仕立てのようだ。 人目を惹く、愛らしくも奇抜な服装だが、それ以上に驚嘆すべきことがあった。「其方はユイリーン・リュズレイ!?」 一命を取り留めたとは聞いていたが、動けるようになっていたとは驚きである。 ミュークの見立てでも、かなりの火傷を負っていたことは間違いない。 現に衣服から覗く手足には痛々しく包帯が巻かれていた。「屍族は随分と世俗に疎いようですわね。 王族に対して、そのような不躾な物言い。 本来なら不敬罪で牢獄行きですが、今回だけは大目にみましょう」 当のユイリーンは怪我の状態など全く意に介していないようだ。 その上、年端もいかぬ子供の癖にやたらと弁が立つ。 本来ならミュークの眼鏡にかなう美少女なのだが、如何せん手篭めにする自信がなかった。 プルミエールとは別の意味で扱いが難しそうだ。「で、その妹姫殿は、なぜここにおる?」「愚問ですわね。 アナタ方だけどうやって鉱石の選定をするおつもりですか?」 腰に手を添えたユイリーンが小ばかにしたように鼻を鳴らす。「うっ、それはアレじゃ。 ワチキは味覚で鉱石を選別できるのじゃ」 確かにそんな特技をテトラモルフ大灯台で披露したこともある。 もっとも、後付感は否めない。「屍族であるアナタが畏怖すべき蛍輝石を舐めると? 確かに学術的見地からも検証に値するかもしれません」 ユイリーンが細顎に指を添えて、考え込むような仕草をみせる。 このままだと笑い話では済まないことになりそうだ。「……いや、冗談じゃ」「あら、おやめになるのですか。 では、やっぱりわたくしが必要ということですわね」 ユイリーンは少し残念そうに呟くが、切り替えも早く、にっこり笑って左手で握手を求める。 渋々ながらミュークはそれに応じた。 目敏くも、少女が右手を出しかけたことに気づいていた。 恐らくそちらが利き手であるのだろう。 同行を認めたのは、他者を慮る器量がこの少女にあると理解したからだ。 レムリアの件もあり、第一印象は悪かったが、若干九歳にして、よく出来た娘だと認めざるを得ない。「それにしてもよく無事だったの」「周囲の者が大袈裟過ぎただけです―――とは言っても、わたくしが助かったのはコレのお陰です」 ユイリーンは腰の小鞄から金属製の円環を取り出す。「それはもしやあの時の?」 レムリアが枷せらた封印具によく似ていた。 確証が持てないのは、中央の窪みに蛍輝石が填っていない点と、その周辺が高熱で溶かされたように焼け爛れて、原型を損なっているからである。「ええ、蛍輝石がわたくしの身代わりとなってくれました」 屍霊術の源は、その名の通り召霊された死者の霊魂である。 蛍輝石は避雷針の役割を果たして、具現化した屍霊の焔を吸収したのだろう。 もっとも、急速に巨大な力を取り込んだ為、蛍輝石そのものは砕け散ってしまったようだ。「どちらにしても、殊勝な心掛けじゃな。 プルミエール嬢が心配で、居ても立ってもおられずに駆けつけてきたのじゃろう?」 やられっぱなしだったミュークが反撃を試みる。 年長者としての襟度に欠けるが、良くも悪くも似たもの同士のようだ。「こ、このわたくしが、あんなお馬鹿の心配なんてするわけありませんわ。 これは……その……そうです。 大屍族の生態観察と実験材料の収拾を目的とした、合理的且つ一環性のある行動で……」 ユイリーンの右手がカクカクとぎこちない動作で、腰元のラッパ銃に伸びていた。 よほど認めたくないのだろう。 自害するか、はたまた生き証人を抹殺しそうな悲壮感が漂っている。「朝っぱらから随分と楽しそうだな」 間が良いのか悪いのか、厄介事が服を着て歩いているようなバルバロトが現れた。 案の定、状況の把握よりも、会話に首を突っ込むことを優先している。 巨漢の丸太のような腕が馴れ馴れしく、ミュークの肩に回されていた。「はわっ、これはユイリーンさま!? ―――うわきゃあぁぁ」 遅れてやってきたアリエッタがユイリーンに気づいて畏まるが、突如響いた轟音に驚き尻餅をついた。 少女の足元の石畳に鋼鉄製の弾丸がめり込んでいる。 動揺の極地で名を呼ばれたユイリーンが誤射したようだ。 物騒極まりなく、不幸も極まりない。 ミュークは、騒ぎに気づいた見回りの兵士に、どのような言い訳をしようか、遠い空を見上げながら考えていた。 警笛の音とは別に、遠くから鉄蹄が石畳を叩く音と、車輪が刻む音色が近づいてくるが、間に合いそうもない。 ミュークはヒトの役回りとは、定められた因果のようなものだと強く実感した。<< 前の話 次の話 >>※気まぐれに推敲致します。推敲後の文章はフリーページorHPの方で反映されます。■小説.■ファンタジー.■オリジナル.
2013/06/23
推敲後、後半部分もUPします。初稿:2013.06.23編集:0000.00.00<< 前の話 次の話 >>※月ノ章の本編です4-04【出立】 出航は明後日となり、バルバロトとアリエッタは旅支度をする為に常駐宿へと帰っていった。 翌朝テーベ・ミトラ噴水広場で落ち合い、公国の用意した馬車で教皇庁への連絡船が停泊する港町ワールへと向かう予定だ。 ミュークが水面の銀月亭に戻ると、カタリナ公女の使者と名乗る人物が待っていた。 持参した公の書簡と共に、ウリクス金貨の詰った革袋が手渡される。 遠征に掛かる費用は、公費で賄って貰えるようだ。 断る理由―――いや、余裕がないので素直に受け取る。 ミュークは退室する使者に、老公女の恩意に対する感謝の意を託して見送った。 天蓋付きの豪奢な寝台に身を横たえると、自然に笑みが洩れる。 革袋の中には公王印の刻まれた親書が添えられていた。 そこには、レムリアがアルル=モアの宮廷魔術師に弟子入りを志願したこと。 そして暫くの間、双子を公宮で預かることになった旨が記載されていた。 双子がミュークの許しを得ずに行動に移るなど初めてのことだ。 心配がないと言えば嘘になるが、出来る限りその意思を尊重してやりたかった。 同公国は西大陸で唯一、術式兵団を組織している国家である。 得るものも大きいだろう。 これをきっかけに双子が大きく成長してくれるなら、腕一本失ったことも、痛くはないと思えるから不思議だ。―――ひとりで笑っていると傍目には気持ち悪いよ 心地よい感慨をぶち壊す無粋な声が、ミュークの頭の中に直接響く。 驚きから、息を詰らせた。『い、いきなり湧いて出おって、どういうつもりじゃ!?』 ミュークはきまりの悪さを糊塗するように、声の主に強めの思念を送った。 今の今まで契約した夜の意志―――インクル・ノス・クルンに全てを覗かれていることを失念していたようである。―――ヒドイ言い草だね。 まるでボクを幽霊みたいに……あれっ? 合ってるのかな。 まぁいいや、大灯台でチカラを使いすぎちゃったからね。 意識を象ることも困難だったんだ『精神体にも疲れなどという概念が存在するのかや?』―――それはちょっと違うな。 今まではボクの声が聞えないぐらい、ミュークお姉さんが消耗していたってことだよ。 契約者とその夜の意志は一心同体だから、ミュークお姉さんが消耗すれば、ボクたちもチカラを失うことになる 初耳である。 ミュークは血統アルカナ“女教皇”の正式な継承者ではない。 故に、契約した夜の意志との接触は、このインクル・ノス・クルンが初めてなのである。 知らなくても仕方がないだろう。『なるほどの、ワチキの方に原因があったわけか。 じゃが、わざわざ憎まれ口を叩く為にでてきたわけじゃなかろう?』 子供染みた性格とはいえ、仮にも二十二家に伝わる夜の意志である。 徒に接触を望むとは思えない。―――うん、その話だけど、ずっと不思議だったんだ。 あのレムリアって子の記憶を消してしまえば、そんなに寂しい思いをせずに済むんじゃないのかな?『な、なにを申す。 これは、子の行く末を憂う親心のようなもので……』 想定外の言葉だった。 いや、助言そのものは想定内である。 問題は、心の奥底を看破されたことに対してだ。―――ボクはミュークお姉さんのなかで独立した意識を保ってはいるけど、宿主の感情ぐらいは読み取れるんだよ「う……あ……ええい、ああそうじゃ、寂しくて何が悪い! どうせワチキはいつまで経っても半人前じゃ!!」 会話から理性がいち早く退出すると、内心の動揺のみが一人歩きを始めていた。 ミュークは羽毛枕に顔を埋めながら、イヤイヤするように身を捩っている。 思念を読み取られることはあっても、秘めた感情まで筒抜けとは考えていなかったようだ。―――アハハ。 ホント、ミュークお姉さんを継承者に選んで正解だったよ。 ベルムード三世は打っても響かない堅物でつまらなかったからね「……情緒不安定で悪かったの」 からかわれているのを理解したミュークが途端に不機嫌になる。 だが、ふと我に返る。 室内でただ独り舞台稽古でもするように、喜怒哀楽を体現する自分の姿は、さぞ滑稽なことだろう。 自然に頭が冷えた。『先ほどの提案は残念ながら却下じゃ』―――どうして?『レムから件の記憶を消しても、ワチキが右腕を失った事実がなくなるわけではない。 余計な心配をさせた挙句、事態を悪化させるだけじゃ』 先人の言葉にもあるが、人の口に戸は立てられない。 その場しのぎに問題を先送りにすれば、当人をより深く傷つけることになる。―――そこはアレだよ。 口裏を合わせて、失った腕は転んだ拍子にとれちゃったとか『ワチキは子供の玩具ではないぞ』―――ま、冗談はおいといて、確かにボクが浅はかだったみたいだね。 で、思慮深いミュークお姉さんは、あの大きな兎をどう思う? インクル・ノス・クルンが唐突に話題を変えた。 どうやらこちらが本題のようである。『恐らく、巨人族の生き残りじゃろう』 伝え聞く巨人族の様相とは若干異なるが、ミュークはそう結論付けた。 ポゥ技師が失われた技術について触れたこともひとつの要因である。 少なくとも、四大古種族であることは間違いないだろう。 外見から人族の祖先とされる有角族の線は除外される。 妖精族は南大陸の古代樹海に結界を張り、世界樹の守護者となり自然と共に生きる道を選んだ。 今更人里に現れるとは考えづらい。 要するに単なる消去法である。―――なんだ知っていたのか『遺跡の封印を解いたのも、あの者じゃろう。 なぜアルル=モア公国に身を置いているのかはわからぬが、何か大きな決意を秘めておるとみた』―――それは女教皇の血統アルカナのチカラ? それとも大屍族の勘かい『どちらでもない。 なんとなくじゃよ』 ミュークはゆっくり瞳を閉じてから、「母上と同じ目をしておったからの」と、付け加えた。 樫の大樹のように揺ぎなく、それでいて春の木漏れ陽のように全てを受け入れた瞳。 全てを見透かされているようで、ミュークには終ぞ向き合うことが適わなかったものだ。 その思念が伝わったのか、夜の意志の追求はない。 沈黙が満ちると、ミュークが眠りに落ちるまで大した時間を要しなかった。<< 前の話 次の話 >>※気まぐれに推敲致します。推敲後の文章はフリーページorHPの方で反映されます。■小説.■ファンタジー.■オリジナル.
2013/06/23
大好きなファンタジー作品と言えば最初に浮かぶのはゲームになってしまうけど、「グランディア」「ルナ・シルバースターストーリー」「白き魔女」「聖剣伝説」この辺の世界観が一番好きです。日本のファンタジー小説だと「ロードス島戦記」「風の大陸」「西の善き魔女」「十二国記」とかが好きです。海外だと「ドラゴンランス戦記」「アーク島年代記」「紅衣の公子コルム」「ハリー・ポッター」辺りです。基本的に主人公が次第に成長して、英雄と呼ばれるような作品が好きです。・・・スレイヤーズやオーフェンとかも子供の頃別の意味で好きでしたけどね。
2013/06/19
初稿:2013.06.17編集:0000.00.00<< 前の話 次の話 >>※月ノ章の本編です4-03【技師】「一体、何処に連れて行くつもりじゃ」 ミュークは隣を歩く巨漢に歩調を合わせて訪ねる。 あの後、理由も聞かされず、半ば強制的に屋外へと連れ出されたのだ。 既に陽は落ち、水都アンディーンは活気溢れた昼の衣を脱ぎ捨て、夜の化粧を施している。 黄昏色の灯を映し出す水鏡が、都市全体を幻想的な空間に変貌させていた。 ただ残念なことに、連れが著しく情緒さに欠ける。 ファナが別行動をとった為、連れ立つのが件の二人組みであるからだ。「いや、俺様もよくは知らんが、アンタに必要なことだとさ。 あの婆さんが言うのだから間違いはないだろう」 バルバロトの言う婆さんとは、アルル=モア公女カタリナ・アヴィスのことである。 一国の長に対してぞんざい過ぎる物言いだが、言葉に幾ばくかの敬意が含まれているようで嫌味には聞えない。 どうやら身分や権勢にではなく、個人の資質にのみ私淑する人間のようだ。「羨ましい性格をしておるな。 レムリアなどは見習うべきかの」 ミュークの好奇に満ちた視線がバルバロトに向けられる。 両者の背丈には頭ふたつ分以上の差が存在する為、自然と見上げるかたちとなっていた。 気楽なもので、バルバロトはアリエッタに道案内を任せて、鼻歌などを口ずさんでいる。「まっ、今は前を向いて歩くしかないわな」「ふむ、物事を大局的に捉えた哲学的な答えじゃな」「そんな大層なもんじゃねえけどな」 バルバロトが困ったようにボリボリと頭を掻いている。 どうやら面と向かって褒められるのは苦手らしい。 ミュークは内心で「可愛いところもある奴じゃ」などと思ったが、勿論口にはしない。 会話の主導権争いに苦慮する身としては、思わぬ収穫だったからである。 ・ ・ ・ 水都郊外に差し掛かると、先頭を歩くアリエッタが立ち止まる。「地図の通りだと、もう少しで見えてくるはずです」 少女は手元の地図から顔を上げて前方を指差した。 暫く歩くと、ミュークの視界に目的地らしき建造物が映り込み―――思わず二度見した。「ほ、本当にアレで間違いないのかや?」 ミュークは知る由もないが、一週間ほど前、レムリアも同じ感慨をこの場で抱いている。「ですぅ」 間近にすると、その異様―――いや、奇妙さは際立っていた。 非常識を体現しているようなバルバロトでさえ、口をあんぐり開けたまま硬直している。 広大な敷地の中心に、小貴族の邸宅程度ならすっぽり収まりそうな巨大なカボチャがあった。 否、それは頭(屋根)に巨大なウサ耳煙突を生やした兎型建造物―――ラヴリー・ポウ技術工房である。 一行は恐々と巨大なニンジンを模した門柱を潜り抜けて、かぼちゃ屋敷の正面に辿り着く。「夜分失礼しますです」 アリエッタが、カボチャ屋敷から突き出たラッパ型の通話装置に来訪を告げる。 すると、何も無かった壁面に波型の切れ目が走り、巨大カボチャが口を開く。 驚いたアリエッタが数歩後退ってから、盛大に尻餅をついた。 すると、美童趣味のあるミュークが誤魔化すように咳払いをして少女の痴態から視線を外す。 この一連のやり取りは、既に様式美となりつつある。「カタリナさまからお話は窺っています。 中へどうぞ」 一同の驚きが、屋敷の主の登場で更に上書きされた。 淑やかな口調と共に二足歩行の巨大なウサギが現れたのだ―――ポゥ技師である。 家主は気にした素振りもなく、来訪を歓迎する。 この手の反応には慣れているようだった。 一同は促されるまま工房内に入ると、宛がわれた竹造りの円座に腰を下ろす。「わたしはラヴリー・ポウ。 この技術工房の主です」 ポゥ技師は毛むくじゃらな手で器用に酒瓶の栓を抜くと、上等の果実酒を振舞う。 未成年のアリエッタには蜂蜜入りの薔薇水が用意されていた。 見掛けとは裏腹に、細かな配慮が行き届いている。「麦酒はないのか? この手の甘ったるい酒は苦手なんだ」 バルバロトが無精髭を撫でながら不躾な催促をした。 コチラは見た目通り厚かましい。 この男の辞書に遠慮という言葉は明記されていないようだ。 逆に状況適応能力は高く、未だに目を白黒させているアリエッタや、当惑気味のミュークとは違い、満面の笑みで代えの麦酒を受け取っていた。「アナタがレムリアさんの本当の主人でしたのね。 てっきりプルミエールさまの侍従の少年だと勘違いをしていました」 ポゥ技師はミュークを正面から見つめて言葉を紡ぐ。 兎毛に覆われた口元が綻んだようにみえた。「其方、レムのことを知っておるのかや?」「ええ、そうですわね。 何からお話しましょうか、では―――」 ポゥ技師は手始めに、ここが王室御用達の技術工房であることや、先日訪れたプルミエールとレムリアのことを話す。 人心とは現金なもので、相手が身内の顔馴染みだとわかった途端、根拠のない親近感が生まれる。 警戒心が薄らいだミュークとアリエッタが、家主に倣って其々の名前と立場を説明した。 形ばかりの挨拶が済むと、ミュークが当初の目的を思い出す。「いろいろと訊きたいことはあるが、まずはワチキがここに来た理由を知りたい」 正気を疑われそうな台詞だが、事実なので仕方がない。 ミュークの唇も皮肉に歪んでいる。「ミュークさまでしたわね。 この工房なら、アナタの失った右腕の代わりとなるモノを造ることができます」 ポゥ技師の視線がミュークの空になった長衣の右肩に注がれていた。「ほぅ、義手を用立ててくれると申すのか」 普段から他者の好意を皮肉で返すミュークが、珍しく素直に応じる。「はい、お気に召しませんか?」「いや、見た目だけでも取り繕えば、レムリアも少しは気が楽になるじゃろう」 肉体の欠損箇所を補う義肢技術の存在はミュークも聞いたことがあった。 しかし、一般的に普及しているとは言い難い。 機能面の問題もさることながら、金銭的な壁が立ち塞がる為である。 義肢開発が容易に進まない理由はもうひとつあった。 主な顧客である特権階級が、機能性よりも見た目を重視するからだ。 故に技師側も無謀な投資は避けて、外観の再現のみに特化した装飾用義手の製作に重きを置いていた。「当工房をそこらの町工場と一緒くたにして貰っては困ります。 わたしが提示するのは失われた技術を組み込んだ能動式義肢の中でも、装着者の意識に反応する魔導義肢の類です。 元の右腕と同等―――いえ、それ以上の反応速度や運動性をお約束します」 ポゥ技師は自信たっぷりに話す。 人族より遥かに優れた肉体能力を誇る屍族に対して大きくでたものだ。「俄かには信じられぬ。 しかし、それが本当なら、断る理由がない」「無論、条件があります」 ポゥ技師はそこで一旦言葉を切ると、ミュークが先を促すのを待って再度口を開いた。「材料の調達をお願いしたいのです」「材料? それはなんじゃ」 間髪入れず訊ね返す。 公室御用達の工房が入手できない物品となると、金銭的な問題ではないだろう。 それが期待できないことは、カタリナ老公女とて心得た上での紹介である。 とすれば、その材料とやらは市場に出回ることがない上、入手に高い危険が伴うと考えるのが妥当だ。「義手の中核となるべき希石―――蛍輝石です」「蛍輝石は確かに貴重な鉱石じゃが、一般に流通している筈じゃが?」 蛍輝石の原石鉱脈は数少なく、その殆どが国家機関の管理下にある。 近年、歴史的な原産地の殆どが枯渇して、採掘量は減る一方だった。 今では、米粒のような小さな原石ですら高値で取引されている。 だが物流が途絶えたわけではない。 手に入れる術は幾らでもあるだろう。「通常の蛍輝石であればそうでしょう。 しかし、今回必要とするのは、純度の高い結晶級の蛍輝石です」 ポゥ技師は魔導義肢の構造と、蛍輝石の結晶が必要な理由を掻い摘んで説明する。 元来、蛍輝石には、屍族に宿る屍霊力を吸い取る力がある。 それを逆手にとって義手の制御をするとのことだ。 屍族の魂魄に宿る負の霊的原水を意識的に流し込むことによって、任意動作を可能にする仕組みらしい。 技術屋ではないミュークには、理解できぬ内容だが、理論上は実現可能で既に試作品も完成しているようだ。「そのナントカ石ってのは、そんなに入手困難なブツなのか?」 バルバロトが儲け話の臭いを嗅ぎつけたのか、会話に口を挟む。 先ほどまでとはうって変わって興味津々である。「ええ、こぶし大の蛍輝石の結晶ともなれば国宝級の価値があります。 実はわたしもひとつだけ手持ちがあったのですが、一月程前にあるお方にお譲りしてしまいました」 さらりととんでもないことを言う。「その譲った蛍輝石を返して貰う訳には如何のかや?」「既に加工してしまったそうです」 ポゥ技師がさも残念そうな口調で返す。 どうやら手は尽くしていたようだ。「では、直接鉱脈に赴き手ずから採掘するか、未加工の結晶蛍輝石を持つ人間から譲り受けるかの二択じゃな」「そうなります。 後者に心当たりがないので、必然的に前者になりますが」 確かに、名も存在も知れぬ人物を探すより、直に鉱脈をあたる方が現実的な判断だろう。「じゃが話を聞く限り、鉱脈の採掘許可を得るのは難しそうじゃな」「石ころ拾うのに許可なんていらねぇだろう。 ちょいとばかしお邪魔して、ごっそり戴いちまえばいい。 で、その鉱脈とやらは何処にあるんだい?」 バルバロトの意見は元も子もない。 完全に盗掘者の理屈だ。 しかも、“こっそり”ではなく“ごっそり”な点が輪をかけて性質が悪い。「世迷言は捨て置いて、鉱脈の在り処に目星はついておるのかや?」「教皇庁アレシャイムです」 思いもよらぬ地名がポゥ技師の口から発せられた。 ミュークにはとりわけ耳が痛い。 教皇庁には新教皇となった聖女がいる。 鉢合わせるようなことになれば、如何にもばつが悪い。 バルバロトも別の理由であからさまに嫌そうな顔をしていた。 この場で、喜んでいるのはアリエッタだけである。 恐らく、遠征中の守護騎士団の面々に会えることが嬉しいのだろう。「採掘に関しては、カタリナさまの書簡をお持ちになれば問題ないでしょう」 ポゥ技師の言葉に淀みはない。 全ては想定された流れなのだろう。 確かに、カタリナ老公女はアダマストル王家と縁深い。 鉱脈を管理する官庁が反対しても、シャルロットの一存でどうにでもなる筈だ。「それにしても教皇庁とはの……」「既に船の手配は整っています。 後はアナタ方次第です。 如何致しますか?」 カタリナ老公女の手の平の上で転がされているようで、面白くはないが、既にミュークの心は決まっていた。 今は停滞することが後退と同義であるからだ。<< 前の話 次の話 >>※気まぐれに推敲致します。推敲後の文章はフリーページorHPの方で反映されます。
2013/06/17
月ノ章は暫くの間、ミュークと双子が別行動になります。ミュークSIDEはひとつかふたつ展開を挟んで【牢獄迷宮編】に突入する予定です。現在、着々と戦力補強してますしね(笑)双子SIDEはサブストーリー扱いで【魔法学校編】の予定。当初はコチラを中心に置くつもりでしたが、二年近く放置(イラストモード)している間に気が変わって戦闘を増やすことにしました。最近、好き勝手やってるココが一番楽しい気がしてます(*゜∀゜*)y-~~~・・・サークルの方が、忙しくなりそうなので現実逃避チュウ。
2013/06/10
初稿:2013.06.10編集:0000.00.00<< 前の話 次の話 >>※月ノ章の本編です4-02【再会】 片目の偉丈夫はずかずかと貴賓質に踏み入る。 顎鬚を蓄えた彫りの深い顔は陽に灼けて赤黒い。 腰帯に差した歪な半月刀も物騒だ。 併せて、複数に編み別けられた長い黒髪と、平服の上から色とりどりの紗布を幾重にも巻きつけた井出達は、宛ら野盗の首領といったところだ。 男の隻眼が円卓で対座する二者―――ミュークの面上をかすめて、ファナに留まる。「アンタがウィズイッドの大屍族だな」 男は言うや否や腰帯から半月刀を抜き放ち、ファナの頭部目掛けて振り下ろす。 風が唸り、甲高い金属音が呼応した。 強烈極まる斬撃は、ファナの双刀によって受け止められていた。 男の分厚い唇から感嘆の息が洩れる。 更なる斬撃の応酬が繰り返されると思いきや、男があっさりと刃をひく。 その顔は、既に用は済んだとばかりに満足そうであった。 驚くべきことに、白屍姫もそれに倣う。 相手の刃に殺気が含まれていなかったことに気づいていたようだ。「それで、ワチキに何の用じゃ?」 ミュークがうんざりした口調で、男の誤認を正すように主張した。 出来るなら、係わり合いになりたくない手合いだが、ウィズイッドの名がでた以上、そうもいかなかったようだ。 男の視線が声に導かれて横に動く。 胡散臭げに狭められた隻眼が、頭の天辺から爪先まで、値踏みするようにミュークを睨め付けた。「まさか、こっちのちっこいのがウィズイッドの大屍族なのか?」「失礼な奴じゃな」 自尊心を深く傷つけられたミュークは、凄むように無礼者を睨み上げる。 普段は冷静だが、身体的な劣等感を触発されると、プルミエールに負けず劣らず頭に血が上りやすい。 隻眼の男も全く引く気配がなく、一触即発の空気が漂うが、奇特にもその間に割って入る者がいた。「あわわ……バルバロトさん、教会船で会ったのは、こちらの屍族さんに間違いないです」 舌足らずな声と共に、亜麻色の髪の少女が手の平でミュークを指し示す。「ん、教会船とな?」 その言葉に、真っ先に反応したのはミュークだった。 暫し黙考した後、はたと何かを思い出したように大きく口を開いた。「そうじゃ! 其方はあの時、ルムにあっさり伸された見掛け倒しの守護騎士の娘!!」「え、え~と、もう少し言葉を選んでいただけると、しあわせになれます」 ミュークの目前で所在無げに佇む少女は、教会船アメナディル号で出会った頼りなげな少女騎士と同一人物だった。 少女はかなり気落ちした様子で短躯を折ると、アリエッタ・ルーンフォルテと名乗る。 そして、自分は騎士見習いの身分だと付け加えた。「うむ、教会船では済まぬことをした。 本来なら其方も連れて行くつもりじゃったが、不測の事態が立て続けに起こり、そうもいかなくなった」 ミュークは教会船での一件に詫びを入れるが、これは嘘である。 単に忘れていただけだ。「いえいえ、お気になさらずです」 不幸吸引体質の少女は過剰に低姿勢であった。 そもそもアリエッタにしてみれば、どちらにしても、背負う不幸の絶対量は変わらなかったのである。 寧ろ、一時でもあの人型災厄発生器(プルミエール)と別行動だった為、降りかかる火の粉が減って内心では感謝していた。 それでもアリエッタがここに居る理由は、守護騎士団の端くれとしての矜持もあるが、プルミエールとの間に主従関係以上の絆が存在するからであろう。「当事者だった見習いの嬢ちゃんが言うんだ、間違いはないだろうが……。 こんなちんちくりんがねぇ」「いい加減、しつこいぞよ。 そこの娘に糾弾されるなら甘んじて受け入れよう。 じゃが、汝は何の権利があってそのような悪口雑言を並べ立てておる」 男の暴言に堪り兼ねたミュークが長椅子から立ち上がる。 その紅眼には冥い燐光が宿っていた。 空気に亀裂が走り、アリエッタがあわあわと壁際まで後退る。 そのまま勢い余って貴紅酒の樽に躓いて、尻餅をつくように上蓋をぶち抜いてしまう。「つめたいですぅ……」 膝丈のスカートがまくれ上がり、少女の白いショーツが丸見えだ。 びしょ濡れになって、内側の器官が薄く透けて見えていた。 ミュークは後ろ髪を引かれつつも、視線を少女の痴態から引き剥がす。「白屍姫殿には遠く及ばぬが、ワチキとて、本気をだせば人族に遅れをとるつもりはない」「こいつは……体中の毛穴が粟立つようだぜ。 なるほど、確かに嘘じゃないようだ」 男はおどけたように口笛を吹く。 放たれた鬼気を正面から受けて尚、不敵に微笑んでいた。「最初から、そう言っておるじゃろう」「ならこっちも言わせて貰うが、俺様のアメナディル号で人攫いとはどういった了見だ。 答え如何によっては容赦しねぇぞ」 ドスのきいた声で迫る男は、熊のような両手の指骨を、威嚇するように交互に鳴らす。「汝、あの教会船の関係者だったのかや……」 ミュークの反応は露骨だった。 途端に言葉を失い、孕んだ怒気も霧散してしまう。 元より、己が願望を満たす為の誘拐計画である。 そこに負い目など微塵もなかった。 しかし、心ならずも同じ境遇に陥り、人族に対して妙な共感が生まれてしまったのだ。 その上、自分に一方的な非があることを理解しているので居た堪れない。 本人は否定するだろうが、プルミエールと行動を共にする内に、人族臭さに拍車が掛かったようである。「あの金髪の嬢ちゃんは、将来、俺様の跡を継いでアメナディル号の船長になる“漢”だった。 それを連れ去った挙句、これまた厄介な奴等に横取りされたって話じゃねーか」 隻眼の男の語気は荒い。 よろよろと立ち上がったアリエッタが手を横に振って「ないない」と一部の発言を否定しているが、気にした素振りもない。 どうやら、この歪な二人組み、オルカザード家に絡む一連の出来事を存知しているようだ。 以前、カタリナ老公女が話した教会船アメナディル号からの特使とは、この者たちのことだったのだろう。「その点については返す言葉もない」「それで、お偉い大屍族さまは、どう落とし前つける気だい」 既に、どちらが悪者かわからないやり取りである。「喧嘩はダメですぅ。 カタリナさまから、今はこの方たちと協力するようにと言われていますから」 あわあわとアリエッタが再度仲裁に入る。 ちなみに少女が実際に奏でる擬音はびちゃびちゃである。 貴紅酒が染み込んだ絨毯の弁償は、後々アリエッタ宛に請求されることだろう。 少女の未来に降りかかる不幸に、ただ一人気づいたファナがそっと瞑目していた。「わーってるよ。 これぐらい噛まさないと、コイツの引き起こした騒ぎに、散々引っ掻き回された奴等が浮かばれねぇ。 ここまではアメナディル号の船長としての建前だ。 で、ここからが俺様個人の本音だ」 隻眼の男は白い歯を見せてニカっと笑う。「アンタのお陰で、聖人護衛や海外布教なんて詰まらん役回りから解放されて、気侭な身分になれた。 ほんのちょっとだが感謝している」 その巨躯同様に大雑把な人間であった。 確かにこの男と禁欲は水と油の関係だろう。 もっともプルミエールに対する執心は本物のようで、必ず奪い返すと鼻息も荒く意気込んでいる。「そういうわけだ。 俺様もちょいとばかし腕に覚えがある。 連れていけば役に立つぜ」 隻眼の男は、最大限の謙遜と身勝手な言い分が詰まった分厚い胸板を叩く。 その有様にミュークが苦笑いをする。 外見は全く異なるが、中身はプルミエールにそっくりだ。 だが、男の目的を理解すると、ひとつの疑問が生じる。「しかし、端からプルミエール嬢の奪還に協力する気があったのならば、出会い頭のアレはどういった了見じゃ。 斬りつけられたのがワチキだったら冗談じゃ済まないことになっておったぞ」「こまけぇこたぁ気にするな。 同盟相手が、俺様の背中を預けられる奴かどうか確認しただけさ。 軽い挨拶だよ」 この男なりに手加減がされていたのだろうが、挨拶がてらに殺されたのでは堪らない。 ミュークはどっと疲れたように肩を落とす。「お互い気苦労が絶えぬようじゃな」 ミュークが傍らに目をやると、くたびれた表情で佇むアリエッタが悟りの境地で頷いた。「そういえば、まだ名乗ってなかったな。 俺様はバルバロト、よろしくたのむぜ」 男―――バルバロトの無駄に大きい声が朗々と室内に響いた。<< 前の話 次の話 >>※気まぐれに推敲致します。推敲後の文章はフリーページorHPの方で反映されます。■小説.■ファンタジー.■オリジナル. ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■月ノ章 4-01【因縁】■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 不躾な物言いと共に現れたのは、酒瓶を抱えた髭面の大男と、何処か見覚えのある亜麻色の髪の少女だった。★↓推敲↓★ 不躾な物言いと共に現れたのは、左目に被り眼帯をした髭面の大男と、何処か見覚えのある亜麻色の髪の少女だった。
2013/06/09
初稿:2013.06.04編集:0000.00.00<< 前の話 次の話 >>※月ノ章の本編です4-01【因縁】 それにしても運命とは奇妙なものである。 首人となった母アルフォンヌを探してアダマストルに流れ着いたのが、今では遠い昔のように感じられた。 そこで夜会に招かれ、商王から持ちかけられた取引―――聖女の誘拐という突拍子もない計画に一枚噛むことになる。 彼等の思惑にも興味があったが、それ以上に得るものが大きいと公算したからだ。 だが、直に出鼻を挫かれる。 誤情報を掴まされ、聖女シャルロットではなく、妹姫であるプルミエールを連れ去ってしまったのだ。 当初の予定は大幅に軌道修正されたが、その時はまだ良かった。 プルミエールを餌に聖女を吊り上げようと、打算的な腹積もりであったからである。 一番の誤算は共に旅をする内に、そのお転婆姫に情が移ったことだ。 いつの間にか逃避行そのものを楽しむようになっていた。 しかし、水都の遺跡でオルカザード家と接触して、事態が激変した。 シャルロットが真の聖女でない事実と共に、プルミエールという手駒さえ失ってしまった。 今では人族の王国と友誼を結び、共同戦線を張って現状の打開を図っていた。 加えて、耳を疑うような噂も聞えてくる。 ウェルティス・フォン=バレル三世の死去に伴って、新教皇に選出されたのはシャルロット・リュズレイだという。 先日、最年少で着座した新教皇の即位及び戴冠の儀が執り行われたそうだ。 今にして思えば、商王ヘリソンはシャルロットの正体を知り、その確証を得る為にウィズイッド家との接触した可能性もある。 聖アルジャベータ公会の暗部を握り、そのお膝元であるナイトクランの富を独占しようと画策したのかもしれない。 もっとも、それを確かめる術はなく、全ては憶測の域である。「しかし、驚嘆すべきは人の世の移りの速さよ」 ミュークは貴紅酒が注がれた瑠璃杯を傾けて喉を湿らせる。 悠久の時を生きる屍族ならではの感慨である。 もっとも、驚きの半分はその渦中の只中にいる自分自身に向けられていた。「まさか、愚痴を聞かせる為に私をここへ?」 ファナ=ローズオリビアが憮然とした面持ちでミュークと対座していた。「そうつれないことを申すな。 慮外、ここは居心地が良い。 白屍姫殿も寛がれたらどうじゃ?」 ミュークと双子に宛がわれたのは、王室御用達の天上貴賓室だった。 プルミエールが居座っていた部屋を、そのまま使用することになったのだ。 当初、個々に部屋を用意されたのだが、ミュークが双子と同室を希望したのである。 レムリアの様子が気掛かりだった為だ。 ファナにも同等の部屋が用意されていたが、人族と必要以上に馴れ合うつもりはないらしく、丁重に断っていた。 それでも最低限度の礼節を重んじたのは、融和の姿勢を保つことに、なんらかの意図があるからであろう。「ウィズイッドの当主よ。 今はそのような時では……」「無粋なことを申すな。 白屍姫殿も存分に飲まれい」 そう言って貴紅酒がなみなみと注がれた瑠璃杯を差し出す。 味も喉越しも最高のものだった。 収穫、栽培、剪定からはじまり特別な熟成法で醸造された最高級品であることは疑いようもない。 それが部屋の隅に据え置かれた木樽単位で飲み放題なのである。 金銭苦から衣食住も儘ならなかったミュークが多少浮つくのは仕方がない。 全ては屍族の性質を理解したカタリナ老公女の配慮だった。 これだけあれば、渇きの禁断症状に苛まれる心配は当分いらないだろう。「度が過ぎれば、どのような美酒も毒となります」「ワチキの酒が飲めないと申すのかえ?」 悪酔いしたのか、ミュークがファナに絡む。 ファナは小さく溜息をついて、瑠璃杯を受け取る。 普段ならレムリアが止めに入るところだが、屍族の少年はここに到着するなり、思い詰めた顔で出て行ったまま、戻っていなかった。「あの少年の姿が見えないようですが?」 ファナもレムリアの異変に気づいていたのだろう。 公宮での様子を見た限り、一人にするのは得策ではないと誰の目にも明らかだった。「ルムファムに後を着けさせておる。 いざとなれば力ずくでどうにかするであろう。 それに今はワチキが側におらぬ方が良い」 一瞬だけ真顔に戻ったミュークが自嘲するように呟いた。 それから、徐に耳朶の裏側に指先を差し入れ、豆粒状の塊を摘みだす。「それにしても、便利なものじゃな。 確か“伝蟲(デンチュウ)”と言ったか?」 それは赤と黒で彩られた小型の甲虫だった。 根無し草であるファナを呼び寄せたのは、この鮮やかな色合いの生物である。 ミュークも詳しくは知らされていないが、血を与えた者の間を自在に飛び回ることが可能らしい。「オルカザード家に古くから伝わる霊蟲の一種です。 ですが、酔った振りまでして、聞きたかったことはそれですか?」 ファナの鋭い視線がミュークを射抜く。「なるほど、生き急いではおっても、眼は雲っておらぬらしい。 それでは単刀直入に問おう。 白屍姫殿がワチキ等と行動を共にする理由を知りたい」「私の帯同を望んだのは、アナタです」 ファナの答えは短い。 事実のみを端的に伝えるところはルムファムに通ずるものがある。 もっとも、あの能面美少女とは違い、その言葉には裏と表が存在した。 「ならば、質問を変えよう。 血統アルカナ“魔術師”の現継承者は誰ぞ?」 ミュークは言葉を釣り糸にファナの心裡を探る。「……先ほどの言葉を、そっくりそのままお返しします」 ファナが小さく息を吐いて両眼を閉じる。「それは光栄じゃな。 じゃがワチキは生き急いではおらぬよ。 白屍姫殿と同様に過去に縛られてはおるが、目的と手段は別けて考えておる。 今のワチキには全てを捨て置いても、守らねばならぬモノがあるのでな」 ミュークは自分の言葉にこそばゆさを覚えたのか、一つ咳払いをして話題を本筋に戻す。「ルドルフの息子はインフェルノ第六圏の強化術式“炎渦呪波”を操りおった。 半屍族の器で第五圏より深層域の屍霊術を制御できるとは到底思えぬ。 ワチキは、そこに“魔術師”の血統アルカナの存在が絡んでおると考える」 ミュークの推論は決定的な証左に欠けている。 故に黙って、その時が来るのを待つ。 煉瓦造りの暖炉で踊りあがる炎がファナの横顔に深い陰を落としていた。「……あの男は卑劣な姦計を巡らせ、お館様を喰らったのです」 暫しの沈黙の後、ゆっくりとファナの銀灰色の瞳が開いた。 途切れ途切れに紡がれた話は凄絶なものだった。 ラグナウェルは体内に喰蟲(ジキチュウ)―――千年蠱毒でも秘中の秘とされる凶蟲を巣食わせ、生きたままルドルフを喰らったという。 喰蟲は 摂取した生物の記憶や能力を取り込み、母体の血肉と成す。 つまり、ルドルフは肉体的には消滅しているが、その魂魄はラグナウェルの裡で存在しているらしい。「なるほど、それ故の仇討ちか。 じゃが、あの青年を斃せばルドルフという存在は完全に消滅してしまうのではないのかや?」 それは同時にファナの死を意味する。 ルドルフが滅びれば、主と命を共にすることで不死を得た屍姫も同様に最期を迎えることになる筈だ。「主を守れずに、おめおめと生き恥を晒す愚か者には、相応しい最期といえるでしょう」 ファナは感情の欠如した声でそう言った。 既に滅びを迎える覚悟はできているのだろう。 その決意に、ミュークは僅かに表情を曇らせただけで、否定も肯定もしなかった。 同様の岐路に立たされた時、逃げることを選んだ自分に、その資格があるとは思えなかったからだ。「しかし、白屍姫殿ならば、あの三人を相手にしても互角以上に渡り合えるのではないのかや?」 ミュークは円卓に片肘をつき、細顎に軽く指を添えて質問を続ける。 現にあの場でファナはラグナウェルに手傷を負わせていた。 鉄環の如き包囲から逃げ果せたのも、彼女の神技があったらればこそだ。「残念ですが、そこまで自惚れてはいません。 アーネルやラールウェアお嬢様が周囲を固めている限り、あの男には近づくことさえ適わないでしょう」 ファナは不死者であっても、万能ではない。 傷を負えば動きは鈍るし、再生能力は通常の屍族と同等だ。 そうなると、必然的に不意打ち紛いの短期決戦に持ち込むしか勝機はない。 そういった意味で、ロアの遺跡の一件は千載一遇の好機だった。 故にそこで仕留め損なった衝撃は大きかったようだ。「それでワチキたちか」「油断のならぬ男ですが、一騎討ちに持ち込めば勝機が生まれます」 要するに、ラグナウェルに追従する邪魔者を引きつける為、囮になってくれと言いたいのだろう。 身勝手な言い分だが、ミュークがファナに期待することも似たようなものである。 あわよくば、斃してくれと皮算用していない分、ファナの主張のほうが幾分良心的である。「確かに人族には些か荷が重い役回りじゃな。 しかし―――」 そこでミュークは言葉を切る。 扉口に人の気配を感じたからである。 誰何の声をあげる間もなく、黒檀の扉が勢いよく開け放たれた。「随分と豪勢な部屋に泊まっているじゃねぇか。 人攫いってのはそんなに儲かるもんなのか」 不躾な物言いと共に現れたのは、酒瓶を抱えた髭面の大男と、何処か見覚えのある亜麻色の髪の少女だった。<< 前の話 次の話 >>※気まぐれに推敲致します。推敲後の文章はフリーページorHPの方で反映されます。■小説.■ファンタジー.■オリジナル.
2013/06/03
5月中に終わりませんでした(汗)寧ろ、これだけ時間を割いて終わらないほど訂正箇所が多かったことが原因ですけど(´・ω・`)三幕以降は一応UP時に推敲しているので、今回の全体推敲からは除外します。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■月ノ章 2-04【国境】■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 自由都市ザクルフォルドは、サリナハームとアルル=モア、建国以来続いていた両公国の武力抗争に終止符が打たれた折に、その国境線に建築された和平確立の象徴であった。 都市の統治機構こそ、両公国の代表者六名からなる評議会が有していたが、共有領地として国家・宗教的規制から切り離されていたが故に、様々な職種・国籍の者が集い、国際色豊かな街並みを形成している。 加えて、同都市は大陸行路の中継貿易基地としての恵まれた立地条件に相乗する、低い関税率を適用しており、海都ナイトクランに次ぐ市場規模を誇っていた。★↓推敲↓★ 自由都市ザクルフォルドは、サリナハームとアルル=モア、建国以来続いていた両公国の武力抗争に終止符が打たれた折に、その国境線に建築された和平確立の象徴であった。 都市の統治機構こそ、両公国の代表者六名からなる評議会が有していたが、共有領地として国家・宗教的規制から切り離された自治領でもある。 加えて、同都市は大陸行路の中継貿易基地としての恵まれた立地条件に相乗する、低い関税率を適用しており、海都ナイトクランに次ぐ市場規模を誇っている。 故に、様々な職種・国籍の者が集い、国際色豊かな街並みを形成していた。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 驚いたレムリアが双眼を開くと、ミュークの身体が糸の切れた操り人形のように倒れこんでくる。★↓推敲↓★ 驚いたレムリアが双眼を開くと、ミュークの身体が糸の切れた操り人形のように地に伏していた。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■月ノ章 2-05【女難】■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 狼狽しきった顔で戸口を見つめるレムリア。★↓推敲↓★ レムリアが狼狽しきった顔で戸口を振り返る。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ レムリアの碧眼が泣きそうに潤むが、今は落ち込むよりも先んじて、聞きたいことがあった。★↓推敲↓★ レムリアの碧眼が泣きだしそうに潤むが、今は落ち込むよりも先んじて、聞きたいことがあった。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■月ノ章 2-06【幻影】■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ それは、地上に再現された地獄絵図とでも例えるべきか。★↓推敲↓★ それは宛ら、地上に再現された地獄絵図とでも例えるべきか。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 男が本物のナシュード王子であるかどうかなど、些事に過ぎなかった。★↓推敲↓★ 男が本物のナシュード王子であるかどうかなど、些事に過ぎなかった。 しかし、それは人族のみならず、ウィズイッド家を呑み込む災厄の種を蒔く結果となった。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■月ノ章 2-07【血渇】■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 両腕を激しく振って、怒気を発散するプルミエール。★↓推敲↓★ プルミエールが両腕を激しく振って、怒気を発散する。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■月ノ章 2-08【転換】■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■「(状況証拠だけで真実に到りそうなものであるが、大方、その無自覚さ故の惨事なのであろうな)」★↓推敲↓★「(状況証拠だけで真相に到りそうなものであるが、大方、その無自覚さ故の惨事なのであろうな)」■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ しかし、その大半は流言蜚語の類であり、真実を見抜く経験と、千里眼がなければ痛い目をみるのが関の山である。★↓推敲↓★ しかし、その大半は流言蜚語の類であり、真実を見抜く経験と、一定の千里眼がなければ痛い目をみるのが関の山である。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
2013/06/01
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