2007/05/22
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カテゴリ: 物語

第1章 1-10【騎士】
ミュークSIDE


「ご無事でなによりです」

ランスロットはワレと双子が上層への階段を昇り終えるのを待ってから話しかけてくる。
左右に2人の皇宮護衛官を連れただけの姿でそこに佇んでいた。勿論抜刀もしていない。

「誉れ高き皇宮警備隊長殿は罪人の心身にまでその心を砕かれるのかのみたいじゃの」

皮肉であるが素直な感想である。
無事を祈るぐらいなら加勢に来てくれても良さそうなものじゃがな。
ユバンラダケとは別の意味で油断のならない男じゃの。

「我らは皇族の護衛、皇宮内の警備を任される身。お招きされた要人の身辺を守ることも立派な任務です。しかし、皇国に害をなす者を客人と考えてはおりませぬ」

「そうか、ならばお主達にとって招からざる客人は既に滅んだ。これでご満足かの?」

「…貴女とあの男を接触させれば何か掴めると思っていたのですが。困りました、まさかこんな事になってしまうとは、このままでは我らは貴女を本当に国賊として捕らえねばなりません」

ランスロットの口調には苦々しげな調子がある。
大方、人払いをしてまで罪人に会いに行ったユバンラデケにその理由を問いただそうとでもしていたのだろうが随分思惑から外れてしまったようじゃな。人の事をいえる身ではないがの。
今の発言も明確な問いにはなっていないがそれが示唆することの意味は理解できる。
この男も随分と役者じゃの。牢獄に逆戻りしたくなければ知っている事を全て話せということじゃろう。

「隠しても害はあっても得にはならなそうじゃな…ふむ、ユバンラダケはアルカナの『力』と屍霊術を駆使し、皇帝を操っておったようじゃな。もちろん屍霊術は死体から魂を抜き出す術じゃからアルスト皇帝は既にご存命ではあるまい」

「…そうですか」



「驚かぬようじゃな?」

「皇帝陛下のご遺体は先ほど水晶の塔で発見されております。あの塔にはユバンラダケ教皇閣下が皇都においでになられて以来、不思議な力が働いているようで内部に侵入することが叶いませんでしたがその結界も既に解かれているようです」

ユバンラダケの死に伴い結界の力が失われたか、もしくは他の誰かに解呪されたかのどちらかじゃろうな。
時間的に考えれば後者であろうが…
腐ってもエルダー。それほどの者が作った結界を解けるものなど大陸にもそう多くはあるまい。
シャルロット・リュズレイになら可能じゃろうか? 若くして『偉大なる者』に名を連ねる稀代の天才術師であるあの娘になら。否、皇宮内では魔術は使えぬか…

「ではディール殿下は?」

「あてが外れるようで悪いがユバンラダケは自らの罪をワレに被せようとしていたわけではない。あ奴自身もディール殿下の行方を捜しておったぐらいじゃからな。既に何者かに連れ去られておるようじゃ」

思考を中断しその問いに答えたのだが、ランスロットはどうにも腑に落ちないようで眉をひそめていた。

「致し方ありません。ディール殿下がご存命である可能性が分かっただけも良しといたしましょう」

「こちらからも聞きたいことがあるのじゃ良いかな?」

「答えられる範囲でなら御答えさせていただきます」

ランスロットの口調に警戒の色が篭るのがわかった。
牢獄内の空気も幾分冷たさを増したように思われる。


「お主達はいつから皇帝が偽者と入れ替えられていると気づいたのじゃ?」

「確かな証拠もなしに推測だけで事を決め付ける事はできませんでしたが、アルスト様は老齢とはいえ心身共にご丈夫なお方でした。その陛下が突然正体不明の病に倒れられ、直後から皇国の内政・外交にまでその権威を及ぼそうとした教皇に対し病床の身とはいえ陛下自身があっさりと其れをお認めになられてしまわれた…」

思わずワレは苦笑を洩らす。
ようするにアルスト皇帝をよく知る者からすれば最初から疑念を抱くものだったという事じゃろう。
だからといってその真否を確かめる術がなかった事もたしかじゃろうがな…
それは、病に倒れた皇帝の代わりに突然、ディール殿下の摂政としての地位を我がものとしたユバンラダケを疎ましく思っておった者も同じかの。

「ふむ、それで誉れ高きランスロット卿は我等をどうするおつもりかの?」

「あなた方はメナディエルから見れば教皇殺害の大罪人という立場ではありますが、皇国にとっては恩人でもあります。僭越ながらディール殿下の件については御身の潔白は私が証明致しておきましょう。ですが教皇閣下の件については如何ともしがたいのが現実です。幸いこの『魂の牢獄』には緊急時にのみ使用される皇族専用の抜け道があり、それはニケネヴェン市街のメナディエル中央教会に繋がっているはずです。市街に降りてしまえば追っ手から身を隠すのも容易でしょう」


どうやらついて来いという事らしいの。

「至れり尽くせりじゃが良いのかな? みすみす教皇暗殺の容疑者を逃したとあってはお主達にとっては好ましい事ではあるまいに」

「咎を受けるのは覚悟の上です。我等は皇宮の警備を任された身ではありますが、強いては皇国の為となると信ずればこそです」

追従するワレの問いに一片の淀みもない返答を返してくる。
エルダー同士の戦いとあってはあからさまに皇宮警備隊を非難する者はおらんじゃろう。
ランスロットの経歴に多少の傷がつく程度は避けられぬじゃろうがの。

「貴女の言葉が真実ならば教皇が行なっていた所業も世に知れ渡りましょう。そうなれば、御身を咎めようとする者もおりますまい」

最もな答えだが全ての人間がそう考えてくれるとは到底思えなかった。


「そう都合よく物事が運ぶとは思えぬな。教皇庁は皇国の陰謀だと叛旗を翻すかもしれぬぞ。ユバンラダケは表の顔では穏和で寛大な人物で通っておるしな。お主に言っても栓無き事であるがの…」

…ワレは自らの心中を抑えず多少の皮肉交じりに言葉を紡ぎだしていた。
しかし、ランスロットはこれ以上この問題に関して深入りする事を望んでいないかのように答えを返す事はなかった。
国教の最高権力者である教皇が皇帝を暗殺し、その張本人も皇宮内で殺害されたとあってはもはや対立は避けられまい。
そうなれば、我等は教皇殺害の大罪人としてメナディエルで異端審問にかけられるのがオチじゃな。
メナデェエルは大陸内で屍族と人間との共存の世界を唯一謳っている一神教である。大戦後の世界に最も適した教えだと判断されたが為に国教として制定されたわけだが唯一神教であるが故の問題点も多くを含んでいる。
それに不満や疑念を抱くものも少なくはないじゃろう。6公国内にもメンディエルを表立って推奨するのは『アルルモア』『サリナハーム』『クロスメイデン』の3公国に止まる。それだけ屍族と人間との間にある溝は深いと謂わざるを得ない。
皇国内にも多くの火種が残ったままであろう。皇帝の死が白日の下に晒され、血族で唯一の皇位継承者であるディール殿下は行方知らず。
現状で新たなる皇帝を擁立するのは不可能であろう。頼りの12賢人集会も今はまともに機能しているとは言いがたいしの。

蛍石の恒久光源が照らす薄闇の中、ランスロットに案内された脱出口は人間用の個別牢の一角に隠されていた。
そこだけ変色した石壁の一部に触れると牢獄内の石壁が後方、左横と順にスライドして真っ暗な暗闇に向けてその口をあけた。
身も凍るほどの冷気が牢獄内に流れ込んでくる。
人一人がが辛うじて頭を屈めずに通れるほどの手狭な地下道だった。
さすがに土面が剥き出しということはなかったが飾り気のない石壁が前方に続いていた。
牢獄内よりも更に薄暗いその道は我らの未来を暗示しているかのように思えてならない。

「今の私に出来る事はこれぐらいです」

「いや、十分じゃよ。我らには他に選択肢がないのも事実じゃ」

ランスロットの右脇に控えていた護衛官がオレンジ色に輝く手持ちランプをルムに手渡すのを待ってワレはもう一つの気がかりを訪ねておく事にした。
ここで聞いておかないと後で何を言われるか知れたものではないからの…

「ランスロット卿。お主、アダマストル第一王女・シャルロット姫の消息を知らんかの?」

「申し訳ありません、聖音祭におこしになられている事は存じ上げておりまするが私が知るのはそれぐらいです」

暫し思案するとランスロットはワレからレムの背中で寝息を立てているプルミエールへと順に視線を動かし、

「シャルロット姫の身に何者も害をなす事がないように微力ではありますが私から直接皇国に働きかけましょう」

「すまぬな、いろいろとその手を煩わせてしまう事になるようじゃ」

この模範騎士に向かい簡易的ではあるがメナディエルの聖印を描き感謝の意を伝える。

「御身の未来にメナディエルのご加護があることを願っております」

状況を考えれば幾分、場違いな言葉と行動をお互いに祈りあう。
ワレとしては改宗したいところではあるのじゃがの…
そんな罰当たりな感慨を抱きながら背後で重い音を響かせながら閉じゆく隠し扉の音を聞いていた。


熱で朦朧としながら書いたので修正多いかも (笑
【注:知恵熱ではありません(ぇ】





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Last updated  2007/05/23 03:54:35 AM


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>> †Curse of blood†時更新


光ノ章【シャルロット編】
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1-01【神都】
1-02【古怪】
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1-04【蠱毒】
1-05【残光】
1-06【脱出】
2-00【老卿】
2-01【籠姫】
2-02【我意】
2-03【涜聖】
2-04【慫慂】
2-05【追跡】
2-06【聖堂】
2-07【神韻】
2-08【首人】
3-00【過去】
3-01【鷹眼】
3-02【決断】
3-03【船旅】上
3-04【船旅】下
3-05【真実】
3-06【魂牢】上
3-07【魂牢】中
3-08【魂牢】下
3-09【神娘】
3-10【聖座】
3-11【終焉】完




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16/01/09(火)
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13/08/05(月)
>>月ノ章 4-08【奈落】
13/07/22(月)
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月ノ章【ミューク編】
0-00【屍族】
0-01【双子】上
0-02【双子】中
0-03【双子】下
1-00【日常】
1-01【慧眼】
1-02【聖船】上
1-03【聖船】下
1-04【妹姫】
1-05【脱出】
1-06【余談】
2-00【呪地】
2-01【灯台】上
2-02【灯台】中
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2-08【転換】
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3-02【思惑】
3-03【水都】
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3-07【取引】上
3-08【取引】中
3-09【取引】下
3-10【凶刃】上
3-11【凶刃】中
3-12【凶刃】下
4-00【迷途】
4-01【因縁】
4-02【再会】
4-03【技師】
4-04【出立】
4-05【奇縁】
4-06【真因】
4-07【霊廟】
4-08【奈落】上
4-09【奈落】下
4-10【祟神】上
4-11【祟神】下




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>>血ノ章 0-00【夜娘】
※以下略
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血ノ章【ラグナウェル編】
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3-09【取引】


3-10【凶刃】


3-11【凶刃】


3-12【凶刃】


4-00【迷途】


4-01【因縁】


4-02【再会】


4-03【技師】


4-04【出立】


4-05【奇縁】


4-06【真因】


4-07【霊廟】


4-08【奈落】


4-09【奈落】


4-10【祟神】


4-11【祟神】


【†ラグナ篇†】


Ж―†【血ノ章】†―Ж


0-00【夜娘】


0-01【血契】


4-00【囚姫】


4-01【変節】


4-02【目的】


4-03【煙街】


4-04【接触】


4-05【屍妹】


4-06【呪獄】


4-07【姫妹】


4-08【姫妹】


なぜなに吸血鬼


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