2007/07/13
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カテゴリ: 物語

  第1章 1-05【月兎】
シャルロットSIDE


  招かれた場所は、教皇庁でも高位聖職者にのみに割り当てられた執務室だった。居室・寝室も完備されているが、居住空間というよりは、任じられた実務や来客との交際の場として、半公的な用途として使用されているようだ。
  私の左横では来客用に備え付けられたアンティーク調のソファーに埋もれるように身を沈めているプルミエールが、執務室の壁沿いに整然と陳列されている古代王国期の調度品に興味深々な様子だった。悪びれる様子もなく物珍しげに辺りを見回し、笑顔で微笑んでいた。

  (…?)

  妹の動作が不意に止まった事に気づき、その視線を追ってみると、南向きに取り付けられた大きな出窓の棚状部分で、伸びをしながらくつろいでいる真っ白な球体の位置で釘付けになっていた。良く観察してみると球体からは赤く小さな角のようなものが生えている。

  (野生のミュミュ!?)

  色素欠乏症の赤い瞳と真っ白な長毛、なにより小さく尖る赤い角を持つ目の前の個体。
  それは野生のミュミュの持つ典型的な特徴であった。
  ミュミュはウサギ科に属する草食哺乳類であり、女神メナディエルが人間を創造した際に、神の使いとして生贄の器となったとされる神秘的な生物でもある。現在は人為的交配が進み主に好事家の間で愛玩用のペットとして飼われていることが多いが、野生のミュミュは非常に珍しく、その宗教的神聖視や希少さから通所では値段がつかないほどの価値がある。異国で好事家として名を馳せた大貴族が全財産を投げ打ってまで手に入れたという逸話があるほどだ。

  核言う私も野生のミュミュをこの目で見たのは初めてだった。

「みゅーみゅーっ!!」

「ええ、アレは私が枢機卿位に任じられた時に、ダスティーヌ・ラダ・アンジェリーの有力者から頂いたものです」

  その声に反応したように白い球体からぴょこんと大きな耳が2つ飛び出てきた。深い白毛の中からこちらを窺うように黒くて太いアイラインに縁取りされた、丸くて大きい瞳がキョロキョロと動いている。短い後ろ足でちょこちょこと歩く…這いずる様子は愛玩動物の鏡とでもいうべき愛らしさだった。

「あ、あのあの…あのっ!! さ、さわってもいいですかっ?」

  プルミエールはソファーから身を乗り出すように立ち上がるが、勢い余ってテーブルに膝をぶつけてしまう。その音に驚いた白毛のミュミュはビクンと震えると毛並みを逆立てていた。

「ふふふ、少し落ち着いてくださいな」

  侍女に飲み物を用意させていたファティマ・イスがその様子を微笑しながら嗜める。
  周囲の人間から聞き及んでいたファティマに関する不穏な噂がであったせいで警戒もしていたが、実際、話してみると思ったより穏和で人当たりのよい人柄に内心驚いていた。
  勿論、それなりの人心掌握術が伴わなければ枢機卿などという地位に就けるはずもない。故に緊張の糸を解く事はしなかった。

「ミュミュは警戒心のとても強い動物だから、なかなか人に心を許さないのよ。その子はまだ赤ん坊だから尚更よ。ここに来て既に2年、私も含めて他の誰にも懐こうとしないのは困ったものだわ」


  しかし、それもドタバタと大きな音をたてながら接近するプルミエールに気づき、よたよたと窓際に歩きだしたミュミュの様子に苦笑へと変わっていた。

―コロン・・・スカッ・・・

「むにゅっ!?」

―スカッ・・・コロン・・・

「なぬっ!?」


  ただ、転んだようにも見えるけど…確かに避けていた。
  プルミエールの様子を窺いながら、軽く肩を窄めるファティマ・イス。

―コロン・・・スカッ・・・

「だいじょーぶですよーこわくないよー・・・にゅふふ」

  頬を伝う一筋の汗…
  避けられた事に多少怒っているのか、口調は優しいげだが横から見る限り目が笑っていないので異様な雰囲気を醸し出している。左右で結ったツインテールが心持逆立って見える。
  ミュミュのほうもそれを敏感に察知しているのだろう。後ずさるようにジリジリと後退している。
  だが、暫し続いた緊迫感は不意に訪れた事態にあっけなく消失してしまう。

「あっ危ないっ!?」

「うにゃっ…!? わっわっわっ…あああああああぁぁー」

  窓際に追い詰められ、飛び掛るように踊りかかったきた少女の姿に驚いたミュミュが僅かに開いていた窓の隙間からテラスに落下してそのまま転がるように夜の闇の中に消えてしまったからだった。
  当のプルミエールもバランスを崩し突っ伏した上半身ごと窓の外に乗り出してしまったいた。
  フリルやリボンが可愛くあしらわれているドレスがめくれて、白く眩しい太腿が、半分くらい剥き出しになっていた、ばたばたと細脚が大きく揺れるたびに奥の子供っぽいショーツまで時折、垣間見えている。

  思わず窓際に走りよろうとした私にファティマ・イスは軽く首を振り、この事態に応じる。
  素早く駆け寄った侍女が後ろからプルミエールの体を支えると、そのまま倒れこむように部屋の中に引きずり込んでいた。

「お怪我はありませんか?」

「イタタ…」

  落ちたときにうったのであろう。少し涙目でお尻をさすってはいるが、大丈夫そうなので安心する。

「うー…、シャル姉様ー」

  甘えるように擦り寄ってきた妹の頭を撫でると、猫のように私の胸に小さな頬をすり寄せてくる。
  その様子を見たファティマ・イスの顔から一瞬だが絶やすことのなかった妖艶な微笑が消えた。

「お怪我がなくてなりよりでしたわ」

「ファティマ様、自業自得なこの子よりも、下に落ちてしまったミュミュが心配です。私も微力ながらお手伝いします。すぐにでも探しに行ったほうが良いのではありませんか?」

「ぶぅー」

「ご心配には及びません。プリンはいつもあんな様子なの、それに、これぐらいの高さから落ちても怪我など致しませんわ」

  (これぐらいって…聖宮の3階にありますよね…ここ)

  夜闇に消えたミュミュをまるで気にしたそぶりも見せないファティマ・イスの、飼い主としてはあまりに軽薄な態度に眉根をひそめていると、流れるような黒髪を両手で軽くすくいあげながら彼女は微笑した。

「その優しさは貴女の美徳のひとつですわね」

  ファティマ・イスは、不安げな私とその腕の中であたふたと落ち着かない様子でミュミュの消えた暗闇を見つめるプルミエールの姿に、軽く頬に指を当てながら何事かを思案し、一種の期待をこめてプルミエールを見つめる。

「でも、そうですわね。プリンは臆病なミュミュだから、こんな夜中に外に出ては迷子になってしまうかも…。宜しければプルミエール様がお探しになって頂けると安心だわ。今頃は聖宮の中庭にいるのではないかしら?」

「ぷりんちゃん、さがしてきますーっ!!」

  我その意を得たりとはこの事だろう。ミュミュの消えた辺りを名残おしげに見つめていたプルミエールだったが、その言葉に、うれしそうな笑顔になるとぴょこっと立ち上がって部屋を飛び出してしまった。
  ただし、彼女と妹の『意』の内容はかなり違うだろう。ファティマ・イスはこれから始める会話の妨げになるであろう少女を体よく追い払う為にそれを言ったに過ぎないように思えた。

「申し訳ありません…」

「うふふ…、子供はあれぐらい元気があったほうが可愛らしく良いと思われますわ」

  彼女の真意の程は定かではないが、妹の失態に対してその非礼を詫びる。私にとって今日何度目かの謝罪は柔らかな気遣いの言葉に受け止められた。
  ファティマ・イスは部屋付の侍女を下がらせると、私と丁度向き合う位置に座り直し、親しみに満ちた眼差しを向けてきた。

「リュズレイに関しては興味深い噂をたくさん聞き及んでいたから、シャルロット様とは一度こうしてお話してみたかったの」

「こちらこそ光栄です。私も近々、ファティマ卿にお目通りを願いでるつもりでいましたわ」

  枢機卿位にはあるがファティマ・イスはまだ比較的に若く20代後半、その声には力が満ち溢れていた。普通にしていれば長い黒髪に整った顔立ちの理知的な美人に見えるのだが、白蝋色に塗りこめられた肌と真っ赤な唇が、彼女の印象を違ったものにみせている。

  正式な手続きを踏んで地下牢に囚われているお兄様に面会を望むなら目の前の人物に頼むのが最適ではある。なにしろここに囚われている咎人は全て宗教犯罪者であるからだ。メナディエル側の異端審問の長とされるファティマ・イスならば面会許可を出す事も容易であろう。出来るなら、お兄様をここに収容した教皇庁の真意が分からないまま彼女に接触する事は避けたかったのだが、こうなってしまっては今の状況を有意義に利用するだけだった。



さて、今回も修正する所がたくさんありそうですね (汗
未熟者は未熟者なりに頑張らないとorz

そ・し・て(*゜∀゜*)丿
我慢できなくなって兎系生物を登場させちゃいましたー
生物をひとつ創っただけで1話分書けちゃうところが
ファンタジー系の良い 【大変な(汗】 所でしょうね。
しかも、このプリンちゃんは結構、重要な役どころ (笑
上記までで9937…なのでこれ以上書けませんorz





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Last updated  2007/07/13 06:21:36 AM


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光ノ章【シャルロット編】
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1-01【神都】
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1-04【蠱毒】
1-05【残光】
1-06【脱出】
2-00【老卿】
2-01【籠姫】
2-02【我意】
2-03【涜聖】
2-04【慫慂】
2-05【追跡】
2-06【聖堂】
2-07【神韻】
2-08【首人】
3-00【過去】
3-01【鷹眼】
3-02【決断】
3-03【船旅】上
3-04【船旅】下
3-05【真実】
3-06【魂牢】上
3-07【魂牢】中
3-08【魂牢】下
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1-01【慧眼】
1-02【聖船】上
1-03【聖船】下
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1-06【余談】
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2-01【灯台】上
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2-04【国境】
2-05【女難】
2-06【幻影】
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2-08【転換】
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3-02【思惑】
3-03【水都】
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3-06【捕竜】
3-07【取引】上
3-08【取引】中
3-09【取引】下
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3-11【凶刃】中
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4-01【因縁】
4-02【再会】
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4-04【出立】
4-05【奇縁】
4-06【真因】
4-07【霊廟】
4-08【奈落】上
4-09【奈落】下
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4-11【祟神】下




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3-11【凶刃】


3-12【凶刃】


4-00【迷途】


4-01【因縁】


4-02【再会】


4-03【技師】


4-04【出立】


4-05【奇縁】


4-06【真因】


4-07【霊廟】


4-08【奈落】


4-09【奈落】


4-10【祟神】


4-11【祟神】


【†ラグナ篇†】


Ж―†【血ノ章】†―Ж


0-00【夜娘】


0-01【血契】


4-00【囚姫】


4-01【変節】


4-02【目的】


4-03【煙街】


4-04【接触】


4-05【屍妹】


4-06【呪獄】


4-07【姫妹】


4-08【姫妹】


なぜなに吸血鬼


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