2007/08/05
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カテゴリ: 物語

  第1章 1-10【道化】
シャルロットSIDE


  古き聖堂に足を踏み入れるとそこは高い吹き抜けのドーム状の広間になっていた。
  内部は宗教施設というよりも宗教芸術と称した方が的確な表現かもしれない。

  広大な大聖堂内には、古代神アアル=セナートルは勿論のこと、【法】や【混沌】の末神に到るまで様々な神像がそこに存在していた。数多の礼拝堂や祭壇が、絢爛豪華な装飾によって覆いつくされ、豪奢なステンドグラスから差し込む月光が、薄暗い聖堂内を神々しいばかりに照らし出している。

  ただただ、息を飲む…その美しさに心を奪われていた。
  過ぎ去った数千年の歳月を拒絶するかのようにそこにある全てが今も尚、壮麗さと秀麗さを兼ね備えている。

  (…あれは?)

  そんな中、並べて置かれた2つの神像が目に留まる。
  ひとつはベルムーテスでは最もよく知られる女神メナディエル。

  メナディエルは光の神、聖戦の守護神としての性格と同時に、その力を欲する者に生贄の代償を求める死を生む神としての恐ろしい側面を持っていた。無論、神とは得てしてそういったものではあるのだが…
  もうひとつは、手足を不思議な形に曲げた多臂神…私は引き寄せられるようにその立像に近づいていく。
  4本の腕を上下左右に振り広げ、その身体には4匹の大蛇を巻きつけている。
  その名も知れぬ神像に手を触れかけた、その時、

「下がりなさいっ!!」

  ファティマ・イスの鋭い警告の叫びに呼応するかのように複数の人影が神像の上、なだらかな丸みを帯びた天蓋の更に上方から音も無く跳躍した。
  目前に迫った黒影は砂漠の民特有の黒い衣装で頭の先からくるぶしまでを覆っている。唯一覗く目元、そこに道化のように奇怪な笑顔を浮かべる真っ白な仮面が見えた。

「クッ」

  驚きつつもとっさに携えた短剣の柄で躍りかかる黒影の仮面、その眉間を鋭く薙ぎ払う。
  だが、黒影は空中で体を反転させながらその斬撃をかわすと、重心を前のめりに崩した私の後頭部を目掛けて奇怪なカタチをした凶器を振り下ろす。空中での上体変化を苦も無く行なう恐るべき体術の持ち主だった。
  その時になり初めて、白刃は前方だけではなく、背後、左右、他の3方向からも挟撃するカタチで迫っている事に気づいた。同質の凶器を其々に私の頭部、首筋、左胸、背中、人間の急所と思われる部分、そこだけを目掛けて突きたてようとしている。


  ―死を覚悟した。

  だが、つぎの瞬間、何かが突き刺さる鈍い音と共に断末魔の絶叫を発したのは襲撃者達のほうであった。

「ぎぃぃぃぃぃ」

  仮面の奥から4つの苦痛の響きが漏れる。
  何が起こったのか理解出来なかった。私を襲った襲撃者達の頭部は今も尚、空中で静止していた。まるで採取された昆虫のようにその仮面を支点として振り子のように揺れている。



「なぜ、処刑人が…」

  襲撃者達をいとも簡単に退けたように見えたファティマ・イスだったが、彼女はその白蝋のような顔に驚愕の色を滲ませていた。

「!!」

  突然、襲撃者の一人が手足を赤子のようにせわしなく動かし始める。

「あれっ・・・、動かないな・・・。 どうなっちゃったのー。 う~んやっぱり俄仕込みじゃダメなのかな? お姉さま方はどう思います?」

  此方に親しみを込めるように尋ねてくる。
  仮面の下から聞こえてきたその声はまだあどけない少女のものに聞こえた。先ほど断末魔の絶叫を放ったのは全て男の声だったはずだ。

「あなたが処刑人を操っているのね?」

「質問に質問で返すのは関心しないなー。 そうだっ!! さっきからそこで隠れている水も滴っちゃってるお兄さんの意見でも聞こうかな?」

「えっ」

  宙ぶらりの体を操り人形のようにカクカクと動かすと震える指先で聖堂の入口の大石柱を指す。

「ふぅ、ばれていましたか。師匠からは出来うる限り影から貴女方の助力を申し付けられていたのですが。 まぁ、隠れて覗き見るのは趣味ではないので、お嬢さんには感謝しましょう」

  柱の影から現れた青年は少女の言葉通り水浴びをしたかのように全身が濡れていた。少し赤みがかかったクセのある金髪を掻きあげると、水滴が光の軌跡を残す。屈託のない笑顔で此方に歩を進める。目の前まで辿り着くと仰々しく片膝をつき左手をそっと取る。そのまま、私の顔をまじまじと見つめ。

「月の女神ルーンシェルナもかくやと云うほどの美しさであらせられる」

  手の甲に青年の熱い息を感じたところでようやく手を引くことができた。
  一片の澱みない流れるような典雅な振る舞いに拒む事も忘れてしまっていた。
  私はこの青年が後をつけていることに全く気づかなかった。それは横に居るファティマ・イスも同じようだ。自分たちを尾行している人間がいると考えてはいなかったが、通常よりは明らかに周囲に気を配っていたはずだ。それでもこの青年の気配は全く感じられる事がなかったのだ。この男が本当に味方だとわかるまでは油断をするべきではないのかもしれない。

「勿論、そちらのご婦人も同様に」

  私に『メナディエルの祝福』を拒まれた事に対して、まったく気にした様子を見せずに、青年はファティマ・イスの方に視線を移す。

「貴方、シャルロット様を護衛する為に隠れて付き纏っていたのなら、なぜ先ほど処刑人に襲われた彼女を助けに入ろうとなさらなかったのですか?」

  なんとなく言葉にトゲがあるのは序に褒められたからであるのかもしれない。
  青年は大げさに方を窄めると、お手上げといった感でその掌を上に向ける。

「ご冗談を。あの場面で飛び込んでいたら、振り子時計がひとつ余計に増えていただけでしょう」

  いけしゃあしゃあと言い放つ。まるで悪びれた様子はない。

「ちょっと、ちょっと、勝手に盛り上がらないでくれるかなー。 主役はアタシなんだからねっ!!」

  場違いなほど緊張感がない会話が続いているように思えた。
  少女の声を発する1体の処刑人が私を直に指差しながら喚き散らす。

「これは、お姉さんが私の身内になるのに相応しい力の持ち主かどうか試す為の試験なんだからねっ!!」

「身内とはどういった意味で・・・」

  私が皆まで言い終えぬうちに青年の手が私の口を軽く塞ぐ。最初、名指しで指名された私を庇う為に割って入ったものだと思ったがその後に続いた言葉に暫し唖然とする。

「出来うるなら、この私めを御身内にお加え頂きたいところではありますが、その前にお顔を拝見できたら幸いです」

  この男は何処までが本気なのだろう。姿の見えぬ敵を誘い出すための算段ともとれるが…

「当方、東の果てにある異国で手痛い目にあったことがありまして、見知らぬ土地で疲れた心を癒す為に、見目麗しき女性と夜床で月の美しさを語り合おうと思案したところ・・・」

  そこで言葉を切ると青年は片手を額に当てて天を見上げて被りを振る。

「なんたる悲劇!! そこに住む女性は常に顔を隠すヴェールを着用していたのです。 仕方なく、これぞと見えたご婦人にお声をかけたところ…。 愛の夢どころか悪夢を見た次第…」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

  聞いてもいないことを徒然と語る。
  一番先に我を取り戻したのは敵である少女だった。

「ま、まぁいいわ。お姉さま方の目的は牢獄の最下層でしょ? そこまでこれたら合格にしてあげる♪」

  どうやら、青年の存在は無視することに決め込んだらしい。
  敵ながら賢明な判断に思えた。

「じゃあ、下で待ってるわね♪」

「待って、身内とはどういう・・・」

  吊り下がった処刑人に近づこうとした私をファティマ・イスが押し止める。
  数瞬後、処刑人の頭部が歪に膨らむとまるで石榴のように爆ぜて辺りに脳漿を撒き散らしていた。

「先を急ぎましょうシャルロット様、あの者は私たちの目的を知っているようですわ。 ラグナ様の身が気がかりです」

「・・・はい」

  ファティマ・イスに従い大天蓋の奥、一際豪奢な聖餐台の後ろ側に歩いていくと。
  そこには地下への入り口がぽっかりと口を空けていた。内部からは朽ちた空気が漂いだしている。

「ご丁寧に隠し扉も開かれているようですわね。 シャルロット様、ここが大陸でも最も古き牢獄であり、最も醜悪な場所。 『贖罪の牢獄』の入口です」

「…ここにお兄様が」

  意を決し地下へと通じる石段へと脚を進ませる。
  そのまま、内部に入ると外よりは少しだけ温かく感じた。

「あからさまに罠があると判っている場所に飛び込むのは本意じゃないんだがな。 だが、美女を危険から守るのも俺の本分。 微力ながらご同行いたしましょう。 大船に乗った気で頂いて結構」

  後ろから聞こえる陽気な声に、断ってもついてくることは判っていたので私は何も言わなかった。
  どうでもいいことだが、台詞の内容が矛盾していることが少し気になった。

「御2人とも、恥かしがり屋であらせられるのかな?」

  あからさまに無視されているのだが、そんなことを意に返さず鼻歌を歌っている。
  ・・・全てが芝居じみて見えてくる。



帰宅後取り掛かったのですが、思いのほか時間が掛かりました。
眠いです…なにか内容が酷い気もしますが、
誤字脱字・細かい言い回しなどは後日訂正致します。

今回は結構、設定マニアの血が騒ぐ内容でもあります。
中でもは後々にプルミエールが
振り回す神剣…





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Last updated  2007/08/06 03:18:14 AM


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3-02【決断】
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3-05【真実】
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2-06【幻影】


2-07【血渇】


2-08【転換】


3-00【金策】


3-01【月兎】


3-02【思惑】


3-03【水都】


3-04【天敵】


3-05【語部】


3-06【捕竜】


3-07【取引】


3-08【取引】


3-09【取引】


3-10【凶刃】


3-11【凶刃】


3-12【凶刃】


4-00【迷途】


4-01【因縁】


4-02【再会】


4-03【技師】


4-04【出立】


4-05【奇縁】


4-06【真因】


4-07【霊廟】


4-08【奈落】


4-09【奈落】


4-10【祟神】


4-11【祟神】


【†ラグナ篇†】


Ж―†【血ノ章】†―Ж


0-00【夜娘】


0-01【血契】


4-00【囚姫】


4-01【変節】


4-02【目的】


4-03【煙街】


4-04【接触】


4-05【屍妹】


4-06【呪獄】


4-07【姫妹】


4-08【姫妹】


なぜなに吸血鬼


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