2007/08/09
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カテゴリ: 物語

  第1章 1-11【牢獄】
シャルロットSIDE


  カツン――カツン――…

  『贖罪の牢獄』は深淵まで続くかのような巨大な吹き抜けを、周囲の外壁に沿って走る螺旋階段が取り巻く、逆さ塔のような構造になっていた。吹き抜けとなっている内側には酸化して赤茶けた鎖が頼りなげに垂れ下がっている。階段の所々に奥へと続く回廊があり、そこに個別の監房があるのだろう。

  (暗い…)

  牢獄内部の明かりは、最下層へと続く石段の左右の壁に一定距離を開けて備え付けられている燭台から漏れる光だけだ。
  ここもにも聖宮と同じく対魔法結界が張られているのだろう。
  先ほど足元を照らす為に鬼火を召還しようとしたが、精霊達の波動がここでも全く感じられなかった。

「俺はエドゥアルト・マクシミリアン。気軽にエドゥとお呼びください」

  人間2人が並んで通るのがやっとと見える狭い螺旋階段で、私とファティマ・イスの間を器用にすり抜け前方に回りこむと、自然な動作でそう名乗ってきた。


「では、そのエドゥアルト様は何方のどのような思惑でここにいらっしゃるのか、それをお教え願えますか?」

  ファティマ・イスが先手を切ってそう詰問する。

「陰に徹するのが役目でもあるのだが、俺の美女眼がこれぞと見定めたお二人だから特別に…」

  一片の曇りのない輝くような少年の笑顔で見つめられて少し動揺する。

  (でも、美女眼とはなんの事だろう…)

「我が師、ヴィルヘルム・アンスバッハ枢機卿の命により、シャルロット様のお力になる為に馳せ参じたとでも考えて頂ければ大方間違いはないところです」

「ヴィルヘルム様が貴方を?」

「ヴィルヘルム師は貴女が直接助力を乞うてきた場合は自重して頂く算段だったようですがね」

  何か他にも含みがあるような物言いだが、それよりも先生がこの青年を遣わしていたことに驚いていた。私がこういった行動をとることをあらかじめ予期していたのかもしれない。お兄様を想うあまり自暴自棄な行動を取らぬようにと、このエドゥアルトという弟子を私のお目付け役として端から用意していたのだろう。

「後をつけていたのなら、今まで私達を害する機会は幾らでもあったでしょうから、貴方に敵意が無い事はお認めします。でも、だからといって貴方の話す内容を全て鵜呑みにするほど私はお人好しではありませんわ」

  ファティマ・イスはそのまま、エドゥアルトの横を通り抜けると腐食が激しい部分避けながら慎重に歩を進める。 


「指し当たっては、ご同行さえ許して頂ければ、それで十分かな」

「断ってもついてくるつもりでしょう?」

  背後から聞こえる声に呆れるように訪ね返す。
  私はこの青年の能天気さに僅かだが好感を抱いていた。

「勿論」


  それに、私はヴィルヘルム先生の名が出た瞬間かエドゥアルトの話を本気で信じていた。
  先生の悪癖を考えれば、この青年がその御目がねに留まるのは間違いないように思えたから。
  ヴィルヘルム・アンスバッハは無類の変わり者好きであった。

「まぁ、宜しいですわ。それよりも先ほどの少女に関して気になる事があります」

  ファティマ・イスの言葉に私とエドゥアルトの視線が集まる。

「あの少女が処刑人を操る為に使っていた業は、恐らく太古の秘宝のひとつでもある屍霊術であると思われます」

「屍霊術・・・」

  ―屍霊術

  召喚を主流とする典礼魔術の系統に連なる術法で、様々な触媒、時には生贄を用い死者の魂を使役する邪法である。一部の屍族には未だその力に通じる者がいると聞くが定かではない。
  だが、私にはもうひとつの疑問があった。

「処刑人とは何者なのですか?屍霊術で操れるのは死者の魂のみだと聞いたことがあります」

「・・・『贖罪の牢獄』に巣食う処刑人達は元々、ある方法で永久の命を与えらた咎人です。何千年もの時をこの地下で暮らす彼らの魂は既に滅んでいると考えても可笑しくはありません。彼らは遥か昔に与えられた使命を今も全うしているだけの人形のようなモノ。人間の魂、精神は屍族のそれとは違い、そのような長い時に耐えうるほど強くはないでしょうから、死した魂を屍霊術で操ったとしても不思議ではありません」

「それが本当だとすると、とても興味深い話だな、ファティマ殿は人間に永遠の命を与える方法をご存知なのかな?」

「…過去のアレシャイムにそのような秘術があったとしても、現在には伝えられてはいないでしょう。気になるのなら長老達にお尋ねになった方が早いですわね」

  ファティマ・イスは無表情のまま答えを返す。

「あの偏屈じじい共が素直に答えてくれるとは到底思えないな。 まっ、いいさ。帰りに上の神殿でぶら下がってる被験者の体組織を一部でも持ち帰れば事足りそうだしな」

  気色の悪い事をあっけらかんと言う。帰りはできるだけ別行動を願い出たいところだった。


  ―突然、片脚に何かが絡みつくような感覚が走る。

  遥か上方、既に通り過ぎた暗闇の中から、引き攣るような呼吸音が聞こえた。
  凄まじい悪寒が吹き付ける。
  無意識に見上げた闇の中に1つの燐光が燈っていた。
  正気を失わしめる狂気の輝き・・・心の弱いものがみればそれだけで発狂してもおかしくない何かがそこにはあった。

「アレは・・・」

  次々と、四肢に何かが絡み付いてくる、それは瞬く間に数を増し、私とファティマ・イスを其々に巻き込むと虚空へ引き上げようとする。
  振り解こうともがいたが。絡みつく何かが二桁に達した時に私の体は宙に浮いた。
  目を凝らし暗闇の中へと自分を捕らえ引き込もうとしているモノの正体を見極めようと試みた。

「ヒッ!?」

  私は細く悲鳴をあげる。
  闇に浮かび上がったその姿はこの地上に存在する何者でもなかった。
  瓢箪のような頭胸部から4対の歩脚と1対の触肢を生やし、黒檀色の毛に覆われた頭部には真紅の瞳が輝いていた。人間とは似て非なるその口蓋から先端が細く鋭い鎌状の鋏角が伸び、紫色の液体が滴っている。

「アトラック=ナチャがなぜこんな所に…」

  ファティマ・イスが喉の奥から言葉を搾り出すかのように掠れた声をだす。
  私はその名前に聞き覚えがあった。
  遥か昔に滅びたとされる伝説の生物。神性の一柱でもある存在。
  子供の頃に旧い書物の挿絵で見たその姿と同一のモノ。
  エドゥアルトに助けを求めようとしたが、彼の姿を周囲に確認することはできなかった。私と同じように囚われたファティマ・イスは、両腕諸共その体を強靭な蜘蛛糸に幾重にも巻きつけられ、全く身動きがとれないようだ。

  ―ゆっくり…まるで獲物が味わう恐怖をも楽しむかのように緩慢な動きで引き上げられる。

  その時、アトラック=ナチャの口蓋から絶えず流れ落ちていた液体がドレスの上腕部に染み込む。焼け焦げた音と共に布地が溶け強度が弱まった部分が蜘蛛糸の圧力に耐え切れずに引き千切られる。破れた布に巻きついていた蜘蛛糸が図らずも解かれる。
  私は自由になった左手で短剣の柄を握りなおす。

「…シャルロット様。アトラック=ナチャの弱点は頭部の赤眼」

  すぐ隣で同じように吊り上げられているファティマ・イスの囁くような声に私は小さく頷く。
  アトラック=ナチャは器用にその触肢を使い糸を手繰り寄せている。口蓋から漂う異臭がすぐそこにまで感じられる。

『信じていいの?』

  不意に頭の中に声が響く…

『その人間は、自らの目的の為に貴女を利用しようとしているだけ』

  心の奥底に抱えた不安を煽るように私の精神に沁みこんでくる…

『・・・そいつは貴方の望みを妨げる障害になるわ』

  闇の中から生えた腕が私の首に絡みつくとそのまま締め上げる。

『今なら、苦も無く殺すことができる・・・』

  五感そのものを遮断されたかのように次第に平衡感覚が失われていく。
  私はその苦しさに耐えかねて、手に携えた短剣を頭上に高く振り上げた。

「っ!?」






今日は書くつもりがなかったのですが
半分寝ながら書いちゃいました。
明日の事を考えればこんな時間まで起きていて
良いわけはないのですけどね (笑

いつもどおり、誤字脱字の訂正、本文の改稿などは明日します。





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Last updated  2007/08/10 03:47:50 AM


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Ж―†【血ノ章】†―Ж


0-00【夜娘】


0-01【血契】


4-00【囚姫】


4-01【変節】


4-02【目的】


4-03【煙街】


4-04【接触】


4-05【屍妹】


4-06【呪獄】


4-07【姫妹】


4-08【姫妹】


なぜなに吸血鬼


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