2007/08/28
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カテゴリ: 物語
『†Curse of blood†』 第1章 1-01【聖葬】
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第1章 1-01【聖葬】
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―ミュークSIDE―



  先日、崩御されたフォン=ヴァレル大教皇を偲ぶ為の聖歌は、【メナディエル】・【リエルローザン】に縁深い血筋の女子が、相互に謳う慣わしになっている。
  【リエルローザン】側の謳い手は、ヤガ=カルプフェルトでも最も古い血筋を保つウィズイッド家が代々担ってきた。
  我、ミューク・ウィズイッドは長くその大任を遣わされている。

  我らの謳う聖歌に導かれるように、聖堂内にフォン=ヴァレル大教皇が眠る聖棺が入場する。
  列席者から盛大な拍手が響き渡る。
  本来、こういった祭儀で聖歌を歌うのは、聖堂聖歌隊に所属する子供達であるのだが、唯一の例外としてアレシャイム教皇領の最高権力者でもある、大教皇が崩御された場合にのみ、特別な巫女の家系に連なる女子が、召集されるしきたりとなっていた。

  我の正面、聖棺が安置される台座の真向かいで、透明感あふれる美声を披露する娘。
  彼女が【メナディエル】側の謳い手である。
  人間にしては中々に興味深い血脈を保つ、リュズレイの一門に名を連ねる者。確かシャルロット・リュズレイという名であったと記憶している。
  我は僅かに見上げる形で、目の前の娘を興味深く観察する。我よりも頭ひとつ分高い背丈だが、彼女の身長が同年代の者と比べて高いわけではなく、我の成長が他者より幾分遅いというだけである。

  (・・・)

  そうなのだ、栄えある大屍族にして、名誉あるウィズイッド家に名を連ねる我ともあろう者が、たかが身長ごときに必要以上の拘りを持つわけも無く、決して気にしているわけではない…決して…。
  ただ、少しばかり見上げるという動作に辟易としているだけである。

  (幾分…鬱陶しくもあるが…せっ、詮無きことじゃしな)

  要らぬ感慨を振り払い、改めてシャルロットに意識を向ける。その姿は何処か物憂いに見える。心ここに在らずといった風である。
  聖堂内に取り付けられた豪奢なステンドグラスから差し込む斜光が、シャルロットの金色の髪に反射して、その優雅な流れを浮かび上がらせている。
  この娘も何かひとつの決意を込めて生きているのだろう。人間とはその短い生涯の中で、驚くほどの成長を遂げ、瞬く間に死を迎える脆弱な生物である。人間は生れ落ちた瞬間から、目前にある死に向け歩き出す。
  知覚できる範囲に存在する死を感じながら生きる事に、どのような意義を見出せるのだろうか?
  半永久的な生命を約束された我等。長き者、エルダーの一族には計り知れない領域である。
  我らにとって無縁に近い死に対する恐怖は、屍族の嗜虐心をくすぐるものでもあった。
  だからこそ、人間の存在は我の知的欲求を刺激する。
  我はいつの間にか、ガラス細工のように繊細な美しさを醸し出すシャルロットに、魅入られたように、その視線を外せずにいた。

  (人間などにしておくには惜しいほどの美しい娘じゃな…)

  身裡から久しく忘れていた感覚、狂わしいほどの欲望がその首を擡げてくる。

  ―渇き

  それは、何千年という時を越えても尚、克服しきれない屍族の渇望の根源。
  現代において屍族は人間に対し無関心な者が多い。以前は食用や愛玩用として人を飼う屍族も数多く存在していたが、古から続く吸血の欲求も、血液と酷似した含有成分を持つプリウスの実を喰する事で、回避される術が生み出されている。
  だが、【渇き】そのものがなくなるわけではない。
  人の生血は今も尚、我ら屍族を狂わす魅力を秘める、極めて依存性の高い麻薬のようなもの。

  (・・・どうかしておるの)

  聖歌を朗々と謳い上げながら、にわかに厳しく自嘲的な光を瞳に燈す。
  ウィズイッド家では人間の生血を喰らう事は、如何なる理由に於いても禁忌とされていた。
  それは母上が決めた法。人間と共に生きる道を選んだウィズイッドが自らに課した契約。
  自らを正当化する為に、美辞麗句を並び立てて、人の生血を啜る輩と、今更同類になるつもりはない。
  それに、一部の下賤な下級屍族のならいざ知らず、上級屍族の大半は血の欲求を制御する術をある程度ならば心得ている。必要以上に人間との間に確執を深めようとする者は少ない。

  自己嫌悪に苛まれる。

  (エルダーとなった今も、この魂の苦しみから解放される事は叶わぬのか…)

  (だが…なぜ、今更このような感慨を…)

  目前でさも憂鬱気に…いや無感情にも見えるシャルロットの瞳の奥に何か別のモノ、他の誰かの存在を重ね合わせて視ていたのかもしれない。
  それは、16年前、先代教皇の崩御の際に、我と共にこの葬儀ミサで聖歌を謳った者、エレシアム・リュズレイ。この娘の母親の姿なのかもしれぬ。

  16年前、我は5度目の聖歌の謳い手に選ばれたその日に、ウィズイッド家が継ぎし力、血統アルカナ『女教皇』の力を継承した。
  だが、母上から継いだ力は、拍子抜けするほど頼りないモノだった。
  ウィズイッドの血脈が継いできた力は『心読』と『先視』の2つに大きく分かれている。そのひとつ、『先視』の能力は母上の代に、その力の殆どが消失してしまっていたのだ。
  それでも、夜を継承した事実は、母上からウィズイッド家の一員と認められた証だと感じ、その湧き上がる高揚感を抑えきれずにいた。

  あの時この場で、母上から継承したばかりの血統アルカナの力、その片割れでもある『心読』の能力をエレシアムに対し悪戯に行使したのも、今思えば、手に入れたばかりの力に酔いしれていたのだろう。他者が持つ不可侵の領域に踏み込むことに、得も知れぬ快楽を覚えていたのかもしれない。

  その時、我が視たエレシアムの意識の本流は、その虚しさに於いて他の脆弱な人間と同じように思えた。
  互いに対立し、矛盾する様々な感情が交差する愚かしい心。
  だが、エレシアムは自らの死期を、その心で予感しているのにも関わらず、それを恐れもせず、向き合う強さを持っていた。エレシアムが自らの命を賭してまで護ろうと誓っていた者、それがラグナという少年と、まだ赤子であったシャルロット・リュズレイだった。

  (リュズレイの呪われた血脈に、この者は何処まで抗うことができるのか…。メナディエルが呪わし命運は、奇妙な縁を生み出したものじゃ…)

  葬儀ミサが終わり、列席者が退出するなか、我はエレシアムに呼び止められた。
  最初、心を読まれた事に気づいたエレシアムに、それを咎められるのかと思い。我は次いで投げかけられるであろう言及を、どうねじ伏せるかの算段を練ろうとした。
  だが、唐突にエレシアムの腕に抱きすくめられる。その突拍子もない行動に呆気にとられ、しばし茫然としていた。

『怖がらないで、誰も貴女を嫌いになったりしないから…』

  我よりも遥かに若輩であるはずの人間に頭を撫でられて、そう優しく窘められる。
  周囲の人間からは、どれほどに慇懃無礼な言葉に聞こえたのだろうか?
  だが、当の我は、数多の反論の言葉を脳内で形成しながら、それを口に出す事はなかった。

  我はその時のエレシアムの瞳を、心を未だ忘れる事ができない。
  生まれて直ぐに母上に拒絶された我には、計り知れぬ想い…
  それからの我は、悪戯に『心読』の力を使わぬようになっていく。我よりも遥かに若輩である人間の女に咎められたからではない。なんとなく、それが詰まらぬ事だと感じるようになっていたからだった。
  最期に残った『心読』の能力をまで封じた我に、エルダーとしての資格が果たしてあるのだろうか…

  (・・・)

  視界の端に運ばれる聖棺の影を捉え思考を中断する。
  我らの聖歌の終焉と共に、教皇の棺は祭壇近くの参列者の前を小さく一周した後、台座に安置された。

リンゴーン、リンゴーン……

  レムギサロス大聖堂。そして、アレシャイム全域に聖鐘の音が鳴り響く。
  我が【リエルロザーン】、シャルロットが【メナディエル】の聖印を其々に切る。
  司式を取り仕切る首席枢機卿であるヴィルヘルムの手により、聖櫃の上に開いた福音書と、重厚に丁重された漆黒の書物が閉じたまま乗せられた。
  ヴィルヘルム卿の説教が亡き教皇の魂を安穏を祈る中、我の視線は聖棺に釘付けになっていた。いや、正確に言えば聖棺の上に乗せられたひとつの黒い書物に…

  (聖伝承…)

  我が聖歌の謳い手として以外の理由で、ここアレシャイムを訪れる真の意味が目の前にある。
  この聖伝承を本来の持ち主の手に取り戻す為、いや我自身が様々な真実を確かめる為にここにいるのだ。
  過去にも何度か聖伝承を手中に納めるべく策を弄したが、その全てが失敗に終わっていた。
  聖伝承が人目に触れる機会が生じるのは、教皇が崩御され、その遺体が聖堂に安置される3日間。その僅かな間だけ世界の表舞台に存在する秘匿本である。
  メナディエル、リエルローザンの古の教義が記された書物。
  しかし、それは表向きのもの。そこには古に封じられた禁断の知識が記されている。いや、ある人物が記した預言書と呼ぶべきなのかもしれない。
  何者かがこの書物を再び隠匿する前に、我はこれをウィズイッド領に持ち帰らなければならない。

  (…なんとかせねばなるまいな)

  意識を葬儀ミサに戻せば、諸聖人の連祷に次いで、ヴィルヘルム卿を除く6人の枢機卿が其々に祈りを捧げ黙祷していた。
  この厳粛で壮麗な葬儀も終焉に近づいている。

  さすがに、祭儀中の人目があるなかで事には及べないが、高位司祭によって何重にも張り巡らされた結界が、聖棺の上に安置された漆黒の秘匿本を守護する限られた時。
  我にとって、聖伝承が大聖堂に置かれるその3日間が、16年振りに訪れた千載一遇の機会であった。

  閉祭の儀と共に、参列者が其々の想いを胸に秘め、大聖堂を後にする。



うっ・・・・・・(*゚~゚*)
結構、大事な場面なのに酷い内容な気がしますorz
いつも通り、フリーページの方で修正致します…





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Last updated  2007/08/29 02:56:09 AM


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※以下略
>> †Curse of blood†時更新


光ノ章【シャルロット編】
0-00【聖女】
0-01【妹姫】
0-02【夜冠】
0-03【聖船】
1-00【世界】
1-01【神都】
1-02【古怪】
1-03【呪夜】
1-04【蠱毒】
1-05【残光】
1-06【脱出】
2-00【老卿】
2-01【籠姫】
2-02【我意】
2-03【涜聖】
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2-05【追跡】
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2-07【神韻】
2-08【首人】
3-00【過去】
3-01【鷹眼】
3-02【決断】
3-03【船旅】上
3-04【船旅】下
3-05【真実】
3-06【魂牢】上
3-07【魂牢】中
3-08【魂牢】下
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3-10【聖座】
3-11【終焉】完




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09/11/16(日)
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月ノ章【ミューク編】
0-00【屍族】
0-01【双子】上
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3-05【真実】


3-06【魂牢】上


3-07【魂牢】中


3-08【魂牢】下


3-09【神娘】


3-10【聖座】


3-11【終焉】完


【†ミューク篇†】推敲中


Ж―†【月ノ章】†―Ж


0-00【屍族】


-0-01【双子】上-


-0-02【双子】中-


-0-03【双子】下-


1-00【日常】


1-01【慧眼】


1-02【聖船】上


1-03【聖船】下


1-04【妹姫】


1-05【脱出】


-1-06【余談】-


2-00【呪地】


2-01【灯台】上


2-02【灯台】中


2-03【灯台】下


2-04【国境】


-2-05【女難】-


2-06【幻影】


2-07【血渇】


2-08【転換】


3-00【金策】


3-01【月兎】


3-02【思惑】


3-03【水都】


3-04【天敵】


3-05【語部】


3-06【捕竜】


3-07【取引】


3-08【取引】


3-09【取引】


3-10【凶刃】


3-11【凶刃】


3-12【凶刃】


4-00【迷途】


4-01【因縁】


4-02【再会】


4-03【技師】


4-04【出立】


4-05【奇縁】


4-06【真因】


4-07【霊廟】


4-08【奈落】


4-09【奈落】


4-10【祟神】


4-11【祟神】


【†ラグナ篇†】


Ж―†【血ノ章】†―Ж


0-00【夜娘】


0-01【血契】


4-00【囚姫】


4-01【変節】


4-02【目的】


4-03【煙街】


4-04【接触】


4-05【屍妹】


4-06【呪獄】


4-07【姫妹】


4-08【姫妹】


なぜなに吸血鬼


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