2007/09/07
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カテゴリ: 物語
『†Curse of blood†』 月ノ章 1-03【晩餐】
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月ノ章 1-03【晩餐】
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―ミュークSIDE―


  「我らの為に、わざわざ誂えただけのことはあるの、このようなものを容易しておるとはの」

  油をしみ込ませた燈心草のたいまつが広いテラスに燈され、油槽や台座に華麗な意匠を加えられた、青銅製の香油ランプが照らし出す室内を見渡しながら感心する。
  恒久処理を施した蛍輝石の照明も備え付けられてはいるのだが、屍族がその輝きを生理的に嫌う事を熟知している者が、これらを調度したのであろう。

  我は今、ファナ=アビスと入れ違うようにやってきた使いの者に、広間での会食の誘いを丁重に断り、ゆったりと肘掛椅子の背もたれに身を埋め、貴紅酒と称される大人の嗜好品を、舌の上で転がすように嗜んでいる。
  客室の中央に置かれた黒檀のテーブル上には、給仕が運んできた晩餐が並べられていた。繊細な細工の施された銀製の食器に載せられた食材は大陸各地から集められた、贅を凝らしたものだった。

  パクッ…ぱくっ…パクッ…ぱくっ

  先ほどから、定められた儀式の如く、同じ動作を繰り返すルム。
  見ているほうが惚れ惚れとするようなテーブルマナーで次々と、卓上の料理を平らげていく。あの小さな体の何処に入るのか不思議でならない。
  我の方はというと、料理には一切手を付けずに、相変わらず、泡立つ貴紅酒を銀の大杯に注ぎながら、これからの事を思案していた。

  「ミューク様、飲みすぎ…」

  我の飲みっぷりに目ざとく気付いたルムが、つかつかと歩み寄り、些かぶっきら棒にも聞こえる声と共に、酒瓶を取り上げる。

  「ああ…せめて、あと一杯ぐらい良いではないか…」

  「だめ」

  エルダーとしての自尊心をかなぐり捨てた懇願にも、まるで聞く耳を持たないむっつり娘。

  (いらぬ所で気が利く娘じゃ…)

  そんな感慨を抱きながら手に持つ大杯を口元で傾け…

  「なぬっ!?」

  まるで、我の心中の声までを聞き咎めたように、横から伸びた細腕に大杯までも奪い取られる。
  貴紅酒とは、大陸北部の寒冷地帯でのみ生息する、プリウスの果汁を発酵させた果実酒である。
  天然に濃縮されたプリウスの果汁は、甘味と酸味が豊富で人間の血液と酷似した含有成分を持ち、屍族の吸血欲求を満たす代用品として大陸に幅広く流通していた。
  その赤黒く濁った外見からは、想像できないような芳香と風味を持ち屍族だけではなく、一部の人間の嗜好家にも好まれていた。

  それをちびちびと嗜む事が、我の幼い頃からの密かな楽しみでもあるのだが、ルムに見咎められると、たちまちこの有様だ。
  急に手持ち無沙汰になった我は、多少ほろ酔い気分で、辺りを見回す。部屋の片隅に置かれた長椅子の上で、傍から見てもそれとわかるほど、気落ちしているレムが首をうな垂れていた。

  「申し訳ございません。敵の侵入に気付きもしないとは屍姫として失格です…」

  未だに、先ほどの事を苦にしているようだ。

  「ファナ=アビスといえば、ルドルフ公直属の暗殺部隊『首苅り衆』の長じゃ。例え我であっても、まともに渡り合うことは叶うまい」

  「ですが…」

  まだ、何か言いたげなレムの側に歩み寄り、序に引きずっていったルム共々抱きしめると、優しく語りかける。

  「それに、我は期待しておるのじゃよ。今は遠く及ばぬとも、そう遠くない未来にお主達双子は、我にとって掛け替えのない力となるとな」

  「『先視』のお力でご覧に?」

  珍しくルムが興味を示したようだが、我は軽く首を横に振って、

  「我自身がそう感じたのじゃよ。それでは不足かの?」

  「そんなことはありませんっ!。ミューク様にお認め頂けるのなら、この上ない幸せですっ!!」

  我の言葉に、興奮したように過剰な反応を見せたのはレムだった。そんな双子の兄の姿に、心なしかいつも無表情なルムも微笑んでいるように見えた。
  それから、この双子を屍血姫と定めてから、幾度となく繰り返してきたように小さな額にそっと口づけをし、2人を安心させる。

  「それにしても、あの者は、なんの為にミューク様に接触を図ってきたのでしょうか?」

  確かに最もな疑問ではある。両家の関係の安定を保つ為だけなら、今この時期に、いやこの場所でそれをする必要はない。

  「オルカザードの血脈に連なる何者かが、現在、ここアレシャイムを訪れているのだろうな」

「まさかっ!!ルドルフ=オルカザードが!?」

  「…それは、あるまい。あの狂人が訪れていれば、直ぐにでもわかりそうなもの。それに、あのファナ=アビスという屍姫。ルドルフ公の命で動いているわけではなさそうじゃ」

  我はそこで言葉をきり突然、笑い出す。
  我の不可解な所作に驚くレムの頭を多少、手荒に撫でる。

  「いや、狂帝の支配も長くはないかもしれぬ。自らの屍姫の忠誠を、既に他者に奪われているようではな」

  同じ『屍姫』として、どう答えてよいか返答に窮するように曖昧に頷くレム。
  我は先ほどのお返しとばかりに、ルムを抱き上げるような格好で長椅子に体を預ける。我自身の背丈と然程変わらぬルムを膝に乗せるのは、傍からみればかなり不自然な格好に見えていることだろう。
  レムの横で体勢を落ち着ける。ルムが無言で両脚をバタつかせて脱出を図るが、真後ろから羽交い絞めにされているのでどうにもならない。

  「ほれほれ、子供は大人しくするのじゃ」

  かなり、諦めが悪く未だにジタバタと足掻いていたが、我がその首筋に、熱く湿った唇を軽くあてると、途端に大人しくなる。

  「二人とも、葬儀ミサを覗き見していたくらいじゃから、勿論、聖伝承もその目に納めたであろうな?」

  「はい、あの黒い書物ですね」

  コクリ…

  レムの相槌の言葉に合わせるように、腕の中のルムも律儀に頷いている。
  漸く静かになった少女の体重を感じながら、目下の問題を提議することとした。

「そうじゃ、聖棺の上に置かれた2つの書物の片割れ。黒妖精の皮で装丁された秘匿書。あれが聖伝承じゃ。葬儀ミサ中ならば、容易に奪い取る事も可能じゃろうが、今頃は高位司祭の施した聖域結界に護られておるじゃろうな」

  「結界を破る術が必要になりますね」

  出来のよい弟子との問答を楽しむように、我は微笑する。

  「聖域結界の核でもある刻印の解除は、ルムの呪符・霊符魔術が頼りじゃな。文字魔術はあの空間でも大きな制約は受けまい」

  幾分、頼りなげではあるが腕の中の少女を見る。頭を垂れてぐったりしている。

  (先ほど頷いたように見えたのは・・・気を失っておったのか?)

  多少の不安に苛まれ、僅かに両腕の戒めを緩めると、軽業師の如く、スルリと我の腕を潜り抜け、何事も無かったように目の前で器用に正座するルム。

  (…この娘は、レムと違って一人でも強く生きていけそうじゃな)

  いらぬ関心を抱かされる。

  「それには、結界の識別が必要…」

「そうじゃな、霊符魔術では、施された結界の源流。細分化された系統が知れなければ、その効力を打ち破る事は出来まい」

  アレシャイムの聖職者が使う神聖魔法の系統は旧神であるアアル=セナートル。若しくは、法と混沌の主神でもあるメナディル、ヤ・フリファス・レディ。どちらか一方の女神の力を主流にしたものだろう。
  だが、その属神にまで系統を広げればきりがないのも確かである。

  「聖宮の大図書館には、ここアレシャイムに纏わる全ての知識が集積されていると聞いたことがあります」

  「ふむ、手当たり次第に符術を貼るのも一興と思っておったが、レムの意見を取り入れる価値はありそうじゃな」

  最高レベルの警戒態勢が敷かれているレムギサロス大聖堂内部で、危険を承知で策を弄するよりも、比較的、容易く忍び込めるであろう聖宮図書館で有効な手段を探るほうが賢いやり方であろう。

  「では、さっそく向かうとするかの」

  「ええぇ~、もう出立ですか?まだ何も食べていないのに…」

  レムの悲壮感漂う泣き言は、無論却下された。
  ルムだけが、最初からこうなる事を予期していたかのように、満足気であった。



毎度の事ですが誤字・脱字、細かな言いまわしなどは
フリーページの方で改訂致します。

うっ…追加したい描写が





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Last updated  2007/09/07 07:50:07 AM


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※以下略
>> †Curse of blood†時更新


光ノ章【シャルロット編】
0-00【聖女】
0-01【妹姫】
0-02【夜冠】
0-03【聖船】
1-00【世界】
1-01【神都】
1-02【古怪】
1-03【呪夜】
1-04【蠱毒】
1-05【残光】
1-06【脱出】
2-00【老卿】
2-01【籠姫】
2-02【我意】
2-03【涜聖】
2-04【慫慂】
2-05【追跡】
2-06【聖堂】
2-07【神韻】
2-08【首人】
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3-01【鷹眼】
3-02【決断】
3-03【船旅】上
3-04【船旅】下
3-05【真実】
3-06【魂牢】上
3-07【魂牢】中
3-08【魂牢】下
3-09【神娘】
3-10【聖座】
3-11【終焉】完




16/01/13(水)new02
>>月ノ章 4-11【祟神】
16/01/09(火)
>>月ノ章 4-10【祟神】
15/12/22(火)
>>月ノ章 4-09【奈落】
13/08/05(月)
>>月ノ章 4-08【奈落】
13/07/22(月)
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13/05/15(水)
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>>月ノ章 3-08【取引】中
11/02/14(月)
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10/01/27(水)
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10/01/21(木)
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09/11/16(日)
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09/11/09(月)
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09/08/31(月)
>>月ノ章 1-05【脱出】ab
09/08/24(月)
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09/06/21(日)
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09/05/12(火)
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09/05/01(金)
>>月ノ章 0-01【双子】ab
09/04/26(日)
>>月ノ章 0-00【屍族】b
09/04/26(日)
>>月ノ章 0-00【屍族】a
08/10/01(水)
>>月ノ章 1-00【兎姫】
08/09/26 (金)
>>月ノ章 0-09【潜入】
08/09/20(土)
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08/09/12(金)
>>月ノ章 0-07【灯台】
08/09/07(日)
>>月ノ章 0-06【凶兆】
08/08/27(水)
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08/08/10 (日)
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08/08/07 (木)
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08/08/04 (月)
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08/06/13(金)
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08/06/05(木)
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月ノ章【ミューク編】
0-00【屍族】
0-01【双子】上
0-02【双子】中
0-03【双子】下
1-00【日常】
1-01【慧眼】
1-02【聖船】上
1-03【聖船】下
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1-06【余談】
2-00【呪地】
2-01【灯台】上
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3-08【取引】中
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3-11【凶刃】中
3-12【凶刃】下
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4-01【因縁】
4-02【再会】
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4-09【奈落】下
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血ノ章【ラグナウェル編】
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4-03【技師】


4-04【出立】


4-05【奇縁】


4-06【真因】


4-07【霊廟】


4-08【奈落】


4-09【奈落】


4-10【祟神】


4-11【祟神】


【†ラグナ篇†】


Ж―†【血ノ章】†―Ж


0-00【夜娘】


0-01【血契】


4-00【囚姫】


4-01【変節】


4-02【目的】


4-03【煙街】


4-04【接触】


4-05【屍妹】


4-06【呪獄】


4-07【姫妹】


4-08【姫妹】


なぜなに吸血鬼


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