2008/05/18
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カテゴリ: 物語
・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『†Princesse du sang†』
光ノ章 0-01
―シャルロットSIDE―




 それは彼女が世界に生れ落ちて最初に背負った運命。

 …アルジャベータ

 その名は、メナディルの教義が統べるこのバールペオル大陸において、畏怖と崇敬の対象であった。
 それは聖剣戦争の折、神の器としてその身に女神を降臨させ、邪悪を打ち払った聖女の名であり。アルジャベータの『名』と『力』は、代々、その直系でもあるリュズレイの血筋のなかでも、第一嫡女(長女)にだけ受け継がれるものとされていた。
 シャルロットは古来から続く慣わしに従い、成人の儀を迎える16歳の誕生日まで、俗世との接触を完全に絶たれ、城と屋敷の往復時以外は1歩も外に出る事を許されなかった。それどころか近親者と一部の忠臣以外の人間に、その姿を見せる事さえ禁じられた特異な幼少期をおくらされていた。

 だが、本来なら祝福されるべき、16歳の誕生日である今日その日に、シャルロットは現教皇フォン=ヴァレル3世直々の用命で教皇庁へと招かれていた。表向きは客品としてだが、教会側が望む本来の主旨は、枝分かれしたメナディル教の宗派の中でも、最古参とされる聖アルジャベータ公会の象徴とも云える彼女を招集することにより、教会の権力と尊厳を内外に誇示する為である事は誰の目にも明らかだった。

 「シャルロット様、サリマ殿の前ではあのように申しましたが、十二分に用心致してください」

 後宮の回廊を歩きながら、フィーナが注意を喚起してくる。

 「…わかっていますわ」

 当のシャルロットも、そう遠くない時期に教会から招喚される事はわかっていたし、その対処も教え込まれていた。しかし、それはまだ先の事だと考えていた。

 「この早急な招喚に合わせたかのように、ルクサー様が使節団として他国にお遣わされあそばされたのも、偶然とは思えません。それが喩え、教皇様自信の御意思でなくとも、何か裏があると考えて間違いはないと思われます」

 「どちらにしても教会の意向に背く事は出来ないのだから同じではなくって?」

 「・・・ですが、私目は・・・」

 二の句を告げようとするフィーナの唇に、シャルロットの人差し指がそっと添えられる。

 「フィーナの心配性は昔から全然変わっていませんわね」

 その場でクスクスと笑うと、シャルロットは、まるで舞踏に興じているかのように、その場でくるりと回転し、回廊内に設置されたテラスに駆け寄ると、身を乗りだすように朝靄に包まれたナイトクランの街並みを見下ろす。
 幾重にもレースのあしらわれたドレスの裾が、リザロス湾から吹き込む暖かい海風に流される。

 フィーナにとってシャルロットのそういった少女らしい仕草は、とても心地よいものだった。
 幼い日のこの娘の姿を知る数少ない人物なだけに、殊更、余計な感傷に流されていたのかもしれない。
 籠姫であったシャルロットの同世代の話し相手として、初めてこの少女とまみえた時に、感情のない冷たい瞳を自らに向けた少女の姿が、今でも鮮明にフィーナの脳裏に甦る。

 「私、この街が好きですわ・・・ううん、きっと今よりも好きになる筈です」

 歴史が古いだけに、落ち着いた趣のある美しい街並みである。何より、ベルムーテス大公国内でも、リュズレイ現頭首ルクサー・グラストヘルム・リュズイレイ公の治めるこの南方領アダマストルは、美しい自然と豊富な鉱物資源に恵まれた肥沃な大地であった。中でもこのナイトクランは大陸最大の港を有する海上貿易の中心地であり、海を隔てた異国から、様々な文化、物資が流れ込む商業都市として名高い。

 「シャルロット様?」

 「本の中とも貴女から聞くお話とも違う・・・。人々の潤いが溢れ、活気に包まれた世界。幼い時から・・・私にとってナイトクランは目に見える夢の世界だった・・・。でも、今までは手の届かない場所でしたけど、これからは違う。私もこの街の住人になるのだから・・・」

 振り向いたシャルロットから投げかけられた真摯で純粋な視線に、フィーナはこの少女の心底をはかり損ねていたことを恥じ、方膝をつくと恭しく臣下の礼をとる。

 「だから、私には義務があると思うのです。私の勝手な判断で、ここにいる人々を不安にさせてはいけないのだと・・・」

 教会に対し不審を抱くのも最もだ。だが、それを疑う決定的な証左もなく、喩えそこに明確な作為があったとしても、教皇直々の招きを拒んだとあれば、背信者の汚名をきせられ異端審問にかけられる危険性もある。

 現メナディエル正教、大きく2つの宗派にわかれていた。
 ひとつは光の女神メナディルを崇め、原理主義を根底とする白十字教。
 もうひとつは神の器でもあったアルジェベータ。神籬の巫女の一族を神格化し、崇敬の対象とした聖(アルジャベータ)公会。

 大陸でも最大の勢力を誇る白十字教は、教会の実権を掌握し、世界を神の恩名の下、その神託によって導かれるものとし、女神メナディル以外の崇拝を禁止した。しかし、それと対立する聖公会は女神を超越的存在としながらも、あくまでその加護はアルジャベータの血族である巫女を通してこそ世界に齎されるものだと主張していた。

 傍から見ればとても滑稽で愚かしい話である。
 白十字教、聖公会共に、女神と聖女の名を傘にきた高位聖職者達が己が利権を貪る為に聖なる御名を利用しているだけなのだから。
 当のシャルロット自身、神の声を聞いたこともなかったし、なにより彼女にとって神の存在など、どうでもよい事だったからだ。

 だが白十字教の聖職者からすればシャルロットの本心が何処にあろうと、その存在が教義を守る上で最も疎ましく邪魔な存在である事は確かでることも良く分かっていた。神の神託を授かるはずの教皇と同格、いやそれ以上、半神とされた存在が同じ世界に存在していることになるのだから。
 それが異教であるならば、邪教とし、異端視することも出来ようが、同じメナディルを崇拝する教義が、宗派となり枝分かれし、今日に至るのだから、下手に手を下すことも出来ずに両者は奇妙なバランスで世界に共存していた。

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とても修正所が多いような気もしますが、せっかく書いたので無責任にUP...

見直した際に、削った描写が多くなり泣きそうになりました・・・

『†Curse of blood†』1-07【籠姫】の改訂を早めにした方が良さそうです・・・
子供時代はショートでまとめられそうですしね。

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Last updated  2008/05/18 07:16:34 AM


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1-02【古怪】
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1-05【残光】
1-06【脱出】
2-00【老卿】
2-01【籠姫】
2-02【我意】
2-03【涜聖】
2-04【慫慂】
2-05【追跡】
2-06【聖堂】
2-07【神韻】
2-08【首人】
3-00【過去】
3-01【鷹眼】
3-02【決断】
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3-04【船旅】下
3-05【真実】
3-06【魂牢】上
3-07【魂牢】中
3-08【魂牢】下
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3-10【聖座】
3-11【終焉】完




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09/04/26(日)
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08/08/07 (木)
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>>月ノ章 0-03【双子】上
08/06/13(金)
>>月ノ章 0-00【屍族】
08/06/07(土)
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08/06/05(木)
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0-01【双子】上
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1-02【聖船】上
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1-06【余談】
2-00【呪地】
2-01【灯台】上
2-02【灯台】中
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2-08【転換】
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3-01【月兎】
3-02【思惑】
3-03【水都】
3-04【天敵】
3-05【語部】
3-06【捕竜】
3-07【取引】上
3-08【取引】中
3-09【取引】下
3-10【凶刃】上
3-11【凶刃】中
3-12【凶刃】下
4-00【迷途】
4-01【因縁】
4-02【再会】
4-03【技師】
4-04【出立】
4-05【奇縁】
4-06【真因】
4-07【霊廟】
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4-09【奈落】下
4-10【祟神】上
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13/04/16(火)
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血ノ章【ラグナウェル編】
0-00【夜娘】
0-01【血契】
4-00【囚姫】
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4-02【目的】
4-03【煙街】
4-04【接触】
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