2008/05/25
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カテゴリ: 物語
・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『†Princesse du sang†』
光ノ章 0-03【霊鈴】
―シャルロットSIDE―




 「フィーナ。 どうしても寄って行きたい場所があるの」

 シャルロットは唐突にそう呟いた。

 「シャルロット様、既に港には教会から迎えの船が到着していると報告を受けています」

 プルミエールと別れ、フィーナも普段のペースを取り戻したのか、その答えは務めて事務的だ。

 「ねえ、少しだけなら良いでしょう?」
 ・
 ・
 ・
 「・・・はぁ、わかりました。シャルロット様のお好きなように・・・」

 すがる様な瞳でシャルロットに迫られると、流石に無碍には出来ずに渋々ながら了承するフィーナ。加えて、それはシャルロットの気質をよく理解した上での結論でもある。

 「それに、最初に無理難題をおしつけてきたのは教会の方ですから、少しぐらい待たせてやるのもいい気味でしょう」

 フィーナの言葉に満足そうに頷くと、今度はシャルロットがフィーナの手をひき、迷子の子供を連れ添うように宮殿内を誘導する。
 傍からみた自らの姿を想像したのか、フィーナの顔は真っ赤に染まり俯いてしまっていた。


 ---------------------------------------------------------


 「ルバドス祭司長様、ご機嫌麗しゅうございます」

 「これは、姫様、なぜこのような場所に? 記憶違いでないのならば、今宵予定されていた成人の儀はおとりやめになったと聞き及んでおりますが・・・?」

 シャルロットの姿を見咎めた老祭司が矢継ぎ早に質問してくる。

 ここはリュズレイ宮殿内に設けられた神扉の間。
 アルジャベータの巫女が神をまつるために奏する舞楽。神遊を舞う為に設けられた祭壇が座す大神楽殿の入口である。

 「ここへの立ち入りは禁止されておりますことをお忘れかの? 無論、守護騎士隊長殿もそれはおわかりの筈」

 老祭司は、シャルロットを嗜めながら、その横で諦めたように項垂れるフィーナに対しては、多少語尾を強くして不満の意をあらわにしていた。
 老齢にしては恰幅のいい腹を揺すりながら近づいてくるその姿は何処か愛くるしい。
 生真面目を絵に描いた人物であるフィーナは、殊更、自らに向けられた非難の視線に恐縮しきりだった。

 「それを仰るのなら、祭司長様達もお入りになれていますわよ」

 そこはかに確認できる祭司達が、急遽取り止めとなった儀式の後片付けを行なっている様子を指し、揚げ足をとるように反論するシャルロット。
 昨日、教会からシャルロット宛に招集令状が届かなければ、滞りなく行なわれていたであろう儀式の準備を一昼夜かけて行い、それらの全てが徒労に終わった祭司達には、聞き捨てならない部類の言葉。

 「シャルロット様、それは幾らなんでも彼らに悪いような気がするのですが・・・」

 あまりのいい様に鼻白むルバドス祭司長を不憫に思ったか、神扉の間での発言を控えていたフィーナが横槍を指す。

 「わかっています。 祭司様達には気苦労をおかけしましたわ。 でも人間が創りだした理に絶対はありません。掟や仕来りとは過去の伝承を自らに都合よく捻じ曲げて演繹されたものが殆どですわ。 この儀においても、伝承では、アルジャベータはたったひとりの従者に全ての祭事を任せていた筈。伝承を擬えるのならばルバドス祭事長様お独りで全ての事を成さねばなりませんわよ?」

 「・・・わっははは!。 これは一本とられたようですな。 確かに、老いたれど若い者に負けるつもりはありませぬが、この無骨者ひとりにそれは無理のようですな。 それにこれだけ大掛かりな儀式の準備を一人でやる大馬鹿者は、今のリュズレイにはおりませぬよ」

 自慢の白髭を捻りつつ豪快な笑みを浮かべる。
 齢70を迎えた老人の自尊心を傷つけるには痛烈過ぎる皮肉だったが、それ以上にその言葉に含まれる理の尊さは、ルバドスに感銘を与えるのに十分な内容だったようだ。

 「して、姫様はどのようなご用件でここにいらっしゃったのか?」

 漸く本題に入れて事に一息つくとシャルロットはにっこりと微笑む。

 「お母様の形見の品を預かりに参りました」

 「形見と申しますと?」

 ルバドルはシャルロットの指すものに見当がつかないのか首を傾げている。

 「言い方が悪かったかもしれませんわね。形見ではなく仇なのかもしれません・・・」

 「「!?」」

 老祭司どころかフィーナまでもが驚きのあまり言葉を失う。

 「姫様っ!? それだけはなりませぬぞっ!!」

 「あれは、死霊鈴がどのようなものかシャルロット様は一番良くご理解している筈」

 驚愕を隠そうともせずに、怒気を孕んだ声が2つ同時に周囲にこだまする。

 「死霊鈴は本来、今日、私が受け継ぐべきものであったのだから、問題はない筈ですわ」

 シャルロットはそんな事を意に返さず、2人の当惑気味な視線を受け流していた。

 死霊鈴は別名【霊鈴アシュタリータ】とも呼ばれ。女神メナディルが現世から滅びた際、この世界に残した遺具【神剣アンネ・シュティフ】【聖鎧アリグノートス】と並び3神具のひとつでもある。
 それは、アルジャベータの遠き子孫でもあるリュズレイに代々伝わる秘宝でもある。
 【霊鈴アシュタリータ】は持ち主の新霊力を喰い尽くす呪詛具とも、死者を甦らせる聖具とも云われ、女神を再臨させる呼び水としての神力が秘められていると伝えられていた。

 「アシュタリータは籠姫の力を封じる為のものです。 成人の儀はアルジャベータの巫女の力が人の器を凌駕し、暴走するのを妨げる為に存在します。 本来なら私は今日、この身を食い尽くすほどに育った神霊力を霊鈴アシュタリータに封じ込め巫女としての役割を終える筈でした・・・でも、儀は執り行われない。 だから私にはあの鈴の『力』が必要なの」

 「儀式ならば、次の二重月の夜陰に行なえば済む事、幾ら姫様の願いとはいえそればかりは罷り通りませぬぞ」

 老祭司長から制止の声が再度飛ぶ。
 シャルロットは予め予期していたその答えに静かに瞑目すると、大きく息を吸う。

 「あなた方の心配はわかりますわ。 でも、私はお母様と同じ過ちを繰り返すつもりはありません」

 投げかけられる迷いの視線を真摯な眼差しで受け止めるシャルロット。
 しかし暗澹たる想いにとり憑かれたように、2人の臣下の表情は暗い。

 「ふぅ・・・。 ならば致し方ありません。 シャルロット・アルジャベータ・リュズレイの名において命じます。 神扉を御開けなさい」

 「で、ですが・・・・・・」

 老祭司長の抱く心の動揺がその言葉にも張り付いていた。
 聖アルジャベータ公会の信徒にはその巫女の意思は全てにおいて尊重され優先されるものであったからである。
 シャルロットはそのまま、そっとフィーナの顔に口を寄せると、

 「フィーナは私が信じられませんか?」

 そこまで云われては、フィーナとて頷かざるをえなかった。

 「・・・わかりました。ですが大神楽殿には私奴もお供させていただきます」

 にっこり微笑むシャルロットの横顔を見つめながらフィーナは思った。
 シャルロットの笑顔には見るものを魅了し安心させる力があった。彼女を見ていると人間には持って生まれた気質、器量があるのだと。

 「(この方が、その運命に選ばれた理由がわかろうというものだ・・・)」

 「どうやら、とめても無駄なようですな・・・」

 シャルロットとそのフィーナの姿にルバドスも漸く決断したようだ。
 老祭司長はその両眼を閉じるとその場に座り込むと胡坐を組んでしまった。

 「このルバドスには何も見えず何も聞こえず。 姫様のお好きなようになさりなされ」
 ・
 ・
 ・
 「(歴史は螺旋を描くが如く繰り返され、長い時の中で人は幾度の艱難辛苦を乗り越えてきた、だが、人間は愚かだ。痛みはいずれ薄れ同じように過ちと失策を繰り返す。もし其方がエレシアムと同じ道を歩もうとするのなら・・・)」

 それは遠き日の師の言葉

 「ヴィルヘルム老先生・・・(大丈夫ですわ、私は間違えません)」

==============================================================
今回書き綴った部分は物語の中核のひとつです。

それにしても、あまりにも拙過ぎて成長の跡がみられませんね(汗
物語を創るのは何よりも楽しいのですが、それを文章にする難しさを実感しております。

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Last updated  2008/05/25 05:39:52 PM


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11/08/22(月)
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11/08/11(木)
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>> †Curse of blood†時更新


光ノ章【シャルロット編】
0-00【聖女】
0-01【妹姫】
0-02【夜冠】
0-03【聖船】
1-00【世界】
1-01【神都】
1-02【古怪】
1-03【呪夜】
1-04【蠱毒】
1-05【残光】
1-06【脱出】
2-00【老卿】
2-01【籠姫】
2-02【我意】
2-03【涜聖】
2-04【慫慂】
2-05【追跡】
2-06【聖堂】
2-07【神韻】
2-08【首人】
3-00【過去】
3-01【鷹眼】
3-02【決断】
3-03【船旅】上
3-04【船旅】下
3-05【真実】
3-06【魂牢】上
3-07【魂牢】中
3-08【魂牢】下
3-09【神娘】
3-10【聖座】
3-11【終焉】完




16/01/13(水)new02
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16/01/09(火)
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15/12/22(火)
>>月ノ章 4-09【奈落】
13/08/05(月)
>>月ノ章 4-08【奈落】
13/07/22(月)
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13/07/15(月)
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10/01/21(木)
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08/06/13(金)
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08/06/05(木)
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※以下略
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月ノ章【ミューク編】
0-00【屍族】
0-01【双子】上
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1-01【慧眼】
1-02【聖船】上
1-03【聖船】下
1-04【妹姫】
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1-06【余談】
2-00【呪地】
2-01【灯台】上
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3-02【思惑】
3-03【水都】
3-04【天敵】
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3-06【捕竜】
3-07【取引】上
3-08【取引】中
3-09【取引】下
3-10【凶刃】上
3-11【凶刃】中
3-12【凶刃】下
4-00【迷途】
4-01【因縁】
4-02【再会】
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※以下略
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血ノ章【ラグナウェル編】
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4-02【目的】
4-03【煙街】
4-04【接触】
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4-08【姫妹】




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4-02【目的】


4-03【煙街】


4-04【接触】


4-05【屍妹】


4-06【呪獄】


4-07【姫妹】


4-08【姫妹】


なぜなに吸血鬼


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