2008/05/28
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カテゴリ: 物語
・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『†Princesse du sang†』
光ノ章 0-04【霊鈴b】
―シャルロットSIDE―




 現世と幽界とを繋ぐとされる旋律が閉ざされた空間に反響する。
 大神楽殿は神扉の間から遥か下層へと延びた石段の先にあった。

 広大な地下空間は自然の洞窟を利用して造られているのか、剥き出しの岩肌が所々露出している。
 その中心に巨大な地底湖が存在していた。湖の真ん中には人工的な施しがなされた舞台があり。その周囲の湖面は真っ黒に黒ずんでおり、かなりの深さがあることがわかる。
 地表に染込んだ地下水が天井から流れ落ち舞台の端々で再結晶化し、上下で形成された石灰岩が、巨大な樹の幹のように天井を支える柱となって天地を繋いでいた。それらは舞殿の周囲を囲むように佇み、形成された柱には古代文字らしきものがびっしりと刻まれていた。

 そして、なにより目を見張るのは、周囲をぼんやりと照らす光源。
 その正体は蛍輝石のようだった。鉱石成分に蛍石を含有物として有しているのだろう。蛍輝石はその特質から様々な分野で利用される貴重な鉱石だ。石には寿命があり、光を放つ時に石の生命とも言われる光核が脈動することにより光を放つのだ。ここの蛍輝石はかなりの純度を持っているのだろう。洞窟全体が生き物のように鼓動している様からもそれが良くわかる。
 この自然洞窟はそれだけども莫大な富を宿していることになる。

 滴り落ちる水音と蛍輝石の鼓動は、内部の人間をまるで巨大な生物の体内にいるかのように錯覚させる。
 この空間は天上の職人によりひとつの意図持って造りだされた。そんな雰囲気があった。

 その、神の舞台の上にシャルロットとフィーナはいた。

 「・・・その、それがアシュタリータなのですか?」

 大神楽殿の神秘性に圧倒されたのも束の間、張り詰めていた緊張の糸がきれてしまったかのように、フィーナは目をしばたたかせながら間の抜けた声をだした。

 「うふふ・・・、フィーナはアシュタリータを見るのは初めてでしたわね」

 シャルロットが手にした霊鈴を小さく振ると、美しく澄んだ音色が聞く者の鼓膜を心地よく刺激する。
 アシュタリータには通常の神楽鈴と同様に、3つの輪が備え付けられ、上から3個、5個、7個の神鈴が装飾されていた。柄の端からは五色の鈴緒が絡まりながら長く垂れている。

 「はい、いえ、それよりも、想像していたよりあっさり事が成されたので・・・」

 フィーナが拍子抜けするのも致し方ないのかもしれない。
 確かに、アシュタリータが紡ぎだす音色には、神秘的な何かが感じられたが、それ以外は通常の儀式に用いられる神楽鈴と何処も変わるところがないように見えたからだ。
 だが、それはあくまで視覚的な評価でのみ判断した場合ではある。

 「でも、これはアシュタリータの仮の姿。 今のアシュタリータは深い眠りについています」

 シャルロットの言葉に含まれる意味を図り損ねたのかフィーナは押し黙っている。
 フィーナの内心を見透かしたようにシャルロットが微笑む。

 「私も、アシュタリータの真の姿を見たのはたったの一度だけ・・・」


 『女神の血肉を喰らいし娘

 彼の肌は雪、髪はしろがね

 永遠を求める旋律は、

 全てを血に染め哀しく響く』


 シャルロットは古き唄を語るように謳いだす。

 「シャルロット様?」

 重苦しい、押しつぶされるような圧迫感を伴った静寂。
 フィーナの心には得体の知れない不安が広がっていた。

 「この唄はリュズレイの血脈に伝わる死霊鈴の異聞です」

 随分、間を置いてシャルロットは喋りだした。

 「異聞でございますか?」

 「フィーナはアルジャベータにひとりの従者がいたことは知っていますわね?」

 巫女とその従者の伝説なら、アダマストルに住むものなら知らぬものはいない。
 無論、フィーナとて神学生時代に、この大陸に伝わる歴史や伝承に関する知識を学んでいた。

 「はい、舞楽面の少女ですね。 サムドラスの壁画にのみ描かれたアルジャベータの従者。 しかし、古き文献や歴史書を紐解いても、その少女が実在したという記録は確認されておりません」

 フィーナの知りうる限り完璧な答えに満足そうに頷くシャルロット。

 「その少女がアシュタリータの正体」

 「!?」

 驚きの色を隠せないフィーナを見てシャルロットは軽く頭を横にふった。

 「うふふふ♪、冗談です」

 「・・・わかりました。 ですがこれだけは覚えておいてください。 私奴はいつ如何なる時もシャルロット様の幸せだけを望んでおります」

 シャルロットが何かを隠している事はフィーナにもわかっていた。
 それが如何なる苦悩なのかフィーナには判断できない。しかし、今は話せない事でも時がくれば打ち明けてくれるだろうと、いや喩えそれが叶わなくともフィーナのシャルロットに対する忠誠には一遍の揺るぎも存在しなかった。

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 「・・・・へっ?」

 神扉の間へと戻ったシャルロットとフィーナを待ち受けていたのは、自らが放つ間の抜けた声と、アルジャベータの巫女を迎える為に停泊していた筈の教会所有の帆船が、既に出港してしまったとういう驚きの知らせだった。どうやらフィーナが独断で間者を放ち、ギザロス港において教会側に不審な動きがみられないかを探らせていたようだ。

 報告によると教会船は、シャルロットとその護衛の守護騎士を名乗る人物を乗せていたという。
 フィーナはシャルロットを自室で待機させると、配下の守護隊に事態の詳細を確認させるべく、眉間に深い皺を刻んだまま足早に退出してしまった。

 「・・・え~と・・・、どうしましょうか?」

 後に残されたシャルロットは、頬を伝う汗を拭いながら途方に暮れていた。
 疑問符だけが次々に浮上するが、とりあえず、今後の身の振り方を早急に考えなければならなくなった。
 乳母のサリマが入れた香草茶を口に含み、思案するシャルロット。

 如何なる者達が自分たちの名を語って、船に乗り込んだのか?
 何より、巫女が偽者だと教会側に知られる事だけは避けなければならない。それは聖アルジャベータ公会と白十字教の間に更なる亀裂を齎す事になる。
 そもそも、此度の教皇とシャルロットの会合は極秘裏に取り計らわれていた。故に、ここアダマストルや教皇庁内部でもそれを知る者はごく一部の高位聖職や、身内の人間だけである筈だった。

 「そういえば、朝からプルミエール様のお姿が見えないと侍女達が騒いでおりました。 いつもの事ながら、お転婆も度が過ぎると困ったものです」

 沈んだ空気を解そうと何気なく放ったサリマの言葉に、シャルロットが伏せていた顔を上げた。

 「まさかね・・・」

 既に、陽の光は天頂から降り注ぎ、海上から吹き込む熱風が、港街特有の熱気をこの後宮界隈にまで運んできていた。

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水曜の朝に早起きする習慣がつきそうです(汗

細かい部分の改稿はフリーページの方で致しますので
そちらをご覧頂ければ幸いです。

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Last updated  2008/05/28 07:21:55 AM


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11/08/22(月)
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>> †Curse of blood†時更新


光ノ章【シャルロット編】
0-00【聖女】
0-01【妹姫】
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0-03【聖船】
1-00【世界】
1-01【神都】
1-02【古怪】
1-03【呪夜】
1-04【蠱毒】
1-05【残光】
1-06【脱出】
2-00【老卿】
2-01【籠姫】
2-02【我意】
2-03【涜聖】
2-04【慫慂】
2-05【追跡】
2-06【聖堂】
2-07【神韻】
2-08【首人】
3-00【過去】
3-01【鷹眼】
3-02【決断】
3-03【船旅】上
3-04【船旅】下
3-05【真実】
3-06【魂牢】上
3-07【魂牢】中
3-08【魂牢】下
3-09【神娘】
3-10【聖座】
3-11【終焉】完




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16/01/09(火)
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13/08/05(月)
>>月ノ章 4-08【奈落】
13/07/22(月)
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※以下略
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月ノ章【ミューク編】
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0-01【双子】上
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1-01【慧眼】
1-02【聖船】上
1-03【聖船】下
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1-06【余談】
2-00【呪地】
2-01【灯台】上
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2-08【転換】
3-00【金策】
3-01【月兎】
3-02【思惑】
3-03【水都】
3-04【天敵】
3-05【語部】
3-06【捕竜】
3-07【取引】上
3-08【取引】中
3-09【取引】下
3-10【凶刃】上
3-11【凶刃】中
3-12【凶刃】下
4-00【迷途】
4-01【因縁】
4-02【再会】
4-03【技師】
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4-05【奇縁】
4-06【真因】
4-07【霊廟】
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4-09【奈落】下
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13/04/16(火)
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血ノ章【ラグナウェル編】
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4-03【煙街】
4-04【接触】
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4-07【姫妹】
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