2008/06/13
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『†Princesse du sang†』
月ノ章 0-00【屍族】
―ミュークSIDE―




 その北西に位置するバールペオル大陸。
 この大陸から、戦乱の種が尽きることはなかった。北西大陸には七つの国と地域があり。人々はそれぞれの環境や文化に基づき多様性に富んだ生活を営んでいた。なかでも五公国同盟の総称でもあるベルムーテス大公国。大陸最古の国家ヤガ=カルプフェルト王国。2つの巨大国家はバールペオルに覇を唱えるべく、大陸統一の覇権を争っていた。

 その五公国のひとつアダマストルは、バールペオル大陸南方、デュミナスカ半島のつけね、サーリュクルト大河の河口に位置する。この広大なデルタ地帯は大陸有数の穀倉地帯となっている。そして、リザロス湾に面する首都のナイトクランは大陸行路の出発点でもあり終点でもあり、大陸最大の交易港であった。南部の制海権を一手に握るアダマストルは、それらが齎す莫大な富を背景に、一公国でありながら様々な影響力を大陸全土に誇っている。
 大陸各地、数多に点在するどの都市も、このナイトクランが生み出す財の前では霞のようなものであろう。

 市街地を走る街路は広く、整頓された石畳が敷き詰められていた。轍が刻まれた中央街路の両側には、一段高くなっている側道がり、十字路ごとに常夜灯が整備されている。中央の広場には大陸教でもあるメナディエルの大聖堂が座し、都市の南部を占める産業地区には、大陸の玄関口でもあるリザロス湾を取り囲むように、数多の屋台や露店がひしめき合っていた。

 そして、この産業地区には都市のシンボルとも云える三つの巨大な塔が建立されている。
 其々が、このナイトクランで生み出される冨の実質的な支配者といっても過言ではない、三つの商人ギルドの総本部である。

 そのひとつ、黒真珠の塔と称される商王ヘリソンの私有地に彼女は居た。
 三つの影が螺鈿細工の施された円卓を囲み、虚々実々な会話を交わしている。

 「わ、我々は貴女の、屍族として、魔術師としての特異な『力』を必要としている。ミューク・ウィズイッド殿。 無論、心づけはたっぷりはずみますぞ」

 そう言ったのは、悪趣味なほど金銀珠玉でその身を飾り立てた小太りな男。
 商王ヘリソンである。その眼差しは不安の為か、少し落ち着かない。

 「ふむ、じゃが、何処の馬の骨ともわからぬようなわちきに、商王殿自らが頼みごととは、幾分、分不相応に思えるがの?」

 その言葉とは裏腹に、ミューク・ウィズイッドと名指しされた人物は、豪奢な肘掛椅子に悠揚に腰を沈めている。
 綺麗な栗色の髪を肩上で短く切り揃え、白蝋の肌に綺麗な鼻筋。一見、一六、七の少年のようにも見える面立ちであったが、紅い長衣の胸元が大きな曲線を浮き彫りしていることから、この人物が女性であることがわかる。
 その佇まいは理知的で精錬された雰囲気を醸しているのだが、常に物憂いな紅色眼と小さな身の丈がそれらを幼げな印象に変えていた。

 「これは、ご謙遜を・・・ウィズイッド家と云えば、屍族の中でも名門中の名門。 偉大なるエルダーの血脈を受け継ぎし者。 時が時ならば、この地に覇をなしていたのは・・・」

 「ウィズイッドは、同族である屍族達にすら裏切り者の烙印を捺された一族。 たとえ聖剣戦争の勝者が入れ替わったとしても、この地に覇など唱えてはおるまいな」

 ヘリソンの畏敬の言葉をあえて遮ると、ミュークは自嘲気に微笑む。

 “屍族”とは死の女神グラトリエルに抱かれた種族。
 過去、世界ロード・ムアの実質的な支配者であった屍族達は、ここバールペオル大陸にも強大な帝国を築いていた。しかし、彼の聖剣戦争の折に、北西大陸を支配していた大屍族達は駆逐され、生き残った力ある屍族達も東方世界へと逃れていった。
 この地に残された下級の屍族達は、教皇庁主導による異端審問が苛烈化したこともあり、今では滅多にお目にかかれるものではない。それほどに、狂気の種としての屍族を断罪する風潮は高まっている。
 無論、一介の人間が屍族を捕らえようと試みれば多大な被害を覚悟しなければならない。
通常、屍族狩りの執行者は、教会の聖堂騎士団や、教会から支払われる報奨金目当ての狩猟者や冒険者など、一攫千金を狙う一部の人間に限られていた。

 「して、報酬は自由と窺ったが、それはどのようなカタチで?」

 ミュークは笑みを絶やさず慇懃に訪ねた。
 ヘリソンの周囲を固める三つの影が、不機嫌に眉をしかめる気配が伝わる。皆、肉の壁のような、異様な体格をしている彼らはヘリソンの私兵である。

 「そっ、それは貴女が望むままに。 金銭――黄金、宝石様々な形で・・・」

 ヘリソンは取り繕った笑みを浮かべると得意気にその短い両腕を左右に広げた。その額には尋常ならざる量の汗の粒が浮かんでいる。人間が屍族に抱く根源的な恐怖は、ヘルソンの精神を今も蝕んでいるのだろう。

 「つまらぬ」

 「そっ、それでは、どのような形をお望みか?」

 突き放した物言いに、虚をつかれたヘリソンは狼狽を隠せず、円卓に身をのりだしていた。

 「屍族は金では動かぬよ。 それは今も昔も同じじゃ」

 ヘリソンは答えに窮すると、伺いをたてるかのように傍らの人物に視線をおくる。
 その男は頭の上から顔を隠すようにヴェールを被り、細身の長身をゆったりとした上衣で包みこんでいる。簡素な身形ではあるのだが、この男が高貴な身分の人間である事は、僅かな所作から窺い知れた。その素朴な装いも自らの身分や素性が知れる全てを排除した結果であるのだろう。

 「さすがに一筋縄ではいかないようですね」

 表面だけは恭しく、ヘリソンに頭を垂れて言葉を継いだようだが、この場の主導権を握っているのが、この男であることは、彼に対するヘリソンの謙った態度からもわかる。
 豪奢な細工の施された天窓から洩れる月明かりが、ヴェールの下、隠された陰影を浮かび上がらせる。頬骨はこけ、唇は常に痙攣するように震えているようだった。しかし、その陥没した眼底から発せられる視線には、尋常ならざる強靭さを宿していた。

 「ヴェールの君よ、お主の生地では客人と相対する際、顔を隠さなければならない慣わしでもあるのかの?」

 痛烈な皮肉である。ヴェールの男が、その身分を明かせない理由がある事を察した上であるのだから尚更だ。

 「非礼は詫びましょう。 しかし、これは信頼の証。 何より私の素性を知れば、貴女に危害が及ぶと考慮したからです」

 この男の言葉に偽りがないことはミュークにもわかっていた。
 無論、男が指す“信頼”とはミューク自身にではなく、その【力】にこそ向けられているのだろうが。

 「そのようじゃな。 お主はウィズイッドの継承アルカナの『力』をよく知っているとみえる。 じゃが良いのかの? 商王殿は無防備じゃぞ。 彼からお主の正体を“視る”事もわちきには可能じゃ」

 ―――ゴトン

 室内に鈍い音が響く。
 喘ぐように息を飲み込んだヘリソンが、体勢を崩した弾みで椅子から転げ落ちたようだ。毛足の長い絨毯の上で這い蹲る。ヘリソンの尻の辺りがじっとりと濡れていた。どうやら恐怖に耐え切れず失禁してしまったようだ。
 主人の恐慌は私兵達にも伝染していたようだ。二名は既に抜剣していた。よく訓練されているようで逃げ出さなかっただけでも賞賛に値するが、その剣先は微妙に震えていた。

 「待ちなさい。 ミューク殿はあなた方に危害を加える気はありません」

※半角1万文字オーバーの為、続きはフリーページにUPしました <(_ _)>

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月ノ章に冒頭追加です。


※推敲はフリーページ内で行ないます。

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Last updated  2008/06/13 07:20:28 AM


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アダマストル公国
聖アルジャベータ騎士団
メナディエル聖教
その他

【屍族世界】
ウィズイッド家

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0-00【炎神】



13/05/05(日)new02
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13/05/04(土)
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11/08/22(月)
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11/08/11(木)
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11/08/11(木)
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11/06/21(火)
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11/06/09(木)
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11/05/31(火)
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11/05/21(土)
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※以下略
>> †Curse of blood†時更新


光ノ章【シャルロット編】
0-00【聖女】
0-01【妹姫】
0-02【夜冠】
0-03【聖船】
1-00【世界】
1-01【神都】
1-02【古怪】
1-03【呪夜】
1-04【蠱毒】
1-05【残光】
1-06【脱出】
2-00【老卿】
2-01【籠姫】
2-02【我意】
2-03【涜聖】
2-04【慫慂】
2-05【追跡】
2-06【聖堂】
2-07【神韻】
2-08【首人】
3-00【過去】
3-01【鷹眼】
3-02【決断】
3-03【船旅】上
3-04【船旅】下
3-05【真実】
3-06【魂牢】上
3-07【魂牢】中
3-08【魂牢】下
3-09【神娘】
3-10【聖座】
3-11【終焉】完




16/01/13(水)new02
>>月ノ章 4-11【祟神】
16/01/09(火)
>>月ノ章 4-10【祟神】
15/12/22(火)
>>月ノ章 4-09【奈落】
13/08/05(月)
>>月ノ章 4-08【奈落】
13/07/22(月)
>>月ノ章 4-07【霊廟】
13/07/15(月)
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13/07/01(月)
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13/06/17(月)
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13/06/10(月)
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13/06/04(火)
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13/05/15(水)
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10/01/21(木)
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09/11/16(日)
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09/11/10(火)
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09/11/09(月)
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09/11/03(月)
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09/09/15(火)
>>月ノ章 1-06【余談】
09/08/31(月)
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09/08/24(月)
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09/05/01(金)
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09/04/26(日)
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08/09/26 (金)
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08/06/05(木)
>>月ノ章 0-01【闇商】上
※以下略
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月ノ章【ミューク編】
0-00【屍族】
0-01【双子】上
0-02【双子】中
0-03【双子】下
1-00【日常】
1-01【慧眼】
1-02【聖船】上
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1-05【脱出】
1-06【余談】
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2-01【灯台】上
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3-07【取引】上
3-08【取引】中
3-09【取引】下
3-10【凶刃】上
3-11【凶刃】中
3-12【凶刃】下
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4-01【因縁】
4-02【再会】
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4-05【奇縁】
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4-09【奈落】下
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4-11【祟神】下




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※以下略
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血ノ章【ラグナウェル編】
0-00【夜娘】
0-01【血契】
4-00【囚姫】
4-01【変節】
4-02【目的】
4-03【煙街】
4-04【接触】
4-05【屍妹】
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4-07【姫妹】
4-08【姫妹】




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4-04【接触】


4-05【屍妹】


4-06【呪獄】


4-07【姫妹】


4-08【姫妹】


なぜなに吸血鬼


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