2008/09/19
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カテゴリ: 物語
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『†Princesse du sang†』
月ノ章 0-08【死海】
―ミュークSIDE―




 「ミューク様~!!」

 岬の断崖で独り見張りに立っていたレムが息を弾ませながら大灯台へと駆け込んできた。しかし、そこにミュークの姿はない。驚いたレムが慌てて周辺を探し回っていると、何処からか打ちつける波の音に混じり人の話し声が聞こえてくる。
 注意深く声の発生源を辿っていくと、それはイプス岬の東側に広がる海岸線の方向から聞こえてくるようだ。レムは傾斜のきつい地形を慎重に降りていく。すると、今まで霧の中に沈んでいた海辺の様子が視認できた。

 「うわぁ…」

 波打ち際には、まるで巨大な魔物に食い散らかされたように船の残骸が数多く横たわっていた。近海で座礁した船が海流の影響でこの砂浜に打上げられているようだ。
 更に注意深く辺りを見回すと、浜辺から突き出た岩礁の前でミュークが手招きをしている。その隣にはルムが当たり前のように付き添っていた。

 「何処にもいらっしゃらないから心配しました。 ルムがいれば大抵の外敵は退けられるでしょうが油断は禁物ですよ」

 レムは自らの抱く危惧を述べると、ミュークの傍らで佇むルムを横目でちらりと見やり嘆息する。それから、ご自分のお立場を良くお考えになってくださいと付け加えた。ミュークを守る為に必要である直接的な力を持ちえない自分に歯痒くもあるのだろう。レムは多少口うるさくなっても己に出来る形で忠誠を示そうと懸命であった。

 「そうじゃな、心に留めて置くとしよう」

 ミュークはレムの子供らしからぬ気苦労を苦笑しつつも受け止める。

 「それより、何か報告すべきことがあるのではないかの?」

 少年が見張りの任を放り出してここにいる理由を問いただすミューク。

 「あ、そうでした。 ミューク様の読み通り、西の方向に航行灯らしき明かりを確認できました」

 「そうか、それは重畳。 丁度、此方もこれを探し当てたところじゃ」

 その眼下には打ち寄せる白波に揺られるように小船が佇んでいた。航海カヌーを一回り小さくしたような船艇である。漁労用なのだろう。石錘、釣針、銛などが船縁に括りつけてあった。

 「船の墓場と謂われるこの場所でなら廃船のひとつやふたつ直に見つかると楽観しておったが、想像以上に良いものが手に入った。 集落で仕入れた糧食の中に海の魚を使った干物があったので、ある程度想定はしていたが案の定じゃったな」

 そう言うとミュークは楽しげに笑った。

 「ほれっ」

 棒状で先が平たい物体がレムに手渡される。最初、少年はそれが何であるか分からなかったのか、持ち手を換えながら不思議そうに観察する。だが、不意に何かに思い至ったのか血の気が引いたように顔面蒼白になった。レムの知る限りこれは船の推進力を得る為に使用する道具。櫂と呼ばれるものであった。

 「……」

 「どうしたのじゃレム?」

 無言で硬直したレムを不審に思ったのかミュークが気遣わしげに声を掛ける。

 「あ、あの、まさかこのボロ舟で教会船に乗り込むおつもりですか?」

 さして遠くない未来を予感したレムが己の抱いた念慮の是非を確かめる。
 最低限の条件を満たすように波間に浮かんではいるのだが、所々に木材の腐食した部分も目立ち如何にも頼り無い。

 「そうじゃが……何か問題があるかの?」

 「でっかく、おおありです! もし海に落ちてしまったどうするおつもりですか!? 僕たち屍族は水に浮くことができないのですよ!!」

 さも、当然といった風に返してくるミュークに憮然たる面持ちで反論するレム。ミュークの身を案じてのことだろうが、レム本人にも何か含むところがありそうだった。今もミュークやルムが足首付近まで海水に浸かっているのにも関わらず、レムはといえば水に濡れないように少し離れた砂浜から意見しているのだからあからさまである。

 「落ちなければ問題ないじゃろう」

 「で、ですがっ……」

 数瞬、口吃ったレムであったが、

 「そ、そうだ! ワイバーンを使って空から教会船に乗り込むというのはどうでしょう?」

 「駄目じゃ、この霧の中を慣れないレムの操縦で飛び回るのは自殺行為じゃ」

 再び、返す言葉が見つからず苦しげなレム。が、名案が浮かんだのか再び口を開く。

 「それなら…」

 「場所を変えていう意見は却下じゃぞ。 この件には何か裏がありそうじゃから出来るだけ秘密裏に事を進めたい。 なればこそこの場所を選んだのじゃ」

 皆までどころか何も言わせて貰えなかったレムが、がっくりと肩を落とす。
 どちらにしても今からワイバーンを停泊させた集落まで戻っていては教会船を見失ってしまうだろう。それがわかっているだけに代案としては機能していない。

 「無理強いはせん。 レム、お主はこれを持ってここで待っておれ」

 そういってミュークが手渡してきたのは、黒布に包まれた拳大の球体だった。

 「灯台内を探索中に拾った蛍輝石じゃ」

 すっぽりと布地に覆われていても脈動するような輝きがレムの掌に伝わってくる。それは皮膚が焼けるような感触だった。レムはその熱量に驚いて蛍輝石を取り落としそうになる。慌てて櫂を持つ手を放し両手で掴みなおす。

 「あ、あの…なぜコレを? い、いえ、それより、僕もミューク様のお役に立ちたいです! 決して足手纏いにはなりませんからお供させてください!!」

 「まあ、落ち着くのじゃ。 心配しなくともこれも重要な役割じゃ。危険度からいえばこちらの方が高いかもしれんほどにな」

 レムが水を怖がる事は予想の範疇だったらしく、ミュークは無理に付き合わそうとは考えていなかったのだろう。出来るだけ少年の自尊心を傷つけないよう配慮した上で、予め別の持ち場を用意していたようだ。

 「わちきらが教会船に乗り込んで一刻が経過したらその包みを開け、なかの蛍輝石を砕くのじゃ。 その輝きが帰路を示す良い目印となるじゃろう。 最初は別の方法をいくつか考えておったのじゃが、せっかくじゃしコレを使わせて貰うことにした。 それとこれは注意事項じゃ。 純度の高い蛍輝石の放つ光は屍族の身体には毒となる。 包みを解く時と石を砕く際には細心の注意を払うのじゃぞ」

 「うぅ…」

 まだ何か言いたそうなレムであったが、渋々ながら引き下がる。
 隣ではいつの間にやら近寄ってきていたルムが砂浜に落ちた櫂を拾い上げていた。

 「レム、後のことは頼んだぞ」

 ミュークもこれ以上余計な手間を掛ける訳にもいかず、落胆したままのレムをその場に残し、出立しようとしていた。彼女は片手で船縁を掴むと半ばまで砂浜に乗り上げた小船を水面へと向けて力強く押し込む。小船が海面に浮かび上がる寸前に船に飛び乗ると、ルムから櫂を受け取り勢い良く漕ぎだす。既に平坦な海岸線からも教会船らしき光が確認できていた。

 教会船の放つ蛍輝石の輝きは闇に蠢くものを魅了する誘蛾灯のように周囲の闇に浮かび上がっている。

 船を漕ぎ出すとイプス沖の海域が船の墓場と謂われる所以をミュークは身をもって体験していた。その最たる特徴でもある濃霧が齎す視認障害は現在、問題ではない。蛍輝石のお陰で教会船の位置を見失う事はない。だが目標を捕捉出来なければ意味が無い。この海域は潮流が弱く、風も少ない。それらの影響で藻の一種が海面上に異常繁殖していたのだ。ここはルム一人に任せた方が効率が良いと判断したのだろう。ミュークは少女に櫂を預けると、自らは船の先導役に徹することに決めたようだった。ルムはミュークの考えていた以上に的確に船を操っていた。ミュークの指示通り座礁した船の残骸と暗礁の間を縫うように進む。この少女は意外に繊細な作業にも向いているのかもしれない。ミュークは少女の多彩な才能に内心舌を巻いていた。

 暫く船を漕ぎ続けると、ミューク達の目にも教会船の巨大な船影がくっきりと捉えられるようになっていた。物見台にいる船員に気づかれないよう船縁に沿うように身を低くする。ミュークは座礁船の残骸の陰で小船を停止させると、教会船の航路とその接舷地点を推し量る。それから小船の船縁に無造作に括りつけられていた太い荒縄を外し、船首の出っ張りに幾重にも巻き付けきつく縛り直した。教会船の巨大な船体が近づいてくる事を確認すると、先端に錨を結びつけた荒縄の片側を投げ縄のように回転させる。そして、教会船から此方が死角となる後方の船腹まで通過したのを見計らって掌のそれを空中に放る。錨は見事に教会船の船縁に引っ掛かった。ミュークが力を籠めて荒縄引くと小船は引き込まれるように教会船との距離を縮め、鈍い音をたてその側面に接舷する事に成功していた。教会船がかなり速度を落した状態で航行していた事が幸いしたのだろう。乱反射波の影響も殆ど受けることはなかった。ミュークはほっと胸を撫で下ろすと、もう一度気を引き締めるように口唇を閉じる。

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※推敲はフリーページ内で行ないます。

次で偽者の聖女(プルミエール)と出会うところまで辿り着けるだろうか…

※少しだけ訂正
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Last updated  2008/09/20 07:01:36 AM


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3-01【鷹眼】
3-02【決断】
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3-04【船旅】下
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3-06【魂牢】上
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3-08【魂牢】下
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3-09【取引】


3-10【凶刃】


3-11【凶刃】


3-12【凶刃】


4-00【迷途】


4-01【因縁】


4-02【再会】


4-03【技師】


4-04【出立】


4-05【奇縁】


4-06【真因】


4-07【霊廟】


4-08【奈落】


4-09【奈落】


4-10【祟神】


4-11【祟神】


【†ラグナ篇†】


Ж―†【血ノ章】†―Ж


0-00【夜娘】


0-01【血契】


4-00【囚姫】


4-01【変節】


4-02【目的】


4-03【煙街】


4-04【接触】


4-05【屍妹】


4-06【呪獄】


4-07【姫妹】


4-08【姫妹】


なぜなに吸血鬼


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