2009/02/13
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『†Princesse du sang†』 光ノ章 0-03【聖船】下
光ノ章 0-03【聖船】下
―プルミエールSIDE―



 かわいい呻き声を洩らしながら蒸し大海老にかぶりつくプルミエール。 明らかに言動が一致していない。

 「んぐぅ~…う~ん……がぐぅ~」

 プルミエールは咥えた大海老を殻ごと食いちぎろうと呻き声のような不気味な声を上げている。 見目も美しく食べてしまうのが勿体ないぐらいな料理の数々。 それらを食事作法というより、肉食獣が獲物を喰らう感じで次々と胃袋に収めていく。
 それにひきかえアリエッタは、中央から睨んでいる子豚の恨めしげな姿に完全に腰が退けている。 子豚の暗い瞳孔と出来るだけ視線を合わせないようにと必死である。

 今回の航海には、大教皇に次ぐ聖位を与えられた7枢機卿の中でも、美食家として名高いハンス卿お抱え料理人が数名同行しているとアリエッタは聞いていた。 おそらく彼等が惜しみなくその腕を振るったのであろう。 だが、寄航することのない長期の航海は物資を調達する術が皆無に等しく、水や糧食などは必要最低限度に節約するのが常道である。
 供された料理を大量に残せば少しは調節されるのだが、底抜けの大食漢でもあるプルミエールが毎食きれいに平らげてしまうので、その都度料理の量が増えてしまい現状に至るのかもしれない。 この分では何処かの港に寄港しなければ、糧食が尽きるのも時間の問題かもしれない。

 「んっ、がっぐぅ……アリアリ~なにか楽しいことはありませんかぁ?」

 目前で大海老を丸呑みしたプルミエールに怯えるアリエッタ。
 とりあえず、今までのプルミエールの発言を総合的に咀嚼し、要約したところ―――

 「もうしかして、飽きてしまわれたのですか?」

 「うに、よきにはからいなさいですぅ……」

 プルミエールの声からいつもの力強さが感じられない。 どうやらこのアメナディル号で一通りの興味を満喫してしまい、倦怠感に苛まれているようだった。 このまま大人しくしていてくれればアリエッタにとっても好都合なのだが、放置しておくと碌でもないことになるのは明白だった。

 「それでしたら……あ、あの……おっ、怒らないで聞いてくださいますかぁ?」

 まるで捨て猫のようにプルミエールの反応を窺いながら声をだすアリエッタ。

 「うにゅ、プルとアリアリの間にぶすいはむよーです」

 幼馴染を“下僕”扱いするのは不粋ではないのかと一瞬考えたアリエッタであったが、とりあえず主人の了解を得たので言葉続ける。

 「今回もまた、むだんで外出してしまわれたので、あとあとのことを考えれば……え、え~とワタシにも立場というものがあり……」

 アリエッタはちょうど一握りぐらいの勇気を振り絞ると、ちょっぴり私情の入り混じった提言を試みようとした―――が、そこで何かドス黒っぽいものを含む視線を感じ息を呑みこむ。

 「だ・か・ら?」

 プルミエールは引き攣った笑顔でアリエッタに先を促す。
 よく見ると、こめかみの辺りで青筋がぴくぴくとしていた。 どうやら彼女の我慢の臨界点はとても低い位置に設定されているようだ。

 「お、おひまなら、少し…おべんきょうなどを……」

 実のところ、ここまでアリエッタがプルミエールの行動を制止しなかったのには訳があった。 この難局をどうにかやり過ごせば、アレシャイム教皇領到着後に聖女の一団と合流することも可能だと考えていたからだ。 プルミエールの傍若無人振りは周知の事実であるから、少し気転を利かせば全てを有耶無耶に出来るかもしれないと思索していた。

 「……だって(私だけ不幸になるのはイヤですぅ~グス)」

 意外にも冷静に事の成り行きを推察していたアリエッタであった。
 しかし、騒動だけを引き起こしたままでは敬愛するミルフィーナに会わせる顔がなかったのである。 守護騎士団の一員としての僅かばかりの矜持が何か手柄のようなものを求めていた。 そこでお馬鹿のプルミエールに勉強をさせるという快挙を達成させ、それを手土産にするつもりであった。 無論それはそれで命がけである。

 「い、いえ……事情をお話しましたら、司教さまも喜んでプルミエールさまのおべんきょうをみて下さると……」

 「そ・れ・で?」

 子羊の骨付きローストを右手に掴んだままのプルミエールが威嚇するように、アリエッタとの間合いを詰める。
 ここまできて「それで」もないのだが、主人の怒気を敏感に察知したアリエッタが食卓を挟んだまま数歩後ずさりする。
 そんなやりとりが、数秒続いたが―――

 「も、もちろん冗談ですよ!!」

 力いっぱい前言を撤回するアリエッタ。

 「そうですよね。 教皇庁にはヴィルヘルムさまもおられますし、わざわざこんなところでおべんきょうする必要なんて……」

 ご機嫌取りのつもりで何気なく放ったアリエッタの一言。
 食欲に対して謹厳実直だったプルミエールの動きが不自然に、はた―――と固まっていた。 少女は色彩の異なる団栗眼を大きく見開いたまま硬直している。 が、次第にその小さな体がぷるぷると震えだす。

 「あ、あの、プルミエールさま・・・どうかしましたですか…?」

 常人の食する限界を明らかに越えた大量の料理を、その胃袋に詰め込んだプルミエール。 食あたりか何かかと心配になったアリエッタが恐る恐る尋ねる。
 出来れば航海中ずっと寝込んでいてくれればいいな―――などと不謹慎に思ったりもしたが、ちょっぴり生まれた下克上の心意気をアリエッタはそっと飲み込む。 バレたらことである。 恨まれるというより、きっと呪われるだろう。

 「アリアリ!! “きょこうちょう”にはヤツがいるのですか!?」

 プルミエールは軌道上に存在する全て蹴散らしながらアリエッタに詰め寄る。 それにしても、メナディエルの現状を考えれば“―虚構(きょこう)―庁”とは上手く揶揄したものである。 ただ残念なことに、今回は発信者がただお馬鹿なだけだったので例には洩れていた。

 「あわわわわわ……ヴィルヘルムさまは主席枢機卿であれせられますれば、ふだんは教皇庁にいらっしゃるとおもわれますぅ~」

 甲高い音を響かせながら跳ね回る食器や盃がアリエッタの周囲に散乱する。 どうやらアリエッタはヴィルヘルムがプルミエールの教育係でもあり“天敵”とも云える存在であったことを喪失していたようだ。

 「アリアリ! いますぐお城にかえりますよ!!」

 「い、いくらなんでも…それは無理かとぉ~」

 既にナイトクランを出港してから4日目になる。 今更引き返せもないものである。

 「いいから船をもどしなさいですぅ~」

 「む、むりですよぉ……んぎゅっ!?」

 みなまで言わせずプルミエールの手がアリエッタの喉をむんずと掴む。 そのまま両手で細首を締め上げながら、ガクガクとアリエッタの身体を前後左右に揺すっている。

 「ア~リィ~ア~リィ~! プルはおしおきなんてイヤです!!」

 「ヴィルヘルムさまはとてもお優しい御仁ですので……わ、わけをお話すれば―――」

 精神と肉体、両方の逃げ場を失ったアリエッタは、残酷な現実の前に茫然としながらも、捨てられた子犬のような眼で訴えかける。 でも、途中で 理由 ( わけ ) のほうに無理がることに気づいた。

 「む~り~ですぅ~! あのへんくつ石アタマは、なぜかプルにだけはやさしくないですぅ!!」

 「……(それはプルミエールさまが、いつもおべんきょうをサボろうとするから…)」

 胸中でツッコミを入れてみたアリエッタ。 しかし、今はそれどころではない。 既にアリエッタの顔色は青から白色に変わっていた。

 「ぐ、ぐぐ…ぐるぢぃぃ……れふぅ~」

 ぱしぱしと必死にプルミエールの手を必死に叩くアリエッタ。

 「(まじゅい…死んじゃいますぅ……)」

 アリエッタが下僕的に2階級特進を覚悟した時―――

 ―――ギィィィィ

 ふたりの背後で扉の開く音が響いた。
 そこには、見慣れないふたつの小さな人影。

 「わちきはミューク・ウィズイッド。  以後、お見知りおきをお願いするのじゃ」

 短めの茶髪を綺麗に肩上で揃えた娘が優雅な所作で腰を折ると、プルミエールに向けて深々と一礼した。 それにしても胸が大きい。身を屈めたことにより更に強調されている。 あのアリエッタよりも一回り、いやふた回りは大きいだろう。まさに“巨大”と形容するのが相応しい胸の持ち主だった。
 プルミエールの瞳が殺気を帯びた三白眼になっていることからもそれが知れる。

 「お主がシャルロット姫じゃな?  誠に不躾で申し訳ないのじゃが…わちきに拐かされてくれんかの?」

 とても言い難い事である筈の言葉をさらりと云ってのけたミューク・ウィズイッドと名乗る娘。

 「(日記に書くことがおおすぎですぅ…)」

 薄れゆく意識の中、アリエッタは完全に現実逃避を始めていた。
 溜息を一回つくごとに、寿命が一年縮むという風説が真実ならば、この珍道中の間に、アリエッタの寿命は完全に尽きてしまうことだろう。








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Last updated  2009/02/14 03:09:18 AM


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>> †Curse of blood†時更新


光ノ章【シャルロット編】
0-00【聖女】
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1-01【神都】
1-02【古怪】
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1-04【蠱毒】
1-05【残光】
1-06【脱出】
2-00【老卿】
2-01【籠姫】
2-02【我意】
2-03【涜聖】
2-04【慫慂】
2-05【追跡】
2-06【聖堂】
2-07【神韻】
2-08【首人】
3-00【過去】
3-01【鷹眼】
3-02【決断】
3-03【船旅】上
3-04【船旅】下
3-05【真実】
3-06【魂牢】上
3-07【魂牢】中
3-08【魂牢】下
3-09【神娘】
3-10【聖座】
3-11【終焉】完




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16/01/09(火)
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13/08/05(月)
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※以下略
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月ノ章【ミューク編】
0-00【屍族】
0-01【双子】上
0-02【双子】中
0-03【双子】下
1-00【日常】
1-01【慧眼】
1-02【聖船】上
1-03【聖船】下
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1-06【余談】
2-00【呪地】
2-01【灯台】上
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2-05【女難】
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3-02【思惑】
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3-07【取引】上
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4-01【因縁】
4-02【再会】
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4-05【奇縁】
4-06【真因】
4-07【霊廟】
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4-09【奈落】下
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4-11【祟神】下




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4-00【迷途】


4-01【因縁】


4-02【再会】


4-03【技師】


4-04【出立】


4-05【奇縁】


4-06【真因】


4-07【霊廟】


4-08【奈落】


4-09【奈落】


4-10【祟神】


4-11【祟神】


【†ラグナ篇†】


Ж―†【血ノ章】†―Ж


0-00【夜娘】


0-01【血契】


4-00【囚姫】


4-01【変節】


4-02【目的】


4-03【煙街】


4-04【接触】


4-05【屍妹】


4-06【呪獄】


4-07【姫妹】


4-08【姫妹】


なぜなに吸血鬼


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