2009/04/05
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カテゴリ: 物語

『†Princesse du sang†』 光ノ章 1-04【蠱毒】
光ノ章 1-04【蠱毒】
―シャルロットSIDE―

           ---------------------------1---------------------------

 「ふ~ん……これがアシュタリータ? 思ったよりふつうね」

 ラールウェアは手中の霊環を物珍しそうに弄り回す。

 「霊環アシュタリータは別名【聖霊環】とも呼ばれ、アルジャベータの遠き子孫でもあるリュズレイ家に代々伝わる秘宝。 そして、女神メナディルがこの世界に残した遺具【神剣アンネ・シュティフ】【聖鎧アリグノートス】と並ぶ3神具のひとつでございます」

 主人の軽薄な口調を諭すようにフォン=バレル3世は言った。

 「そして、女神を再臨させる呼び水としての霊具であり―――死者を甦らせる反魂の力を秘めている♪」

 「仰せの通りです」

 フォン=バレル3世は忠節を保ちつつ慇懃そうに頭を垂れる。
 だが、ラールウェアの関心は霊環そのものにはないらしく、その興味は間近に横たわるシャルロットに向けられた。

 「ねぇねぇ、シャルロットちゃんってば、“あの人”の血族じゃないんだよね?」

 ラールウェアの少しつり上がった大きな紅瞳に意味ありげな色が混じる。

 「彼女が聖女ではないという事実は、そのままアダマストルの正統王位継承者でもないという現実にも繋がりますな。 アダマストル王家リュズレイの一族は女系の血統を紡いできた血族。 その第一嫡女は聖女の生まれ代わりであり、聖女は女子のみを身篭ると伝え聞きますが―――」

 「全ては“あの人”が生まれたことで狂いだした♪」

 ラールウェアが愉悦の口調でそうつけたした。 その顔は狂的な輝きに彩られている。

 「さながらその通りでしょうな」

 フォン=バレル3世はラールウェアの意見に賛意を示し、血染めのドレスを纏った可憐な少女を見下ろす。

 「ですが、この娘にとって幸か不幸か、このまま事が運べば彼女は聖女としての役割を終え、女帝制度であるアダマストルの王位を継ぐ存在。 紛いものとはいえ、何処の馬の骨ともわからぬ人間を王座に据えるほどアダマストルの王室も愚鈍ではありますまい。 この先、彼女の身に不幸な事態が起きないことを祈るばかりですな」

 「それなら今不幸になっても同じだよね♪ ちょっとだけご相伴に与らせてもらっちゃおうーかな?」

 嬉しそうな笑顔で円卓の上にぴょこっと立ち上がるラールウェア。 その無邪気な姿は純真無垢な少女の態だ。

 「ラールウェア様…ご自重なされよ。 以前も味見と申されて、給仕の女官を半死半生になさったことをお忘れか? あの時は後始末に真、骨を折りましたぞ」

 フォン=バレル3世は呆れた顔でラールウェアの制止を促した。

 「下僕の分際でアタシに命令する気?」

 ラールウェアの声にあからさまな殺気が混じる。

 「事の成就を計る上での已む無い犠牲には目を瞑りましょう―――ですが、罪無き者を無用に殺生することあらば、これ以上の協力は致しかねますぞ」

 正面からラールウェアの眼光を受け止めるフォン=バレル3世。 息を呑む緊張感がその場を支配する。 だが、意外なことに一触即発の空気を断ち切ったのはラールウェアの方だった。 屍族の少女はフォン=バレル3世の頑なな態度に肩をすくめると、

 「ふ~ん…まぁ、いいよ。 どーせ君達はもう用済みだしね」

 「ご理解頂き重畳でございます。 霊環の消失に関しては、聖女の偽者を仕立て上げたと思しき聖アルジャベータ公会、もしくはアダマストル王家が進んで隠蔽してくれましょう。 この娘もここであったことを口外する程、愚か者ではありますまい。 それは己の身の破滅を意味しますからな。 彼女はこのまま帰すことが最善でしょう」

 フォン=バレル3世はラールウェアの投げ遣りな態度を合意と受け取ったのか、老齢の身とは思えぬ膂力でシャルロットを抱えあげると、近くの長椅子へと横たえた。

 「それで、ラールウェア様……。 事が成就した暁にはあの約束をお忘れなきよう」

 ラールウェアと向き直ったフォン=バレル3世は期待を籠めてそう言った。
 屍族の少女は苦笑すると、あからさまに肩を竦める。

 「そんなにアタシの血が欲しいの?」

 蒼白い繊手が勿体らしげにフォン=バレル3世の眼前に差し出される。

 「はい、我が大願には必要なことでございます」

 フォン=バレル3世はラールウェアの眼前で跪くと重々しく言った。

 「生来から夜の眷属ではない半屍族は、自らを屍族化させた主の血を飲むことにより、完全な屍族となる―――そう、聞き及んでおります」

 「いいよ♪ 飲んでも。 でも…後悔してもしらないよ?」

 「もはや退き帰す術などあろうわけもない。 それに毒を食らわば皿までとも申します。 ありがたくお受けさせて頂きましょうぞ」

 僅かに垣間見えた逡巡を自ら断ち切ると、フォン=バレル3世は少女の手をとる。 それは聖誕祭でシャルロットと交わした光景そのままであった。
 屍族であっても恐怖を感じるのかラールウェアの口唇が僅かに震える。 フォン=バレル3世は屍族の少女の細い腕から伝わる震えをそう解釈した。 そして、剥き出された乱杭歯が白い肌を破る痛みを伝え―――

 ―――絶叫が執務室の天井と壁を震わせた。

 床に赤黒い液体が四散する。 フォン=バレル3世は 縺 ( もつ ) れる両脚をどうにか支えると、口元を押さえ低く呻く。 そこにラールウェア押し殺した笑い声が混じった。

 「ぷ、あははは…やっぱりそうなるよね♪」

 「ぐがぁ―――」

 再度、フォン=バレル3世は食いしばった歯の間から軋むような苦鳴を響かせる。 身体を九の字に折り曲げると凄まじい形相でラールウェアを見上げる。

 「こ、これは……どういう・・こと、だ」

 「うふふ、アタシのかわいい子供達が怒っているんだよ♪」

 氷の微笑を浮かべるラールウェア。
 次の瞬間、鈍い破砕音が室内の闇を震わせた。
 フォン=バレル3世の纏う教皇衣の腹部が波打つように揺れ不自然に膨張し破砕する。 流石に耐え切れなくなった教皇の身体がゆっくりと崩折れる。

 「被検体としての君の役目はおしまいかな」

 ラールウェアは足元で這い蹲るフォン=バレル3世の身体を蹴り上げる。 仰向けになったフォン=バレル3世の腹部に醜く腫れ上がったこぶし大の肉腫があった。 それはまるで生きているかのように脈動している。 ラールウェアは右手の親指と人差し指を突き出すと、それを肉腫の中に突き入れた。

 「ぐっ…がはっ―――」

 ラールウェアはフォン=バレル3世の体内に挿入した指先を数回動かすと何か小さな塊を摘みだす。

 「これは千年壺毒(蠱毒)と呼ばれる太古の秘法によって造りだされた黒死蝶の幼体」

 “ソレ”は細長い体をくねらせると後方にある気門から赤黒く変色した液体を噴き出していた。 分泌液には粘着性があるのか床に落ちても浸透せずに残っていた。 見た目とは裏腹に室内が甘い香りに満ちる。
 ラールウェアは愛おしげに黒死蝶の幼虫を見つめると、

 「黒死蝶は摂取した栄養を糧に浸潤と変異を繰り返す内部寄生虫で、老化した細胞や破壊された肉体を飽食し、それを正常な組織に作り変えてくれるんだよ。 この子達が宿主に齎す高い恒常性機能は、限りなく不死に近いと謳われるエルダーと同等かそれ以上かもね♪」

 ラールウェアは得意げに語る。

 「そ、それでは予は……」

 「君が悪いんだよ。 完全な屍族になりたいなんて望まなければもっと長生き出来たのに・・・。 まぁ生理的な吸血欲求を制御しきれない半屍族が不便なのはわかるけどね」

 「き、貴様……予を謀ったのか」

 「心外だな。 君の命を助けたことに変わりはない筈だよ。 数年前、君の身体は死病に蝕まれて手の施しようがなかった。 アタシが血を吸って半屍族化しても、既に消えかかった君の命を救える保障はない。 だから黒死蝶の力に頼ったの。 まぁ、君には別の利用価値もあったし、アタシ的には黒死蝶の生態実験も出来て一石二鳥だったけどね♪」

 ラールウェアは手の甲に穿たれた2つの傷跡をペロリと舐めると、

 「君にとって運が悪かったのはこの子達がとても母親想いだったこと。 幼体には孵化主の母体に対して強い肉体的精神的な相互干渉があって、母親である女王に危機が迫ると何よりも最優先に母体を護ろうとするんだよ♪」

 そのまま、夜色のドレスを舞い上がらせ円卓にふわりと飛び乗るラールウェア。
 喰い破られた腹部から赤黒い血液が溢れ出し、乱れた鼓動にフォン=バレル3世が喘ぐ。 皺のよった額には脂汗が噴出していた。

 「でさー、その子達の母親は何処にいると思う?」

 ラールウェアは僅かに身を屈めると、ふっくらとした唇から紅い舌をだす。

 「なっ!?」

 絶句するフォン=バレル3世。

 ―――少女の舌の上で身をくねらせる数匹の黒い塊

 「母体である黒死蝶はアタシのなかにいる。 母親のために自分たちの宿主まで攻撃するなんて美しい親子愛だと思わない? でも、ちょっぴり過激すぎるから改良の余地がありそうだね」

 ラールウェアは茶目っ気たっぷりな表情でにんまり微笑んだ。
 だが、不意に少女の笑みが止む―――

 扉が蹴破られる音に振り向いたラールウェアの視界に白光が走る。
 屍族の少女の首筋に斬線の糸が引くと、半ばまで断ち切られた細首から血煙が宙を舞う。

 「シャルロット様!! ご無事ですか?」

 影の正体は長剣を鞘走らせたミルフィーナだった。
 彼女は執務室の隅に置かれた長椅子の上にシャルロットの姿を確認すると、斬り捨てた屍族には見向きもせず一目散に駆け寄る。 血塗れのドレスを纏ったシャルロットの姿に不安の影がミルフィーナの表情に差す。 彼女はシャルロットの脈拍を確かめようとその首筋に手を伸ばし―――硬直する。 だが、それも束の間、すぐに当惑を振り払うと少女の確かな温もりを肌に感じ安堵の息を漏らした。

 「あら、またお客さまみたいね」

 氷のように沁みこんでくる冷気がミルフィーナの背筋を走り抜ける。
 ラールウェアの首筋からは既に一滴の血も流れてはおらず、傷口は跡形も無く消え去っていた。






※推敲は1-04【蠱毒】の全パートを書き終えた後、フリーページ内で行います。





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Last updated  2009/04/06 03:16:25 AM


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3-03【船旅】上


3-04【船旅】下


3-05【真実】


3-06【魂牢】上


3-07【魂牢】中


3-08【魂牢】下


3-09【神娘】


3-10【聖座】


3-11【終焉】完


【†ミューク篇†】推敲中


Ж―†【月ノ章】†―Ж


0-00【屍族】


-0-01【双子】上-


-0-02【双子】中-


-0-03【双子】下-


1-00【日常】


1-01【慧眼】


1-02【聖船】上


1-03【聖船】下


1-04【妹姫】


1-05【脱出】


-1-06【余談】-


2-00【呪地】


2-01【灯台】上


2-02【灯台】中


2-03【灯台】下


2-04【国境】


-2-05【女難】-


2-06【幻影】


2-07【血渇】


2-08【転換】


3-00【金策】


3-01【月兎】


3-02【思惑】


3-03【水都】


3-04【天敵】


3-05【語部】


3-06【捕竜】


3-07【取引】


3-08【取引】


3-09【取引】


3-10【凶刃】


3-11【凶刃】


3-12【凶刃】


4-00【迷途】


4-01【因縁】


4-02【再会】


4-03【技師】


4-04【出立】


4-05【奇縁】


4-06【真因】


4-07【霊廟】


4-08【奈落】


4-09【奈落】


4-10【祟神】


4-11【祟神】


【†ラグナ篇†】


Ж―†【血ノ章】†―Ж


0-00【夜娘】


0-01【血契】


4-00【囚姫】


4-01【変節】


4-02【目的】


4-03【煙街】


4-04【接触】


4-05【屍妹】


4-06【呪獄】


4-07【姫妹】


4-08【姫妹】


なぜなに吸血鬼


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