2009/08/24
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カテゴリ: 物語
※推敲ではなく別展開です


『†Princesse du sang†』 月ノ章 1-04【取引】
月ノ章 1-04【取引】
―ミュークSIDE―



 紅と黒のコルセット風ドレスを纏った金髪の少女が剣呑な様子でミュークを指差す。

 「え~と…はい、聞いてきますです」

 アリアリと名指しされた栗髪の少女はおどおどした様子で頷くと、手足をドタバタとせわしなく動かしながら危なっかしく走りだす。

 「はわっ!!―――ンガっ」

 そして案の定、ミュークの見守る目前で、毛足の長い絨毯の切れ目に足をとられ器用に蹴躓いた。

 「だ、大丈夫かや?」

 床に伏したままひくひくと痙攣する栗髪の少女に対し、冷や汗を一筋、二筋とこめかみに伝わせながら声をかけるミューク。

 「だ、だいじょうぶ…です」

 栗髪の少女はよろよろと立ち上がると、震えた声で返答する。 額から戸柱に激突したらしく広いおでこが真っ赤に腫れあがっていた。
 こうして間近で見ると、眠たげに垂れる目元と寝癖のように跳ねた癖毛が印象的な少女だ。 潤んだ碧眼が捨てられた子犬のようである。

 「あ、あの…、わたしはアリエッタ・ルーンフォルテと申しますぅ~」

 自称アリエッタ・ルーンフォルテは深々と頭を垂れた後、威儀を正して名乗る。
 この丁寧な返礼は先程、名を示したミュークに対したものだろう。 頼りなさそうな外見とは裏腹にしっかりとした礼節をわきまえているようだ。

 「(…ん?)」

 そんなアリエッタを興味深く観察していたミュークの視線が少女の纏う上衣に留まる。

 ―――聖剣に身を絡ませる飛竜の紋章

 「(この紋章は…確か、聖アルジャベータ守護騎士団の……。 なるほど、見掛けで判断すべきではないということかの)」

 ミュークが顎をしゃくって合図すると、背後に控えたルムファムの碧眼が淡い燐光を発する。

 「へっ?―――むがっ」

 転瞬―――アリエッタの視界は天地が逆転する光景と共に闇に閉ざされていた。 跳躍したルムファムの両脚が蛇のようにアリエッタの細首に巻きつき、ふたり分の体重を乗せて床に捻り倒したのだ。 哀れ、ろくな受身もとれなかったアリエッタは冷たい床の上で目を回している。

 「なっ!? アリアリになんてことを!!」

 その光景を目の当たりにした金髪の少女が抗議の声をあげる。

 「ルム、先ほども申したが、出来る限り手荒な真似は―――」

 しかし、ミュークの言葉を皆まで聞かず、ひと呼吸で金髪の少女に肉薄するルムファム。 目前で無防備に晒されたわき腹に軽く左手を添えると、物言わぬ唇が鋭い呼気を放つ。

 「にゅっ!!」

 次の瞬間、金髪の少女が大きく後ろに吹き飛ぶ。
 ルムファムは突きだした左手をそのままに、無機質な碧眼を僅かに細め前方を見やる。

 「う~、うぅ…ん」

 その視線の先では呻き声を洩らしながら頭を抱えて床に蹲る金髪の少女。 大股を広げた状態で尻餅をついている為に、捲くれ上がったドレスの隙間から可愛いショーツが丸見えであった。

 「ほう…、ルムの攻撃を躱すとはなかなかやるのう」

 ミュークが関心したように呟く。
 彼女の目にはルムファムの寸打が放たれた瞬間、金髪の少女が後方に飛び退いて威力を和らげていたように見えたからだ。 勢い余って円卓の角に後頭部を強か打ちつけたのは誤算であろうが…。

 「いきなりコブシで語りあおうとは…。 “じょーしき”というものがないのですかっ!!」

 怒気を孕む声と共に金髪の少女の足蹴りがルムファムの足元を薙ぎ払う。 猪突猛進、退くことを知らないルムファムが珍しく後方に下がる。
 ミュークが見守る中、金髪の少女とルムファムの攻防が更に続く―――両者とも、まるで舞を舞うようなしなやかな動きだ。 野生動物が本能のままに戦えばこのように見えるのかもしれない。

 「大したものじゃな」

 ミュークの目にも、ルムファムが手加減していることは明らかだが、それでも身体能力に勝る屍族とここまで渡り合える人間はそうそういるものではない。 それが年端もいかぬ少女であるなら尚更だ。

 「(んっ、年端もいかぬ?)」

 自身の抱いた思惟にどこか引っ掛かりのようなものを感じるミューク。 ひと目見て、あまりにも己の嗜好に合致した様相であった為に喪失していたが、聖女シャルロットは当年、成人の儀を迎える妙齢の娘である筈だ。 冷静になれば聖女だと憶測したこの金髪の少女は噂に聞くシャルロット・リュズレイの姿とはかけ離れていた。

 「(だが、あくまで噂は噂…)」

 籠姫として育てられたシャルロット・リュズレイを、その容姿だけで本人だと判別するつもりはミュークにも端からない。 もっと別の、高い確率で確証を得られる術をミュークは心得ていた。

 「うにゃ!!」

 緊張感の欠如した声がミュークを現実に引き戻す。
 見ると、ルムファムの手刀が首筋を掠め、裂けた布地の隙間から少女の白く幼い肌が露になっていた。

 「なっ!?」

 思わず驚きが声となって漏れるミューク。
 ミュークの視線は金髪の少女の露になった首元へと釘付けになっていた。

 「ちょ、ちょっと待つのじゃ。 娘よ、霊環はどこにやったのじゃ!?」

 ミュークの声は明らかに上擦っていた。 彼女が狼狽するのも当然で、聖女がその首に霊環アシュタリータを聖装することは聖女が聖女足りうる証のようなものであった。
 そもそも、霊環アシュタリータはアダマストル王家に代々受け継がれてきた三神具のひとつで、聖女アルジャベータの血と力を最も色濃く宿す王家の嫡女にのみ装着を許された聖女の御璽(みしるし)である。 しかし、それは一方で聖女足り得る資質を持つ者が身に付けると、一定の因果を踏まねば外せない呪具でもあった。
 どちらにしても、ここまで用意周到に準備を重ねた計画が最終段階になって、「実は人違いでした」などといった理由で納得できるわけもない。

 「れいかん? そんなの知りませんです」

 いい迷惑だと言わんばかりに、(実際その通りなのだが)、さも物臭そうに答える金髪の少女。

 「アダマストル王家の秘宝のことじゃ。 お主が聖女であるなら必ず身に付けておろう」

 聖女という言葉に耳をぴくりと聳せる金髪の少女。 すぃ、と団栗眼を細めると警戒するようにミュークを睨みつける。

 「シャル姉さまはプルのですから欲しくてもあげませんよ」

 「……」

 今度こそ絶句するミューク。 疑念を抱いた段階である程度覚悟はしていたようだが、おぼろげな動揺を色彩に滲ませていた。

 「(聖女シャルロットには確か2人の妹がおったが……)」

 ミュークの優れた頭脳は瞬時にその名に合致する人間を導き出していた。
 認めたくは無い事実であったが、どうやら目の前の頭の悪そうな少女はアダマストルの第二王女プルミエール・リュズレイに他ならないようだった。

 「(よもや・・・王族である聖女の妹を囮役に使うとは……。 存外食えぬ輩が人間にも居るようじゃな)」

 などと変なところで関心していると、金髪の少女―――プルミエール・リュズレイが鼻息も荒く殺気全開で身構えていた。

 「ムカー。 無視するなー!!」

 「まぁ、待つのじゃ。 ワチキたちは霊環アシュタリータさえ手に入れば、お主の姉君に危害を加えるつもりはない」

 差し当たり実害はないと判断したのだろう。 本来の目的をあっさりと口外してしまうミューク。
 霊環を外す術は教会によって秘匿されている。 それを知らないミュークは、シャルロット・リュズレイが真の聖女足る資質を持ち合わせていた場合、その身柄ごと拘束するしか霊環を得る方法はないのだから半分は嘘である。

 「アシュたーにゃ…にゃ。 うみゅ、もしかしてシャル姉さまがつけている首輪のことですか?」

 「そうじゃ」

 プルミエールは瞳を閉じて沈黙すると考えるような仕草を見せる。 それから出し抜けに笑顔をつくると思いもよらぬことを言いだした。

 「プルをこの船から降ろしてくれれば、その首輪をあげてもいいですよ」

 「…ああ、そうか―――って、なんじゃと!?」

 ミュークは口を開いたまま唖然とする。

 「(どういうことじゃ? このような無益な取引になんの意味がある。 あきらかに得をするのはこちらだけではないか……)」<

 ミュークはプルミエールの真意を計り損ねていた。 冗談と解釈するのが妥当ではあるのだが、目が本気なのである。
 仮に、この少女が本心からそう考えていても、国宝でもある霊環アシュタリータを王族とはいえ個人の一存でどうにかできるとは到底思えない。
 加えて問題はそれだけではない、取引が成立するまでプルミエールはついて来るつもりだろう。 本人の意思で同行する以上、内から生じる問題は少ないだろうが、周囲の人間はそうもいかない。 一国の王女が忽然と姿を消すのだ、国内のみならず大陸全土に厳重な検問体制が敷かれる筈だ。 どの程度行動が制限されるかわかったものではない。

 「(まぁ、霊環を入手する際の人質ぐらいにはなるかの…)」

 だが、内心で抱く苦慮とは裏腹にミュークは別のことも同時に考えていた。 この少女の別の利用価値である。 巧く立ち回れば聖女を誘きだす餌となりえる存在だ。

 「いいじゃろう。 それで手を打つとしよう」

 「うみゅ。 アレもついでに持っていくので良きに計らいなさいです」

 そう言うと、未だ意識を失ったままのアリエッタを指差すプルミエール。
 自分の判断が正しかったのかどうか、早々と不安になるミュークであった。







あまりにも誤字が多かったので少し訂正





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Last updated  2009/08/25 03:26:49 AM


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11/08/22(月)
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11/08/11(木)
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11/06/21(火)
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>> †Curse of blood†時更新


光ノ章【シャルロット編】
0-00【聖女】
0-01【妹姫】
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0-03【聖船】
1-00【世界】
1-01【神都】
1-02【古怪】
1-03【呪夜】
1-04【蠱毒】
1-05【残光】
1-06【脱出】
2-00【老卿】
2-01【籠姫】
2-02【我意】
2-03【涜聖】
2-04【慫慂】
2-05【追跡】
2-06【聖堂】
2-07【神韻】
2-08【首人】
3-00【過去】
3-01【鷹眼】
3-02【決断】
3-03【船旅】上
3-04【船旅】下
3-05【真実】
3-06【魂牢】上
3-07【魂牢】中
3-08【魂牢】下
3-09【神娘】
3-10【聖座】
3-11【終焉】完




16/01/13(水)new02
>>月ノ章 4-11【祟神】
16/01/09(火)
>>月ノ章 4-10【祟神】
15/12/22(火)
>>月ノ章 4-09【奈落】
13/08/05(月)
>>月ノ章 4-08【奈落】
13/07/22(月)
>>月ノ章 4-07【霊廟】
13/07/15(月)
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13/06/10(月)
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10/02/16(火)
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10/02/07(日)
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10/01/27(水)
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10/01/21(木)
>>月ノ章 2-04【国境】
09/11/16(日)
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09/11/10(火)
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09/11/09(月)
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09/11/03(月)
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09/10/22(木)
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09/10/01(木)
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>>月ノ章 1-06【余談】
09/08/31(月)
>>月ノ章 1-05【脱出】ab
09/08/24(月)
>>月ノ章 1-04【取引】
09/08/07(金)
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09/08/04(火)
>>月ノ章 1-03【聖船】a
09/08/02(日)
>>月ノ章 1-02【聖船】a
09/07/14(火)
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09/07/09(木)
>>月ノ章 1-00【日常】
09/06/21(日)
>>月ノ章 0-03【双子】
09/05/12(火)
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09/05/01(金)
>>月ノ章 0-01【双子】ab
09/04/26(日)
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09/04/26(日)
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08/09/26 (金)
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08/09/20(土)
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08/09/12(金)
>>月ノ章 0-07【灯台】
08/09/07(日)
>>月ノ章 0-06【凶兆】
08/08/27(水)
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08/08/10 (日)
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08/08/07 (木)
>>月ノ章 0-04【双子】下a
08/08/04 (月)
>>月ノ章 0-03【双子】上
08/06/13(金)
>>月ノ章 0-00【屍族】
08/06/07(土)
>>月ノ章 0-02【闇商】下
08/06/05(木)
>>月ノ章 0-01【闇商】上
※以下略
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月ノ章【ミューク編】
0-00【屍族】
0-01【双子】上
0-02【双子】中
0-03【双子】下
1-00【日常】
1-01【慧眼】
1-02【聖船】上
1-03【聖船】下
1-04【妹姫】
1-05【脱出】
1-06【余談】
2-00【呪地】
2-01【灯台】上
2-02【灯台】中
2-03【灯台】下
2-04【国境】
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2-06【幻影】
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3-02【思惑】
3-03【水都】
3-04【天敵】
3-05【語部】
3-06【捕竜】
3-07【取引】上
3-08【取引】中
3-09【取引】下
3-10【凶刃】上
3-11【凶刃】中
3-12【凶刃】下
4-00【迷途】
4-01【因縁】
4-02【再会】
4-03【技師】
4-04【出立】
4-05【奇縁】
4-06【真因】
4-07【霊廟】
4-08【奈落】上
4-09【奈落】下
4-10【祟神】上
4-11【祟神】下




16/03/08(火)new02
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2-00【呪地】


2-01【灯台】上


2-02【灯台】中


2-03【灯台】下


2-04【国境】


-2-05【女難】-


2-06【幻影】


2-07【血渇】


2-08【転換】


3-00【金策】


3-01【月兎】


3-02【思惑】


3-03【水都】


3-04【天敵】


3-05【語部】


3-06【捕竜】


3-07【取引】


3-08【取引】


3-09【取引】


3-10【凶刃】


3-11【凶刃】


3-12【凶刃】


4-00【迷途】


4-01【因縁】


4-02【再会】


4-03【技師】


4-04【出立】


4-05【奇縁】


4-06【真因】


4-07【霊廟】


4-08【奈落】


4-09【奈落】


4-10【祟神】


4-11【祟神】


【†ラグナ篇†】


Ж―†【血ノ章】†―Ж


0-00【夜娘】


0-01【血契】


4-00【囚姫】


4-01【変節】


4-02【目的】


4-03【煙街】


4-04【接触】


4-05【屍妹】


4-06【呪獄】


4-07【姫妹】


4-08【姫妹】


なぜなに吸血鬼


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