2010/07/15
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カテゴリ: 物語補助
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光ノ章_02-01【籠姫】
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【改稿・加筆・削除/全文】



↓★推敲★↓

 「私はソフィア。 アナタのお母様の双子の妹なのよ。 今日は、アナタとお友達になりたいと思ってやってきたのだけど……」

 ソフィア・リュズレイ―――エレシアムの死後間も無くシャルロットの父ルクサーの後妻として迎えられた女性である。 正妻を亡くし、その喪が明けきらぬ内に後妻を娶ったことは、国内でも様々な物議を醸したが、アダマストル公国が聖女の血脈を受け継ぐ女帝制であることを考慮すれば、必要不可欠な処置とも解釈できた。 次代の女王候補であるシャルロットが成人するまでの間、王権を担える血脈者がルクサーと婚姻することが最も妥当な選択肢だったのである。

 「いらない」

 幼いシャルロットの返答は無機質で短かった。 ソフィアを正面から見据えて拒絶する様子は、他者の思惑に屈することを嫌う少女なりの意思表示であった。

 「あら、残念。 でも、私は諦めが悪くて有名なのよ。 そのお陰でこうしてアナタに逢えているのだから」

 冗談めかして感情を濁すと、ソフィアは気にした素振りもなく微笑んだ。
 その言葉通りソフィアは見掛けによらず豪胆な性格の持ち主だった。 彼女は日ごと後宮を訪れると、乳母のサリマと共にシャルロットの身の回りの世話を献身的に始めたのだ。 籠姫の戒律を破ることも厭わずに、直向に尽瘁するその姿は、傍目から見ても常軌を逸しているように映った。
 一方、シャルロットは無関心を貫くことで、それらの感傷をやり過ごそうと考えた。 そうすることで、大概の人間の心は離れていくことを知っていたから。
 しかし、ソフィアは諦めるどころか、足りない何かを補うように一層深い愛情をシャルロットへと注いだのだった。

 「どうして……」

 ソフィアの一連の行動は幼いシャルロットに苛立ちと戸惑いを抱かせた。 まるで腫れ物を扱うように接してくる血族たち。 忌避と畏敬の入り混じった視線を投掛けてくる王侯貴族や高位聖職者。 煌びやかに彩られた虚構に満ちた少女の世界で、ソフィアという名の異物は無視できないものとなっていた。

 「なんで……、なんで……ここに居るの? わたしは友達にもならないし……、あなたを母親だとも思わない!!」

 それは、シャルロットの心から溢れで初めての激情だった。

 「これ以上、わたしの世界に入ってこないでよ……」

 シャルロットはソフィアへと向けた視線を支えきれなくなると、その場にへたり込んでしまう。

 「それは違うわ。 アナタ自身が望まない限り、他の誰も、喩え神様だってアナタの世界に入ることは適わない。 私を受け入れたくないのなら拒絶すればいいの。 でもね、アナタがどんなに拒んでも私のなかにはシャルロットが居る。 それを変えることもまた、私以外の何者にも出来ない」

 ソフィアはシャルロットの頬に手を添えて顔を上げさせた。

 「怖かったの……」

 シャルロットの目から大粒の涙が零れ落ちる。 少女はそれを拭おうともせずに、震える声で話し続ける。

 「わたしはわたしが嫌いだった……、認めたくなかった……。 でも、わたしがわたしでなければ、誰にも認めて貰えない……だから、だから―――」

 それは、壊れかけた心を守る為に少女自身が己に課した呪縛だった。
 シャルロットが恐れていたのは、他者に心を開く行為そのものではない。 誰よりも何よりも嫌悪する存在―――それは自分自身であり、そんな自己を受け入れてくれる人間が現れることを常に畏怖していた。 望まぬ自分が他人の世界に確立されることから逃げたかったのだ。

 「シャルロット。 アナタがアナタであることを否定する必要はないのよ。 喩えアナタが聖女であろうとなかろうと、私の中のシャルロットは生まれた時からたった一人しかいないのだから」

 ソフィアという存在は灰色に塗り込められた少女の心に差した初めての色彩だった。 ともすれば、彼女の笑顔の中に求めて已まなかった母親の姿を重ね見ていただけなのかもしれない。 だが理由はどうあれ、シャルロットの時間はこの時から動きだしたのだった。

 ・
 ・
 ・

 紗幕の隙間から白々とした朝陽が差し込んでいた。
 寝台に横たわったまま、ぼんやりと窓の向こう側に視線を延ばすシャルロット。 そこには澄み切った青い空が続いていた。

 「いつからだろう、こうやって見上げる空が美しいと感じられるようになったのは……」

 シャルロットが漠然と独り言つ。
 幼き日に仰ぎ見た狭く切り取られた空と、今現在、視界を占めるこの空は、一体何が違ったのだろうか? そんな疑問がシャルロットの胸中を占めていた。

 「そうだ……。 わたしに大切な人が出来る度に、無機質だった周囲の風景に、様々な感情が刻まれていった。 お義母様や婆やの中に在る自分自身を認めた時、あの風変わりな妹たちが突然に押しかけて来た時も、爺や先生に出会ったことも―――そしてフィーナ……少し頑固で恥ずかしがり屋な彼女は、わたしにとってはじめての友達だった」

 己の弱さすら甘受出来ずに逃げ続けていた幼き日の自分に、シャルロットは今更戻るわけにはいかなかった。

 「お義母様のお言葉通りかもしれない……。 わたしは何を恐れていたのだろう。 事が公になれば、全てが壊れてしまうと思っていた。 大切な人達も、帰る場所も、何もかも失ってしまうかもしれないと―――でも違う、わたしはフィーナを信じている。 無実たる得る証拠なんてなくても、わたしはわたし自身の意志で行動すればいいのだから)」

 シャルロットの双眸には揺るぎない決意の色が宿っていた。

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Last updated  2010/07/15 10:18:25 PM
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光ノ章【シャルロット編】
0-00【聖女】
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0-03【聖船】
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1-01【神都】
1-02【古怪】
1-03【呪夜】
1-04【蠱毒】
1-05【残光】
1-06【脱出】
2-00【老卿】
2-01【籠姫】
2-02【我意】
2-03【涜聖】
2-04【慫慂】
2-05【追跡】
2-06【聖堂】
2-07【神韻】
2-08【首人】
3-00【過去】
3-01【鷹眼】
3-02【決断】
3-03【船旅】上
3-04【船旅】下
3-05【真実】
3-06【魂牢】上
3-07【魂牢】中
3-08【魂牢】下
3-09【神娘】
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3-08【取引】中
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0-01【血契】
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4-03【煙街】
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