『†Princesse du sang†』 月ノ章 3-04【天敵】
月ノ章 3-04【天敵】
―レムリアSIDE―
一方、清楚さとは無縁のプルミエールは、あからさまに狼狽していた。
「あら、お忘れですか、此度の水霊祭にはアダマストルの失われた技術(ロストテクノロジー)学術探査機関も技術提供致しておりますのよ。 副所長兼、実施責任者、加えてアルル=モア王家とも縁戚であるわたくし―――ユイリーン・リュズレイが、両国の友好の証としてここにいるのは当然でございますわ」
ユイリーンは手の甲を口元に当てて、優雅に笑う。 この人物がアダマストルの第三王女であるのなら、齢十歳にも満たぬ少女である筈だが、その物腰は姉姫であるプルミエールよりも遥かに大人びていた。
「ぐぬぬ……、まちぶせとはヒキョーな」
プルミエールが奥歯をギリギリと噛み締めて、腹違いの妹を睨みつける。 目の前のユイリーンは、父親は同じだが、母親が違っている。 プルミエールの実母であるエレシアムの死後、父ルクサーが後妻として迎えた、エレシアムの双子の妹ソフィアの吾子であった。
「相変わらず他人の話を聞かないですわね。 わたくしは一月も前からアンディーンに滞在しておりますわ。 此度は別件で、ラヴリーさまにお話があっただけです」
「ええ、ユイリーンさまには先日、ロアの湖底で発見されたノルドの遺産に関して、いろいろとお知恵を拝借しております」
ユイリーンの言葉をラヴリー・ポウが裏付ける。
「ノルドの遺産が発見されたのですか!?」
と、その会話に真っ先に反応したのはレムリアであった。 ノルドとは、神代から連なる黎明期にこの地を支配していた巨人族の王の尊称である。 先程、ユイリーンが話したロストテクノロジーも、ノルドの遺跡から発掘された遺産のひとつに数えられている。
「はい、先日、水霊祭に即してロア湖の水質調査が行なわれたのですが、その際、湖底に地滑りの跡と、巨大な建造物が確認されたと報告がありました」
ラヴリー・ポウが詳細を説明する。 加えて、この発見が、近年、アルル=モア一帯で多発した小規模地震が齎した偶然の産物であることも付け加えた。
「ラヴリー・ポウ、お口が軽いですわ」
ユイリーンが眉を顰めて苦言を呈する。
「アダマストルの姫様方は、アルル=モアの王室とも血縁でいらっしゃいます。 国家の秘密を知る権利はあるでしょう。 それに水霊祭後に公式に発表される事柄ですから、大きな問題はありません」
現アルル=モア公主であるカタリナ・アヴィスは、プルミエールの実父ルクサー・アヴィスの実姉に当たる人物だ。 世襲制度であるアルル=モア王室において、未婚であるカタリナが明確に後継者を定めていない以上、プルミエールは有力な王位継承者のひとりだった。
「でも、ノルドの遺産が湖底で見つかるなんて意外です」
もっとも、この件に関して多大なる興味を示しているのはレムリアである。
「確かに、テトラモルフ大灯台然り、空中都市ニクネベェン然り、巨人族の技術の大半は天を目指す為に、築き上げられたといっても過言ではありませんわ」
ユイリーンが己が領分とばかりに、熱弁を振るう。
「ちょっと待ってください。 大灯台と空中都市を建造したのは屍族です。 ヤガ=カルプフェルトに現存する天地戦争に関する文献がそれを証明しています」
だが、この手の議題では、レムリアも譲らない。
「ノルドの遺産に関する第一人者であるわたくしに意見するとは、生意気ですわね。 古代グリーニアル期の文献の大半は焼失しておりますし、情報の断片だけを取り繕って、安易に曲解すればそういった愚説も成り立つでしょう。 ですが、現実に今の屍族たちが、ノルドに匹敵するほどの科学技術を持ち合わせているでしょうか?」
「そ、それは……、きっと何か理由があって……。 そ、それに、テトラモルフ大灯台には、グリムデンの血統アルカナが存在していましたし……」
ユイリーンの合理的推論に、レムリアは苦し紛れの反論を試みるが、それが不味かった。
「随分とテトラモルフ大灯台についてお詳しそうですわね。 まるで直に見てきたように聞こえますわ」
ユイリーンの双眼がすぅーと細まる。
ノルドの遺産を研究する者たちにとって、テトラモルフ大灯台は垂涎の調査対象である。 しかし、遺跡を所有するサリナハーム公国は世情不安を理由に、他国からの共同調査隊の申し入れを拒絶しているのだ。
「い、いえ……、噂で小耳に挟んだ程度です」
レムリアが失言を誤魔化すように、口笛を吹く。
「むぅ、レムレムはなにを言ってるですか、プルのだいかつやくをわすれたですか? そもそもアソコで―――モガ」
「アハハ、何を言ってるんですかねー」
レムリアが火に油を注ぎ捲くるプルミエールの口を背後から塞ぐ。
「まぁ、いいです。 アナタが何者であるのかは後程精査致しましょう。 ですが、天地戦争の内実がどのようなものであったにしろ、そこで用いられた技術は、ノルドのものであったとわたくしは仮説していますわ」
「き、きっと、そうです。 そうに違いありません」
あっさり手の平を返すレムリア。 早々にこの話を切り上げたいようだ。 それも仕方が無い、様々な問題をすっ飛ばして、盗掘者疑惑が急浮上中なのだ。
「とはいえ、わたくしとここまで議論できる存在も久方ぶりですわ。 プルミエールお姉さま、此方の“見慣れぬ”従者の方をわたくしにお譲りくださいませ」
ユイリーンはいきなりとんでもないことを口にする。 この姉にしてこの妹ありか、如何に表層を取り繕うと、血は争えないらしい。
「レムレムはプルの下僕なのでダメです」
プルミエールが拒絶する。
「無論、タダでとは言いません。 どうせ、また無断でお城を飛び出されたのでしょう?」
「な、なぜ、それを!?」
ユイリーンに耳元で囁かれてプルミエールが鼻白む。 喋れば喋るほど墓穴を掘ることになりそうだ。
「だと、思いましたわ。 先程の条件を受け入れてくだされば、見逃して差し上げてもよくってよ。 それにアナタもプルミエールお姉さまの下で奴隷生活を続けるよりは、知的で有意義な毎日を送りたいのではなくって?」
前者はプルミエールに、後者はレムリアへと向けられた言葉である。
「ボクはプルミエールさま個人に忠誠を誓っていますので、その質問にはお答えできません」
多少、心が揺れたがレムリアは忠臣を装って矛先を回避する。 アダマストル王家に仕える従者と名乗った以上、下手に拒絶して、怪しまれるわけにもいかない。 よって、意志の決定を主人役に委ねたのだ。 このプルミエールという少女は、“自分のモノは自分のモノ”どころか“他人のモノまで自分のモノ”というぶっ飛んだ発想の持ち主なので、そう易々と譲歩するわけもないだろうと高を括っていたのだが、
「うにゅ、よきにはからいなさい」
が、呆気なく了承される。
こうして、レムリアはユイリーンの従者へと配置転換する破目に陥ったのであった。
リュズレイの三姫記 -光と月ノ章- 5-00【… 2016/05/01
リュズレイの三姫記 -血ノ章- 4-08【姫妹… 2016/03/08
リュズレイの三姫記 -血ノ章- 4-07【姫妹… 2016/02/21
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その他
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ウィズイッド家
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夜ノ章【短編集】
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