『†Princesse du sang†』 血ノ章 4-00【囚姫】
血ノ章 4-00【囚姫】
―ラグナウェルSIDE―
嘗ての城主は、かなり特異な性癖の持ち主だったらしく、近隣の村々から年端もいかぬ子供ばかりを拐かし、地下の拷問部屋で身の毛も弥立つ所業を夜な夜な繰り返していた。 もっとも、それが因となり公国から直々に粛清対象となり、貴族位を剥奪された上、家名断絶の処置の憂き目に遭っていた。
そして、この血塗られた土地、マイノムをラグナウェルは一時の塒としていた。
・
・
・
耳障りな金属音を発して、薄暗い獄舎が顎を広げる。
「確証は得られたのか?」
ラグナウェルは、眼前で低頭するアーネルに尋ねる。
「依然として手のつけられない暴れようで、会話さえ儘ならず……」
アーネルの表情には、当惑の色が滲み出ていた。 泰然自若を地でいくこの娘が感情を顕にするとは珍しい。 よほど手を焼いているのだろう。
「あの餓鬼の内在的価値を説いたのはお前だぞ、アーネル」
「申し訳ありません……」
アーネルがプルミエールの助命を申し出たのは、帰城して直ぐのことだった。
“死せざる王”を復活させる為に、霊環アシュタリータの反魂の秘法の発動は必要不可欠である。 当初の計画ではラールウェアの呪法で霊環の“力”を強制的に引き出す手筈だったが、アーネルはその役割をプルミエールに代行させようと、進言したのだ。
「あのちんちくりんに聖女の資質があるとは到底思えんがな」
「計画の確実性を期すなら考慮すべき可能性かと」
アーネルは静かな声音で理を説く。
リュズレイの血統内では、本来、男子は生まれることがない。 聖女の資質を受け継ぐ嫡女は、その初産において例外なく女子を身篭り、同様の資質が受け継がれるものとされていた。 先代の聖女であるエレシアムが屍族との間にラグナウェルを産み落としたことは、そういった意味でも忌避されるものであったのだ。 恐らく、教会や王家の人間も、その時点でリュズレイの血脈から聖女の資格者は、消失したと見做したのだろう。 故にシャルロットを後釜に据えたまま今日に到るのである。
だが、第二子であるプルミエールに聖女の資質が受け継がれている可能性も捨て置けない見解といえた。
「まぁ、いい。 あの餓鬼が反魂の呪法に失敗して命を落としても、殺す手間が省けるだけだからな」
口ではそう言ったが、ラグナウェルもプルミエールが唯一条件に適う存在であることは理解していた。 故に、ファナに負わされた傷が癒えるまで、プルミエールの処遇に関しては先延ばしにしていたのだ。
「御理解頂き光栄に存じます」
「ふん、どちらにしても、あの手の小生意気なメス餓鬼には一発ブチ込んで、自分の立場を理解させるのが一番手っ取り早い方法さ」
ラグナウェルは不快感を示すように鼻を鳴らすと、分厚い鉄扉を押し開く。
「は・ず・せーっ! ろうぜきモノめー!!」
途端に罵詈雑言の雨霰が叩きつけられる。
「威勢だけは一人前のようだな」
ラグナウェルは冷然とした視線を、哀れな虜囚―――いや同腹の義妹へと向ける。 当年とって齢十二歳となるアダマストル公国の第二王女は、地下牢の中央に座す巨大な拷問台の上で、両腕を掲げた状態で拘束されて抵抗の手段を奪われていた。 たかが人族の小娘ひとりに対して、大袈裟過ぎる処置であるが、全てはラグナウェルの指示であった。 捕らえた獲物の絶望と苦痛を、その掌中で悪戯に揶揄し蔑む事で、その残忍な嗜虐性を満たしているのかもしれない。
「さっさと、はずしなさいです!」
「それにしても、大した品揃えだな」
ラグナウェルが地下牢を見渡して興趣をそそられたように零す。
壁面の篝火が揺れて、地下牢の様相が浮き彫りになる。 鉄の処女から頭蓋骨粉砕器、挙句には拷問水車まで、隠し部屋には古今東西あらゆる拷問道具が所狭しと立ち並んでいた。 嘗ての家主の残虐な野獣性が見事に反映されている。
「は・ず・せーっ!!」
無視されたことに激昂したプルミエールが、愛らしい口唇を尖らせて馬鹿の一つ覚えのように同じ言葉を連呼している。
「アーネル、お前はもう下がっていいぞ。 後は俺が処理する」
「で、ですが……」
アーネルが異を唱える。
「ん、なんだ?」
ラグナウェルが意地の悪い笑みを浮かべる。 アーネルの性格を考えれば、無抵抗な者を甚振るような真似は、到底許容し難い非人道的な行為に映る筈だ。 今までも、屍族相手に刃を振るえても、不殺の誓いを立てた人族へは、如何なる理由があっても自ら手を下すことはなかった。 ラグナウェルはそれを理解した上で、己への忠誠心を試しているのだ。
「い、いえ、なんでもございません」
「ふっ、見ていたいのならば残っても構わないぞ」
「……では、そうさせて戴きます」
アーネルの返事に、ラグナウェルは僅かに眉根を顰める。 受け入れ難い現実から目を逸らし、この場から逃げ帰るものと高を括っていたようだ。
「ま、いいさ」
小さく鼻を鳴らしたラグナウェルは、狂眼をプルミエールへと向ける。
「な、なんですか!? プルにナニかしたらタダじゃすみませんですよっ!」
身の危険を察知したプルミエールが、舌足らずな声で威嚇する。
「ほう、どう済まないというのだ?」
「きまっていますっ! ボコボコにして、ゴミ箱にポイッです」
そう言って唯一自由になる両足をバタつかせて、ラグナウェルを蹴ろうとする。
この状況下で、どこまでも強気になれるプルミエールの精神構造に、ラグナウェルは幾許かの興味を抱く。 それと同時に、少女の強気な表情が羞恥と絶望に歪む様を想像して、冥らい嗜虐心を煽られていた。
「面白い。 たっぷりと辱めてやる」
「にゃっ……!?」
唐突に、細腰を抱き寄せられ、プルミエールは驚きのあまり目を何度も瞬かせた。
異性に身体を触れられることすら慣れていないのだろう。
「……!!」
序所に、少女の柔らかそうな頬が桜の色を帯びてくると、
「うにゃぁあぁああ! は・な・せーっ!!」
プルミエールは些か緊張感の欠如した声で慌てふためく。
「このまま、俺たちの眷属にしてやろうか?」
ラグナウェルはニヤリと笑って乱杭歯を剥き出しにすると、腕の中で滅茶苦茶に暴れる短躯を力尽くで抑え込む。 そのまま、恐怖心を煽るように少女の細い首筋に唇を這わせた。
「くっ、よくも……っ! このっヘンタイ魔人め!!」
次の瞬間、鋭い呼気が発せられて、下顎を削り上げるように肉薄する長革靴を、ラグナウェルは頭を傾けてやり過ごした。
「チッ」
しかし、完全には躱しきれず、左頬から耳にかけて、鋭利な刃物で裂かれたような裂傷が刻まれる。 更に息をつく間も無く、跳ね上がった少女の左足が、思いも掛けない方向から振り下ろされる。
「調子にのるなよ」
ラグナウェルは両腕を交差させるようにして打ち下ろされた少女の踵を受け止める。 そして、プルミエールの両足首を掴んだまま担ぎ上げるようにして少女の頭の上まで持ち上げてしまう。
「うにゃっ……!!」
◆◇◆自主規制(1000文字程度)◆◇◆
「ラグナウェル様……」
黙して、成り行きを見守っていたアーネルがラグナウェルの行動を咎めるように口を挟んできた。
「この少女にはまだ利用価値があります。 必要外に手荒な真似は控えるべきかと」
「俺に意見するつもりか?」
「聖女の『力』の源が如何なる平衡によって保たれているのか、それが判明するまでは果たすべき御私怨はお治めください。 無駄にこの少女の心身を損なえば、取り返しのつかないことになるやもしれません」
アーネルは遠まわしに、処女性が聖女の資質を保つ条件のひとつかもしれないと言意に含ませていた。
「ふんっ、まぁいい。 俺の気が変わらぬ内に、その餓鬼を別の場所に移しておけ。 こんな場所で斃られては元も子もないからな」
ラグナウェルは忌々しげにアーネルを一瞥すると、踵を返して地下牢を後にする。
「御意にござります」
アーネルは脱ぎ捨てられたラグナウェルの上衣を拾い上げて、静かに瞑目した。
「ガルル~」
団栗眼に涙をためたプルミエールが、ラグナウェルの後姿に向けていつまでも威嚇を続けていた。
リュズレイの三姫記 -光と月ノ章- 5-00【… 2016/05/01
リュズレイの三姫記 -血ノ章- 4-08【姫妹… 2016/03/08
リュズレイの三姫記 -血ノ章- 4-07【姫妹… 2016/02/21
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人物紹介
【人族世界】
アダマストル公国
聖アルジャベータ騎士団
メナディエル聖教
その他
【屍族世界】
ウィズイッド家
用語辞典
一般用語
夜ノ章【短編集】
0-00【炎神】
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| 11/08/22(月) |
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| >>光ノ章 2-06【霊廟】b |
| 10/05/02(日) |
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| 10/04/07(水) |
| >>光ノ章 2-03【涜聖】b |
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| >>光ノ章 2-03【涜聖】a |
| 10/03/26(金) |
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| 10/03/01(月) |
| >>光ノ章 2-01【籠姫】 |
| 09/06/11(木) |
| >>光ノ章 2-00【老卿】 |
| 09/06/03(水) |
| >>光ノ章 1-06【脱出】 |
| 09/04/17(金) |
| >>光ノ章 1-05【残光】 |
| 09/04/05(日) |
| >>光ノ章 1-04【蠱毒】 |
| 09/03/24(火) |
| >>光ノ章 1-03【呪夜】b |
| 09/03/17(火) |
| >>光ノ章 1-03【呪夜】a |
| 09/03/11(水) |
| >>光ノ章 1-02【古怪】 |
| 09/03/02(月) |
| >>光ノ章 1-01【神都】 |
| 09/02/19(木) |
| >>光ノ章 推敲完了 |
| 08/10/06(月) |
| >>光ノ章 0-01【世界】 |
| 08/07/16(水) |
| >>光ノ章 0-09【聖船】下b |
| 08/07/15(木) |
| >>光ノ章 0-09【聖船】下a |
| 08/07/09(水) |
| >>光ノ章 0-08【聖船】中 |
| 08/07/04(金) |
| >>光ノ章 0-07【聖船】上 |
| 08/06/30(月) |
| >>光ノ章 0-06【妹姫】下 |
| 08/06/26(木) |
| >>光ノ章 0-05【妹姫】中 |
| 08/05/30(金) |
| >>0-02【妹姫】挿絵03 |
| 08/05/28(水) |
| >>光ノ章 0-04【霊鈴】下 |
| 08/05/25(日) |
| >>光ノ章 0-03【霊鈴】上 |
| 08/05/22(木) |
| >>0-00【籠姫】挿絵02 |
| 08/05/21(水) |
| >>光ノ章 0-02【妹姫】上 |
| 08/05/18(日) |
| >>光ノ章 0-01【籠姫】下 |
| 08/05/14(水) |
| >>光ノ章 0-00【聖女】上 |
| ※以下略 |
| >> †Curse of blood†時更新 |
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| 16/01/13(水) |
| >>月ノ章 4-11【祟神】 |
| 16/01/09(火) |
| >>月ノ章 4-10【祟神】 |
| 15/12/22(火) |
| >>月ノ章 4-09【奈落】 |
| 13/08/05(月) |
| >>月ノ章 4-08【奈落】 |
| 13/07/22(月) |
| >>月ノ章 4-07【霊廟】 |
| 13/07/15(月) |
| >>月ノ章 4-06【真因】 |
| 13/07/01(月) |
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| 13/06/23(日) |
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| 13/06/17(月) |
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| 13/06/10(月) |
| >>月ノ章 4-02【再会】 |
| 13/06/04(火) |
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| 13/05/15(水) |
| >>月ノ章 4-00【迷途】 |
| 11/04/01(金) |
| >>月ノ章 3-12【凶刃】下 |
| 11/03/09(水) |
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| 11/02/27(日) |
| >>月ノ章 3-09【取引】下 |
| 11/02/20(日) |
| >>月ノ章 3-08【取引】中 |
| 11/02/14(月) |
| >>月ノ章 3-07【取引】上 |
| 11/02/07(月) |
| >>月ノ章 3-06【捕竜】 |
| 11/01/23(日) |
| >>月ノ章 3-05【語部】 |
| 11/01/18(火) |
| >>月ノ章 3-04【天敵】 |
| 11/01/12(水) |
| >>月ノ章 3-03【水都】 |
| 10/01/07(金) |
| >>月ノ章 3-02【思惑】 |
| 10/12/22(水) |
| >>月ノ章 3-01【月兎】 |
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| >>月ノ章 2-08【転換】 |
| 10/02/16(火) |
| >>月ノ章 2-07【血渇】 |
| 10/02/07(日) |
| >>月ノ章 2-06【幻影】 |
| 10/01/27(水) |
| >>月ノ章 2-05【女難】 |
| 10/01/21(木) |
| >>月ノ章 2-04【国境】 |
| 09/11/16(日) |
| >>月ノ章 2-03【灯台】c+ |
| 09/11/10(火) |
| >>月ノ章 2-03【灯台】下c |
| 09/11/09(月) |
| >>月ノ章 2-03【灯台】下b |
| 09/11/03(月) |
| >>月ノ章 2-03【灯台】下a |
| 09/10/22(木) |
| >>月ノ章 2-02【灯台】中ab |
| 09/10/01(木) |
| >>月ノ章 2-01【灯台】上 |
| 09/09/27(日) |
| >>月ノ章 2-00【呪地】 |
| 09/09/15(火) |
| >>月ノ章 1-06【余談】 |
| 09/08/31(月) |
| >>月ノ章 1-05【脱出】ab |
| 09/08/24(月) |
| >>月ノ章 1-04【取引】 |
| 09/08/07(金) |
| >>月ノ章 1-03【聖船】b |
| 09/08/04(火) |
| >>月ノ章 1-03【聖船】a |
| 09/08/02(日) |
| >>月ノ章 1-02【聖船】a |
| 09/07/14(火) |
| >>月ノ章 1-01【慧眼】 |
| 09/07/09(木) |
| >>月ノ章 1-00【日常】 |
| 09/06/21(日) |
| >>月ノ章 0-03【双子】 |
| 09/05/12(火) |
| >>月ノ章 0-02【双子】ab |
| 09/05/01(金) |
| >>月ノ章 0-01【双子】ab |
| 09/04/26(日) |
| >>月ノ章 0-00【屍族】b |
| 09/04/26(日) |
| >>月ノ章 0-00【屍族】a |
| 08/10/01(水) |
| >>月ノ章 1-00【兎姫】 |
| 08/09/26 (金) |
| >>月ノ章 0-09【潜入】 |
| 08/09/20(土) |
| >>月ノ章 0-08【死海】 |
| 08/09/12(金) |
| >>月ノ章 0-07【灯台】 |
| 08/09/07(日) |
| >>月ノ章 0-06【凶兆】 |
| 08/08/27(水) |
| >>月ノ章 0-05【翼竜】 |
| 08/08/10 (日) |
| >>月ノ章 0-04【双子】下b |
| 08/08/07 (木) |
| >>月ノ章 0-04【双子】下a |
| 08/08/04 (月) |
| >>月ノ章 0-03【双子】上 |
| 08/06/13(金) |
| >>月ノ章 0-00【屍族】 |
| 08/06/07(土) |
| >>月ノ章 0-02【闇商】下 |
| 08/06/05(木) |
| >>月ノ章 0-01【闇商】上 |
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| 16/03/08(火) |
| >>血ノ章 4-08【姫妹】 |
| 16/02/21(日) |
| >>血ノ章 4-07【姫妹】 |
| 16/02/06(土) |
| >>血ノ章 4-06【屍妹】 |
| 15/10/25(日) |
| >>血ノ章 4-05【屍妹】 |
| 13/04/30(火) |
| >>血ノ章 4-04【接触】 |
| 13/04/16(火) |
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| 13/04/06(土) |
| >>血ノ章 4-02【目的】 |
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| >>血ノ章 4-01【恋敵】 |
| 11/04/11(月) |
| >>血ノ章 0-01【血契】 |
| 11/04/03(日) |
| >>血ノ章 4-00【囚姫】 |
| 11/04/02(土) |
| >>血ノ章 0-00【夜娘】 |
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| 血ノ章【ラグナウェル編】 |
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| 0-00【夜娘】 |
| 0-01【血契】 |
| 4-00【囚姫】 |
| 4-01【変節】 |
| 4-02【目的】 |
| 4-03【煙街】 |
| 4-04【接触】 |
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