2013/07/01
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カテゴリ: 物語
続きです。
初稿:2013.07.01
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※月ノ章の本編です

4-05【奇縁】




「このような些事に教皇の正使がお出ましとは随分と仰々しいの」

 どうにも腑に落ちない。 ウィズイッドの名がでたことも気になるが、青年の口振りでは、教皇自らこの場に訪れることを望んでいたように聞える。

「此方にもいろいろと都合があるのさ。 それに種族を問わず、アナタのように見目麗しい女性の相手は、このエドゥアルトの役回りだからな」

 エドゥアルトと名乗った青年は芝居がかった仕草で傅くと、ミュークの左手の甲に恭しく口づけをした。 相手を大屍族と知った上で、気後れすることもなく平然としている。 軽薄な風貌とは裏腹に豪胆な心臓の持ち主である。

「褒め言葉として受け取っておこう。 それで蛍輝石の採掘許可と、そこで寝ておる大ばか者の処置はどのように?」

「検問所の件は不問にするとのことだ。 採掘に関しては、此方の提示する条件を飲んで下されば、教会から正式な許可が下りることになる」

 青年の言葉に、ミュークは抱いた違和感の正体に合点がいく。 検問所でのいざこざを処理するだけなら、行政官を通じて書簡を交わせば済む話だ。 わざわざ、特使が赴く理由などない。 この青年は交渉人として遣わされたのだろう。

「して、その条件とはなんじゃ?」

「アナタ方の目的を公にして、教会の支援を受けいれて欲しい」

 勿体振っていた割りに安直な要求だった。 拍子抜けするほどだ。

「問題ないと云いたいところじゃが、ワチキの一存では決められぬな。 カタリナ公女が水面下で救出策を練っておることも聞いておるのじゃろう?」

 ミュークが回答を濁す。 全てを知った上での裁可であるなら、些か早計過ぎると思えた。
 勿論、事実を公にする利点もある。 単純に教会の力を最大限に利用することが可能になる点だ。 一枚岩とは言い切れないが、市民階級にまで裾野の広がった教会の情報網は侮りがたい。 逆に欠点は、カタリナ公女が危惧するように、敵を刺激して不測の事態を招くことだろう。 どちらが正しいと判断するのは難しい。 要は長期戦に持ち込むか、短期の決着を望むかの差でしかない。 だが、聖女の気持ちも理解できる。 妹を救い出す為に尽力したいと考えるのは当然だろう。 現状、人質の命に危険がなくても、これから先もそうであるとは限らない。 慎重を期すカタリナ公女とは相反するが、プルミエールの無事を願う心は同じなのだから。

「その辺のすり合わせは教会が責任を持つそうだ」

「そういうことなら、ワチキが口を挟む余地はない」

 どちらが正しいとも判断できぬ以上、ミュークも当事者である血族の意向に従わざるを得ない。

「交渉成立だな。 これでようやく肩の荷が下りると言うものだ」

 エドゥアルトは実際に重荷を担いでいたかのように、右肩を軽く回して固まった筋肉を解していた。

「しかし、慎重論を推すわけではないが、なぜそこまで事を急く必要がある?」

「それが、教会の未来に繋がることだからさ」

 エドゥアルトは新教皇の驚くべき真意を明らかにする。 聖女は種族の垣根を越えた未来を、この地に実現するつもりらしい。 無論、人族と屍族の間に生じた軋轢を取り除くなど並大抵のことではない。 恐らく前に進むほど自分自身も傷ついていく、茨の道であろう。

「尊き信念じゃが、この件とどのような関わりがあるのじゃ?」

「あるさ、屍族が人族の王女の命を救いだす。 この事実は大きい。 世の中、大半の人間は物事の表層のみに目がいく。 しかも、その屍族がウィズイッド家とくれば、様々な憶測を呼ぶことになるだろう」

「ふむ、確かに其方の云う通りかもしれぬ」

 聖剣戦争時に唯一人族に組した大屍族が、変わることなく正道を貫いている。 そうなれば、ウィズイッド家の汚名は払拭され、世間の屍族を見る目も変わるだろう。

「この手の英雄譚には大抵尾ひれが付いてまわるもの。 此方の想定以上の効果を及ぼすことだろう。 その事実を掲げて、教会改革を進めるわけさ」

 エドゥアルトの相貌に一瞬だけ自嘲するような笑みが宿るが、直に小憎らしいほど平然とした表情に戻る。

「ウィズイッド家の現当主としては悪い話ではない。 じゃが、身内の窮地を利用しているようで鼻持ちならぬな」

 ミュークが歯に衣着せぬ正直な感慨を洩らす。

「裏の理由にシャルロット姫は関知していない。 彼女はひたすらに妹君を助けたい一心で教会の協力を申し出ただけだ」

「では、喰えない知恵者の入れ知恵というわけかの」

 影に聖女の理想を叶える為に策を講じている人間がいると、青年の言葉は示唆していた。 教会でもそれなりの地位にあり、敢えて汚れ役を引き受ける程、新教皇に肩入れしている人物。 敵になれば厄介だが、今のところその心配はいらないだろう。

「同感だね。 自分は頭脳労働専門で、面倒事は常に弟子任せときた。 毎度毎度、堪ったもんじゃない」

 エドゥアルトは手の平を上に向けて肩を竦めてみせる。 その様子から、こき使われる弟子とはこの青年のことだとわかった。 レムリアがこの場に居たら「その頭脳労働すらサボるミュークさまよりは随分マシです」などと口を滑らせて、ど突きまわされていたことだろう。

「大まかには理解したが、その完璧とも思える草稿にも、二つほど穴がある」

「穴とは?」

「ひとつは、プルミエール嬢を拐かしたのも、また屍族という現実じゃ」

 ミュークの疑念は当然のものである。 首謀者がオルカザード家では、人族の屍族に対する忌避感を煽ることになるだろう。

「俺も最初はそう考えたが、そこにこそ意味があるそうだ。 屍族が聖人君子だと広めることが目的ではないらしい。 善人や悪人といった括りは個人の資質によるものだと理解してもらうことが重要なのだとさ」

「なるほどの、英雄譚と見せかけた道徳譚とは、よくできておる」

 ミュークも青年の師とやらの遠謀深慮に感服する。 屍族を人族と同様の価値基準で判断させて、両者の間に生じた溝を埋めようとしているのだろう。 それは、宗教者の理屈とは程遠い、理智の眼力ともいえた。

「あの偏屈爺は人の世を、基盤の目を踊る駒の如く操る天才だからな」

「じゃが、もうひとつ。 ワチキが裏切る可能性を全く考慮しておらぬ」

 ミュークの紅眼に皮肉の色が宿る。 与り知らぬ間に随分と過大評価になったものだ。 毒を利かせた視線を送るが、青年は動じる気配もなく、にやりと口唇を吊り上げる。 まるで、その問いを待っていたかのようであった。

「その心配はない。 なんといってもアナタはあの首人殿の娘なのだからな」

「ま、待つのじゃ。 其方の云う“首人”とは母上―――アルフォンヌ・ウィズイッドのことかや?」

 思わぬ名前が提示されてミュークの声が裏返る。 喉がからからに渇いていた。 予期せず捜し求めていた母親の消息を掴む機会を得ることになった。

「正しくそのアルフォンヌ殿のことだが―――」

「母上は今何処に? すぐに教えるのじゃ!」

 燭台に立てられた蝋燭の炎が、ミュークの心裡を映し出すように大きく揺らめいていた。 無意識に青年の衣服の襟口を掴んで、力任せに前後に揺さぶる。 豹変したミュークの気勢に余裕の色を崩さなかった青年が鼻白む。

「ぐっ、待て待て……美女に言い寄られるのは望むところだが、こ、この……ままじゃ愛の語らいすら儘ならん」

「世迷言などいいから、さっさと話すのじゃ」

 ミュークは完全に冷静さを失っていた。


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※気まぐれに推敲致します。
推敲後の文章はフリーページorHPの方で反映されます。



■小説.■ファンタジー.■オリジナル.





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Last updated  2013/07/01 09:21:45 PM


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アダマストル公国
聖アルジャベータ騎士団
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その他

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0-00【炎神】



13/05/05(日)new02
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13/05/04(土)
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11/08/22(月)
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11/08/11(木)
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11/06/21(火)
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※以下略
>> †Curse of blood†時更新


光ノ章【シャルロット編】
0-00【聖女】
0-01【妹姫】
0-02【夜冠】
0-03【聖船】
1-00【世界】
1-01【神都】
1-02【古怪】
1-03【呪夜】
1-04【蠱毒】
1-05【残光】
1-06【脱出】
2-00【老卿】
2-01【籠姫】
2-02【我意】
2-03【涜聖】
2-04【慫慂】
2-05【追跡】
2-06【聖堂】
2-07【神韻】
2-08【首人】
3-00【過去】
3-01【鷹眼】
3-02【決断】
3-03【船旅】上
3-04【船旅】下
3-05【真実】
3-06【魂牢】上
3-07【魂牢】中
3-08【魂牢】下
3-09【神娘】
3-10【聖座】
3-11【終焉】完




16/01/13(水)new02
>>月ノ章 4-11【祟神】
16/01/09(火)
>>月ノ章 4-10【祟神】
15/12/22(火)
>>月ノ章 4-09【奈落】
13/08/05(月)
>>月ノ章 4-08【奈落】
13/07/22(月)
>>月ノ章 4-07【霊廟】
13/07/15(月)
>>月ノ章 4-06【真因】
13/07/01(月)
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13/06/23(日)
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13/06/17(月)
>>月ノ章 4-03【技師】
13/06/10(月)
>>月ノ章 4-02【再会】
13/06/04(火)
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13/05/15(水)
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11/04/01(金)
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11/02/20(日)
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11/02/14(月)
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11/01/18(火)
>>月ノ章 3-04【天敵】
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10/02/16(火)
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10/02/07(日)
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10/01/27(水)
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10/01/21(木)
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09/11/16(日)
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09/11/10(火)
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09/11/09(月)
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09/11/03(月)
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09/10/22(木)
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09/10/01(木)
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09/09/15(火)
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09/08/31(月)
>>月ノ章 1-05【脱出】ab
09/08/24(月)
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09/08/07(金)
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09/08/04(火)
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09/06/21(日)
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09/05/12(火)
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09/05/01(金)
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09/04/26(日)
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09/04/26(日)
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08/09/26 (金)
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08/09/12(金)
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08/09/07(日)
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08/08/27(水)
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08/08/10 (日)
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08/08/07 (木)
>>月ノ章 0-04【双子】下a
08/08/04 (月)
>>月ノ章 0-03【双子】上
08/06/13(金)
>>月ノ章 0-00【屍族】
08/06/07(土)
>>月ノ章 0-02【闇商】下
08/06/05(木)
>>月ノ章 0-01【闇商】上
※以下略
>> †Curse of blood†時更新


月ノ章【ミューク編】
0-00【屍族】
0-01【双子】上
0-02【双子】中
0-03【双子】下
1-00【日常】
1-01【慧眼】
1-02【聖船】上
1-03【聖船】下
1-04【妹姫】
1-05【脱出】
1-06【余談】
2-00【呪地】
2-01【灯台】上
2-02【灯台】中
2-03【灯台】下
2-04【国境】
2-05【女難】
2-06【幻影】
2-07【血渇】
2-08【転換】
3-00【金策】
3-01【月兎】
3-02【思惑】
3-03【水都】
3-04【天敵】
3-05【語部】
3-06【捕竜】
3-07【取引】上
3-08【取引】中
3-09【取引】下
3-10【凶刃】上
3-11【凶刃】中
3-12【凶刃】下
4-00【迷途】
4-01【因縁】
4-02【再会】
4-03【技師】
4-04【出立】
4-05【奇縁】
4-06【真因】
4-07【霊廟】
4-08【奈落】上
4-09【奈落】下
4-10【祟神】上
4-11【祟神】下




16/03/08(火)new02
>>血ノ章 4-08【姫妹】
16/02/21(日)
>>血ノ章 4-07【姫妹】
16/02/06(土)
>>血ノ章 4-06【屍妹】
15/10/25(日)
>>血ノ章 4-05【屍妹】
13/04/30(火)
>>血ノ章 4-04【接触】
13/04/16(火)
>>血ノ章 4-03【煙街】
13/04/06(土)
>>血ノ章 4-02【目的】
13/03/29(金)
>>血ノ章 4-01【恋敵】
11/04/11(月)
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11/04/03(日)
>>血ノ章 4-00【囚姫】
11/04/02(土)
>>血ノ章 0-00【夜娘】
※以下略
>> †Curse of blood†時更新


血ノ章【ラグナウェル編】
0-00【夜娘】
0-01【血契】
4-00【囚姫】
4-01【変節】
4-02【目的】
4-03【煙街】
4-04【接触】
4-05【屍妹】
4-06【呪獄】
4-07【姫妹】
4-08【姫妹】




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アダマストル公国


聖アルジャベータ騎士団


ウィズイッド家


メナディエル正教


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★Princesse du sang★


【†短編集†】


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4-04【接触】


4-05【屍妹】


4-06【呪獄】


4-07【姫妹】


4-08【姫妹】


なぜなに吸血鬼


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