2013/07/22
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カテゴリ: 物語
続きです。
初稿:2013.07.22
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※月ノ章の本編です

4-07【霊廟】



 ・
 ・

 それから数刻、案内役のエドゥアルトに誘われて、粉雪が舞う中央大街を進む。 神都の中央に位置する祝福の門を抜けると、古色蒼然とした風格を醸しだす巨大な石造建築―――レムギサロス大聖堂が目前に聳えたっていた。 先ずは聖宮へ赴き、新教皇との謁見を済ませることになると見越していたが違ったようだ。

「メナディエル正教の総本山にしては、寂しい在り様じゃな」

 青年の意図がわからずミュークがたわいない感慨を口にする。 白大理石を基調とした壮麗な佇まいの周辺には疎らな人影しか見受けられなかったのだ。

「今はわけありでね。 休日や宗教的祝日ともなれば入場規制が敷かれるほどさ」

 エドゥアルトは含みを持った言い回しをすると、足早に聖堂門兵に近づいていく。 暫く待つと、金属特有の軋みを響かせて、巨大な正面扉が開かれた。

「ワチキは特定の宗派に属するつもりはないぞよ」

「俺様もこんな辛気臭ぇところに用はねぇ」

 ミュークとバルバロトが不満を口にする。

「ご心配めされるな。 このエドゥアルト、不忠者なれど、美女とそれに準ずる美少女の期待を裏切るような真似は致しませぬ」

 エドゥアルトは芝居がかった仕草でミュークとユイリーンの手をとった。 その際、ちらりと巨漢に目をやり、「ちなみに、俺が案内を頼まれたのはこちらの美しいお嬢さん方であって、むさい髭面中年は管轄外だ」と悪態をつくのも忘れない。

「気が合うな。 俺様も男には興味ない」

 バルバロトは豪快に笑うと三人に後に続いた。
 大聖堂に脚を踏み入れると、エドゥアルト以外の三人がぽかんと口を開ける。

「模様替えでもしておるのかや?」

 ミュークが間の抜けた声で訊ねる。 人族の習慣に疎い屍族にも、一目で非日常的な光景だと理解できた。 礼拝者用の椅子は側廊に積み上げられ、ぽっかりと空いた身廊の真ん中には、鉄骨の高い足場が組み立てられている。 見上げると、天井モザイク画の所々が剥げ落ちているようだった。

「今は人払いをしているが、修復作業の真っ最中なのさ」

 ミュークの視線に気づいたエドゥアルトが実情を説明する。

「最近、小規模な地震が多発しているそうじゃが、それが原因かや?」

「よく存じていらっしゃる。 地震そのものは珍しくないのだが、ここの所、やたら数が多くてね。 不吉の前触れだなどと、吹聴する輩まで現れて困ったものだ」

 言葉とは裏腹にそれを楽しむような口調である。 調子のいい男だ。
 青年に促されて一同は内陣方向に歩を進める。 最後尾のバルバロトが盛大なくしゃみを立て続けにしているのは、石台に置かれた鉱物や植物、昆虫などの顔料が原因だろう。 数歩遅れて至聖所の紗幕を潜り抜けてたミュークの両眼に、主祭壇の側面で腰を屈めた青年の姿が映る。 黙って待っていると、何らかの仕掛けが作動したのだろう。 巨大な円石ごと祭壇が後方へと退き、地下へと続く石段が姿を現した。
 青年は壁掛け角灯をひとつ拝借すると、「この下が目的地だ」と言って片目を瞑ってみせる。

「まさか、蛍輝石の鉱脈が神都の地下にあるとは……」

 慎重に石段を下りながらミュークが独り言つ。 地中深く連なる回廊は、深淵まで続いているように先が見通せない。
 青年の話では、この先にあるのは歴代教皇の霊廟だという。 そして、その霊廟そのものが蛍輝石の巨大な鉱脈であるらしい。 隣ではユイリーンが得意気に鉱脈鉱床の形成講座を開いているが、本気で耳を傾けているものは皆無だ。 先頭で角灯を掲げたエドゥアルトだけが、上っ面で相槌を打っている。 一刻も経つと、ユイリーンの薀蓄も底を尽きたようで、会話の内容は、バルバロトの愚痴が中心となる。 だが、誰も相手をしないと巨漢も終には黙り込んだ。
 周囲に響くのは四人の靴音と、次第に荒くなるミュークの息遣いだけになった。

「肩を貸そうか?」

 いち早く異変に気づいた青年がミュークに声をかける。
 暗闇の中、歩を重ねるごとに、ミュークの足取りが重くなっていた。 まるで体中のチカラが抜けていくような感覚。 それは間違いなく目的地が近づいていることを意味していた。

「心配な―――」

 そう言い掛けた瞬間、ミュークの体が宙に浮き上がる。 唐突過ぎて、制止の声を上げる間もなく、バルバロトの腕の中に納まっていた。 所謂、お姫様抱っこのカタチである。

「具合が悪いなら早く言え。 なんの為に俺様がついていると思ってやがるんだ」

「お主は蛍輝石の為について来たのじゃろう?」

 ミュークは気まずそうに巨漢から顔を背ける。 実のところ、てんで男女間の睦言に耐性がないようで、茹蛸のように頬が真っ赤に上気していた。 薄闇のお陰で、動揺を悟られずに済んで、ほっと胸を撫で下ろす。

「あの金髪の嬢ちゃんを取り戻すまで、アンタは俺様の相棒だ。 ここに居る一番の理由はソレだな」

 バルバロトは髭面をニカッと歪めて人懐っこそうに笑った。
 微笑ましいやり取りだが、エドゥアルトだけが憮然とした面持ちで咳払いをする。 私情を優先させた青年は、踵を返そうとしたが、ユイリーンに脚をかけられて危うく転倒しそうになる。 渋々前方に向き直ると肩を落として歩き出した。

「どうやら目的地が近いようじゃな」

 ミュークの言葉通り、回廊の先がぼんやりと蒼白い光りに包まれていた。
 永遠とも思えた行程が終わりを告げると、闇は光りへと展開した。 そこは数多の鍾乳石群が立ち並ぶ広大な地下空間だった。 鉱洞全体が生き物のように脈動している。 剥き出しの岩肌に露出した蒼白い鉱石の正体は見紛うことなく蛍輝石の原石であった。 中央の窪みには、天地を繋ぐ鍾乳官が立ち並んでおり、古ぼけた石棺が納められている。

「これだけあれば、あの研究や手詰まりだった実験も……うふふふふ」

 ユイリーンは背負い袋から採掘具を取り出すと、飛び跳ねるように緩やかな傾斜を下っていく。 エドゥアルトが少女の補佐にまわったので、鉱石の採取は任せてしまって問題はないだろう。

「確かめたいことがある。 よければ霊廟の中心まで連れて行ってくれぬか」

 ミュークはひび割れた声でバルバロトに懇願する。 蛍輝石の波動が満ちたこの空間で単独行動は不可能だった。 屍族特有の白皙の肌は化粧で覆い隠しているが、体中から血の気が引いて、冷や汗が止まらない。

「構わんが、ほんとうに大丈夫か?」

「うむ、どうしても確かめたいことがある」

 青年から訊いた話では、アルフォンヌはこの霊廟でシャルロット姫を待ち受けていたという。 だが、屍族である母が理由もなく“ここ”を選ぶわけもない。 恐らく何か裏がある筈だ。
 巨漢に抱えられたまま、窪みの中央に移動すると、ミュークが息を呑む。 遠目には、無秩序に立ち並んでいるように見えた鍾乳石が、一定の規則性を備えた配列であることに気づいたのだ。

「これは……」

 呻吟の喘ぎは、突如、地中からわき上がった呻き声のような地響きに掻き消された。

「地震か?」

 バルバロトが注意を喚起するように大声をだす。
 瞬く間に、鳴動が波のように打ち寄せて、岩盤に亀裂が走る。 よろめいた巨漢の片膝が地に着く。 振り落とされないように、ミュークは分厚い胸元にしがみついた。 立て続けに、地軸を揺るがす轟音。 混乱の中、遠くからユイリーンの悲鳴が聞えるが、安否の確認も儘ならない。 岩壁が連鎖するように剥がれ落ちて、舞い上がった砂塵によって視界が完全に閉ざされた瞬間―――突き上げるような衝撃と共に、霊廟は崩落した。


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※気まぐれに推敲致します。
推敲後の文章はフリーページorHPの方で反映されます。



■小説.■ファンタジー.■オリジナル.





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Last updated  2013/07/22 11:53:42 PM


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11/08/22(月)
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>> †Curse of blood†時更新


光ノ章【シャルロット編】
0-00【聖女】
0-01【妹姫】
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0-03【聖船】
1-00【世界】
1-01【神都】
1-02【古怪】
1-03【呪夜】
1-04【蠱毒】
1-05【残光】
1-06【脱出】
2-00【老卿】
2-01【籠姫】
2-02【我意】
2-03【涜聖】
2-04【慫慂】
2-05【追跡】
2-06【聖堂】
2-07【神韻】
2-08【首人】
3-00【過去】
3-01【鷹眼】
3-02【決断】
3-03【船旅】上
3-04【船旅】下
3-05【真実】
3-06【魂牢】上
3-07【魂牢】中
3-08【魂牢】下
3-09【神娘】
3-10【聖座】
3-11【終焉】完




16/01/13(水)new02
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16/01/09(火)
>>月ノ章 4-10【祟神】
15/12/22(火)
>>月ノ章 4-09【奈落】
13/08/05(月)
>>月ノ章 4-08【奈落】
13/07/22(月)
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13/07/15(月)
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13/06/04(火)
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13/05/15(水)
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11/04/01(金)
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10/01/27(水)
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10/01/21(木)
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09/11/16(日)
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09/11/09(月)
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09/08/07(金)
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09/05/12(火)
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09/05/01(金)
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09/04/26(日)
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08/09/26 (金)
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08/09/12(金)
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08/09/07(日)
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08/08/27(水)
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08/08/10 (日)
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08/08/07 (木)
>>月ノ章 0-04【双子】下a
08/08/04 (月)
>>月ノ章 0-03【双子】上
08/06/13(金)
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08/06/07(土)
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08/06/05(木)
>>月ノ章 0-01【闇商】上
※以下略
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月ノ章【ミューク編】
0-00【屍族】
0-01【双子】上
0-02【双子】中
0-03【双子】下
1-00【日常】
1-01【慧眼】
1-02【聖船】上
1-03【聖船】下
1-04【妹姫】
1-05【脱出】
1-06【余談】
2-00【呪地】
2-01【灯台】上
2-02【灯台】中
2-03【灯台】下
2-04【国境】
2-05【女難】
2-06【幻影】
2-07【血渇】
2-08【転換】
3-00【金策】
3-01【月兎】
3-02【思惑】
3-03【水都】
3-04【天敵】
3-05【語部】
3-06【捕竜】
3-07【取引】上
3-08【取引】中
3-09【取引】下
3-10【凶刃】上
3-11【凶刃】中
3-12【凶刃】下
4-00【迷途】
4-01【因縁】
4-02【再会】
4-03【技師】
4-04【出立】
4-05【奇縁】
4-06【真因】
4-07【霊廟】
4-08【奈落】上
4-09【奈落】下
4-10【祟神】上
4-11【祟神】下




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16/02/21(日)
>>血ノ章 4-07【姫妹】
16/02/06(土)
>>血ノ章 4-06【屍妹】
15/10/25(日)
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13/04/30(火)
>>血ノ章 4-04【接触】
13/04/16(火)
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13/04/06(土)
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13/03/29(金)
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11/04/11(月)
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11/04/02(土)
>>血ノ章 0-00【夜娘】
※以下略
>> †Curse of blood†時更新


血ノ章【ラグナウェル編】
0-00【夜娘】
0-01【血契】
4-00【囚姫】
4-01【変節】
4-02【目的】
4-03【煙街】
4-04【接触】
4-05【屍妹】
4-06【呪獄】
4-07【姫妹】
4-08【姫妹】




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アダマストル公国


聖アルジャベータ騎士団


ウィズイッド家


メナディエル正教


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★Princesse du sang★


【†短編集†】


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4-02【再会】


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【†ラグナ篇†】


Ж―†【血ノ章】†―Ж


0-00【夜娘】


0-01【血契】


4-00【囚姫】


4-01【変節】


4-02【目的】


4-03【煙街】


4-04【接触】


4-05【屍妹】


4-06【呪獄】


4-07【姫妹】


4-08【姫妹】


なぜなに吸血鬼


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