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2009年11月12日
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カテゴリ: ウマく行く恋愛術


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕方、はばたき市の繁華街でウェイター姿の端正な人影が立っていた。

(あ。佐伯君だ)
私は、”元アルバイト仲間”に挨拶した。
(佐伯君)

彼は、相変わらず機嫌が悪い。
「お前な。この格好の時は、名前を呼ぶな!!」

私は、少し後退りして謝罪した。
(そうでした。ごめんなさい)

羽ヶ崎学園・高等部入学式の朝、私は偶然佐伯瑛君が働いている”喫茶・珊瑚礁”の門に迷い込んだ。
それ以来、ずっと心の片隅では「私の所為で、彼の秘密が露見してはいけない」と緊張し続けている。

その時、背中に何か大きなものが当たった。
どしん。
(わ)

「すみません」
思いがけず、聞き慣れた低い声が響いた。

(志波君?)
私は、驚いて大きく目を見開いた。

「悪い。大丈夫か?」
彼も、私がこんな道を歩いているのが意外だったらしく目を留めた。

(志波君、佐伯君の事を見ている。どうしよう。ばれちゃったかも)

私は、反射的に正面にいる”喫茶店店員”に目を遣った。
夕方の雑踏の中で、明らかに目立つ存在だから。

佐伯君は無言だった。
志波君も、黙っていた。
ひやひやしながら見守る中、彼は首を回した。

「そっちは?」
短い応答が、聞こえた。
「あっ。いや、大丈夫です」

志波勝己君は、急に目を見開いた。
「あ」
佐伯瑛君も、声を上げた。
「わ」

「急いでいたんだった。じゃあな」
(う、うん)
志波君は、”見知らぬアルバイト青年”にでは無く知り合いの私に話し走り去った。

佐伯君は、小声で呟いた。
「心臓が止まるかと思った」

(私も)
ほっとした反動で、微笑が零れた。
(志波君を、知っているの?)

彼は、先程よりうんと不機嫌そうな表情を浮かべていた。
「ああ。まぁ。顔と名前位は」

私は、もう一度笑顔を見せた。
双方、面識があるのに何事も無かったのが奇跡的に思えた。
(よく、ばれなかったね。良かった)

でも、佐伯瑛君はまるで別の事を考えていたらしい。
「あいつは、俺の事知らないのかな?」

(どうかな)
志波勝己君とは、学校生徒達の誰かを知っているとか知らないとか話し合った経験が無い。

ただ、佐伯君に対して微笑を絶やさない様に心掛けていた。
笑う事で、彼に”大丈夫だよ”と言うメッセージを送り勇気付けているつもりでいた。

だが、彼は意外な感想を漏らした。
「俺の顔、そんなに地味?」

(え?)
私には、人間の顔をそんな風に分けて考える習慣が無い。
咄嗟に、返答が出来なかった。

彼は、素っ気無く踵を返した。
「いや。別に。じゃあ」

刺々しい牽制を漂わせて、後姿が掻き消えた。
私は、彼の真意を測る術も無いまま突っ立っていた。







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最終更新日  2009年11月13日 22時06分56秒
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