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2023.01.30
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カテゴリ: 小説
若い将校が砂漠に面した砦に配置されて長年戦さに備える話。

●あらすじ

士官学校を卒業したジョヴァンニ・ドローゴはバスティアーニ砦に勤務することになる。その砦は北の高地にあってタタール人の砂漠と呼ばれる石だらけの砂漠に面していて、何も娯楽がない僻地での勤務なので普通の人はキャリア作りのために2年だけ務めて帰るものの、なぜかドローゴは任期を告げられなかった。
ドローゴは砦に着いてすぐ帰りたくなるものの、マッティ少佐に4か月勤めたらキャリアを傷つけずに仮病で帰れると諭されて、4か月だけ我慢することにする。マントを仕立てに行くと仕立て屋のプロズドチモは臨時でここにいるだけだと主張するものの、彼はもう15年もそこにいるのに臨時だと言い張っていることが笑われていて、ドローゴは仕立て屋の兄にああならないように早く帰るほうがいいと諭される。4か月後に仮病の診断書を書いてもらうものの、砦の生活がすでに慣習になってしまっていて、ドローゴは急に帰りたくなくなって砦に残る。
2年たってドローゴが堡塁を警備していると、黒い物影が動くのが見えて警戒態勢になるものの、石を見間違えたということにしておいたら、鞍をつけた立派なタタールの軍馬が一頭歩いていた。新人のラッザーリはその馬を自分のものにしようとして勝手に持ち場を離れて捕まえに行き、戻った時に合言葉を知らなかったので友人のモレットに撃たれて死ぬ。
砦からは北の国境近くを武装した騎兵が通るのが見えたものの、大佐が戦闘になるか判断しかねていたところ、北の王国が国境を調査していると手紙が来たので、砦からも調査隊を出す。アングスティーナは長靴で行軍したせいで靴擦れができて、山頂にもタタール人に先回りされてしまい、意地を張ってカードで遊んでいるふりをして凍死する。
さらに2年たってドローゴが2か月の休暇をもらって故郷に帰ると違和感があって、母はドローゴの足音で目を覚まさなくなっていて、恋人のマリアとも以前のように話すことができなくて別れる。砦で4年勤務すれば慣例として他の任地に転属できるので、ドローゴが将軍と面会すると砦の兵士を半減すると言われて、同僚たちは砦を離れたくてドローゴに内緒にして先に転属届を出していたので、部下を1人死なせた過失があるドローゴは転属し損ねる。
シメオーニは国境で動いているものがあってタタール人が道路を作っているのだとドローゴに言い、ドローゴはもう砦に重要性がなくなってタタール人の脅威はないと思って信じなかったものの、やがて夜に明かりがついて動いているのが見えたので観測を続けた。しかし中佐が流言は隣接国家との友好関係を損なうとして望遠鏡を禁止してしまい、臆病なシメオーニは高性能な望遠鏡を司令部に提出して観測をやめてしまう。やがて明かりは砦にある低性能の望遠鏡でも見えるくらいに近づいてくるものの、参謀本部は砂漠の道路工事を重要視していなかった。
15年たってドローゴは40歳になって昇進して大尉になり、道で新しく赴任するモーロ中尉に挨拶されて昔を思い出す。砂漠の道路が完成しても工夫が去って行って敵がやってこなかった。
ドローゴは54歳になって少佐に昇進して、体が衰弱してきたので砦に留まれるように軍医に計らってもらう。春になると北から軍隊が来たとプロズドチモがドローゴに知らせるものの、砦の司令官のシメオーニはドローゴの部屋に増員兵用のベッドを置くために病気のドローゴを町に追い払い、ドローゴは寝室で一人で死に立ち向かおうとする。

●感想

物語の時代背景や砦の具体的な位置は書かれていなくて、その辺のぼかし方もタタール人の砂漠という実在するかどうかわからない場所の幻想性を出すのにつながるのでよい。何もない砦だからこそ水の音とかの些細な出来事が小説の中では事件性を持っていて、登場人物が動かないぶん舞台を活かして見せ場を作るやり方がうまい。中盤からは登場人物が動き出して死人が出てタタール人も出てくるものの、すわ戦闘かと緊張を高めたところで何も起きないのもアンチノベル的な期待の外し方でよい。純文学としてはよいやり方なのだけれど、逆にエンタメ小説が好きな人には物足りないかもしれない。
欠点としては人物の掘り下げが足りない。序盤にドローゴを焦点人物にしたのは部外者の視点から砦を紹介するという役割があったのでドローゴ自身に魅力がなくても登場人物としてはいちおう機能しているけれど、ドローゴに何か目的や思想があるわけでもなくて目立った行動もしないので主人公というほどの個性や魅力がないし、晩年のドローゴの数十年の時間を端折っていきなり老いと死に直面させるのはやや雑なやり方である。ドローゴ以外にもいろいろな登場人物が出てくるものの、個人の単発の出来事として書くだけで登場人物の関係性をあまり掘り下げないし、ラッザーリやアングスティーナが死ぬ場面にもドローゴが全く絡まないので、焦点人物を切り替えても群像劇というほどの盛り上がりがない。
あと293ページでドローゴがモーロ中尉に挨拶される場面は17ページのセリフの繰り返しになっているのだけれど、この仕掛けは短編小説向けで、長編小説でやると作為が出すぎてリアリティを損ねるので私はやらない方が良いと思う。
この小説が岩波文庫に翻訳されたのは2013年だけれど原書は1940年に刊行されていて、文学理論や小説の技法が体系化されていない時代にこれほど技巧を凝らした小説を書けるのは見事である。今は本を1冊出版しただけで芸能人でも主婦でも小説家を名乗って文化人を気取っていて、芥川賞作家だと偉そうにしている連中でさえ文学理論や小説の技法を知らずに見様見真似で小説っぽいものを書いている下手くそだらけである。久々に小説の書き方を知っている本物の小説家が書いた小説を楽しめたけれど、80年前の小説のほうが現代の小説より出来がいいのでは現代の小説家に期待を持てなくなってしまう。これは単にブッツァーティに小説の才能があるというだけではなくて、本を読んで育った20世紀前半までの世代とテレビやパソコンの映像を見て育った20世紀後半以降の世代とでは文章のインプットとアウトプットの量が圧倒的に違っていて現代人の文章力が劣化したのだろう。

★★★★☆





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最終更新日  2023.01.30 03:06:40
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