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2024.12.06
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カテゴリ: 小説
九州の島にある納屋の草刈りをして帰る話。デビューから5作目で第162回芥川賞受賞。

●あらすじ

・船着き場
大村奈美は母の美穂に言われて島にある20年以上前に捨てられていた母の実家の吉川家の納屋の草刈りをすることになり、美穂の車に乗って、美穂の姉の加代子とその娘の知香と合流してから船着き場に向かって伯父の哲雄と合流して、伯父に納屋について聞くと80年前の戦時中に買ったものだった。

・雄飛熱
戦時中の夫婦の話。夫は島を出たがり、妻は反対するものの、夫は満州に行くことに決めてしまったので、男が家を買い取った。

・昼
昼前に島に着いて昼食を食べて、敬子婆ちゃんから戦後に朝鮮に帰る人の船が難破して漁師を助けた話を聞く。

・芋粥
朝鮮人の男が乗っている船が難破して、漁船に助けてもらって、納屋にいた子供に芋粥を食べさせてやる。

・納屋
草刈り機で草を刈り、死んだ智朗のオジジが定置網にかかった鯨を引っ張った話を聞く。

・無口な帰郷者
鯨組の網本の息子の青年が関西に向かう船に乗り、半年して島に戻ってくると村に疫病が流行っていて、青年はあまり話そうとしなかった。

・夕方
新しい方の家はかび臭くなっていたので除湿剤を取り換えた。奈美は敬子や美穂が死んだあとも島に来て草刈りをするのだろうかと考える。土間にカヌーが置いてあった。

・カゴシマヘノコ
中学二年生の少年は漁師の父と喧嘩して、父から夏休みにカヌーで海を渡るように命令されて、30万円を持ってどこかの漁港にたどり着いて不信がられて、カヌーで九州を一周する高校生のふりをして鹿児島のヘノコから来たと嘘をつく。

・帰路
船に乗って平戸に着いて福岡に帰る。

●感想

三人称で、奈美視点の現代の章と過去の章を交互に展開する構成。句点で文章を長くつなげて改行が少ない文体で、文章量が多いわりに描写や説明があまりない。私はこのブログで何度も書いたけれど、登場人物の描写がなくて名前しか書かないような小説は嫌いである。ストーリを展開するなら小説でなくても漫画でもアニメでも映画でもできるし、会話ならアニメや映画のほうが俳優の感情表現が乗るぶん優れているし、心理描写なら漫画のほうが表情と心理を一挙に描けて優れている。じゃあ小説でしか表現できない部分は何かというと、描写の言葉遣いや比喩とかの言語表現で状況を読者の頭の中に想起させて読者一人ひとりに独自の読書体験をさせることだろうに、その描写を省いてしまうと漫画やアニメや映画の下位互換でしかなくなる。
又吉直樹の『火花』にも描写で文句をいったけれど、いまどきの若い小説家は観察眼がない。車、船、島、料理という抽象的な概念で物事をとらえて、個別の人や物の在り様、実存を観察していない。観察していないので、色、形、大きさ、重さ、匂い、味、素材、目的、しぐさ、思想、感情、記憶とかの様々な情報を取捨選択して組み合わせて言葉に落とし込めていなくて、「車」と書いただけで車を書いたつもりになって、登場人物の名前を書いただけで人を書いたつもりになっている。作者に見えていないものが読者に見えるわけもないので、作者のインプットの足りなさがボトルネックになってアウトプットもしょぼくなって物語の面白さのポテンシャルを引き出せていない感じになる。カメラで言うと30年前の25万画素のカシオのデジカメのQV-10で撮った手振れでぼやけた写真を4Kモニタに出力しようが画質が良くなるわけではないようなもので、観察眼がないのではいくら文章を長くしてもぼやけた印象になるので、リアリズムの観察眼の解像度を上げて精緻な描写をしてほしい。漫画で言うなら背景が真っ白で輪郭しかない人物が喋っているラフ画のレベルで、冨樫義博みたいに週刊誌の人気漫画家が締め切りに追われてやむなく未完成の原稿を雑誌に掲載して後でコミックス版で修正するならまだしも、これから世に出ようという新人小説家が満足して発表してよい文章ではない。作者が描写しないのでは私は場面を想像しようがないので、仕方なく金髪ドレッドヘアのタンクトップで腕が背高泡立草みたいなリストカットだらけの奈美が紫のパンチパーマの美穂が運転する走り屋仕様のカーボンボンネットとエアロでカスタムしたシーマに乗ったりTボーンステーキを手づかみで食べたりしているところを想像して無聊を慰めるしかなかった。
現代の章と過去の章を交互に書く構成も特に面白いわけでもなくて、誰の何の話を書きたいのか焦点が散漫になっている。過去の章だと猖獗とかの難読漢字をちょっと使う程度で、文体レベルの書き分けをするわけでもない。作者が直接体験したはずの現代さえろくに描写できていないのに、作者が体験していない過去の話になるとなおさらリアリティがなくなってかえってしらけてしまった。奈美にゆかりのある人物に焦点を当てて一族の歴史みたいなのを書こうとしたのかもしれないけれど、そもそも人物の描写がなくて書き分けができていないので群像劇にならず、主人公が不在で見どころがなくなってしまっている。カゴシマヘノコの章だけ短編として発表した方がましだったかもしれない。
あとタイトルがあまりよくないよ。この本自体は2年位前に買っていたのだけれど、タイトルが面白そうに見えないので読まずに放っておいたのだよ。背高泡立草だから何なの、という「何なの」の部分の工夫やとっかかりがないよ。私の偏見だけれど、タイトルに気が利かなくてオヤこれは何じゃろうなァと読者に思わせることができないような作者の感性では作品の内容でも読者を楽しませる気がないんじゃないかと思ってしまうよ。そんで読んでみたらやっぱり描写が乏しくて気が利かなかったよ。デビュー作の「縫わんばならん」は何を縫うのか、なぜ縫わないといけないのかを伏せることでオヤと思わせる感じの工夫をしているのに、なんでタイトルのつけ方のセンスが劣化しているのかよくわからないね。タイトルじゃなく内容で勝負したいということなんだろうかね。売り方を考えるのは編集者や本屋の仕事とはいえ、タイトルが地味なうえに本の装丁も地味で、作者も売る努力をしないと本屋に並んだ時に地味すぎて他の本より見劣りして内容がどうかという以前に手に取ってあらすじを見てもらうことも難しくなるんじゃなかろうかね。
良い点としては、会話の方言に精彩があってよかたい。作者は福岡市の出身のようで、その点は地の利があって自然な方言で九州の人物のリアリティを出せているたい。おいどんのようなよそもんが付け焼き刃の方言を使ってもバレバレやけん、その辺ばうまかやっとうたい。新人のうちは地元付近を舞台にするとリアリティをブーストできて良かと思うけん、もし他の土地を舞台にするつもりなら上記のように観察眼と描写をどげんかせんといかん。
というわけで、文章が長いわりに描写が乏しくて内容が薄くて読者に対して気が利かなくて小説としての勘所をはずしているというアンバランスな文体で、方言がなければ何の見どころもないような小説だった。小説は文章が長ければよいというわけではなくて、情報の密度がなければ脳への刺激が足りないのでつまらないし、描写や説明がなくて人物像のメンタルモデルができあがらないのでは共感できないので感動するほどの完成度にはならない。これを完成形として意図的にアンチリアリズムの描写のない小説を書いたというより、小説の技術を知らないので見よう見まねでこういう風に書くしかなかったような書き方に見える。この小説は芥川賞を受賞してはいるけれど、私は受賞するほどの技術水準に達していないと思うし、これをプロの純文学作品として送り出す編集者も芥川賞の選考委員も終わってると思う。私はぼろくそに文句を言いたくて小説を読むわけではないし、若い新人には頑張ってほしいし古本を買って作者の収入に貢献していないのにいろいろ言うのも申し訳ないけれど、内容の好みの問題でなくて技術的に欠点があるのはさすがにダメだと言わないといけない。本来は読者の私がダメ出しするのでなくて編集者が書き直させるものだし、雑な料理の場面とかはすぐに修正できそうなものだけれど、エンタメ寄りの集英社の編集者の文学観じゃその程度の修正も無理なのだろうか。小説の書き方を知らない作者が見よう見まねで書いたような下手な小説を読むと、虐待された栄養失調の子供を見ているようで悲しくなってしまう。この物語は編集者がちゃんと世話をして育ててやればもっと良い内容にできたはずだった。新人とはいえ5作目でこの程度の出来栄えなら描写をしないスタイルが既に定着しているのだろうし、下手な作品で芥川賞を受賞したことでこのスタイルでいいのだと自信をつけてしまったらかえって純文学作家としては大成しないだろうなァと思った。冬にちょっと読書しようと思ってブックオフで芥川賞受賞作をいくつか買ってきたのだけれど、芥川賞受賞作でもこんなに下手なのかと思うとさっそく読む気をなくしてしまった。
★★☆☆☆
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最終更新日  2024.12.08 05:03:09
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