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2025.11.05
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カテゴリ: 小説
表題作の「Yの木」が中編くらいで、他3作は短編が収録されている。

「たそがれ」は中学生の静男が社会人の姉のおごりで念願のUSJに行く話。
三人称。父親は事故で腕をなくして酔って暴れて、電車に乗っている他人が父親のことを知っているという田舎の息苦しい生活からの逃避先としてのUSJがあって、夢を見させてくれる姉にも事情があるという純文学的なオチになっていて、ストンとオチがつく構成がよい。すんなりとUSJにたどり着かずに老人に絡まれるくだりで遅延させてその間に家庭環境を掘り下げたりするあたりはベテラン作家らしいストーリー展開のテクニックで、現代を舞台にしたリアリズムの細かい描写とかの地味なところがうまい。

「首飾り」はクラシック音楽が好きな作家と妻が大学教師のYとYの妻とローマにオペラを聞きに行って、Yに妻に内緒でネックレスを買ってほしいと頼まれる話。
作家(彼)を焦点人物にした三人称。たぶん作者の実体験を基にして人物設定とかを若干変えたのだろうけれど、一人称のエッセイでなくて三人称のフィクションの体裁をとったのはどういう文学的な意図があるのかよくわからない。惚気の照れ隠しなのだろうか。

「シンビン」は証券会社で働いていた女が秩父宮ラグビー場で母校の青山大学のラグビーの試合を見る話。
三人称。タイトルがオチになっているオーソドックスな短編で、ラグビー用語のシンビンの意味が明かされた時点でオチも推測できてしまうのでオチの意外性はない。ラグビーのディティールの描写はよい。

「Yの木」は妻を亡くして犬と暮らす作家が自殺した大瀬渉について考えたり半生を振り返ったりする話。
作家(彼)を焦点人物にした三人称。「首飾り」と同様に作者自身の人物設定を若干変えたのだと思うけれど、自伝でないのにわざわざ作者に似せた登場人物にしたのは私小説というよりもたぶん作家という生き方を掘り下げようとしたのだろう。大瀬渉という実在の人物が出てくることでフィクションと現実が交錯していってリアルなフィクションになるという作者が得意とするパターンで、私はこのやり方が好きである。家の鍵をかけて父親を締め出して怒らせたエピソードは他の短編にも書いていたような気がするけれど、そのエピソードも再度フィクション化するところはユニークである。しかしカミュの『ペスト』とかの前提知識がないとカミュと大瀬渉を比較するくだりがわかりにくいだろうし、人生にはフィクションのようなはっきりした筋書きがないので完全なフィクションに比べたら見どころがわかりにくい。辻原登ファンの玄人向けの小説という感じ。

全体的に辻原登のファン向けの内容で、すごい傑作というほどでもないけれどベテランらしい小説の妙味があって面白く読めた。

★★★☆☆






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最終更新日  2025.11.05 06:51:39
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