2022年08月26日
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カテゴリ: OPERA



本選

2022年8月26日
東京文化会館 大ホール

結果

1位 池内響(聴衆賞も)
2位 前川健生
3位 黒田祐貴
 川越未晴(演奏順)


東京フィルハーモニー交響楽団

1.黒田祐貴(バリトン) 
KURODA Yuki, Baritone

E.コルンゴルト :オペラ『死の都』より
 ♬私の憧れ、私の空想(ピエロの歌)
 Korngold, 'Die tote Stadt' Mein Sehnen, mein Wähnen

 今回は総じてステージ上にいるオケの音楽と共に歌うと言うことに経験がどれほどあるかということも勝負の分かれ目になったかと思う。そして選曲もだいぶ左右した。
 1曲目はコルンゴルトの音楽のぶ厚いオーケストレーションにより声がだいぶ消されていた。やはりオケバックで歌うと言うのは、オケピで調整されることがない強力な音に背後から襲い掛かられているわけである。選曲に関しては本人のこだわりや好みがあったのであろうが。

グスタフ・マーラー:子供の魔法の角笛より
Des Knaben Wunderhorn
 ♪起床合図」(死せる鼓手) 

 ♪美しいトランペットが鳴り響くところ」 
 Wo die schönen Trompeten blasen

 黒田祐貴さんは甘いリリック・バリトンでいわゆるハイ・バリトンの部類に属する。高音が得意で表現力も素晴らしい。マーラーに関しては彼の魅力が発揮されたかと思う。ちなみに、Revelge は小林啓倫さんが2020年の日本音楽コンクール本選で歌っている。

2.前川健生(テノール) 
MAEKAWA Kensho, Tenor


 ♪我が祖先の墓よ
 "Tombe degli'avi miei... Fra poco a me ricovero"
 Lucia di Lammermoor, G. Donizetti

Tombe degli avi miei

io della morte
Edgardo A → B

Fra poco a me ricovero
カデンツァ Ah, chi moria per te の Ah 
Edgardo 最高音H

 最高音全て完璧です。

R.シュトラウス:オペラ『ばらの騎士』より
 ♪厳しさに胸を装い
 Di rigori armato il seno
 Strauss R. (Der Rosenkavalier)

 この曲を彼は昨年の日本音楽コンクール本選でも歌った。昨年ほどは緊張していないので安堵する。
 Di rigori の最高音はH音でBも3回出てくる。最高音全て完璧です。

G.ヴェルディ:オペラ『リゴレット』より
 ♪彼女がさらわれた!~ほほの涙が
 Ella mi fu rapita! ~ 'Parmi veder le lagrime ~ Possente amor mi chiama

Ella mi fu rapita!の
最高音はA
前川さんはElla mi fu rapita!のカデンツァでBまで上げた。

Parmi veder le lagrime
Fach: lyric tenor
最高音は楽譜ではG#
しかし慣習では
Ei che le sfere agli angeli
がBまで上がります。(Francesco Demuroで確認)
前川さんはもちろんここ、B音
そして最後にもオプショナルでBに上げたかと思う。

Possente amor mi chiama
そして!驚くべきことにカバレッタも歌う。
Ha degli schiavi Amor.
最後High D!(パヴァロッティで確認。)
輝かしい超高音
まさにBravoです。
ここでHighD出す実演は海外の歌手ではセルソ・アルベロ、日本の歌手では澤﨑さん、安保さん、そしてもちろん前川さんも過去に、聴いたことがあるぐらいだと思います。

<休憩20分>

3.川越未晴(ソプラノ) 
KAWAKOSHI Miharu, Soprano

G.ドニゼッティ:オペラ『ランメルモールのルチア』より 狂乱の場
 ♬あの方の優しい声が、私の心に響いたわ!〜苦い涙をこぼしてください」
Il dolce suono.. ardon gl'incensi .. spargi d'amaro pianto
Donizetti: Lucia di Lammermoor

狂乱の場のアリアを丸々、1本勝負。
川越未晴さんは大変ノーブルな美声で、2次予選で突出してすばらしいと感じたので、この本選のパフォーマンスはやや意外。これもステージ上のオケの脅威なのか?緊張で萎縮してしまい実力が出せなかったかと思う。
非常に理性的なルチアに見えてしまう。ここは新床で夫を刺し殺した直後に常軌を逸した精神状態になっているところ。
川越未晴さんはリリコ・レッジェーロ・ソプラノです。ルチアのアリアはコンクールで好んで歌われるが、Fachはドラマチック・コロラトゥーラ。よほど高音が出てコロラトゥーラが得意か、ドラマチック・コロラトゥーラの声を持っているかしかでないと歌えない。
もちろん二か所のHigh Esは出していたものの若干迫力に欠けた。

4.池内響(バリトン) 
IKEUCHI Hibiki, Baritone

W.A.モーツァルト:オペラ『ドン・ジョヴァンニ』より
 ♪カタログの歌
 Madamina, il catalogo è questo
 Leporello, Don Giovanni de Mozart

池内さんは2015年の第13回東京音楽コンクール 第2次予選でお聴きしたことがある。その後の日生劇場のジョヴァンニも聴いた。すばらしいカヴァリエ・バリトン(フル・リリック・バリトン)です。彼は数々のオペラの舞台をすでに踏んでいるので演技も自然でオペラの中にいるようだった。Leporelloは下が響かないと歌えないが、池内さんは申し分なかった。3つとも聞き惚れちゃってコンクールという意識で聴かなかった。

V.ベッリーニ:オペラ『清教徒』より
 ♬ああ!永遠に私は貴女を失った
 Ah! Per sempre io ti perdei"
 Bellini Puritani

大好きなアリアです~声の揺らし(技巧)もあり。もう声がぴったり!
この曲は審査員の堀内さんがNHKニューイヤーオペラで歌ったのは生で拝聴しました。

G.ヴェルディ:オペラ『ファルスタッフ』より
 ♬夢かまことか
 E' Sogno, o réalita
 Verdi Falstaff

 フォードのアリアもお声ぴったりでした!

***
結果発表&表彰式
※以下はメモをもとに記述。

司会:東京音楽コンクールには全体で445名の応募があり、うち声楽部門には95名の応募があった。

(審査員の紹介)
すっごいそうそうたる顔ぶれ!

(1位の池内響氏のごあいさつ)
池内:ありがとうございます。何を言葉にしていいのか、こみあげてくるものが…。お客様に感謝です。審査員の方ありがとうございました。
 僕はバリトンという「楽器」で、声種は「イケウチヒビキ」という、世界に一つしかないものと思ってます。これからも皆様にお伝えしていければ。歌をやめることは決してありません!今後ともよろしくお願いいたします。

大島幾雄(東京二期会、バリトン)
撮影:2017年7月
Photo: ©Shevaibra, courtesy of the artist

講評
大島幾雄審査委員長:(…めっちゃいい声です。)(メモによる抜粋)本日は4人が全員入賞されたということで、よかったとほっとしている。こういうパンデミックの大変なときにマスクしながらしゃべるって、これがいつまで続くのかと思っている。そこでめげずに、声楽という芸術を続けていることに敬意を表したい。
 4人の演奏を聴いていろいろ感じることがあった。よく、どういう時が一番幸せですか?という問いに「歌っているときです。」と答える人がいるが僕自身はそういうことがない。
 今回はバリトンではハイバリトンも、中間の声の人もいて、高い音は絶対外さない人もいて、ルチアの狂乱を演じた人もいて、それぞれが個性を生かしていた。高い音出される方は、近所の人はうるさくないんですかね?ラッパに続いて(練習環境が)大変だと思う。
 (後期ロマン派より前のオペラは)額縁の中でやっている。後期ロマン派になると額縁から外れる時がやってくる。そこからどう出ていくかを大きな目標にしているが、それもまた大きな額縁だったりする。皆さんの特徴を生かして歌ったが、もう少し額縁を超えてほしい。はみ出てもいいんじゃないかと思う。表現するエネルギー、オーラ、立っているときに手を出して歌うのも、そういう演出を考えていると自分を破るきっかけになる。ちゃんと歌わなくてはいけないと言うことを抜け出したところに真の芸術が出てくる。
 一次予選は皆が大声で歌うのでビデオで言葉で表現する人を二次に残したと話した。そしたら二次で皆がそれぞれ違うものを出してきたんですね。これは本選が楽しみと思ったところもあった。それは叶えられたがホームランとまではいかなかった。二塁打、三塁打だと思った。今の個性は、かまいません、クラシックははなからお高いんです。堂々とお高いものやっていると言えばいい。そこで特徴とか好きじゃないと言われてもそれでいい。これで芸術を表現することを深化していただけるなら、皆さん喜んでくれると思う。今日はありがとうございました。

野平総合審査委員長(作曲家):(抜粋)本当にオペラをよく知っている園田さんとオケが彼らを支えていた。

表彰式終了

***
池内響さん、入賞の皆さん、おめでとうございました。
大島審査委員長の講評、さすがでした!優しく温かく、示唆に富んでいて、しかも真実を語っている…さすがのご慧眼!





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最終更新日  2022年08月27日 10時27分54秒
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