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普通の人は、粉薬とか、和室とかを怖いと思わない。 だが、一旦、怖いと感じ始めると、何でも無いことでも怖くなるもののようである。 例えば、よくある柳の影。 あれは、しなしなとなびく、柳の枝が、ちょうど女性の亡霊に見えるので、「夜が怖い」「幽霊が出そう」と思っていると、柳の木の下に幽霊がいるように見える。 ちょうどそんな感じである。 だが、『汐の声』の主人公佐和の経験したことは、最初はほんの粉薬への恐怖から、徐々に本物の恐怖ー 人が経験することのない怪奇現象への恐怖へと移行する。 彼女にとって、最大の不幸は、その経験を信じようとする人が誰一人、いなかったーということである。 これは、不思議なことだ。 テレビ局も、雑誌社も、視聴率や読者数を増やすために、「怪談特集」の企画を組んで、わざわざ「霊媒者」を伴って、世間で噂の「ユーレイ屋敷」に泊まりこみで取材に来ているのに...... 案外、芸能界やマスコミ界というのは、不真面目な部分があるのだ、と、作者は言おうとしているかのようだ。 佐和は、朝食後、一旦皆のいる部屋を出る。 そこで、彼女が見たものは...... 突き当たりの、左右に伸びる廊下を歩く、やはりおかっぱ頭の両端に、リボンをつけた、ワンピース姿の5,6歳の少女の姿ー その少女を見つめる時の、佐和の目は、明らかに「この世にない者を見た」時の、霊を見つめる目である。 彼女は、大人ばかり集まっているこの広大な屋敷に、こんな幼い子はいるはずがないー そう思い、急いでスタッフの人々に告げる。 「私、見ました!5,6歳の女の子です!多分、ここに出るという娘さんの霊だと思うんですけれど」 すると、スタッフの一人が、地元の8歳ほどの小学生の少女二人を紹介する。 「ああ、もしかしてこの子たちのこと?取材の様子が見たいっていうから連れてきたんだけど」 佐和は、途端に顔を赤らめ、自分の勘違いかと恥ずかしくなり、その場を逃げるように立ち去ってしまう。 その彼女を、「やっぱりインチキよねえ。生身の人間と霊との区別がつかないなんて」という、月女の意地悪な皮肉な言葉が追いかける。 佐和は、一人になりたくなり、庭に出るが、何かにつまずき、転び、服を泥だらけにしてしまう。そこで彼女が見たのは、庭に落ちていた女性用のベルト。 「なぜこんな所にベルトが......?」 不思議に思うが、気にかけず、とりあえず服を洗濯し、着替えようと、お風呂場に向かう。 しかし、彼女はお風呂場で、磨り硝子の向こうに、やはり先程廊下を歩いていた少女の横を向いた影を見る。 しかも、お風呂場ではザーッザザーッと盛んに水音がしているのに、その少女の影は、人形のようにじっと動かないのである......! 「なぜこの影、動かないの......こんなに水音がしているのに......!」 彼女はゾッとし、その場を離れるが、ふと、地元の少女たちのことを思い出す。 「ああ、そういえば見学者は2人だった。一人の子が水を流しているのね」- そう思い、一旦、自分の部屋に戻り、着替えを用意し、再びお風呂場に向かうと、もう誰もいない。 佐和は、着替えを脱衣籠に入れ、風呂場の戸を開け、内側から鍵を閉める。 そして、たらいを用意し、汚れた服を脱ぎ、シュミーズ姿になって、洗濯を始める。 「随分と広いお風呂場......それに、長い間、誰も使っていないのね。タイルだって、こんなに乾いて......」 漠然とそう思うが、あることに気づき、ハッとする。 「え?待って。だって、さっき、女の子が水を流していたでしょう?」 ついさっきまで、盛んに水音がしていたお風呂場のタイルがカラカラに乾いているー普通、こんなことはあり得ない。 彼女が、この矛盾に気づいた瞬間ー 内側から鍵を閉めたはずの浴室の戸が、外から勢いよく「ガラッ!」と開く音がする...... 佐和は、異様さを感じ、思わず振り向くー その凍りついたような表情...... だが、背後には誰もいない。 「今、戸がガラッと開く音が......だって......」 佐和は、浴室から出ようとするが、鍵はかかったまま。 彼女は、「誰かに閉じ込められた」恐怖にパニック状態になり、お風呂場の戸を泣きながら激しく叩く。 「誰か来て!誰か誰かここを開けて!」 その声に、取材陣がかけつけ、お風呂場の戸を開けようとするが、開かないので、彼らも混乱し、戸を蹴破ろうとする。 だが、その場にいた月女が、「お待ちなさい!鍵は中よ」と言う。皆も、「そうだ、サワさん、鍵は内側だよ」と言う。 佐和は、鍵が内側にかかっていたことを思い出し、やっと自分で戸を開けることができるのだが...... 彼女は、シュミーズ姿。おまけに、月女が「アホじゃないの。自分で鍵をかけて、騒ぐなんて」と追い討ちをかける。 17歳の少女としては、恥ずかしいこと極まりない。慌てて着替えると、またまた皆の前で、経験したことも話さず、逃げ出してしまう。 昼食の時、彼女は先程の恥ずかしさで、泣いてばかり。スタッフの女性の、「もう泣かないで、食べなさいよ」との声もほとんど聞かずに、自室に戻るのである。 だが、その自室のふすまを開けた時ー 例の和風の鏡台の前には、やはりリボンをつけたワンピース姿の少女が、こちらに背を向けて正座しているのである......! 「またこの子だわ......そうよ、この子よ......私がずっと見ているのはこの女の子なのよ......!」 佐和は、恐ろしくて、もはや和室に入れないまま、廊下のふすまに背を向けて、立ち尽くす。 その時...... 和室の中から、少女の小さな手がそ~っと伸び、彼女の手を中に引き込むかのように、ぐいっと引っ張るのである......! 「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!」 佐和の凄まじい叫び声に、企画担当者がその場に様子を見に行くが、担当者は、叫び声を聞いても、「またあの娘か。人騒がせな子だよ」-と冷たい態度。 真っ青な顔で、廊下に座り込んでいる佐和を見ても、担当者は、「あ~あ......これだからなぁ。本物を見たわけじゃないくせに。困るんだよなぁ」と溜息。 「どうかしたの?-何もないんなら、ま、いいけど」 「待って待って!一人にしないで、お願い!」と佐和は担当者にしがみつく。 「お、今度は色仕掛けかな?10年早いんだよなあ、これが......」 普通、「霊媒者」が異変のサインを出していれば、真剣に取材に取り組んでいるのなら、そのサインを見逃すはずがない。 だが、佐和の叫び声や慌てふためく様子に、取材陣は、彼女をもう(いや、最初から)「インチキ」と見限っているのである。 (許せませんねぇ~......長いですが、続きは、ハイ、次回です^^;)
September 23, 2007
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『汐の声』の主人公、美少女タレント佐和は、幽霊屋敷にスタッフと泊まった最初の晩、なかなか寝付かれない。 外では、いつも「ゴォォォォォ......」と激しく風が唸っている。 それでも、彼女は自分の置かれた今の状況をあれこれ考えている。 「『お前の霊感は本物よ。お前は3歳の時、お隣の火事を言い当てたのよ』-そんなの嘘よ、ママ。私はただ火事を見て、泣き喚いただけってお祖母ちゃんが言っていたわ......それでも私にも超能力の才能があるのかもしれないわ......」 いつしかうとうとする佐和。そんな時、廊下を隔てた向かいの和室が開く音がし、誰かがスリッパで洗面所に向かう音がする。 「向かいの南北月女さんだわ。夜中なのにまだ起きているのね」-そう思って彼女はほっとする。 すると、洗面所近くのお風呂場で水音がし、女性の声がはっきりと聞こえてくるー 「嫌だわ、取れなくて」 あまりにもよく聞こえるので、「まあ夜中だとこんな部屋にまで声がよく響くこと......何が取れないのかしら」と佐和は不思議に思う。 一晩明けた翌朝、彼女は洗顔のために洗面所に向かうが、そこで南北月女と山口舎利の会話を聞いてしまう。 「私は枕が変わると眠れなくってね」 「まぁ、あんなインチキ娘じゃあるまいし、あなたが眠れないだなんて」 佐和は、月女らと顔を合わせるのが嫌になり、お風呂場の洗面所へと回る。 「人のことをインチキ娘だなんて......皆、陰ではああ言っているのねー月女なんて、大嫌い」 佐和は自分でも、霊能力に自信はないが、やはり人が自分のことを悪く言っているのを聞くのは辛いのである。 彼女がすすり泣きながら、顔を洗っているその時...... 洗面所の窓ガラスに、おかっぱ頭の左右にリボンをつけた5,6歳の少女の顔が、ぼ~っと映っては消えていくのである......! そして、洗顔を終えた時、佐和は洗面台に、何か粉薬の包みを見つける。 最初は「スタッフの人の胃腸薬か何かかしら」と思い、気にも留めなかったが...... 朝食の時、近くの食堂に特注して、スタッフの人々と一緒に豪華な朝食をとるのだが、佐和は好き嫌いが多く、食が進まない。 昨夜の夕食の時も、彼女一人だけは母親の作ったお弁当持参。 その時も、南北月女は佐和に、「結局ママの作ってくれたお弁当しか食べれないってわけ。見かけよりも子供ねえ」とからかわれる。 朝食も進まないまま、彼女は「幽霊屋敷といっても、人がたくさんだし、このまま何も起きなかったらどうするのかしら......」-そう思いながら、自室に戻る。 そこでも、周りの人への気疲れと睡眠不足から、ついうたた寝してしまう。 「うっかり寝てしまってー今何時かしら。えーと、腕時計はここにしまったかしら?」 佐和は、すぐそばの、純和風の、布を被せた鏡台の引き出しを何気なく開ける...... すると、そこにはー 朝、洗面所で見かけたのと同じ粉薬の包みが、何十包もびっしりと、引き出しの中に入っていたのである......! よく見るとそれらは、随分古びている。 佐和は、「嫌!これ、古い!」と怖くなり、引き出しから飛びのいてしまう。 普通、人は薬の包みなどを怖がらないものである。 だが、そういう何気ないものが怖い。怖いと、読者にも思わせるーそんな手法が、山岸涼子さんは優れていると、つくづく思う。 佐和は、少し気を落ち着けて考える。 「馬鹿ね、これは前住んでいた人が残していったものじゃない。それを言うなら、この家の中の家具や、すべての物が同じことじゃない......こんな薬が怖いなんて言ったら、スタッフの人に笑われるだけ」 それでも、彼女は一人その和室にいるのが薄気味悪くなり、立ち上がる。 「ただ......やっぱり私、あれが怖い......」 読んでいる私もその粉薬が怖くなったほどである。 そして、その粉薬には、この幽霊屋敷に出没する霊と深い関わりがあり、そしてその霊を見ることができるのは、佐和だけ...... しかし、その後、彼女が見たり、経験したことを話そうとしても、意地悪な月女が馬鹿にし、取材に来ているはずのスタッフ軍も、本気にしない。 周囲の「退屈な日常」という壁の軋轢に悩みながら、そのほんの隙間に霊の姿を見てしまう17歳の少女...... そのストーリーの設定自体に恐怖が潜んでいる。 絵が怖い、ゾンビが出てくる、とかいうのでは全然ない。 むしろ絵は清潔感があり、主人公には妖精のような魅力があり、さっぱりとした絵柄なのだが...... なぜか山岸さんの細い細いペンタッチを見ていると、本物の恐怖がじわじわと迫ってくるんである...... (続きは次回で......^^;)
September 21, 2007
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書こうと思いながら、書けなかった『汐の声』のこと。 あまりにも怖いので、その本を再読しながらの感想はとても書けない。 そこで、読んだ記憶に頼って書くことにした。 そもそも、「汐の声」とは何を意味するのだろうか? これは、お盆などに川や海に、亡くなった人の魂を慰めるために灯篭流しをするーそれと同じ意味合いのことだそうである。 山間には、当然、海や川は無い。 それで、風の強く吹く晩などの、「ビョオオオオオ~」といった音を、「亡くなった人の魂(たま)送りの音」に例えるのだそうだ。 その音が、「汐の声」なのである。 私も、山奥に住んでいるので、風の強い日は、「ゴオオオオオーッ」と凄い音がして、怖いほどである。 たいてい、山岸涼子さんは、作品のタイトルは、神話や宗教関係などの用語からつけている。 そして、表紙の裏に、そのタイトルの宗教的背景などを説明してあるー そこで、「これから描かれる作品は、このタイトルをヒントに展開されますよ」と予告するわけである。 けれども、この『汐の声』という作品には、その説明がない。 だから、私も「何だろ、汐の声って?でもすごく怖い話だってアマゾンのレビューに書かれてあったし...」 そういう感じで読み始めた。 冒頭は、いきなり、某雑誌社の企画室の雑談から始まる。 「『ユーレイ屋敷探訪』。よし、この企画で行こう」 「え~っ!編集も行くんすかぁ。オレ、降りたぁ」 ......なんてたわいもない雑談。 何か意味ありげな作品タイトルに、まったくそぐわない日常的風景と会話。 しかし、こういう設定が、読者の興味を引き付ける。 彼らは、ある幽霊屋敷を探訪する特集を組み、要するに商売のための企画を練っている。 そこで、この手の特集にはつきものの、「霊媒者」が必要になってくるんである。 (昔、宜●●子という方がおられましたよね......ああいう感じで、幽霊屋敷の霊を探り当てる能力を持つ人です) 「霊媒者3人とあるけれど......?」 「ええ、一人は易の権威、南北月女(げつじょ)、もう一人は八方見の山口舎利(しゃり)先生です。あと一人が決まっていないんですが......」 「ほら、あの娘なんかいいんじゃない。K.TV の3時に出ているー」 「ああ、17歳の霊感少女サワ?ダメダメ、あれはインチキだよ」 「でもカワイコちゃんぐらい登場させないと。(あとの二人はジーサン、バーサンだし。)それにあの娘を担ぎ出したら、K.TVが一枚噛んでくるかも知れないな」 ......こういう経緯で、芸能界に「17歳の霊感美少女」として売り出している佐和が、この企画に引っ張り出されてしまう、という訳である。 佐和は美少女タレントとして有名だが、そのキャッチフレーズは「霊感少女」なんである。 なぜこうなったかというと。 その原因は、佐和の両親、特に母親に責任がある。 佐和の母は、娘がたまたま美少女であることをいいことに、「娘に芸能界で稼いでもらおう」と考える、俗にいう「ステージママ」みたいな人である。 今回の企画も、担当者からの打診を即座にOKし、おまけに父親も「うまく娘を引き立ててくれ」と頼みこんでいるー まだ17歳の佐和は、一人不安がっている。 「どうしてママは、こんな仕事ばかりとってくるの。テレビでの出演も、ボロ出さないように、神経すり減らしているのに......私には、霊感なんてないのよ。世間の人だって薄々感じている......」 その佐和の不安とは裏腹に、両親はご満悦である。 「佐和ちゃん、来たわよ。有名な雑誌のオカルト特集に、その道の偉い先生方と一緒にお前が選ばれたのよ。ママ、嬉しくって!」 「出演料も、パパが特別に頼み込んで高くしてもらったんだ。しっかりな。お前が頑張ってくれないと、パパもママも日乾しだよ」 佐和は、スタッフの人たちと共に、F県F市の「果無(はてなし)屋敷」と呼ばれる幽霊屋敷に到着。 そして、広大な和風のお屋敷の一室に一人で泊まることになり、両親の言葉を回想しながら、「知らない家で、ママもパパもいない部屋で一人で寝るなんて怖い。私は、知らない家はどこでも怖いのよ」と震えている。 ただでさえ不安と心細さでいっぱいなのに、佐和は何かと易の権威、南北月女という年配の女性に嫌味を言われるのである。 テレビのアナウンサーが、雑誌企画責任者に尋ねる。 「このお屋敷は、元はある銀行副頭取のものでした。ここに出る霊というのは、その副頭取の家族か何かでしょうか」 「いや、この屋敷を6年前に買い取った親子2人がいましてね。ほとんど近所づきあいもないままで、その2人は1年前、変死体で発見されているんです。出るのは50代と25歳ぐらいの女性の霊です」 そこで、アナウンサーは「霊媒者3人」に訊いてみる。 「お二人とも、何か感じますか」 月女と舎利は、「いいえ、特に何も」 佐和も、「サワさんは、何か感じますか」と訊かれる。 佐和が、「私も、特にこれといって......」 すると、月女は「そりゃ、この娘(こ)には無理なことよ」と嘲るのである。 その時から、佐和は月女を「嫌だ、この人」と胡散臭く感じるようになる。 しかし、わざわざ都会から、山間の田舎に「幽霊屋敷探訪」に来たというのに、スタッフの間には、何も意気込みが感じられない。 別室で、徹マンをしながら、「霊媒者」の悪口を言う始末。 「あの月女ってのは、ヒステリーだな。山口舎利なんてのも、もったいぶってるし。サワって娘も妙におどおどして......ありゃインチキだよ。だいたい、この手の企画で、本物が出たことなんてないんだ」 しかし、意地悪な月女と、まだ小娘のカワイコタレントと馬鹿にし切っている取材陣の態度ー これらが、後になって大きな悲劇を生み出すのである...... (怖い~)(続きは次回です^^;)
September 21, 2007
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