全4件 (4件中 1-4件目)
1
ラビット・アンダーグラウンド5話 なゆかと別れた後白鳥エリーナは3階のレッスン場に向かう。体に纏わせたSliMEのジゼルに命じレオタードとトゥシューズに変形させる。他のMGM歌劇団メンバーの姿はない。フロアー管理の丹羽家の者だけである。 『スワン、あの子が気になるのですか?』 柔軟体操をする白鳥エリーナにSliMEのジゼルが語りかける。 「少しだけ。クリムゾン様には何かお考えがあるのでしょう。MGM歌劇団に入るのなら挨拶しようと思っただけです」 『あの子は藺藤なゆか。紅星女学院大学1年生。所持しているSliMEはポポリンです。ポポリンと情報共有しました』 「……あなた達SliMEの間では普通の事なのでしょうけど慣れませんわね。ナチュラル(完全生身)でバレエ一筋だったからあまりテクノロジーに詳しく無くて……」 『スワンは今でもあまりジゼルに頼らないですね。クリムゾン様から貴女のサポートを仰せつかっているのにあまり活躍できていないかも』 「そんな事ないです。クリムゾン様にもあなたにも言い尽くせない恩があります。私はただ自分で出来る事はやりたいですし限界までは頑張りたいのです」 柔軟を終えるとエリーナは壁一面の鏡に映る自分の見ながら動きの確認を始める。ジゼルには今の自分と前日の自分と最高のコンディションの自分を比べさせる。 『右足に疲れが少し残っています』 「そうですか……夕食のメニューは変える必要ありますか?」 『スープを疲労回復重視のものに変えてもいいかもしれません。今日の練習の疲れを残さない事も大事です』 「来週の舞台の初日をベストコンディションで迎えたいですものね」 MGM歌劇団の舞台は週に2回。間の日は団員個人のショーやゲストを呼んでの公演となっている。スワン事、白鳥エリーナは舞台に心血を注ぎ、間の日は全て練習に当てている。 白鳥エリーナはバレエダンサーだった頃よりも練習に明け暮れそして充実していると感じている。ストイックに自分を磨き続けるそんなスワンの姿を歌劇団のメンバーは尊敬と羨望のまなざしで見ている。 アドバイスを求められれば真摯に答え、舞台のミーティングではメンバー全員の事を考え演出家に歯に衣着せぬ物言いで意見を出した。 やさしいが決して甘くない。それが歌劇団メンバー全員のスワンの印象だった。 「ハァハァハァ……」 いつもより熱の入った練習に息が上がる白鳥エリーナ。 『らしくないですよスワン。何か気になる事でも?』 「……雑念を振り払おうと少しペースを上げ過ぎました」 『藺藤なゆかの事ですか?』 「そうです。あの子……やはりクリムゾン様に見染められただけはあります。数秒接触しただけでそう思いました。あの顔、声、雰囲気……只者じゃないです」 『気になってしまったのですね』 「あの子はカフェのスタッフで歌劇団ではないのに……」 『クリムゾン様に直接聞けばどうですか?』 「そんな……他愛もない事であの方の時間を取らせるわけにはいきません」 『ジゼルはスワンが充実して過ごせるようにサポートしたいのです。クリムゾン様と直接話をしなくてもあの方のSliMEの来夢にメッセージを送るのはどうですか?』 「……それならまぁ。来夢さんならきっと上手く対応してくれるはずですし」 『了解。来夢から返事が来たらスワンに知らせますね』 「ええ」 *** カフェの仕事のそつなくこなし休憩に入るなゆか。歌劇団の舞台ショーの会員限定アーカイブを見る事にする。 「えっと……あの人は……」 スワンの個人パフォーマンスの動画を選択する。 「バレエ……白鳥の湖だ」 チャイコフスキー【白鳥の湖】を鼻歌で口ずさむ。 「綺麗……でもそれだけじゃない強さを感じる。妖艶な表情仕草……重量を感じさせない舞い……」 バレエは祖母に連れられて毎年公演を見に行っていた。なゆかは過去の記憶をからこれまで見たバレエの最高位プリマの舞いとスワンを比べる。 「スワンはプリマと比べても遜色ない……間違いなく超一流。でもそれなら何故LavaGerdenに?」 『知ってるけど勝手になゆかに教えられないよ』とポポリンが言った。 「だよね、きっと何か事情があるんだと思うしそんな質問は嫌って程されてるんだろうね」 なゆかはスワンと次に会った時何を話そうか考える。 「憧れていた時期もあったなぁ……バレリーナ。ウチの近くにはレッスン教室も無かったし練習の大変さについていける自身も無かったよ」 なゆかの祖母は若い頃バレエを習っていた。才能ある子たちに打ちのめされ趣味程度で終わったと話していたが嬉しそうだった。バレエを嫌いにならなくて良かったと。 祖母の話やバレエに関するコミックやドラマに映画を見てきたなゆか、スワンの姿はそれらの主人公に見えた。 「ねぇポポリン、スワンのSliMEジゼルとはやりとりしてるんでしょ?」 『してるよ』 「じゃあさ……スワンが私に聞きたい事とか解るよね?」 『勿論』 「スワンがLavaGerdenに入った経緯を聞きたいんだけど大丈夫そうかな?」 『なゆかがクリムゾン様にSliMEを持たされた理由を話せば聞けるんじゃないかな』 「なるほどね、お互いの身の上を話し合うって事だ」 なゆかはスワンが知りたがっている事はSliMEポポリンをクリムゾンから持たされた理由であると。そこから自分のサキュバスハーフの話をして広げようと考える。 『なんでスワンの事をそんなに知りたいの?』 「だって……気になるじゃん。私にとってはこの街の事もLavaGerdenの事もクリムゾンさんの事もポポリンの事も刺激だらけでさ、知的好奇心がめちゃくちゃ高まってるんだよ」 『好奇心は猫を殺すと言うよ』 「にゃんにゃん! 猫じゃないにゃん!」 『なゆか、サキュバスハーフの力が高まっているよ』 「え、高まってる? うぅ~ん……そっかぁ。スワンが羨ましいのかもね」 『そうなの?』 「だって表現者じゃん? 私は力が暴走するからそういうの絶対駄目だし禁じられてるし。もしバレエを習ってたら……大勢の人の前で思いっきり踊れたら……って考えちゃうよ」 『なゆかはサキュバスハーフの力を解放したいんだ』 「思いっきりやってみたい願望はある。駄目駄目駄目で抑圧されてコントロールもままならないし。おばあちゃんのように力を上手く扱えるようになりたいよ」 『ポポはまだなゆかのサキュバスハーフの力を把握できてないから万全なサポートもできないごめんね』 「ううん、せっかくさぁポポリンもいる事だしどこかのタイミングで思いっきり解放してみたいよね。クリムゾンさんに相談が無理ならあの人のSliMEの来夢とかに相談できるかな?」 『一応来夢には相談してみるね……そもそもなゆかがMGM歌劇団に入れば良いと思う』 「えぇー? 私がMGM歌劇団に? 入れるかなぁ」 『クリムゾン様はなゆかを気にいってるし仮入団ならいけそう。SliMEも持っているし。でも舞台やショーの練習についていけないと正式入団は無理かもね』 「練習に付いて行けるかなぁ~……」 『やってみないと解らないね』 休憩時間が終わりカフェの業務に戻るなゆか。 カフェの業務をこなしながら手が空いた時間に歌劇団に入った自分を想像する。 「(歌劇団に入れたとしても見に来る人の需要が大事だよね。10人皆個性的だし綺麗だし可愛いし……埋もれないような何かがないとクリムゾンさんは喜んでくれないと思うし……えぇ~私が出来る事って……バスケと歌と創作ダンス……かなぁ。でもどれも歌劇団員より突出してるとは思えないなぁ。サキュバスハーフの力を持っていてもそれだけじゃ駄目だよね)」 トラブルも無くカフェの業務を終えるなゆか。丹羽省羅に退勤の挨拶をする。 「お疲れさまでした。本当は最後まで残りたいのですけど明日も大学がありまして」 「いいのですよ、学生なのですからそちらを優先してください。気を付けて帰って下さい」 更衣室から出てバックヤードを歩いていると坂東狐理子に出くわした。 「あ、狐理子ちゃん」 「やぁなゆか……」 浮かない顔の狐理子になゆかは首をかしげる。 「どうしたの?」 「えっと……送って行こうか? でも今日はマンションまでじゃなくて近くのコンビニまでで良い? 自分の買いたいものあるから」 「え、いいの? じゃあお言葉に甘えちゃおっかな」 昨日とは違う車を店の前に回してくる狐理子、SliMEのコンキチを使い少し顔を変えて変装している。 「さ、行こ」 「うん」 なゆかは狐理子が何か話したいことがあるように感じたのでその場では敢えて突っ込まなかった。 車は高速環状線に入る。なゆかのマンションに向かうのには必要ないルートだった。 「ごめん今日はこっち通らせて」 「うん」 車の流れに合流し半自動運転に切り替える狐理子、ここで大きくため息をついた。 「はぁ~……」 「どうしたの狐理子ちゃん?」 「えっと……何から話したらいいかな……そうだ、これから自分はなゆかと多くの時間を過ごす事になる」 「え? どういう事?」 「クリムゾン様の命令もあるんだけど、SliMEの事とか……ある男の事とか……自分の事情とか……色々あってね、本当に勝手だけど……」 「えぇ~何なになに? ちゃんと説明して? あわてないでいいからじっくり聞くから」 「自分はこの前のゴーグル男のようなのに狙われているんだ。その理由は暮葉一族の秘伝書の解読の為でね……」 狐理子は突然身の上話を始めた。忍者の里の暮葉一族の秘伝書は院瀬見が従えているブラックヴァリーと呼ばれる忍者集団に奪われ里の人間は狐理子を除いて全員殺された事。そして秘伝書は暮葉一族のみが解読できると知られブラックヴァリーに狙われていると。 「そんな! めちゃくちゃ大変じゃん!」 「そう、でもねクリムゾン様に貰ったSliMEと組織のバックアップのおかげで何とかやっていけてる。秘伝書を奴らから取り戻したい。命の恩人であり居場所をくれて自分を必要としてくれている恩返しがしたい。歌劇団のメンバーにもなれるなんて思わなかったし」 「うん」 「それでえっと……ううんと……なゆかの力が必要なんだ!」 「え?」 「ゴメン説明不足だよね……自分はクリムゾン様の秘密組織(LOKI)のメンバーなの。忍者としての任務をこなしながらなゆかを秘密組織のメンバーに育てられないかと言われてね。だからその……サキュバスハーフの力を鍛える? 為に忍者任務の手伝いをしてもらいたくて……なゆかがサキュバスハーフの力を使いこなせるようになれば秘伝書の奪還も簡単になるしクリムゾン様の大きな計画も進む事になるって」 「ちょっと待って……頭整理させて……ポポリンサポートお願い」 『了解だよ!』 「……ふむふむ、ほうほう……」 ポポリンが情報をまとめ、なゆかだけに見えるようにまぶたの裏側に映す。片目を瞑りながら確認するなゆか。 「クリムゾン様は私のサキュバスハーフの力に期待して育てたいって事だね。いいよやる! サキュバスハーフの力自在に使いこなしたいと思ってたんだ」 なゆかはここで狐理子からの申し出を断るという選択肢もあった。その場合クリムゾン秋馬昊菜から離れSliMEポポリンとは二度と接触出来ずにLavaGerdenに関しての一切の記憶を失いサキュバスハーフの力を覚醒させる手段も失くすことになる。代わりに得るものはこれまでと同じ平穏……とポポリンから説明された。 「(私は……)」 なゆかは平穏よりももっと自分らしく生きてみたいと考える。 「いいの!? 本当に!?」 「うん、大丈夫。狐理子ちゃんから言われて良かったなって思う。他の人ならもうちょっと考えたかな~?」 「え、なゆか……それってどういう事?」 「えへへ、宜しくね狐ニンジャの狐理子ちゃん! ニンニン!」 「ニンニンは言わないよ!」 車は高速環状線を半周して下道に降りる。 「早速任務が明日あるんだけどなゆかはいつも通り大学に通ってね。なゆかの大学内での任務だから」 「そーなの!?」 「フォックス忍法なりきりの術で大学生に化けて潜入する。なゆかにはSliMEを通じて連絡するから」 「う、うん……なにすればいいの?」 「明日は大した事しなくていいよ、自分と知り合いだって証明してくれれば大丈夫。既にいて問題の無い学生の知り合いという事なら自分も動きやすくなるし」 「ふぅ~ん……OK。任務の詳細は教えてくれないの?」 「ある学生と教授の調査だよ。まぁ探偵みたいなもの」 「えー面白そう!」 「クリムゾン様にちゃんと報告しなきゃいけないからなゆかは自分の指示に従ってね?」 「わかった!」 この時SliME通信でコンキチはポポリンに任務の詳細を伝えていたがポポリンはなゆかの性格を考え今は黙っておいた。2日目にしてポポリンはなゆかの好奇心の強さと若干の無鉄砲さを把握し彼女を守るためにそう判断した。 マンション近くのコンビニで車を降りるなゆか。狐理子は駐車場に車を止め店内へ。 「じゃあまた明日」「うん、また明日ね」 なゆかがマンションに入って行くのをコンビニ店内から確認する狐理子。コンキチに大澤垓が近くに居ないか確認する。 『大丈夫ダヨ! あの警官はいない!』 「今日はもう大丈夫かな……なゆかが覚醒してくれればサキュバスハーフの力で警官を操ってくれるかなぁ」 『狐理子のフォックス忍法で何とかできないの?』 「いや~……自分のフォックス忍法の真髄は暗殺だからね。人心掌握はどっちかって言うとくノ一の房中術に通じる方だから……」 『じゃあ覚醒させてなゆかに房中術してもらうの?』 「はぁ? ちちちちがうよ! ほらサキュバスって言葉とか目線とかで惑わすんでしょ? やらしい事する前に誑かしていいように操るんじゃないの?」 『わかんないヨ。SliMEのデータにサキュバスは存在しないもの』 「例えでくノ一って言っただけでなゆかにくノ一になって欲しいって意味じゃないの!」 『そうなんだ。じゃあフォックス忍法で警官を何とかする?』 「だからフォックス忍法は……ああ、コンキチはあの警官を排除すればって言いたいのか」 『そうだよ。殺さなくても半死半生にすればSliMEで操れるんじゃない?』 「勝手にそんな風にSliMEを使えないよ。クリムゾン様の許可が無きゃ無理」 『狐理子はあの警官に危害を加える事に躊躇は無いよね』 「まぁね……でも警官を攻撃すると厄介な事になるしクリムゾン様も警察と揉めるのは避けたいでしょうし」 『狐理子が心配するような事は既に起きてるし今更ダヨ。クリムゾン様は何人かの警察官をSliMEで支配しているよ』 「あ、そうなんだ……じゃあクリムゾン様の許可があればあの警官を排除できるんだ」 『無意味な排除は許可が降りないと思うよ。だから本当に必要な時に即実行できるように提案しておくのはどうかな狐理子』 「ありだね! じゃあコンキチ提案しておいて! 自分はクリムゾン様に直接言う度胸は無いので……」 『了解、来夢からクリムゾン様に伝えてもらうね』 続く
Aug 31, 2025
コメント(0)
ラビット・アンダーグアウンド4話 なゆかと狐理子は朝まで話しこんだ。眠い目をこすりながらオートロックの玄関まで狐理子を送る。 狐理子は駐車場に向かい車に乗り込む。視線を感じバックミラーを見ると後方にガタイのいい顔の濃いビジネススーツの男が停車中の窓を全開にして腕を出してこちらを見ていた。 「あれ何者……コンキチ解る?」 自分のSliMEに話しかける狐理子。 『ID確認……大澤垓(おおさわがい)26歳。秋馬原島署勤務。警部補……ダヨ!』 「警察かぁ……張り込みかな……反応しすぎて職質されても面倒だしスムーズに退散しよう」 『それがイイヨ!』 *** 狐理子の車が駐車場から出て行くの確認する大澤垓。携帯を取り出しなゆかにかける。 「……速く出ろよなゆかぁっ!」 5コール目がなった時になゆかが出なかった事に激昂する垓。 2度、3度、4度、5度、かけ直す垓。イライラしながらコーヒーの空き缶を握りつぶす。 『どうしたの垓?』 「やっと出たか! 何してたんだ!!」 『え、シャワー浴びてたんだけど? そんなに大きな声出して何事?』 「なんだあの女はぁっ! 大学の女じゃねえよな? 誰だ、何でお前の部屋に上がりこんで朝までいるんだ!?」 『え……なんで知ってるの? もしかして張り込んでたの?』 「たまたま昨日近くに寄ったらお前が変な女の車に乗ってるのを見かけたんだ! オレは警察官だ怪しい奴を見かけたら警戒するのは当然だろう? それで、何者だあの女は! 質問に答えろなゆかぁッ!」 『一々大きな声出さないで……あの子は困ってた所を助けてくれたんだよ。それで偶然再開してお話してたら遅くなって送ってもらったの』 「はぁ? その辺の訳分かんねえ女だってのかアイツは……」 『いい子だよ?』 「ちっ……なゆか、もうあの女と関わるなよ? お前は女子大の友人とだけ会ってればいいんだ」 『ええ~?』 「なゆか、盗聴器とか仕掛けられてないか調べろよ? 何なら今から俺がくまなく探してやろうか?」 『いいよ大丈夫自分でできるから。大学の授業まで時間あるしちょっとでも寝たいからもう切るね』 「おい!」 あくびの声がした後すぐになゆかの携帯が切れた。垓は舌打ちをしながら携帯を操作して追跡機の行方を確認する。狐理子の車が駐車場に入った後すぐに仕掛けていた。 「あの女は今……第二区を走ってるな……」 垓は車を発進させる。 狐理子の車は第二区を通り抜け第一区から第四区に。オータムホースシティスタジアムの駐車場で停車した。 「スタジアムの駐車場だと? あの女何処に住んでやがる……」 垓は狐理子の車に追いついた。すぐ隣に駐車して車を調べ始める。ナンバーから持ち主を割り出してはいたが大した情報は得られなかった。大企業院瀬見の所有するものであった。 「院瀬見のコーポなのか? だとしたらこんな場所に態々車を置いたのは何故だ? ……今日の所はここまでか……この車の動きは見張る必要があるな」 *** 狐理子はスタジアムの公園のトイレでSliMEコンキチを使い服装と顔を変える。昊菜が用意した車にはガタイのいい男、大澤垓が張り付いていた。 「うわぁ……あの警官追ってきたよ……クリムゾン様には悪いけどあの車は置いていった方がよさそう」 『キリコ、クリムゾン様に連絡スル?』 「……そうだねコンキチ。報告しておこうか……なゆかの話に出てきた幼馴染みの年上男ってアイツの事だろうね?」 『なゆかの話の中に出てきたガイと言う人物とあの警察官・大澤垓は同一人物と考えて良いね。この街でオオサワガイと言う名前でなゆかの話に該当する人物はあの者だけダヨ』 「そっか……要注意人物認定っと……自分はジョギングする人になりきって帰ろっと」 『ジャージ姿に変身するヨ』 *** なゆかは携帯のタイマーをかけひと眠りする事に。 夢の中で歌劇団の舞台に立ち自分を全力で出し切っていた。 拍手喝采。歌劇団のメンバーと抱き合い喜ぶ。講演後クリムゾンに褒められる。 心地よい夢の時間はあっという間に過ぎ、現実に引き戻すタイマー音で無理やり目を覚まさせられた。 「……えぇ~? もう時間なの? いいところだったのにぃ」 ベッドから手を伸ばして携帯のタイマーを解除する。時間を確認しながら起き上がる。 大学の友人、鈴木真亜子、佐藤実衣、高橋夢生からグループメッセージが入ってた。 【なゆか、LavaGardenの話聞かせてね】 「みんな興味深々だぁ……でも守秘義務あるから詳しいこと言えないもんね?」 『情報漏洩だめ』ポポリンが言った。 「当たり障りのない事だけいうよ」 なゆかは出かける支度をしながら携帯端末でオータムホースシティのニュースを見る。 「この街ってさ結構パトカーのサイレン頻繁に鳴ってるけど事件のニュースってあんま無いよね?」 『ないかも』 「狐理子ちゃんを追いかけてたゴーグル男とか普通じゃないっぽいの一杯いるのかな?」 『いるかもね。なゆかは偶々出くわしただけで普通は関りが無いはずだよ』 「じゃあさじゃあさ、昨日みたいに巻き込まれた時はポポリンがどうにかしてくれるの?」 『どうにかじゃ分からないよなゆか。どうして欲しいの?』 「警察に通報とか?」 『通報しても駆けつけるまで最速で2分かかるよ。2分間は身を守る必要があるよ』 「ビューンてすごい勢いで逃げるとか。壁とかもピョンピョーンって蹴って飛び跳ねて」 『それなら常に私を纏わせておくといいよ筋力サポートするから』 「う~ん……ポポリンさぁ、一人称かえよ? ポポって自分の事言って」 『了解、一人称をポポに変えるよ』 「よしよし、カワイイなおまえ。声も私好みのにしてくれてるし」 なゆかは目の前のスイカ大の銀色のポポリンを撫でる。 「ポポリンお手!」 『はい』 流体ボディから子犬の前足めいた物を伸ばしてなゆかの掌に置くポポリン。 「私から離れてる時は犬の姿がいいかも……ミニチュアピンシャーの姿になれ!」 『了解』 手足は細く筋肉質で黒と茶の短毛、眉毛の部分が茶色で耳の垂れた子犬の姿に変身するポポリン。 「いいね、いいね! 大家さんに見つかったらロボット犬だと言ってごまかそう。その時はポポリンもロボット犬のふりしてね?」 『了解』 「で、なんだっけ……あ、そうそうポポリンを纏わせればサポートしてくれるんだよね? じゃあさ、ちょっと大学行く時にさ練習して見ようよ。あのジーンズに変身して」 なゆかはロングTシャツの下にレギンスを履きその上からジーンズのポポリンを纏う。 『なゆか、上半身もサポートした方がいいのだけど』 「じゃああのパーカーになってよ」 『了解』 ジーンズから体を伸ばして兎のグラフィティが施されたパーカーに変身するポポリン。 「全身にフィットするとなんか安心感ある……」 『なゆか、外に出たら自由に動いてみて』 「おっけー」 マンションから出たなゆかは早速走り出す。ポポリンが筋力サポートを開始する。 「あ、軽い軽い! 何処までも走れそう!」 『色んな動作してみて』 「よーし」 なゆかは自分の背丈ほどあるフェンスに飛び乗り走りだす。そして側転を決めて着地。目の前にあるバスケットコートに向かって駆けだす。 「すごーい!」 放置された少しほつれたバスケットボールを拾ってドリブル。なゆかは昔やっていたバスケットボール部を思い出して微笑む。 「はっ!」 ボールをゴールのボードに投げつける。跳ね返ってきたボールを空中でキャッチしてそのままダンクシュートを決めた。 「気持ちいい!」 なゆかは側転、バック転、後方宙返り捻りを決めたあと逆立ちする。 「ポポリンすごい! 私に合わせてサポートしてくれてる! 身を任せる感じでもないしレスポンスに違和感もない!」 『ポポ達SliMEには戦闘スーツのデータをラーニングしてあるからね。後はなゆかの骨格と運動能力に適応させれば最適化完了だよ』 「えーすごい……ねぇねぇそれってさ、私の出来そうな動き全部サポートしてくれるんだよね? じゃあさ、新しく覚える動きはどうなるの?」 『具体的には?』 「ポポリン達SliMEはネットワークで繋がっているんでしょ? だから歌劇団のダンスの振り付けもみんなすぐに覚えられる。それなら武術もいけるよね?」 『いけるよ。武術は空手、柔道、丹羽家式体術がラーニングされてるよ』 「狐理子ちゃんのフォックス忍法は?」 『データはとってあるけどあれは坂東狐理子のブースターユニットと忍術を合わせたものだからいきなり他の人が使うのは無理だよ』 「ふむふむ……いざって時テンパって動けなくなった時はポポリンが空手で私を動かしてくれる事は可能?」 『ある程度は可能だよ。最適化された動きになるから応用は利かないかも』 「なるほど……」 『警告、なゆかの体から未知の物質が放出中。サキュバスに由来するものと考えられる。深呼吸して落ち着いてメガネのズレを直して』 「えぇ? 出てる? 危ない危ない……メガネを直しておしとやかに……」 『サキュバス物質放出の停止を確認。なゆか、日常の動作をポポがサポートする事も可能だけどどうする?』 「う~~~~ん……これは私が自分で意識しなきゃ駄目だからポポリンはヤバかったら教えてくれるだけでいいよ。ポポリンにおんぶにだっこしてたらいつまでもこの力制御できないからね」 *** なゆかは大学で日常を過ごす友人たちに簡単にLavaGerdenの事を説明した。 「え~行ってみたい! でも2階のショーは会員制なんでしょ? なゆかの力でなんとかならない?」「カフェのメニューどれもいいよね~今度皆で行ってみようか?」「うわ高っか……でも何もかも超一流なんでしょ? 一度は体験したいよね」 「あはは……あ、もうこんな時間、バイトに行くね」 なゆかは夕方のシフトを入れている為途中で会話を斬り上げLavaGerdenに向かう。 「あ……また垓からメッセージ」 【今日は時間あるか? お前の部屋で話がしたい】 「えぇ~……シフトあるし無理なんだけど。そもそも幼馴染みでも部屋には上げたくないなぁ」 なゆかは垓の返信をどう送ったものか思案する。 「ねーポポリン、どうしたらいいかな?」 『なゆかにとって一番避けたいのは垓と話をする事? それとも部屋に上げる事?』 「えっと……部屋に上げるのは避けたいかな。話をするくらいならまぁいいかな~」 『じゃあ用事があるから何時に何処で少しなら時間あるよって返信すればどうかな?』 「そうするか~狐理子ちゃんの事とか根掘り葉掘り聞いてきそう……ポポリン助けてね?」 『いいよ、第三者に聞こえないようにするね。なゆかはまだ慣れてないから体の部分を指で触って文字とかでポポに伝えて』 「うん、そうする。話してる途中で携帯触ってたら感じ悪いものね」 なゆかはLavaGerdenのバイトが終った1時間後にマンションの隣のカフェで話をしようと垓に返信した。部屋は片付けてないから無理と理由を付け加えた。すぐに既読が着き返信してきた。 【散らかってようが気にしないんだが?なんなら俺が片付けを手伝ってやろうか?まぁいいそれはまた今度な。しっかりと話を聞かせてもらうぞ。先にカフェで待ってる】 「う……なんか圧を感じる。その内部屋に上がるのを断れなくなるかも」 『対策を考えよう』 「そうだね……」 なゆかは大学から直接バスでLavaGerdenに向かう。入口の分厚いドアを開けると黒い上下のスーツ女性が立っていた。 「貴女が藺藤なゆかさんね」 スラリと細くてしなやかなシルエット。つややかなな黒髪に薄い眉、三白眼の黒い瞳。顎は小さく首は長め。なゆかに比べそれほど背は高くないが存在感に圧倒された。 「あの……貴女は?」 「失礼、私は白鳥エリーナ(しらとりえりーな)。MGM歌劇団に所属しています」 「あ! バレエを踊っていた人ですね」 白鳥エリーナの爪先は開いており立ち姿は頭から糸で引っ張ったように真っすぐ。なゆかは、ああなるほどと軽く手を打った。 「オーナーからSliMEを渡されましたね? では貴女もMGM歌劇団に入団されるのかしら?」 「えっと……」 白鳥エリーナがなゆかに接触してきた理由が解った。SliMEをもらった事情を正直に言うべきか迷う。 「まだ解りません……SliMEはちょっと事情があって持たせてもらっています」 「そうですか。オーナーと貴女の間で何かあるのですね、解りました」 白鳥エリーナはそう言うと踵を返して歩き出す。 「あの、またMGM歌劇団の舞台見たいです、絶対見に行きます!」 「ええ」 少しだけ振り返り白鳥エリーナはそのまま店の奥へと去っていった。 「なんかすごい人だ……緊張した。オーラって言うのかな? クリムゾンさんとは違った存在感があったねポポリン」 ポポリンに話しかける。 『白鳥エリーナはMGM歌劇団の団員第1号だよ。相棒のSliMEの名前はジゼル』 「えぇーそうなんだ! MGM歌劇団の最初の! バレエ出身の人なんかな?」 『これ以上は本人かクリムゾン様に聞いてね』 「む、しっかりしてるなぁ……」 続く
Aug 24, 2025
コメント(0)
ラビット・アンダーグラウンド3話 なゆかはこれまでサキュバスハーフの能力に振り回されていたことを昊菜に話した。 「(なんでだろうこの人にはスラスラ話せちゃう……)」 実際昊菜は相槌を打つが上手く、真摯に聞く姿勢で自身の思ったことやその時のなゆかの感情などを質問し余計なところには踏み込まない。 「どうしたの?」 「いえ、クリムゾンさんがとても楽しそうに私の話を聞かれてるので感心してしまって」 「気になった相手の事を知りたいと思うのは自然でしょう?」 なゆかはすっかり夢中になって話を続けた。30分経ったところで後ろに立っていた省羅が合図をする。 「まぁ、もう30分経ちましたのね。では省羅、なゆかにカフェの研修お願いするわ」 「かしこまりました」 軽く一礼をする省羅。 「研修が終わったらまた会いましょう、なゆか。今日は少し遅くまで残ってもらうけど大丈夫かしら? 帰りは心配しなくていいわ送らせますので」 「え、あ……大丈夫です!」 ぺこりと45度のおじぎをして省羅に付いて行くなゆか。 *** 「ご主人様、また悪い癖を出されていますか」 少し不機嫌なハートが言った。 「あらやきもちですの?」 いじわるな表情でハートを見つめ手を引いて横に座らせる。髪をなで頬に指を這わせる。 「違います、ただもう少し慎重に……」 「大丈夫ですわハート、あの子はただの田舎娘。夢魔(サキュバス)の力を持っているだけ。どこの組織の繋がりも無いのは来夢に調べさせましたわ」 「そうではありません。ご主人様はお忙しい方、田舎娘にかまけている場合ではないかと」 「貴女がそこまで言うなんて珍しいですわね。わたくしはそんなにあの子に夢中になってました?」 「フォックスの時はそんな様子はありませんでした。やはり夢魔の力がご主人様に何か悪い影響を与えてるのではないかと」 「……なるほど。あの子と直接会うのは避けた方が良いとハートは考えてるのね?」 「はい、出来ればそうして頂きたいです」 「貴女の直感は信じれますからね。では過度な接触を避けSliMEを与え、フォックスのようにLOKIの仮メンバーにします。こうすれば来夢の監視下に置けますものね」 「仮メンバー……田舎娘を裏社会に引きずり込む事になりますね」 「いいじゃない、ちゃあんとわたくしは自分のものは大切に扱いますわよ」 ハートの頭をなでる昊菜。 *** 「覚えるのが早いですね」 丹羽省羅はカフェのホール研修の説明を終えなゆかにそう言った。 「地元でもカフェのアルバイトしてたので覚えやすかったです」 「所作も特に注意すべき点はありません。貴女は自然に見に付けていますのね」 「その……祖母が厳しかったので」 サキュバスハーフの説明はマズいと考えてとっさに祖母の躾という事にした。 「素敵な御祖母様ですね」 「ええ、とっても」 「今日の研修はこれで終わります。制服は用意しておきます、ロッカーはこちらです」 バックヤードに入る。なゆかは違和感を覚える。 「あれ? 丹羽さんエレベーターがあの奥にあったような?」 「セキュリティの為普段は隠れています」 「そうなんですね」 ロッカーに案内される。タイムカードとロッカーのキーは共通なので通勤時に忘れないようにと念を押された。 「オーナーに呼ばれているのでしたね。では上に行きましょう」 エレベーターは出現していた。それに乗り省羅となゆかは二階のバックヤードへ。あわただしく動き回る衣装を着た女性や作業服の人々。 「こちらです」 カードキーで部屋に入ると2階全体を見渡せる前面ガラス張りの観覧席だった。革張りのソファに座っているのは昊菜、その横にはハート。 「なゆか、ここに」 「はい」 昊菜の横に座るなゆか。 「あの……」 「始まりますわよ、見なさい」 黒と赤を基調とした2階フロアは壁際にカジノゲームの台が並び中央は正面の舞台に向かって並べられたボックス席が配置されている。ブザー音の後、豪華な幕が上がっていく。 現れたのは10人の中世ヨーロッパ風の衣装を着た演者たち。立体ホログラムで舞台は投影されまるで本物の城内に見える。 「え、凄い……」 演者が台詞を言うとまるで傍にいるかのな音響、舞台下部の宙に文字が表示される。 1時間の劇の間なゆかは演者と舞台の演出圧倒されため息交じりの感想しか出なかった。 「第二幕はショーですわよ」 「え、クリムゾン様これって歌劇団……」 「ええ、わたくしの理想とする歌劇団。でも只の歌劇団ではありませんのよ」 数十分の休憩時間の後第二幕が始まった。 なゆかの想像していた歌劇団のショーとは違うものが目の前にあった。 「えええっ!?」 ホログラムは荒廃した都市を映し出す、舞台の中央にはボロボロの衣装を着た演者たち手にはライフルなどの銃を持っている。演者の一人がラップを熱唱しながらホログラムゾンビを撃っていく。 次はメタルミュージックに切り替わりボロボロの衣装は瞬時にゴシックドレスに変わる。背景は燃え盛る都市。センターの演者が入れ替わり力強い歌声を響き渡らせる。次は海中の背景に代わり全員が水着風の衣装、ウィスパーボイスの演者が中央で歌い上げる。 10人の演者全員がそれぞれ自分のカラーを前面に出したショー。最後の演者はアニメソングを歌いながら手品を披露していた。 「え、え、アイドルのライブ……でもない。なんですこれ……」 「10人全員が主役ですのよ。皆かわいいわたくしの演者」 「最後の手品の人ってきつねさん……かな?」 「あら、気が付いたの? 顔も声も貴女と会った時は違ったはずだけど」 「え、やっぱりそうなんですね! 仕草とかで何となくそう思ったんです!」 「彼女はフォックス。本名は本人に聞けばいいですわ」 昊菜は体に纏わせている来夢を使いフォックスに連絡、VIP席に来るように言った。 それから程なくして―― 「失礼します! フォックス入ります!」 3回ノックの後力強い声が聞こえた。どうぞと昊菜が声をかけると背筋を伸ばしたフォックスが入ってきた。 「あ!」 「また会えたね!」 「フォックス、自己紹介をしなさい。」 「フォックスです! LavaGardenのMGM歌劇団に所属しています!」 「フォックスさん! あれ、忍者ではないの?」 なゆかはじっとフォックスを見つめて言う。 「あれは……任務中の姿でして。藺藤なゆかさんはどうしてここに?」 「カフェのホールのアルバイト受かったの。その後オーナーさんが舞台を見せてくださって……フォックスさん、手品ショーすごくよかった!お芝居の幕も騎士役かっこよかった!」 「て、照れますね……」 「ねえフォックスさん、お名前は? 私だけ名前教えてるじゃん?」 「え、えっと……」フォックスは昊菜の顔を見る。昊菜は小さく頷いた。 「坂東狐理子(ばんどうきりこ)といいます!」 「坂東さん!」 「えっと……どちらかというと苗字ではなく名前でお願いします」 「狐理子さん! じゃあ私も同じく下の名前でいいよ」 なゆかは狐理子の前に立って見つめる。観覧席に段差があるためなゆかが見上げる形になっている。 「えと……な、なゆか」 「うん! 同じ店の仲間としてよろしくね!」 その様子を見ている昊菜。 「二人の相性は良さそうですね。なゆか、例の力駄々洩れですわよ」 昊菜は少し笑いながら言った。 「え! いけない……」 「制御するのに難儀しているのでしょう? ならばこれを貴女に授けます」 昊菜は机の上にスイカ大の銀色液体金属を置いた。 「これってオーナーさんのスライムですか?」 「わたくしの来夢の分身と言った所ですね。元々医療介護用に開発されたSliME(Super Life Medical Equipment)これは流体多結晶合金マシンですので、貴女の役に立ちますわよ。さぁ触ってユーザー登録をなさい」 ゆっくりとSliMEに近づくなゆか。ハートは昊菜の横でなゆかを見つめているが先程のような鋭い目つきはしていなかった。 「えい!」 触った瞬間なゆかの全身に纏わりつき透明化した。 「わっ! 凄い!」 「名前を付けてあげなさい。SliMEは貴女に合わせて成長しますのよ」 「え~……それじゃあ……う~んと……ポポリンで!SliMEおまえの名前はポポリンだ!」 「登録完了。個体名ポポリン、貴女の健康と安全を守ります」 なゆかはさっそく掌の上に小さな犬を出現させて遊びだす。 「へぇ~使い方は特に教えていませんのに」 昊菜が言った。 「オーナーさんの来夢さんが変形したのを見て私も出来るんじゃないかなって」 「そうですか、貴女のポポリン成長が楽しみですわね。ちなみに歌劇団全員にSliMEをもたせてますの。フォックスも勿論」 昊菜が狐理子に視線を向ける。この時来夢を通じて狐理子のSliMEにメッセージを送っていた。 『フォックス、貴女はしばらくなゆかの様子を見なさい』 『了解です!』 狐理子は自分のSliMEを衣装から一部飛び出させて小さな狐にして見せる。 「私のSliMEは【コンキチ】と名付けています。AIの癖にちょっとのんびり屋なんです」 「コンキチ!」 「なゆか、SliMEを使った通信は携帯の使えない場所でも可能ですけどわたくしは全て閲覧できますので留意しておいてくださいね。それとわたくしの渡したSliMEは全てわたくしに親権限がありますので変な事には使えませんわよ」 「はい(え、じゃあこれってSliMEもってる人みんなクリムゾン様に手綱握られてるって事? ちょっと怖いかな……でもSliMEなんてもの使うチャンス普通だったら絶対ないよね)」 「みだりに第三者に見せびらかす行為も出来ません。機密事項に反する行為は出来ないようにSliMEの設定していますので。MGM歌劇団の中にはロッカーに自分のSliMEを待機させてる子もいます。でもなゆか、貴女の場合力の制御の為にも肌身離さず持っておいた方が良いかと」 「あ~そうですね……(大丈夫かな? まぁなんとかなるかな)」 「なゆか、歌劇団に興味が湧いたのならいつでも言ってくださいな。貴女が輝ける舞台用意できますわよ」 「え!」 「ふふ……思いっきりその力を解放して自分を表現する所を想像してみなさい」 「!!」 「本日はここまでですわね。フォックス、なゆかをマンションまで送りなさい」 「了解です!」 なゆかはカフェの研修、歌劇団の舞台鑑賞、SliMEと怒涛の体験に目が回りそうだった。フォックスこと狐理子の用意した車に乗り込む。 「あ~……色々な事がありすぎて頭整理するの大変だよぉ」 「そうだろうね……そういう時はSliMEに情報整理させて置くといいよ。携帯より感覚的に操作できるし」 「へぇ~そういう使い方もできるんだ」 「ダンスレッスンのサポートとか舞台のセリフとかショーの歌の歌詞とか色々出来る」 「えーマジ!? めっちゃ便利じゃん!」 「……なゆかって清楚系お嬢様だって印象なんだけど結構大胆ではっちゃけてるよね?サイバーゴーグル男の事あったのに平気で面接受けてるし、オーナーさん相手にあんなに堂々としてるのも逆に怖かったし」 「めちゃくちゃビックリしてたよーでも絶対受からなきゃってそっちに集中してたらなんか乗り切れた。それとクリムゾンさんってそんなに怖いかなぁ? 只者じゃないのはわかるけど近寄りがたい雰囲気じゃないし話しやすいし美人でカワイイし」 「か、可愛い!? そ、そんな畏れ多い……」 「え~?」 「やっぱりオーナーさんが選んだ子は只者じゃないってことだね……」 「狐理子さんもでしょ~忍者なんだし! ニンニン!」 アニメで見た忍者の印を結ぶなゆか。 「ニンニンとか言わないよ!」 「あれ、そういえばござる口調じゃないね? なんで?」 「あれは任務中なので別人になりきってんの。【フォックス忍法なりきりの術】でね」 「フォックス忍法!?」 「あ、また説明しなきゃ……」 「いいじゃん! ねぇ狐理子さんもっとお話しよ? 時間は大丈夫かな?」 「今日はもうこれであがりだから空いてるけど……なゆかは明日大学あるんでしょ?」 「明日出る授業は10時からだし平気平気」 「じゃあ……いいよ」 「やったぁ! ねえ、わたしの家でいいよね? お金ないからコンビニでお菓子買えないけど……水なら飲み放題だよ」 「も~しょうがないなぁ私が奢ってあげるよ、コンビニ寄って行こ」 「いいの? じゃあお言葉に甘えちゃおうかな?」 「……なゆかはズルいよね」 「え?」 「その声とその容姿でそんないい方されたら……もう」 「え~?(力漏れてるのかな? ポポリンどうかな?)」 『いじょうなし! いじょうなし!』 「狐理子さんの事とか歌劇団の事とかいっぱい教えてよ」 「ま、まぁ話せる範囲でね」 続く。
Aug 17, 2025
コメント(0)
ラビット・アンダーグラウンド2話 「すみませーん」 LavaGardenの分厚いドアを開けるなゆか。内側には防音素材が取り付けられており、夜はクラブに変わるというのがすぐに理解できた。 「(絨毯フカフカで高そう~照明も落ち着いてるし)」 LavaGardenに入った瞬間別世界だと感じた。 「お待たせしました。1名様ですか?」 受付カウンターのカーテンの奥から顔が小さくて目鼻立ちが整った背の高いスラックスの女性が現れた。 「いえあの……面接の約束をしている藺藤なゆかといいます」 「そうでしたか、お聞きしております。では先にIDの確認をさせていただきます、当店の決まりですのでご了承下さい」 なゆかは右手の甲に生体フィルムで張り付けてあるIDチップを従業員の女性に見せる。従業員は携帯をかざして読み込む。 「確認できました、それではこちらにどうぞ」 受付カウンターの横の扉をあける従業員。中に入ると絨毯の敷いていない通路に出る。バックヤードだと解った。廊下の一番奥にエレベーターがある。 「こちらの部屋でおかけになってお待ちください」 エレベーターの手前の扉に通されるなゆか。中はオフィス用の机と椅子とモニターがあった。入口側の椅子に座るなゆか。 「お待たせしました」 現れたのは眼鏡をかけた黒髪でショートカットの中年女性だった。高そうなスーツに手にはタブレット端末を持っている。なゆかは立ち上がる。そういえば自分の眼鏡は割れてかけてないなとなゆかは思った。 「では早速面接を始めます」「お願いします」 二人とも席に着く。 「私はLavaGarden昼営業カフェ担当の責任者・丹羽省羅(にわしょうら)といいます。藺藤なゆかさん。履歴書拝見致しました。昼営業のホール希望ということですが、週にどのくらい、何時から入れますか?」 「授業無い日なら開店時間から入れます。それ以外は16時からなら入れます」 「……なるほど。LavaGardenがどのような店かご存じですか?」 「ええ、大体……実際来たのは初めてですけどサイトを見てすごく興味を持ってここで働いてみたいと思ったんです」 「LavaGardenは誰でも働けるとお考えなら止めておいた方がよろしいですよ。この店にふさわしい従業員になっていただく必要がありますので研修は厳しく辛いと感じるかもしれません。それでも働いてみたいですか?」 「働きたいです!」 「お客として来店されたこともないのでしたね。ではこれからわたしと一緒に店で何か食べながら面接の続きをしましょう」 「はい!」 丹羽省羅の目は鋭くなゆかの一挙一動を観察しているように見えた。 「(これも全部面接なんだよね? うわ~絶対受かりたい~)」 「代金の心配は無用ですよ、気にせず楽しんでください」 「(LavaGardenの面接って毎回ご飯奢ってくれるのかな? いや、違うこれは面接が進んでると考えていいのかも? 見込みありそうって思われてる? 食事マナーとかこれから見られるのかも?)」 丹羽省羅となゆかはLavaGardenの1階の中央のテーブルに着く。 「好きなもの頼んで良いですよ」 「え、え~それでは……」 テーブルにある液晶パネルを見るなゆか。 「(食べやすそうで気になるのは……くぅ~カヌレ気になるけど食べにくいし……ミルフィーユ、サントノーレ、タルトタタン、ムースケーキ……マカロン!マカロンなら食べやすそうだし決めた!) 「私は本日のコーヒーを。貴女は?」 「では……マカロンとミルクティーでお願いします」 待つ間丹羽省羅はなゆかのアルバイト経験や得手不得手などを質問した。 「お待たせしました。本日のコーヒーがおひとつ。マカロンとミルクティーがおひとつ。以上でよろしいでしょうか?」 運んできたのはスカートの従業員。歩き方、注文した品の置き方、表情、その辺のカフェとは違うとなゆかは感じた。 「(え、凄い……店の人みんな綺麗だし仕草も優雅だし……)」 「どうぞ、藺藤なゆかさん」 「あ、はい、いただきます」 丹羽省羅はコーヒーを飲みながらなゆか観察し機を計りなゆかに質問をしていく。 「(マカロンめちゃくちゃおしゃれでかわいい!この銀のお皿も高そう! ミルクティーのカップとポットも絶対凄い品だよ)」 丹羽省羅に視られて緊張していたなゆかであったがマカロンを一口齧った瞬間気にならなくなった。 「(えー! 美味しすぎる! ミルクティーも凄くいい香り……!)」 なゆかが食べ終わるとここで本日の面接は終了と告げられた。合否は次の日に連絡すると言われた。 「(めちゃくちゃ美味しいもの食べて飲んでおしゃべりして終わったんだけど……受かってるといいなぁ)」 時刻は18:50。後10分でLavaGardenの夜営業が始まりクラブに変わる。 「(LavaGardenのクラブってどんなのかちょっと気になる……2階も見て見たかったなぁ)」 店の外は既に薄暗かった。 「あ、そうだ何か丹羽さんに渡されたんだった」 丹羽省羅が面接終了時渡したのは1枚のカード。LavaGardenの会員証である。登録すれば様々な特典を得られる。 「コンビニのイートインでゆっくり見よ」 ・カフェ会員はポイントが貯まる。限定メニューの予約ができる。・クラブ会員はLコインの購入ができる。ショーの配信を視聴できる(Lコイン使用) 「う~ん……細かい規約はいっぱいあるけどざっくりと覚えておくのはこの二つかな。お酒はまだ飲めないけど18歳だから一応クラブ会員にはなれるんだよね……ここで働けなくても気になるしカフェもクラブも会員登録しちゃお、無料だし」 なゆかはLavaGardenの会員証は紹介でしか手に入らない事を知らなかった。丹羽省羅がなゆかに会員証を渡したのは既に気に入られている証だった。 バス停に向かうなゆか。周囲の人々の視線が自分に集まっているのを感じる。 「え……? なんか私おかしいかな?」 ビルのガラスに映る自分の姿を確認する。1周回って見るも変わった所はない。 「どこか破れてたりなんかついてたりしてんのかと思ったじゃん……」 バスの車内でも視線を感じた。 「(え~? なぁんで~? 絶対おかしいよ)」 マンションの自室に帰るなゆか。割れた窓を修繕したガムテープを見てどっと疲れが押し寄せてきた。リクルートスーツを脱いでベッドに倒れこむ。 なゆかが目を覚ましたのは翌日の正午だった。 「えええええええええっ! 寝すぎじゃん! 午前の授業終わってるじゃん!」 ベッドから出るなゆか。玄関のチャイムが鳴った。 「え、え、ちょっちょっと……」 モニターで確認すると作業服を着た女性が社員証を向けて立っている。 「モニターのスキャンを押して……と」 管理人が呼んだ修理業者だった。IDの確認を終えオートロックを解除する。なゆかはあわてて洗面所に駆け込み顔を洗って歯を磨く。 「そうだった、管理人さんに頼んでたんだった! え、あ、じゃあ授業行ってたら修理また後日になってたって事!? え~? 私そんなテンパってて予定入れてたんだ……」 修理業者の女性が上がってきた。作業は30分ほどで終了、なゆかは書類を確認してサインする。 「……今の業者さん会った事あったかな?」 初めて会った気がしなかった。 *** なゆかの部屋の窓修理を終えた女性は軽バンに戻り電話をかける。 「作業終わりましたよ」 『ご苦労様』 「ちょっと焦りましたよ。いや、自信はあったんですがバレないかドキドキ……」 『わたくしのスライムの変身能力と貴女の忍法合わされば余程の事がない限り大丈夫ですわ』 「だってあの子……」 『解ってますわ。フォックス、戻って来なさい』 *** 大学で遅めの昼食(家から持ってきたおにぎり)を食べ終えた時にLavaGardenからメッセージが入った。採用通知だった。研修等の説明がある為連絡が欲しいとの事。 「やったぁ! 採用! 早速今日の夕方行こう」 「なになに? どうしたのなゆか?」「藺藤さん?」「採用って?」 ダンスクラブの友人が寄って来る。いつもにもまして距離が近くなゆかに過剰とも言えるくらい今日は触れていた。 「(なんか今日みんなすごいくっついてくる……なんで?)」 「絶対眼鏡しない方がいいよなゆかは」「ダンスの時もいつもしてるもんね」「きょうはなんでしてないの?」 と、鈴木真亜子、佐藤実衣、高橋夢生が言った。 「えっと……(うっかりしてた! 眼鏡割れたからかけてない!)バイト受かったんだ」 なゆかは顔をさわって眼鏡が無い事に今更気が付いた。 「そーなんだ!」「へぇ~どこ?」「何で急に?」 纏わりついてくる友人に簡単に部屋の状況を説明してバイトをする経緯を話した。 「災難だったね! でもLavaGardenって超高級店じゃん!」「すご……良く受かったね」「行ってみたーい!」 「う、うん今日授業の後研修なんだ~だから部活は今月は参加できないかも」 「事情が事情だし仕方ないね」「え~残念……」「お店の事話してね!」 後ろの鈴木真亜子はなゆかにもたれかかり腕を肩から前に回している。右の佐藤実衣はなゆかの腿に手を乗せ、左の高橋夢生はなゆかの手を握っている。 「(わ~絶対これサキュバスハーフの力漏れてるよ……LavaGardenに受かってテンション上がっちゃったからだ眼鏡もつけてないし……女子大でこれだから共学なんて通ってたら……ヤバ……)」 午後の授業の後、帽子を目深にかぶり視線を下に誰とも顔を合わせないようにして自宅マンションに帰る。そのままLavaGardenに向かおうとも思ったが着替えたかった。 「パーカーは……ちょっとLavaGardenに行くにはおかしいかな。通勤の時になるべく顔隠したいし……日傘は暗くなるとおかしいし……うぅ、残り僅かな携帯のチャージでコンビニの安いサングラス買うしかないのか……や、でも安いサングラス買うくらいなら」 なゆかはバキバキに割れた眼鏡を取り出し指で押してレンズを無理やり外す。 「紫外線カットは無くなるけどどうせ伊達メガネだったしこれでいっかな、いいよね」 太いフレームの大きな黒縁眼鏡。嫌いだけど今はこれにすがるしかない。眼鏡をかけることで『自分は清楚でおしとやかな女性』と自己暗示をかけ意識できる。そうすればサキュバスハーフの力も抑えられる。なゆかは肩部分がレースのダークネイビーカラーのワンピースに着替えて家を出る。 LavaGardenに到着すると受付のカウンターには丹羽省羅が待っていた。 「今日はオーナーと会っていただきます。それから研修です」 「あ、はい」 前回同様にバックヤードからエレベーターに乗る。今度は4階に。降りると目の前には監視カメラと物騒な武装タレットが見えた。 「(え! あんなの警察署とかでしか見た事ない)」 「さぁ、入りますよ」 丹羽省羅が手をかざすと扉は左右に開く。中は半円形のソファが置かれ大きな低いテーブルにホログラム装置がおかれ監視カメラの映像と思われるものが浮かんでいた。ソファに座って眺める深紅のドレスの女性とパーカーを羽織った小柄な女性が横に立っていた。 「省羅、ごくろうさま。藺藤なゆか、こちらに来なさい」 深紅のドレスの女性の顔はなゆかからはホログラムで隠れて見えない。 「はい(すごく良く通る声……)」 ソファに近づくと背中に悪寒が走った。深紅のドレスの横にいる小柄な女性の鋭い視線が刺さっているのだとなゆかは気が付いた。 「(え~? なんかすごく怒ってる? あの子……あんなにかわいらしいのにすっごい目力……)」 「ハート、大丈夫ですわ」 「承知致しました」 ハートと呼ばれた小柄な女性はなゆかから視線を外す。 「(ハートさんって子、声カワイイ……)」 「おかけになって、藺藤なゆか」 「し、失礼します」 深紅のドレスの女性の斜め向かいに座るなゆか。大きな目に長い睫毛、小さな顔。小柄にも関わらず存在が大きく見える。深紅のドレスが恐ろしく似合っているとなゆかは思った。 「わたくしはこのLavaGardenのオーナー、クリムゾン」 昊菜は本名の秋馬昊菜をここでは名乗らない。 「藺藤なゆかです。あの、採用してくださってありがとうございます」 「ええ、省羅からいい子が面接に来たって聞いたので貴女と省羅の面接を見させてもらいました。わたくしも貴女を気に入りましたの。それに縁もありましたので」 「縁ですか?」 「貴女のお住まいのマンション、あのオーナーもわたくしですのよ。紅星女学院大学の理事長とわたくしは知り合いですの」 「ええ~! そうなんですね」 「わたくしが惹かれたのは貴女の容姿、声、仕草、品性……それと特別性ですわ」 「特別性とは……」 「自分でもお気づきでしょう? 魔の力が備わっている。隠さなくても大丈夫ですわ、わたくしも人ではありませんもの」 昊菜は全身に取り付いている神名来夢(Super Life Medical Equipment通称SliME)を顔部分だけ解除してルビー色の骸骨を露出させる。 「あぁっ!」 「流石に驚きましたね。これがわたくしの姿です。纏っているメカスライムで以前の姿を再現していますの」 「は、はぁ……」 あまりの出来事に動悸が激しくなるなゆか。昊菜は顔を戻す。 「このLavaGardenでは人外の者は珍しくありませんの。オーナーのわたくしはもちろん、このお付きのカワイイメイドのハートも、従業員の何人かも人外です」 「それは凄いですね……」 「ふふ……今まで人外とは会う機会に恵まれなかったようですね。特に今の時代サイバネが居るおかげで目立たなくなってはいますので。それで、貴女はどのような人外ですの?」 「それは……」 なゆかは正直に話すべきか迷った。初対面の人間に話していいものか。しかしオーナーは自らさらけ出して見せた。嘘を言っても見抜かれる気がする。 「あの……サキュバスってご存じですか?」 「もちろん」 「私はサキュバスハーフの力を持ってまして……」 「聞かせてくださいな」 続く。
Aug 11, 2025
コメント(0)
全4件 (4件中 1-4件目)
1


