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DHHU外伝その8 「どけ!」 「それはできませんねぇ……私は白魔女ですので」 「なんだと!」 慌ててジェイソンはカバンから銃を取り出す。 「ははは……グレイ・イーターから聞いているようですねぇ。詰みですよ貴方」 「なんだと! 奴は、グレイ・イーターはどうした!」 口を拭いながら震える手で銃口を向けるジェイソン。 「破れましたよ、私が手を下す前にね。だから私はグレイマンの契約者であるあなたを処分しに来たのです」 「だから俺の食欲が……」 「いやー苦労しましたよ。グレイ・イーターってば何の変哲もない人間を選んだんですもの。探すのが大変で! 普通契約者は自分に合う実力者を選ぶ者なんですがグレイ・イーターの場合食欲の強さだけで適当に選んだんでしょうねぇ」 「なんだと!」 「だってグレイストームは最強の異能者(杉田幻赫)と契約、グレイビーストは最狂の術師(神名L咲夜)と契約、グレイキャリバーは最高のサイバネ適合者(兜金蒐魅)と契約なんですよ?グレイ・イーターだけお粗末すぎでしょう」 「バカにしやがって! 撃たれてぇようだな!」 「やめといた方がいいですよ? 大人しく私にやられた方が楽に死ねます」 「黙れぇ!」 銃を撃つジェイソン、3発の弾丸がグラスを襲う。しかし弾丸はグラスの前で消失した。 「は?」 「弾丸、食べさせましたよ私のカワイイ白飛蝗に」 グラスの右手には3匹の白飛蝗が跳ねていた。 「ジェイソン・プライスさん、貴方を始末した後はグレイ・イーターの残骸を回収しないといけないんですよ。後は私の契約者に奉仕もしなきゃだし忙しいのです」 弾丸めいて白飛蝗が飛び出してジェイソン・プライスの喉に突き刺さる。 「ぐげええええええ……」 突き刺さった白飛蝗は肉を食い千切って飛び出す。 「なんとも呆気ない。わたしとしては実力伯仲のバトルの末に斃したかったのですが……まぁ役割を果たせたのでいいとしますか」 喉の肉を食い千切られたジェイソン・プライスはあっという間に出血多量で意識を失い絶命する。 「さてさて連絡……と。ああセレスティア……終わりましたよ。ええ、残骸の回収に向かいますヘリポートで待ち合わせしましょう」 *** グレイ・イーターが爆発四散した現場にはTMIのエージェント、地元警察、軍がエリア封鎖をしていた。 「グラス、来ましたね」 戦闘スーツを身に着けたセレスティアが言った。 「グレイ・イーターの契約者のジェイソンを跡形もなく白飛蝗で食い尽くしました。これでグレイ・イーターはこの世界から消えました」 「それでこれからグレイ・イーターの残骸を残らず白飛蝗で回収するのですね?」 「ええ、これが私がアンチアタッカーとして白魔女から派遣された理由です。食い散らかして成長を続けるグレイ・イーターに対し私の白飛蝗は食べて回収する。データとして白魔団に保管されます」 「TMIのハリー・ハーマンはどうなるのかしら? 彼はグレイ・イーターに異能を喰われましたよね」 「白魔女の一員になるでしょうね。つまり魂は回収され過去現在未来どこかでグレイマンのアンチアタッカーとして召喚されることになります。みなさん勘違いされてるようですけどただの道具になり果てる訳じゃないんですよ? ある意味不老不死で行けないはずの過去未来の世界を体験できるのですから。まぁ経験したことは次の召喚時に持ち越せないので本体の魂から必要最低限しか得られないので……夢で見たとかそのくらいのぼんやりしたものになるんですがね」 「あなたはどの位召喚されたのです?」 「それもボンヤリしてるけど今回が初めてじゃないのは解る。えっと白飛蝗の収集したデータから……西暦220年頃と……949年と……今回かな? だからまぁ過去にしか召喚されてないね」 「前から疑問に思ってたのだけど、220年頃に白魔女の組織はなかった訳でしょう? どうやってグレイの出現を察知したの?」 「それねぇ……奴らが過去に干渉するからこっちも追えるようになるんですよね。この星が奴らを排除しようとしてるのかも?」 「へぇ……」 「おっと神名一族の君にこんな話したらどうなることやら。まあでも白飛蝗の研究は頑張ってよ。ワタシは弟子がいなかったからこの魔法は1代きりでね、君は科学者だけどワタシの魔法を再現してくれるなら嬉しい事だよ」 「白飛蝗は私ではなくアデルがやるでしょうね。得意分野ですから」 「あぁ君のパートナーのアデル・ホワイトね。なるほどなるほど……彼女が神名一族でない理由は……ふむふむ、そうか君の都合か。人類最高峰の頭脳を持つ彼女さえも神名の実験対象ね」 「あなたがこの世界の人間なら神名が居場所だったでしょうねグラス」 「そうかもねぇ……いやでも君のような同族に監視されたり粛清の対象になったりするのは怖いなぁ……杉田(神名)幻赫(げんかく)が排除されたのもTMIを利用して一族の誰かがその流れを誘導したんでしょ?貴女もアデルの事があったとはいえ一枚噛んでる」 「……少し違いますよ。私のオリジナルは既に死亡していますし今の私は神名であってもかなり特殊な存在です。むしろ私が実験対象ですよ」 「いやぁ~怖い怖い……君たちがいる世界じゃあワタシは楽しく生きれないよ。さっさと使命果たしてこの世界からおさらばしますよっと」 「この時代のグレイらはあとどのくらい居るんですか?」 「そうだねぇ……グレイストーム、グレイキャリバー、グレイビースト、グレイ・イーターと4人撃退したから……あと3人かな? 大体いつも7人組だから。ほらあの7つの大罪に当てはめればいいんじゃないかな?」 「傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲ですね」 「そうそれ。傲慢がグレイストーム。憤怒がグレイキャリバー。強欲がグレイビーストで、暴食は解りやすいグレイ・イーターだね」 「では嫉妬、怠惰、色欲に当てはまるグレイがまだ残っていると。もしくはこれから襲来すると」 「だねぇ、これ以上はワタシも知らないよ。誰が白魔女に選ばれるか何処にグレイが出現するか何てのは見当もつかないね」 「グラス、貴女の話は大変参考になりました」 「まぁ頑張ってよ。7人撃退したら100年くらいはもう来ないじゃないかな」 手を上げてグレイ・イーターが爆散した地点に向かうグラス。セレスティアは顎に手を当て思考をめぐらせる。外殻脳のClalaにグラスとの会話を保存させる。アジトの不動G了痲に指示をしてアデル・ホワイトに会話のデータを送信する。 『プランBを実行……オーグル兵計画を保留させGR計画を発案。バイオプリンターのデータを切り替え……インプラントドライバーの試作を実行……』 アデル・ホワイトから連絡が来た。 「了解アデル」 セレスティアの目が緑光のプラズマめいた光を放つ。その顔は笑みを浮かべていた。 *** 数日後。 ―――TMI合衆国支部。 「HAHAHAHA! おはよう諸君!!」 左手を上げて大声で入ってきたのは再起不能になったはずのハリー・ハーマンであった。 「ハリー君!? 何故ここに!?」 ジェームズは声が裏返りそうになって言った。他のエージェントらもハリーを見て固まっている。 「アイスクラーピウスで治療を受け見事復活した! この装置を外すことは出来なくなったがね!」 コスチュームを捲り上げると腹部にベルト型の装置が取り付けられていた。 「ミスグラスの回収したグレイ・イーターの破片から私のデータを抽出出来たそうだ。それをこのドライバーに組み込んで脳の代わりとしているんだと」 「そ、そうか……君が戻ってきて何よりだよ。それで体調はどうなのかね?」 「体は絶好調だ!ただ以前に比べると欲というものが薄くなった気がする。その代わりストレスもほぼ感じなくなった。異能は使えるしドライバーが補助してるから無意識下でも発動可能になった。問題は定期的にメンテナンスを受けなきゃならなくなったことかな」 「本部には入れるかね?」 「それが……どうも駄目でね。本部の大いなる意思は復活した私をハリー・ハーマンとは認めてくれないのだ。まぁ一度死んだともいえる身分だからなHAHAHAHA!という訳で合衆国の支部長は他の者に任せたい」 「解った、そうしよう」 ジェームズは目の前にいるハリー・ハーマンを見て不安にかられた。本当に目の前の人物はハリー・ハーマンなのか。ドライバーが仮死状態のハリー・ハーマンを生きているように動かしているだけではないかと考える。 ジェームズは試しにハリー・ハーマンにテレパシーを送ってみた。返ってきたのは―― 「jieout@qouitbqeo[@o,wjinoqyarumciytqcynunmc@ty9vuok[hjioshgn9ej4-」 意味不明の羅列であった。 「(ハリー・ハーマンの監視を怠らないように)」 ジェームズは本部のTMIエージェントらにテレパシーを送った。 *** 日本に戻ったUチームのアリナ、フローレンス、哿。 現場とUチームに拘る哿は日本支部所長ではなく所長代理となり、新たに本部から派遣されたカテゴリー4のテレパスの苗木凛呼(なえぎりんこ)が就任した。カテゴリー5のテレパス苗木來美(なえぎくみ)の従妹である。 「哿さん、フローレンスさん、アリナさん。今日は納斗幼稚園での仕事です」 凛呼は手元の端末の画面を宙に表示する。 「皆さんもご存じの通りこの幼稚園は異能者の為の者です。クソ生意気なガキがいっぱいいますが宜しくお願いします。まぁ話を聞かせるだけなのですぐ帰れますよ、どうしても躾が必要ならその時は……現場のあなた達に任せますね!」 かなり毒のある言い方をする凛呼。 「凛呼さん、躾とは?」アリナが手を上げて言った。 「解らせてやればいいんですよ。アリナさんなら安心して任せられます、ガキどもが何をしようとアリナさんに何も通じない事を見せつけてやってください。死なないように指導すればほらフローレンスさんも居ますし邪魔なガキは哿さんが上空にテレポートさせればいいでしょう」 「なんか子供に怨みでも?」「凛呼さん!?」フローレンスと哿が声を上げた。 「まぁまぁ色々とあの幼稚園ではありまして……私は二度と行きたくないです」 「わかりました、子供たちを黙らせればいいのですね? TMIエージェントや大人を舐めるとどうなるか思い知らせて欲しいと」 「そうです! アリナさん! ガツンと見せつけてやってください!」 「では……特上寿司30人前とウルトラデラックスピザ30人前とステーキ10㎏をお願いします」 アリナは平然と言い放った。 「え?」 苗木凛呼は固まった。その様子を見てフローレンスと哿は微笑んだ。 *** ―――オータムホースシティ。 第二地区にあるビルの1階部分にミラージュ探偵事務所がある。そこにリティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲ、宗像刀耶、立花冥珂の姿があった。 「やっぱりここが一番落ち着きますね」 リティーシャは完全紫外線カットの透明バブルヘッドヘルメットのストロー挿入口からミルクを吸い上げて言った。 「そうだなぁ……しかし溜まってた仕事多くて疲れたぜ」 ソファに寝転がる刀耶。 「探偵も面白いもんやねぇ」 煙の出ないタバコをキセルで吸いながら冥珂は言った。 「ネコ探し5件、浮気調査3件、盗聴盗撮の調査10件、人探し2件……師匠の魔法のおかげで随分と捗りましたよ」 リティーシャはキーボードを叩いて書類をまとめている。 「噂の調査はしねえのか?」刀耶はリティーシャを見て言う。 「怪人とか院瀬見の陰謀とか闇組織LOKIとか伝説のドラゴンとかそういうのですよね? これらは依頼はなくても情報収集はしてますよ。師匠の気にしている魔女の事も。溜まっていた依頼が終わりましたしそろそろ魔女探し始めましょうか。まずは……第6地区のG/Tの兜金大河に話を聞きに行きましょうか」 「G/Tってヤベェ半グレチームか。フル装備で行かねえとな」 「急にひりつくお仕事やね。ええよバチボコにかましたろうやないの」 「いや、トーヤも師匠も殴りこみに行くんじゃないですよ?」 「でもぜってぇバトルになるぜこういうのは」 「せやな、お約束っちゅうやつや」 「……まぁその時はその時ですね。第6地区ですし安全装備で行きましょう」 *** ――オータムホースシティ郊外。北部の山中。 「イア、ムナル、ウガナグル、トナロロ、ヨラナラーク、シラーリー!」 DMCの生き残りの信者である傅いている男は声を絞り出した。 山羊の角を生やした漆黒の泥のような衣纏った女が地中から現れた。 「あれだけいたサテュロスもお前ひとりとなってしまったな」 「おお主よ、黒山羊の魔女ニグラスよ。しかし貴女さえ存在していればいくらでも再起は果たせるでしょう」 「もはやあの街は秋馬光鴨の一強ではなくなった。身の振り方を考えなければならない。そして我が子を産むに値する者を探さなければならない」 「お任せを我が主。サテュロスではありませんがDMCの信者はまだ残っております。手を尽くして必ず探し出します。あの街はオータムホースシティ、必ずや適合する者が存在する事でしょう」 「慎重に事を運べ」 「は!」 魔女は苦々しい記憶を思い返す。龍人(諸田和音)と白魔女エイリアン(柄留)によってDMCを壊滅させられた。残党は居るものの以前のようには動けない。台頭してきた闇組織LOKIへの対抗手段も考えなければならないからである。 魔女はサテュロスと呼ばれる自らの力で変身させた怪人を再び増やそうとしたが質のいい者は作れず、結局は暴走し警察やLOKIに始末される事となった。組んでいる秋馬光鴨は強気の態度でいるが和音と柄留、LOKIによって屋台骨は揺らぎつつある。ヒーローとヴィランのダブルスタンダード計画も頓挫した。秋馬光鴨を当てにせず魔女の考える次なる一手は自らの子を産む事。超人的な力を持つ子を産み絶対的なヒーローとして街のシンボルとして君臨させる計画。 残った優秀なサテュロス最後の一人は戦闘力はそれほど高くないが慎重で臆病でずる賢く生き残る術に長けている。信仰心も強く暗躍させるには丁度良かった。 *** ―――オータムホースシティ第1区。市庁舎市長室。 市長・大武秀義は市長室に集まった屈強な男女に向かって視線を送る。 「近い将来、勢力図が入れ替わる予感がするな……第1区から第6区まで動きを見逃すなよ?最後に笑うのは我々鬼衆だ。この秋馬原島は鬼が島とするに為にな」 「市長、例の龍の対処は……」 「考えてある。奴がこの街に再び来た時の為にな……恐怖と暴力だけじゃあこの街は支配できん。籠絡させるのも手よな」 「神名はどうしますか」 「これまで通りの関係で良い。『吉備真備と友好関係を築いた温羅』みたいなものと考えろ」 「はは!」 DHHU外伝グレイ・イーター編 完
Jun 13, 2025
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DHHU外伝グレイ・イーター編その7 「リティーシャ、ハイパーレールガンの調整はどうだ?」 施設に到着してから24時間。刀耶は作業中のリティーシャに声をかけた。 「試射が出来ないので確実とは言い切れませんが……理論上完成です!」 「おお! これでハイパーレールガンにストライクスマッシュを乗せれるのか!」 「はい、でもこれは第2射は考えない方が良いです。チャージに時間がかかり過ぎます」 「そうなのか? ハイパーレールガンてそんなに使い勝手悪いのか」 「いえ、ハイパーレールガンは16発まで連射出来ますよ。問題はストライクスマッシュのエネルギーを弾丸と本体にチャージしないといけないのでそこに時間がかかります」 「どの位?」 「約5分ですね。トーヤのエネルギーをナイトケースが変換、それからハイパーレールガンに充填ですのでどうしても……」 「つまりハイパーレールガンの図体に対し俺が小さいから時間かかるって事か。電池みたいに俺のエネルギーをどこかに溜めて置けねーか?」 「う~ん……ナイトケースの予備部品とわたしのナイトケースハートを使ってもう一回分くらいはマガジンとして溜めておけるかも? でも電気とは違って長い時間置いておけないですよ。ストライクスマッシュを放つ前の状態で維持し続けると考えればよいかと」 「マジかよ……じゃあ作戦の少し前にチャージしておくのが限界か?」 「そうですね……しかしそうなるとナイトケースハートも予備も使えなくなるので何かあった時に困ります」 リティーシャは奥の手がある事は言い出せなかった。自分が血液を摂取して本来の姿に戻れば刀耶が撃った後にすぐに代わって撃てるという事を。 本来の姿に戻るということはヴァンパイアとしての覚醒状態になること。血の衝動を押さえるためにこれまでミルクで済ませていたリティーシャは覚醒状態から戻れなくなるのを恐れている。戻れなくなれば討伐対象リストに入るかもしれないそうすれば元の生活に戻る事は不可能となる。 以前オーグルの研究者を止めるために最後の手段で血を数滴接種した。高揚感万能感に加え血への強烈な渇望。自分が自分でなくなってしまうかのような感覚に恐怖した。 「トーヤ……あの」 「ん?」 「もしもの時は……」 「あん? ……あーまぁ、やっちまえよ! 俺はそれもお前だって解ってるぜ」 刀耶はオーグル事件の後リティーシャと話しあったことを思い出した。 「あの時はそうするしか無かった、だからお前はそうした、その選択に俺は文句言わねえよ。それに……今回は冥珂さんもいるし」 「そうですよね……師匠がいれば……でもトーヤに迷惑が……」 「なーに言ってんだ! 今更だぜこうなったらとことん付き合ってやんよって前にも言ったろ? 俺がそう決めたんだお前が責任感じる事はないぞ。 グレイ・イーターをぶっ斃さなきゃ合衆国は終わりなんだやれる事全部やろうぜ!」 「トーヤに出会えて本当に良かったです。本当ナイトケースが導いてくれたのかもしれませんね」 「照れくさい事急にいってんじゃねえよ……」 *** グレイ・イーターは東に進み続け合衆国中部に到達。体長は60mこの頃になると無差別に食い散らかすのではなくより効率の良いものを摂るようになっていた。 TMIは作戦開始地点に待機。ハイパーレールガンの準備は既に完了。 「グレイ・イーター作戦開始地点に到達! 作戦開始!」 TMI長官ジェームズの号令で全員が動き出す。TMIのエージェントはグレイ・イーターに対しV字に配置、冥珂に渡されたアイテムを手に持っている。 スケートボードのように箒に乗る冥珂が飛び出す。グレイ・イーターに迫る。 「小賢しい魔女め……お前が何をしようとも止められんぞ」呻くグレイ・イーター。 「それはどうやろな?」 カードが冥珂の胸から飛び出し青白い閃光6本がグレイ・イーターに向かって放たれる。分厚い金属製の装甲を削るがすぐに再生を始め元に戻る。 「無駄だ!」「無駄やないで、今のはチェックしただけや!」 グレイ・イーターから放たれる瓦礫弾を回避する冥珂。 「これでもくらえ! サイコビーーーーーーーーーーーーーーーームゥ!!」 「待ってたで!」 サイコビームは冥珂に命中したかと思われたが取り出したマジックコンパクトの鏡によって散らされる。散ったサイコビームは周囲に配置されたTMIのエージェントの持つマジックコンパクトのコピーに吸い込まれるように引き寄せられ反射する。事前にTMIエージェントに配ったこのマジックコンパクトはリティーシャがナイトケースのパーツを使って作成したものであった。 「倍返しや!!」 サイコビームのエネルギーは収束して冥珂のマジックコンパクトから放たれる。 「ナニィ!?」 グレイ・イーターの右腕に命中し肩まで砕け散る。 「どや! サイコビームはもう効かへんで! なんぼでも跳ね返したる!!」 「ガアアアアッ! 鬱陶しい! 他にもいくらでも! 攻撃方法などあるわ!」 崩壊した腕を尾で拾い貪り喰う。みるみるうちに再生する右腕。 「今度は……広範囲の物理攻撃ならどうだぁ!」 大量の土砂を吐き出すグレイ・イーター。しかしそれらはTMIエージェントの前で映像停止のように止まった。 「ハァ!?」 「この場にどんだけサイコキネシスが集まってると思ってんねん! ジェームズのテレパシーの指示とエージェントらの連携や!」 土砂はグレイ・イーターの足元目掛けて放たれる。 「ぬ、なんだ足元が……」 集まった土砂は高速回転して地面を削っていく。その操作の指揮をとっているのはエアロキネシスの早乙女ルキナ、ジェームズはテレパシーと他のエージェントとの接続で脳を焼かれるような感覚に耐えながら鼻血を出しながらルキナと共同作業でグレイ・イーターの足元の地面を削る。 「いいぞ、このまま奴を足止めするんだ!」「ええ!」 ジェームズが叫ぶ、合わせるルキナ。その後方にはUチームのアリナ、フローレンス、哿。 「ええい! ごちゃごちゃと! こうなったら!」 口を開くグレイ・イーター、3m大のこれまで飲み込んだ物で出来た翼竜を放つ。 「やっぱり出してきた! 動けんようになったら遠隔操作できる体を使って来るってのは想定済みやで!」 TMIエージェントに向かって飛んできた翼竜を追う冥珂。 「行かせへんで!」「邪魔だぁ!」 火の玉を吐く翼竜、カードで打ち消す冥珂。 「くっ、中々やるようだがこんなものは所詮時間稼ぎ、消耗するのはお前たちの方が速い」 「そうやろうな、だけどまだまだ手札はあるで」 「だったらまずは魔女! お前から始末してやる!」 更にもう一体翼竜を出すグレイ・イーター。 「この高速空中戦闘での数の有利はどうする?」 「おっと、俺がいるぞ!」 ナイトケースを装着した刀耶が参戦、ボウガンを翼竜に撃ち込んだ。 「刀耶君!」「任せてくださいよ! コイツの動きの癖はもう大体わかったんで!」 球の動きで旋回する翼竜2匹、刀耶は動きを先読みしてボウガンを放ち命中させる。 「なにぃ!?」 「ヒット、ヒット! さぁ来やがれ!」 「クソがぁ!」 刀耶に挑発され翼竜の操作に集中するグレイ・イーター。巨大な本体は完全に動きを止めている。 「そろそろか……Uチーム、準備を!」「はい……」「はい!」「はい」 ジェームズはアリナ達に声をかける。 グレイ・イーター翼竜の攻撃を全て回避する刀耶。ナイトケースとのシンクロ率は過去最高数値を叩き出し刀耶は360度全ての景色が見えているかのような感覚を得ている。 「トーヤ……空中制御だけでも難しいのにあんな動きを! それにこの数値は……!」 青白い光を放ちながら加速するナイトケースを見つめるリティーシャ。 「当たれよおおおっ!」 火の弾を連射するグレイ・イーター翼竜2匹。むきになればなるほど動きは単純になり回避しながら反撃する刀耶のボウガンを受ける。 「クソがああっ!」 「(コイツの相手は問題ない、けどそろそろハイパーレールガンに戻らなきゃな! だけどどうするこの2匹を足止めしとかねえと……)」 「刀耶君、ここはアタシに任せとき!」 カードを使って使い魔の魔獣スフィンクスを自分の分身体に変身させた冥珂が叫ぶ。 「冥珂さん!」「3分くらいが限度やそれまでに頼むで!」 ハイパーレールガンに向かって加速する刀耶、追いかける翼竜2匹。その間に割って入る冥珂と分身体。 「邪魔だ魔女! お前から始末してやる!」 「簡単にはいかへんで!」 カードの自動防御とあらゆる衝撃から身を守る鎧を装着した冥珂。グレイ・イーター翼竜の連携と弾丸の速度で放たれる超高温の火の弾に冥珂が反撃する隙は無い。 「(これはキッツイわぁ!)」 刀耶はステルス迷彩で隠されたハイパーレールガンに到着。 「リティーシャ! やるぞ!」「トーヤ! すぐに発射準備を!」 発射装置に着く刀耶。 「後は……TMIのUチームが奴をダウンさせれば!」「そうです!」 哿の連続テレポートでグレイ・イーターの足元に移動するUチーム。目の前にはルキナらTMIエージェントが起こした土砂の竜巻、上では翼竜2匹と冥珂が空中バトルを繰り広げている。グレイ・イーターの本体は動く気配はない。 「ここから奴の顎を狙って粉砕します」 「ええ、そうですアリナ」「大丈夫ですよアリナさんならできます」 ゆっくりとしゃがむアリナ。 「二人とも離れて……」 アリナの周囲の空気が揺らめき虹色のオーラを放ち始める。 「90%……」 冥珂のかけた魔法によりガントレットとブーツは砕けない。アリナと共鳴するようにフローレンス、哿も虹色のオーラを放ち始める。 「安心してアリナ、貴女の体は壊させないから」 「安心してアリナさん、宇宙まで飛んで行かないように僕が絶対テレポートで戻しますから」 周囲のTMIエージェントが意識を失い次々と倒れ始める。Uチームのエネルギーに当てられしまったのだ。 「ぐぅ……このプレッシャー……アリナ君……私とルキナ君とて長くはもたないぞ……」 歯を食いしばって耐えるジェームズ。 「アリナ……頼んだわよ……」 大量の汗をかいているルキナ。 「95、96、97、98、99……100%」 虹色の光体となったアリナ。足元の岩盤に気を使いながらグレイ・イーターの顎を狙える角度を考えて足に力を込める。足に力を込めると岩盤が砕ける感覚があった、だが体を浮かせるに十分な加速が出せると思った。冥珂の魔法により崩壊しなかったブーツが功を奏した。 「時間が止まったかのよう……」 ゆっくりと足を踏みしめて地面から離れるアリナ。腰の横で右拳を握る。ガントレットは砕けない生身の手と同じ感覚がある。実際には亜光速の動作。 「……この一撃で敵の頭部は完全に砕く、後はハイパーレールガンにまかせる」 アリナの拳がグレイ・イーターの怪獣の顎を捕らえる。インパクトの瞬間衝撃がグレイ・イーターの頭部に伝わり崩壊する。 アリナの加速は止まらないそのまま上空に飛んでいくと思われたが次の瞬間水平方向に飛ぶ角度を変え緩やかに落下、地面に滑るように徐々に速度を落としグレイ・イーターから30キロ離れた地点で着地した。Uチームは異能者共有状態となった為、哿のテレポートがアリナの飛ぶ角度を変え移動させたのであった。 「これで後は……」 力尽きて倒れるアリナ。異能者共有状態のフローレンスと哿も離れた位置で倒れた。 「グオオオオオオ……」 首から上を粉砕されうつ伏せに倒れこむグレイ・イーター。アリナ達の一撃のパワーはグレイ・イーターの全身を駆け巡り大きなダメージを与えた。 「なんだ……何が起きた? 何で本体が倒れている?」焦るグレイ・イーター。 冥珂を攻撃していた翼竜の動きが止まる。「そこや!」冥珂はすかさず青白い閃光を放ち翼竜2匹を粉砕した。 その様子を確認した刀耶とリティーシャ。 「今だ!」「トーヤ撃って!!」 ストライクスマッシュのエネルギーが充填されたハイパーレールガンのトリガーを引く。轟音と共に超高速の弾丸が発射され横たわるグレイ・イーターの頭部を失った首に命中。 「―――――――!?」 撃ち込まれた弾丸はグレイイーターの体の内部を進みストライクスマッシュのエネルギーを拡散、全身に広がっていく。 「崩壊しますよ!」 リティーシャが叫んだ。 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!! そんなバカナぁああああああああっ!!!!」 グレイ・イーターの断末魔。巨体は爆発四散。 「やったぜ……!!」 虹色の光を放ちながらグレイ・イーターの巨体は散らばる。その様子を作戦に関わった全員が眺めていた。 *** NYのスペアリブ店で創業以来の大食いを披露している男が居た。名はジェイソン・プライス。ハイペースで食べ進めていたが突如体調に変化が訪れた。 「うぐ……」 「どうしたジェイソン! そろそろ限界か?」 店主は手が止まったジェイソンに向かって言った。それまで恐ろしいスピード食べ進めていたジェイソンが突如顔を青ざめたからだ。 「く、苦しい……ギブアップだ……」 ジェイソンはあと1個で30キロに到達するところであったがここで力尽きた。 「惜しい! いや、でも世界記録を10キロも更新したんだスゲーぞ!」 店主は手を叩いて祝福する。当のジェイソンは今にも意識を失いそうな顔だった。 ジェイソンは慌てて勘定を済ませ店を出る。 「(チクショウ……どうしてだ……あの野郎なにかあったか?)」 路地裏で吐くジェイソン。持っていた水で口をゆすぐと路地裏の奥に進む。 「やぁやぁやぁ……やっと探しましたよジェイソン・プライスさん」 現れたのは全身白の衣服に身を包み、虫の複眼めいた眼鏡をかけた女性、グラス。 続く。
Jun 2, 2025
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