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ラビット・アンダーグラウンド8話 ―――第二地区の裏路地にある小さな居酒屋。 「この居酒屋汚くて小さいけど焼き鳥がウメェんすよ!」 七曲キョウヤは勝手に狐理子の分まで注文しながら言った。 「どうでもいい、盗撮男はシンヤってホストから闇バイトの話を聞いた、その辺を話しようか」 狐理子はキョウヤを睨みつける。 「で、俺っちが何か関係あるとでも?」 「ホストのシンヤの兄というのはお前の事だろう。データベースで確認したぞ」 「確かに俺っちの弟はホストだ。だけどそれがなんで闇バイトと繋がんだよ? 弟の不始末を兄が何とかしろってのはちと強引すぎないかい?」 「盗撮男はお前にデータを送信したと言った。奴から回収した端末もある」 「ふぅん……それって俺っちも被害者じゃね? バカな弟に勝手にメッセージ送信先に使われてよぉ。あのバカは俺っちに送っとけば何とかしてくるとでも思ったんだろう」 「お前が被害者ぶるのは勝手だが盗撮問題に対処しなくてならないんだ解るだろう?」 「何をしろと?」 「……この流れにもっていく算段だったんだろう? 自分が話し相手で良かったな。ハートさんはお前で遊びたくてウズウズしてるんじゃないかな、すぐに呼ぼうか?」 「おーっとっと……あの人は勘弁して欲しいっすねぇ」 「お前の目的はなんだ?」 「そりゃあ探偵っすからネタ探しだよ。最近はシンヤのホストクラブの客も大したネタ持ってなくてねぇ」 「要するに……デカい仕事が欲しいのか。飼い主の院瀬見はどうした?」 「いやいやいや飼い主とかいねえって。報酬がデカイ上客ってだけだよ。LOKIが院瀬見以上にくれるもんくれればめちゃくちゃ働くぜ?」 「駄目だ、お前に動きは知られるわけにはいかない。後、LavaGerdenに謝罪が無ければお前はこの街から消える事になるぞ」 「マジ? 俺は被害者なのに? 警察に通報しちゃおっかなぁ」 「バカが、その瞬間お前は死ぬことになるぞ。それとも今のは挑発か。本当にお前が警察を使うのなら安全にこの街を出れる準備が出来た時だろ?」 「あれれ~今日のフォックスさんやけに口が回りますねぇ~」 「黙れ軽口を叩くな。謝罪をしろ、出来なければお前のせいで盗撮男も弟のシンヤも消える事になる。いいか、『お前のせい』でな」 「謝罪を要求ね……ハイハイ。金だけじゃあ許してくれそうもないし……シンヤの始めた闇バイトのバックを知らせれば納得ですかねぇ?金額はどの位で納得してくれますクリムゾンさんは」 LOKIとクリムゾンの名前を聞いたとたん居酒屋のカウンターで焼き鳥を焼いている店主の顔が青くなっていく。 「なんだ? 店主の様子がおかしくないか?」 「ああ、しょうがないっすよ。LOKIの手によって半グレ共が目の前で筆舌に尽くしがたい惨たらしい死に方したのを目撃しちまったんすからねぇ」 「一般人なら当然の反応だ。おかしいのはお前だ七曲キョウヤ」 「しょうがないっすよねぇ……俺っち恐怖心ってのが全然無いもんだからイカれちまってんのかもね。そのせいでこんな体になっちまったんすよ」 「お前に脅しは通用しない。そしてお前は自分の価値を売り込むのが得意」 「正解!」 「七曲キョウヤ、とりあえず100万だ。それから闇バイトのバックの情報を渡せ」 「了解~! じゃこの後すぐ振込ます。口座番号はどちらで?」 「〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇だ。闇バイトのバックについては自分に知らせろ」 「あ、どもフォックスさんのメッセージアカウントあざっす!」 「あまりふざけた態度をとるとクリムゾンさんの機嫌を損ねるぞ?」 狐理子は焼き鳥に手を付けずに立ち上がる。 「もったいねぇ……おっちゃん、この焼き鳥包んでくれる?俺っちの夜食にするわ」 *** ―――LavaGerden。 「はぁ~……フォックス忍法なりきりの術で歌劇団メンバーのジャッカルの真似してみたけどドキドキしました~」 胸に手を当てる狐理子。その様子を椅子に座ったまま見つめる昊菜。 「ご苦労様フォックス」 「クリムゾン様、七曲キョウヤを始末しなくていいのですか?」 「今はまだいいのです、使い道を考えてありますのよ。この街であのような立ち振る舞いをできる男は多くのデータを取れます」 「わかりました」 「フォックス、あなたに七曲キョウヤから連絡が来るようにいいましたが転送して丹羽家に繋がるようにします。処理はSliMEネットワークに任せておきなさい、貴女は藺藤なゆかに付いて友人として一緒に行動しなさい」 「はい」 「ブラックヴァリーと秘伝書の事どちらも重要です、なゆかを育てれば解決は早くなるはずです。来夢に未来予想演算をさせたらなゆかを育てる方が良いとでましたの。七曲キョウヤについてはこちらに任せておきなさい」 「はい」 *** ―――第二地区・ビジネスホテル廃墟。 「ふぃ~……ちょっちあぶねぇ橋だったかな」 「ア、アニキ……」 下着姿で正座しているホストのシンヤ。目の前には七曲キョウヤ。 「お前はどれだけ馬鹿なんだ? 何をしたら何が起きるのか想像できねぇのか?」 「ゴ、ゴメンよ」 「いい加減お前のケツ拭くのにうんざりしてきてんだわ。売り上げも落ちてるそうじゃねえか、だから闇バイトなんかに手出すんだろ? 誰が持ちかけて来た?」 「客の女っす……えれぇマブで……金持ってて100万のホワイト案件っていうから」 「で?」 「店の売上じゃなくて女から100万貰えればかなりデケェしやるっきゃないと……でもパクられんのこえぇし後輩の知り合いの借金持ちに2万でやらせようと……」 「そこで何で俺の所にデータ送信させたんだ? マヌケがっ!」 キョウヤはシンヤの腹を蹴る。 「ぐぇっ! 女がそうしろって……キョウヤのアニキなら絶対大丈夫だからって」 「女と100万はどうした?」 「今日この後会うつもりですそこで金も……アニキも一緒に?」 「あたりまえだろう(その女、俺を釣るためにシンヤにこの一連の動きを仕組んだか?)」 廃墟のホテルを出るとシェアカーに乗り込むキョウヤとシンヤ。第二区北側の峠に向かった。 「あそこの売店で」 自動販売機とトイレ、監視カメラだけの休憩所。そこに1台車が止まっていた。降りて車に近づく。 「ん?」 物陰から3人の黒づくめの男が出てくる。車からはサイバーグラスをかけた女。 「只者じゃあねえな?」 「探偵の七曲キョウヤだな?」 「そーだけど? オタクら誰?」 「誰だっていい……お前はただ我々の為に動いてもらう」 「そいつは随分と都合のいい事で」 七曲キョウヤは人工筋肉で強化した右腕でジャケットからショックガンを取り出して撃つ。軍用サイバネに匹敵する速度で動ける上に重量は半分以下の高級仕様である。 放たれたのは非殺傷弾丸ではあるが全身に激痛が走りサイバネを一時停止できる強力なもの。警察の特殊部隊が使用している物と同じである。 「ぐぅ……」 目の前の長身の男は体を硬直させて棒のように倒れる。 「おっと他の人も動かない方がいいんじゃないか? 俺っちの早撃ちは蒐魅には及ばないもののそこいらのサイバネには負けんぜ? さぁどちらさんか答えてくんねーかな?」 「やるな探偵……」 「いいだろう、教えよう。我らはブラックヴァリー」 「ああ、あのニンジャの……裏社会では有名な何でも屋だ。それがなんで俺っちに脅しをかけてくる? 仕事は自分らでやりゃあいいだろう?」 「お前の持っている知識経験人脈が欲しい」 「へぇそりゃあ嬉しい事で。それなら依頼って形でしてくんねーと」 「駄目だ、お前を独占し他の組織には使わせん」 「専属契約が希望って事? そりゃあできねーぜ」 「だからこういう事になっている」 「……ははぁ成程なぁ~今俺っちの評判はLOKIの中では最悪になってる。次は院瀬見、その次はG/Tその次はって感じで追い詰めていくつもりなんだろう?」 「察しがいいな流石だな」 「古いやり方だが効果的だ……だけど俺っちを甘く見過ぎじゃないか?」 「なんだと? どういうことだ?」 「すぐわかる……その前に何をさせたいのか聞かせてくんねーかな?話を聞かない事には出来る事も出来ない事も判断できない」 ショックガンを構えたままのキョウヤだったがサイバーシールドに包まれた顔面は端末に繋がっており視線操作できる。ブラックヴァリーの男と女を全員録画している。 「あああ、アニキ俺はどうすれば?」 「黙ってろシンヤ、車の運転席に座ってろ」 振り向かずに後ろにキーを投げるキョウヤ。慌ててキーを拾うと車に駆けこむシンヤ。 「弟は関係ねぇ下がらせた」 「いいだろう」 「我々はLavaGerdenの情報を得たい。なるべく詳しくな。狙いはあの店に所属している女だ。坂東狐理子、これがそいつの顔だ」 写真を投げて寄こす筋肉質な黒づくめの男。 「ふ~ん……俺っちに頼むって事は普段何処にこの子がいて何処を寝床にしているのか解らないって事か。ニンジャなら得意でしょ?」 「奴は別人になりきる忍法を使う。目星をつけなければIDを調べる事も出来ん」 「そうか……でもなぁ盗撮の事でLOKIに詰められてんだわ。犯人を突き出さなきゃ俺っちはLavaGerdenの調査なんて無理だ」 「ホームレスに暗示をかけてお前に渡そう」 「そりゃあ無理だぜ。LOKIはそんな甘くねえバレたら終わりだ。そこの俺っちのショック銃を喰らって倒れたにーさんをLOKIに突き出したらいいんじゃね?ニンジャなら捕まっても逃げられるし体内にGPS仕込めば助けに行けるっしょ?」 提案しながらそれは絶対に不可能だという事をキョウヤは知っている。LOKIに捕まって帰ってきた者はいない。死体も見つからない。 「ふむ……タジマ。行ってくれるか?」 倒れている男に声をかける筋肉質な男。 「あ、ああ……必ず助けに来てくれよな……」 「(コイツら本当にあのブラックヴァリーか? なんともマヌケな雰囲気が漂ってるぜ。マッチョ男の他は下っ端か?)」 「よし、じゃあ俺の車に乗ってくれるかな?あとそれと依頼料は前払いで100万、成功報酬で100万の合計200万で宜しく。前金はこの場で電子マネーで送信して欲しいな。契約書はここにある」 ジャケットから封筒を取り出して地面に置くキョウヤ。 「特殊な紙とインクだからな偽造はできねえぜ」 「―――いいだろう。ヤギ、100万送信しろ。コマダ、書類にサインしてやれ」 「はい」「はい!」 「(院瀬見のエージェントにもG/Tにも劣る下らねー連中だ。だが秘伝書とやらの話は気になるな……)」 キョウヤの車にタジマを乗せLavaGerdenに向かう。店の前で狐理子に電話をかける。 「どーも、七曲キョウヤっす! 盗撮男のバックに居た奴連れてきましたわ」 『店の裏の駐車場で待っていろ』 裏の駐車場に車を止める。シンヤは滝のような汗を流して震えている。タジマは拳を握りしめている。そこに長身細身の武装したバトルメイドが立っている。 「あ~フォックスさんは?」 「私が代わりだ」と言い放った。 MGM歌劇団のメンバーであり丹羽家のバトルメイドのジャッカルである。 「そこの男か?」 「ええ、ブラックヴァリーの一人です」 「よく連れてこれたな」 「まー詫びを入れたいって事なんでしょう。LOKIの恐ろしさをタップリ説明して上げましたからねぇ」 「ふん……」 ゆっくり車から離れて前に出るタジマ。ジャッカルに近づいていく。 「ここで話をするのは良くない。移動してもらうぞ」 「ウム」 タジマが返事すると同時にまるで水面に落ちるように地面に沈んでいく。 「何だ……これは……」 「(うわぁ……あれはLOKIのハートの錬金術……近くにいるんかよ)」 キョウヤは後頭部をかきながらタジマが沈んでいくのを眺めていた。 「闇バイト指示役の引き渡し+100万円っと、はい送金しましたよ~」 「確認した、もう用はない立ち去れ」 「んじゃ俺っちはこれで……」 「いや、そこのホストは置いていけ。大丈夫生きて帰す、だがお仕置きが必要だ」 「あ? シンヤはもういいっしょ十分反省してるっすよ」 「黙れ」 「……しゃあねえっすね。ちゃんと帰してくださいよ?」 「ああ」 続く
Sep 29, 2025
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ラビット・アンダーグラウンド7話 『動悸……なゆか動揺してる』 ポポリンが報告する。 「そりゃあだって……ねえ?」 狐理子に視線を向けるなゆか。 「申し訳ない気持ちはあるけど……なゆかはそのサキュバスハーフの力を使いこなせないままじゃあ平和な一般人生活は送れないと思うんだ」 「そう……かもね? おばあちゃんは上手く制御してたっぽいけど」 「今後どうしていくか一緒に考えようよ。まずはLavaGerdenに行こ」 「うん」 *** LavaGerdenに到着する二人。なゆかはそのままカフェフロアのアルバイトに。狐理子は上階の事務所に向かう。 「すーはー……気持ち切り替えてお仕事しなきゃ」 『なゆかえらい!』 制服に着替え他の従業員に挨拶をしてカウンターに入るなゆか。客は2組のカップルと妙齢の女性のグループ、端末を持った若いビジネスマン。 「よし、頑張るぞ」 カウンターの横に立っていた丹羽省羅が端末を持ったビジネスマンに近づいていく。なゆかは何となくその様子を見ていた。 「あれ? なんかあのビジネスマン立ち上がって省羅さんにペコペコしてる」 慌てた様子でその場で電子マネー決済をしてLavaGerdenを出て行くビジネスマン。戻ってきた省羅に声をかけるなゆか。 「何かあったのですか?」 「いえ、大した事はありませんよ。少し教えて差し上げただけです何も心配する事は無いですよ」 いつも通りの上品で瀟洒な省羅であったがほんの僅かに怒りがこもっていたとなゆかは感じた。 「(……トラブル対応かなぁ)」 *** ―――LavaGerden上階。 「ご苦労様フォックス。後始末も問題ありませんわ」 「恐縮です」 大学での任務の報告を聞きながらワイングラスを傾ける昊菜、向かいには狐理子が座っている。いつも昊菜といるはずのハートの姿が見えない事に気付く。 「あの……ハートさんは?」 「ああ、あの子は仕事中です」 「そうですか」 ハートの仕事は殆どが血生臭いものである。彼女が仕事に出ているという事はどこかで哀れな犠牲者が生まれている事が想像できる。 「まだ未だに懲りずにちょっかいをかけてくる不届き物が来ますのよ」 「それは……自分のせいですか?」 「いいえ。ブラックヴァリーではありませんわ。来てたのは近所のホストクラブの連中ですわ」 「あの……彼らは何をされたんでしょう?」 「下のフロアーの省羅の報告では盗撮ですね。会員証をどこかから得たホストクラブの人間が来たのです。ウチの客にホストクラブに会員証を渡すなんてそんな者は居ませんもの」 「……その件でハートさんが仕事をしに行ったと」 「ええ」 *** 省羅に警告されたビジネスマンの男は慌てて店を出た。携帯を取り出したところで足がもつれて転んだ。まるで地面が泥のように柔らかく足が沈みこんだ。 「なんだ! なんだよぉっ!」 地面に沈んでいく男。必死に手足を動かして藻掻くも沈んでいく。やがて空洞に落下した。 「イテェ……」 照明が点いた。そこには黒フードの小柄な女性、ハートの姿。その奥には夥しい量の骨が散らばっていた。 「ななななななんだテメェ!」 「私の質問にだけ答えろ。盗撮したデータは送信済みか?」 「近づくんじゃねぇ!」 「質問に答えろといったよな?」 瞬間移動めいて肉迫する端末を持った左手の指3本が飛ぶ、落下する前にハートは端末をキャッチ。 「うぎゃああああああああっ!」 ハートに手には鋭い刃のイプシロンアックス。持ち手を包み込みεの形をした斧。 「データの送信は?」 「し、した……しなきゃ報酬貰えねえから!」 「したのか……じゃあ駄目だな。あそこの骨の仲間になってもらう」 「チクショウ……舐めやがって」 懐に仕込んでた櫛型の隠しナイフに手を伸ばす男。その瞬間閃光のようにハートのイプシロンアックスが走り残った右手を手首から切り落とす。 「いぎゃああああああああっ!」 「舐めてるのはどっちだ? LavaGerdenを……ご主人様を舐めやがって……今決めた、お前の関係者すべて始末する」 「やめろ……やめてくれ……」 「誰に依頼された? お前はどこから闇バイトに登録した?」 「お、同じ店のキャストのシンヤって奴に紹介されて……1回10万ってウメェ仕事だって……アンタ何者なんで?」 「カスが! 誰が質問していいと言った? まぁ何者か知ってたらこんな舐めた真似できる訳がないよな? じゃあ教えてやる。LOKIだ」 「ロ……LOKIってあのクソヤベェ闇組織の……いくつもこの街のマフィア半グレを潰してる……まさかまさか……知らなかったんです……許してください!」 「許せだと? 何故私がお前の希望を聞いてやらなきゃならない?」 「一生のお願いです!」 「お前を逃がして私に何の得がある? ここで始末しておいた方がスッキリするだろう」 「ウチの店の事何でも教えます! キャストの個人情報でも客のリストでもなんでも……」 「へぇ……だがその前に盗撮動画を送信してしまった落とし前はどうつけるんだ? 前に炎上系のサイトを作ってた奴も盗撮してあの骨の中に混ざってるな。世間的に永遠に行方不明だ」 「なんでもします助けてください!」 「時間の無駄だ。私はすぐに戻りたいお前に時間を割きたくない、後10秒でお前を生かして私が得をする方法を言え」 「え、そそそそんな……えっと……」 「……」 「金……そうだ金庫! ホストクラブの金庫の場所教えます!」 「それを私に盗めと? ホストクラブで窃盗が起きれば警察が動くだろうが。盗撮データ送信の件をチャラにできると思うなよ? やるなら全員始末するしかなくなる、そんな大仕事は自分だけの判断でできないな」 「ひいいいい……」 男は失禁しながらハートが脅しではなく実行する気でいると感じた。大きな声を出して恫喝するでもなく淡々と話す様子に恐怖した。 「どいつにデータを送信した?」 「それを言えば殺さないですか?」 「面倒な奴だな、話したくなるようにしてやろうか?」 男の左耳が飛んだ。 「ぐぎいぃいいいいいっ」 「ほら、ドンドン失っていくぞ?」 「シンヤの兄貴です!」 「そいつはどこにいる?」 「知らないっす……シンヤに聞かないと」 「じゃあお前にこれ以上用はない」 金属製の床に沈んでいくハート。 「あの……俺は……」 「殺さないでおいてやる。自分で脱出しろここは地上から50mの深さにある厚さ4mのコンクリート製の壁に包まれたコンテナの中だがな」 「ちょっと待って! 置いていかないでくれー!」 *** 「戻りましたご主人様」 「ご苦労様ハート」 ハートは両手で男の端末を昊菜に差し出す。 「盗撮男はホストクラブのシンヤというホストの紹介で闇バイトでやったと言ってました。送信先はシンヤの兄だと」 「あのホストクラブのオーナーはわたくしとは良い関係を築きたいと言ってましたのに」 「従業員の教育が甘いのでしょう。いかがされますかご主人様」 「シンヤの兄について調べます。場合によってはLOKIを動かします。展開次第ではあのホストクラブは消滅しますわね」 「盗撮男はここが誰のどのような店か知らない様子でしたがシンヤ兄は違うかもしれませんね。ひょっとしたら警察にパイプを持っている人物の可能性も」 「そうですわね……ここは慎重に」 昊菜は来夢を使ってネットワークに繋がる。ホストクラブの人間のデータを集め始める。 「閉店までにどう動くか決めますわ」 *** カフェの閉店時間、そして本日は舞台の講演は無くアーカイブの映像を流している。歌劇団のメンバーたちはレッスン場で稽古に励んでいた。 メンバーの一人【ラクーン】が時計を見ている。元々カフェの従業員で歌と声を気にいった昊菜が歌劇団にスカウトをし【ラクーン】の名前を得た。 普段の大人しい性格からは想像できないほどパワフルで情熱的な歌声に魅了された昊菜はギャップからそう名付けた。 「気付いたらもうこんな時間……ラクーン、気を使わないで上がって」 スワンが声をかけた。 「あ、はいそれでは皆さまお先に失礼します」 「お疲れさまでーす!」 メンバー全員の声がハモる。 ラクーンは自分のSliMEを持ち歩かずにロッカーに置いているメンバー。完全な一般人でSliMEにも依存していない。 隠しエレベーターからバックヤードに降りる。そこでなゆかと出くわした。 「あ、お疲れ様です」 「お疲れ様です……歌劇団の方ですよね?」 「え? あ、はい……」 「すみませんこの前の舞台見たのでつい声をかけてしまって……」 「え、解るんですか?」 SliMEで髪型もメイクも変えているのどうして? とラクーンは思った。 「ごめんなさい私もオーナーからSliMEをお借りしていましてそれで……」 「ああ、そうでしたか。でも……歌劇団のスタッフでも無いのにSliMEを?」 「ちょっと事情がありまして……すみません時間取らせちゃいましたね、それでは失礼します」 なゆかは頭を下げてバックヤードを進む。 「私も帰る所です。バスに乗って」 「私もですよ、第三区方面のに乗ります」 「じゃあ一緒ですね……あの」 「ああ、失礼しました。私は藺藤なゆかといいます」 「えっとわたしは倉木ひかる……ってSliMEから教えてもらってますよね?」 「すみません、そうなんです……では倉木さん途中まで一緒に帰りましょう」 「ええ」 『普段の黒髪ボブカットの倉木ひかるの時と違ってラクーンになってる時はピンク髪のケモミミヘヤースタイルになってるから普通は気付かないよね』 「(完全にオンオフ分けてるんだね)」 なゆかはもし自分がMGM歌劇団ならラクーンのように普段の自分と分けてもいいかもしれないと考える。狐理子のフォックス忍法なりきりの術ではないがもう一つの自分を作る事によってサキュバスハーフの自分を受け入れて制御しやすくなるかもと思った。 「(えぇーもしMGM歌劇団に入るのならオーナーになんて名前つけられるんだろう? チワワとかだったりして?)」 『なゆかは自分のことチワワだと思ってるの?』 「(どうかなー咄嗟に思い付いたのがチワワってだけワンだよ!)」 『なにその独特な口調』 「(良くない?)」 『なんともいえない、それになゆかはチワワのイメージないよ』 「(そうなんだ)」 なゆかと倉木はLavaGerdenを出てバス停に向かう。二人の後を離れて追跡しているのは狐理子。昊菜の指示である。 バス停で待っていると一人の男が声をかけてきた。 「や、どーも。お二人さんLavaGerdenから出てきたのを見たんすけどあそこのキャストか何かっすかねぇ?」 色のついた顔前面を覆うサイバーシールドを身に着けている男。 「あの……誰ですか?」 なゆかが言った。 「お、俺っちに興味出た? じゃあこの名刺どうぞ」 男は名刺をなゆかに差し出す。そこには【OH探偵事務所:七曲キョウヤ】と書かれていた。 『この名刺本物だよ。この男の情報はSliMEネットワークに登録されているよ』 ポポリンが骨伝導でなゆかにだけ聞こえるように言った。 「探偵さんがなにか?」 「いやぁ~LavaGerdenの話をちょっと聞きたくてねぇ~帰りが遅くなるのは気にしないでいいよタクシー呼んであげるからすぐそこの居酒屋でお話どうかな?」 「明日も早いので失礼します」と、倉木は言った。 「私もちょっと……」 「探偵に貸し作っておいて損はないよ~? 何かあった時初回タダで仕事引き受けちゃうかもよ? あとは俺っちブランド物のデザインもやっててさぁそれの割引クーポンとかでもいいぜ?」 「ちょっと待った!」 七曲キョウヤの背後から声がした。狐理子だった。 「ええっと、貴女は?」 「私もLavaGerdenの従業員だ! 話なら私が聞こう!」 「ひゅ~かっこいいね! 殺気バリバリだし……そんな警戒しなくても大丈夫だって俺っち警察に協力した事もあるホワイトな探偵だぜ?」 「伝説のドラゴンとグレイキャリバー事件に関わっていたというアレの事だろう? だがお前が半グレのG/Tと繋がっている事も把握しているぞ」 「あれまぁ俺っちて有名人じゃーん! あんたの言う通り半グレとも繋がりあるけどあくまでビジネスって訳よ。裏の情報も得ないといけないからねぇ……フォックスさん?」 「お前知って……気安くその名前を呼ぶなよ。特に外ではな」 「は! じゃあ居酒屋にでも行きましょうよ、そっちのメガネのお嬢さんも是非」 なゆかに視線を向ける七曲キョウヤ。 「やめといた方がいいんじゃないか? 守護神がいるぞその子は」 狐理子は大澤垓の事を頭に浮かべながら言った。 「なにもしないって~話聞くだけで一々配慮してたらこの街で探偵なんて出来ないぜ」 『キリコ、来夢から連絡。できるだけ七曲キョウヤと話をしろとの指示。弟のシンヤの事と闇バイトについても聞いておくようにと』とコンキチ。 「(了解)」 目配せをしてなゆかに合図を送る狐理子。ポポリンにメッセージが届く。 『狐理子のコンキチからメッセージ届いたよ。怪しい探偵からできるだけ話を聞き出すからなゆかはラクーンと家に帰ってだって』 頷くなゆか、倉木と一緒に到着したバスに乗り込む。 続く
Sep 21, 2025
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ラビット・アンダーグラウンド7話『動悸……なゆか動揺してる』 ポポリンが報告する。「そりゃあだって……ねえ?」 狐理子に視線を向けるなゆか。「申し訳ない気持ちはあるけど……なゆかはそのサキュバスハーフの力を使いこなせないままじゃあ平和な一般人生活は送れないと思うんだ」「そう……かもね? おばあちゃんは上手く制御してたっぽいけど」「今後どうしていくか一緒に考えようよ。まずはLavaGerdenに行こ」「うん」*** LavaGerdenに到着する二人。なゆかはそのままカフェフロアのアルバイトに。狐理子は上階の事務所に向かう。「すーはー……気持ち切り替えてお仕事しなきゃ」『なゆかえらい!』 制服に着替え他の従業員に挨拶をしてカウンターに入るなゆか。客は2組のカップルと妙齢の女性のグループ、端末を持った若いビジネスマン。「よし、頑張るぞ」 カウンターの横に立っていた丹羽省羅が端末を持ったビジネスマンに近づいていく。なゆかは何となくその様子を見ていた。「あれ? なんかあのビジネスマン立ち上がって省羅さんにペコペコしてる」 慌てた様子でその場で電子マネー決済をしてLavaGerdenを出て行くビジネスマン。戻ってきた省羅に声をかけるなゆか。「何かあったのですか?」「いえ、大した事はありませんよ。少し教えて差し上げただけです何も心配する事は無いですよ」 いつも通りの上品で瀟洒な省羅であったがほんの僅かに怒りがこもっていたとなゆかは感じた。「(……トラブル対応かなぁ)」*** ―――LavaGerden上階。「ご苦労様フォックス。後始末も問題ありませんわ」「恐縮です」 大学での任務の報告を聞きながらワイングラスを傾ける昊菜、向かいには狐理子が座っている。いつも昊菜といるはずのハートの姿が見えない事に気付く。「あの……ハートさんは?」「ああ、あの子は仕事中です」「そうですか」 ハートの仕事は殆どが血生臭いものである。彼女が仕事に出ているという事はどこかで哀れな犠牲者が生まれている事が想像できる。「まだ未だに懲りずにちょっかいをかけてくる不届き物が来ますのよ」「それは……自分のせいですか?」「いいえ。ブラックヴァリーではありませんわ。来てたのは近所のホストクラブの連中ですわ」「あの……彼らは何をされたんでしょう?」「下のフロアーの省羅の報告では盗撮ですね。会員証をどこかから得たホストクラブの人間が来たのです。ウチの客にホストクラブに会員証を渡すなんてそんな者は居ませんもの」「……その件でハートさんが仕事をしに行ったと」「ええ」*** 省羅に警告されたビジネスマンの男は慌てて店を出た。携帯を取り出したところで足がもつれて転んだ。まるで地面が泥のように柔らかく足が沈みこんだ。「なんだ! なんだよぉっ!」 地面に沈んでいく男。必死に手足を動かして藻掻くも沈んでいく。やがて空洞に落下した。「イテェ……」 照明が点いた。そこには黒フードの小柄な女性、ハートの姿。その奥には夥しい量の骨が散らばっていた。「ななななななんだテメェ!」「私の質問にだけ答えろ。盗撮したデータは送信済みか?」「近づくんじゃねぇ!」「質問に答えろといったよな?」 瞬間移動めいて肉迫する端末を持った左手の指3本が飛ぶ、落下する前にハートは端末をキャッチ。「うぎゃああああああああっ!」 ハートに手には鋭い刃のイプシロンアックス。持ち手を包み込みεの形をした斧。「データの送信は?」「し、した……しなきゃ報酬貰えねえから!」「したのか……じゃあ駄目だな。あそこの骨の仲間になってもらう」「チクショウ……舐めやがって」 懐に仕込んでた櫛型の隠しナイフに手を伸ばす男。その瞬間閃光のようにハートのイプシロンアックスが走り残った右手を手首から切り落とす。「いぎゃああああああああっ!」「舐めてるのはどっちだ? LavaGerdenを……ご主人様を舐めやがって……今決めた、お前の関係者すべて始末する」「やめろ……やめてくれ……」「誰に依頼された? お前はどこから闇バイトに登録した?」「お、同じ店のキャストのシンヤって奴に紹介されて……1回10万ってウメェ仕事だって……アンタ何者なんで?」「カスが! 誰が質問していいと言った? まぁ何者か知ってたらこんな舐めた真似できる訳がないよな? じゃあ教えてやる。LOKIだ」「ロ……LOKIってあのクソヤベェ闇組織の……いくつもこの街のマフィア半グレを潰してる……まさかまさか……知らなかったんです……許してください!」「許せだと? 何故私がお前の希望を聞いてやらなきゃならない?」「一生のお願いです!」「お前を逃がして私に何の得がある? ここで始末しておいた方がスッキリするだろう」「ウチの店の事何でも教えます! キャストの個人情報でも客のリストでもなんでも……」「へぇ……だがその前に盗撮動画を送信してしまった落とし前はどうつけるんだ? 前に炎上系のサイトを作ってた奴も盗撮してあの骨の中に混ざってるな。世間的に永遠に行方不明だ」「なんでもします助けてください!」「時間の無駄だ。私はすぐに戻りたいお前に時間を割きたくない、後10秒でお前を生かして私が得をする方法を言え」「え、そそそそんな……えっと……」「……」「金……そうだ金庫! ホストクラブの金庫の場所教えます!」「それを私に盗めと? ホストクラブで窃盗が起きれば警察が動くだろうが。盗撮データ送信の件をチャラにできると思うなよ? やるなら全員始末するしかなくなる、そんな大仕事は自分だけの判断でできないな」「ひいいいい……」 男は失禁しながらハートが脅しではなく実行する気でいると感じた。大きな声を出して恫喝するでもなく淡々と話す様子に恐怖した。「どいつにデータを送信した?」「それを言えば殺さないですか?」「面倒な奴だな、話したくなるようにしてやろうか?」 男の左耳が飛んだ。「ぐぎいぃいいいいいっ」「ほら、ドンドン失っていくぞ?」「シンヤの兄貴です!」「そいつはどこにいる?」「知らないっす……シンヤに聞かないと」「じゃあお前にこれ以上用はない」 金属製の床に沈んでいくハート。「あの……俺は……」「殺さないでおいてやる。自分で脱出しろここは地上から50mの深さにある厚さ4mのコンクリート製の壁に包まれたコンテナの中だがな」「ちょっと待って! 置いていかないでくれー!」***「戻りましたご主人様」「ご苦労様ハート」 ハートは両手で男の端末を昊菜に差し出す。「盗撮男はホストクラブのシンヤというホストの紹介で闇バイトでやったと言ってました。送信先はシンヤの兄だと」「あのホストクラブのオーナーはわたくしとは良い関係を築きたいと言ってましたのに」「従業員の教育が甘いのでしょう。いかがされますかご主人様」「シンヤの兄について調べます。場合によってはLOKIを動かします。展開次第ではあのホストクラブは消滅しますわね」「盗撮男はここが誰のどのような店か知らない様子でしたがシンヤ兄は違うかもしれませんね。ひょっとしたら警察にパイプを持っている人物の可能性も」「そうですわね……ここは慎重に」 昊菜は来夢を使ってネットワークに繋がる。ホストクラブの人間のデータを集め始める。「閉店までにどう動くか決めますわ」*** カフェの閉店時間、そして本日は舞台の講演は無くアーカイブの映像を流している。歌劇団のメンバーたちはレッスン場で稽古に励んでいた。 メンバーの一人【ラクーン】が時計を見ている。元々カフェの従業員で歌と声を気にいった昊菜が歌劇団にスカウトをし【ラクーン】の名前を得た。 普段の大人しい性格からは想像できないほどパワフルで情熱的な歌声に魅了された昊菜はギャップからそう名付けた。「気付いたらもうこんな時間……ラクーン、気を使わないで上がって」 スワンが声をかけた。「あ、はいそれでは皆さまお先に失礼します」「お疲れさまでーす!」 メンバー全員の声がハモる。 ラクーンは自分のSliMEを持ち歩かずにロッカーに置いているメンバー。完全な一般人でSliMEにも依存していない。 隠しエレベーターからバックヤードに降りる。そこでなゆかと出くわした。「あ、お疲れ様です」「お疲れ様です……歌劇団の方ですよね?」「え? あ、はい……」「すみませんこの前の舞台見たのでつい声をかけてしまって……」「え、解るんですか?」 SliMEで髪型もメイクも変えているのどうして? とラクーンは思った。「ごめんなさい私もオーナーからSliMEをお借りしていましてそれで……」「ああ、そうでしたか。でも……歌劇団のスタッフでも無いのにSliMEを?」「ちょっと事情がありまして……すみません時間取らせちゃいましたね、それでは失礼します」 なゆかは頭を下げてバックヤードを進む。「私も帰る所です。バスに乗って」「私もですよ、第三区方面のに乗ります」「じゃあ一緒ですね……あの」「ああ、失礼しました。私は藺藤なゆかといいます」「えっとわたしは倉木ひかる……ってSliMEから教えてもらってますよね?」「すみません、そうなんです……では倉木さん途中まで一緒に帰りましょう」「ええ」『普段の黒髪ボブカットの倉木ひかるの時と違ってラクーンになってる時はピンク髪のケモミミヘヤースタイルになってるから普通は気付かないよね』「(完全にオンオフ分けてるんだね)」 なゆかはもし自分がMGM歌劇団ならラクーンのように普段の自分と分けてもいいかもしれないと考える。狐理子のフォックス忍法なりきりの術ではないがもう一つの自分を作る事によってサキュバスハーフの自分を受け入れて制御しやすくなるかもと思った。「(えぇーもしMGM歌劇団に入るのならオーナーになんて名前つけられるんだろう? チワワとかだったりして?)」『なゆかは自分のことチワワだと思ってるの?』「(どうかなー咄嗟に思い付いたのがチワワってだけワンだよ!)」『なにその独特な口調』「(良くない?)」『なんともいえない、それになゆかはチワワのイメージないよ』「(そうなんだ)」 なゆかと倉木はLavaGerdenを出てバス停に向かう。二人の後を離れて追跡しているのは狐理子。昊菜の指示である。 バス停で待っていると一人の男が声をかけてきた。「や、どーも。お二人さんLavaGerdenから出てきたのを見たんすけどあそこのキャストか何かっすかねぇ?」 色のついた顔前面を覆うサイバーシールドを身に着けている男。「あの……誰ですか?」 なゆかが言った。「お、俺っちに興味出た? じゃあこの名刺どうぞ」 男は名刺をなゆかに差し出す。そこには【OH探偵事務所:七曲キョウヤ】と書かれていた。『この名刺本物だよ。この男の情報はSliMEネットワークに登録されているよ』 ポポリンが骨伝導でなゆかにだけ聞こえるように言った。「探偵さんがなにか?」「いやぁ~LavaGerdenの話をちょっと聞きたくてねぇ~帰りが遅くなるのは気にしないでいいよタクシー呼んであげるからすぐそこの居酒屋でお話どうかな?」「明日も早いので失礼します」と、倉木は言った。「私もちょっと……」「探偵に貸し作っておいて損はないよ~? 何かあった時初回タダで仕事引き受けちゃうかもよ? あとは俺っちブランド物のデザインもやっててさぁそれの割引クーポンとかでもいいぜ?」「ちょっと待った!」 七曲キョウヤの背後から声がした。狐理子だった。「ええっと、貴女は?」「私もLavaGerdenの従業員だ! 話なら私が聞こう!」「ひゅ~かっこいいね! 殺気バリバリだし……そんな警戒しなくても大丈夫だって俺っち警察に協力した事もあるホワイトな探偵だぜ?」「伝説のドラゴンとグレイキャリバー事件に関わっていたというアレの事だろう? だがお前が半グレのG/Tと繋がっている事も把握しているぞ」「あれまぁ俺っちて有名人じゃーん! あんたの言う通り半グレとも繋がりあるけどあくまでビジネスって訳よ。裏の情報も得ないといけないからねぇ……フォックスさん?」「お前知って……気安くその名前を呼ぶなよ。特に外ではな」「は! じゃあ居酒屋にでも行きましょうよ、そっちのメガネのお嬢さんも是非」 なゆかに視線を向ける七曲キョウヤ。「やめといた方がいいんじゃないか? 守護神がいるぞその子は」 狐理子は大澤垓の事を頭に浮かべながら言った。「なにもしないって~話聞くだけで一々配慮してたらこの街で探偵なんて出来ないぜ」『キリコ、来夢から連絡。できるだけ七曲キョウヤと話をしろとの指示。弟のシンヤの事と闇バイトについても聞いておくようにと』とコンキチ。「(了解)」 目配せをしてなゆかに合図を送る狐理子。ポポリンにメッセージが届く。『狐理子のコンキチからメッセージ届いたよ。怪しい探偵からできるだけ話を聞き出すからなゆかはラクーンと家に帰ってだって』 頷くなゆか、倉木と一緒に到着したバスに乗り込む。続く
Sep 15, 2025
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ラビット・アンダーグラウンド6話 「クソ!」 大澤垓は車のダッシュボードに拳を叩きつけた。「なゆかの様子がおかしい……やはりこの街に来るべきじゃなかったんだ。アイツは地元で家業を手伝ってれば良かったんだ。俺が出世して迎え入れるまでな……」 垓はダッシュボードからストレス軽減効果が売り文句の硬いグミのボトルを取り出し大量に頬張り噛みしめる。「アイツはこの街は似合わない。俺は幼いころからずっとアイツの傍にいて守り続けたんだ誰よりも理解している……昨日も大学からすぐにマンションに戻らなかった。何をしている? 心配をかけまいと俺には詳しい事は言わないからな。やはり部屋にカメラとマイクを仕掛けておくべきか……」*** 「あれ? なゆかその人は?」 大学の中庭で変装した狐理子と合流したなゆか。そこになゆかの所属するダンスクラブのメンバー鈴木真亜子、佐藤実衣、高橋夢生が現れた。「あ、えっとこの子はね……」「バンジョー・キリエって言うっす! よろしくっす!」 咄嗟に答える狐理子。偽名はSliMEのコンキチが考えた。フォックス忍法なりきりの術でエネルギッシュな大学生になりきっている。「あ、どうも」「よろしく」「よろしく~」「インカレサークルのメンバーなんすよ! 藺藤さんにはちょっと聞き込みをしてたんす!」「あ、そーなの?」「なんのサークル?」「ウチの大学サークル多いもんね」「ミステリー系のサークルなんすけどウチは娯楽系のじゃなくて調査系の方っすね」「あーミス研いくつかあるもんね!似たような名前で」鈴木が手を叩いて言った。「その内の一つっすね。藺藤さんに話を聞くついでにメンバーに誘ってたんすよ。でもダンスのサークルに入ってるしアルバイトもしてるとかで難しいと……」「そ、そうなんだ~でも面白そうだしちょっと手伝うくらいならいいかなって」 なゆかは狐理子の芝居に合わせる。「なになに? 何するの?」食い気味に佐藤が言った。「徳間教授に関する調査っスね……」「あのイケオジ教授!」高橋が声を上げた。 狐理子が挙げた徳間教授とはブラックヴァリーとの繋がりがあると疑っている人物である。「尾行とかするの?」「盗聴器仕掛けたり?」「変装とかする?」「まぁまぁまぁ……皆さん落ち着いて、あくまでサークル活動っすから。藺藤さんを借りるね? 進展あったら皆さんにも聞かせてあげるっすから何も知らないふりして日常を過ごしてね?」 狐理子は人差し指を唇に当ててシーッっとゼスチャーをする。「おっけー」「はーい」「楽しみにしてるね」 鈴木真亜子、佐藤実衣、高橋夢生の三人と別れるなゆかと狐理子。SliMEを活用し人気のない建物の影に移動する。「狐理子ちゃん、徳間教授がブラックヴァリーかもしれないって?」「うん、だから確認したいんだ。まずはなゆかに接触してもらってポポリンに解析してもらおうかと。自分が行くとその場で戦闘になりかねないし」「えぇ~……大丈夫かなぁ」「いくら奴らが無法者の忍者だからって他の学生の目のある所で無関係な人間を攻撃したりしないって。ポポリンには最大の警戒をしてもらえばいいし自分も物陰から様子見るから」「う~ん……わかった。それでどうすればいいの?」「説明するね」 狐理子があらかじめ用意した資料は徳間教授の授業に関する物。論文と自身の考えを照らし合わせて感じた疑問をぶつけて意見を聞きたいと切り出せとの事。「勤勉な学生を装って接近して徳間教授にスキャンをかける。データさえとれればブラックヴァリーかどうか解るからね」「……よし、やってみる」「あ、なゆかその時に試して欲しいことがあって――」 なゆかと狐理子は徳間教授のいる研究室に向かう。 ドアを三回ノックすると中からどうぞと低い声がした。「失礼します」 なゆかはファイルを持って研究室に入ると徳間教授は昔ながらの万年筆を使い執筆していた。「何かな?」「徳間教授のお言葉を頂きたくて。お時間取らせてしまい申し訳ありません」「ふむ……まぁ30分程度ならいいだろう。丁度休憩したいと思ってたんだ」 徳間教授は伸びをすると足元のカバンから水筒を取り出してマグカップにコーヒーを注いだ。「まずはこれを」 なゆかは狐理子の用意した資料を徳間教授に渡す。「どれどれ……」 狐理子の調査から徳間教授は今時珍しいアナログ派であると判明している。「よくまとめられている……ほうこんな所まで調べたか」 この資料には隠れた仕掛けがあり、忍びの者であれば反応する術を文字配列にしてあった。「君、これは自分一人で書いたのかね?」「いえ、手伝って貰った人はいます」「そうか……」 徳間教授は立ち上がるとなゆかの前に立ちじっと目を見つめる。「むぅ……」 なゆかは徳間教授から何か力の波動のようなものを一瞬感じた。『なゆか、徳間教授は何か仕掛けて来たよ。でも弾き返した』 ポポリンがなゆかに報告した。「……教授? どうしました?」 なゆかは眼鏡を付けていない状態。「む……ぐ……」『なゆか、質問してみて』「徳間教授は……忍者ですか?」「ぐ……この……」 徳間教授はジャケットの内ポケットからゴーグルを取り出して装着する。「妙な術を……いや、サイバネか? いずれにしろお前には聞きたいことができたな」 妙な事が起きていた。徳間はなゆかに質問された後何も無い空間に向かって話している。「え!? 何なになに?」 なゆかは状況が飲み込めない。『サキュバスの力が働いてると思われるね』「そうなの?」『若干抵抗してるけど正気じゃなくなってるよ』 徳間教授はジャケットの背中から短刀を取り出して構える。「俺は……俺は……忍の者……だが絶対に口は割らんぞ……」『なゆかもっと確信的な質問をあの男にしてみて』「えっとじゃあ……ブラックヴァリーの者ですか?」 なゆかの声を聞いて痙攣を始める徳間。「ブブブブブブブブブブブブラックぅううううううううヴァリイイイイイイイッ!!」 何も無い空間を斬りつける徳間。目は充血し鼻血を垂らしている。「そこまででござる!」 狐面とアーマーを装着した忍者モードの狐理子が研究室に飛びこんでくる。「離れてて!」 なゆかの前に出る狐理子、電磁警棒を持っている。「ぬぬぬぬがあああっ!」 両拳をこめかみに叩きつける徳間、ゴーグルは粉砕され頭部から出血。頭を振って狐理子を睨みつける。「妙な術を……当て身でなんとか解除できたか……」「大人しくしてもらうでござるよ……ブラックヴァリー!」「ブラックヴァリーの名前を知ってるとは……貴様ただの警備員ではなさそうだな。ここで消えてもらうか」 徳間は刀身を奇妙な動きで揺らめかせている。対する狐理子は全身に取り付けてあるブースターの点火を準備。「チェリアアアアアッ!」 蛇のようにしなやかにそして波打った軌道で刺突を放つ徳間、狐理子はスライドするように前面のブースターで後方に回避、急ブレーキからのV字ターンで徳間の側面から仕掛ける。「シイイッ!」 徳間は狐理子の電磁警棒を受け止める。たたらを踏み研究室の机がひっくり返り資料が飛び散る。「狐理子ちゃんのあの動き何……」 研究室の外に通じる扉から顔を覗かせて二人の戦闘見るなゆか。『狐理子のあの動きは全身に取り付けたブースターを自由自在に操る【フォックス忍法噴射体術(ブースターアーツ)】だよ』 ポポリンが答える。『足場の悪さに左右されない、立体起動で全方位からの攻防を可能にしているんだよ』「すごい!」 狐理子は徳間の横薙ぎの刀身を空中に飛んで回避、錐もみ回転をしながら後頭部に蹴りを叩き込んだ。「ガァッ」「む、妙な手ごたえでござるな」「ククク……フルカーボネイト合金の皮下装甲だ。アサルトライフルの掃射にも耐えるぞ」 狐理子に掴みかかる徳間、手を払い関節技に持っていく。徳間は側転で体勢を入れ替えて解除、狐理子はブースターで加速して更に体を入れ替え背面を取る。「甘い!」 踵からブレードを出現させて狐理子の脛を狙う徳間、狐理子はブースターで飛び上がって徳間の頭を掴みながら正面へ移動、膝蹴りの体勢。「(バカめ!打撃なぞ額の皮下装甲で受けきって腹抉ってやんゼ!)」 不意に前につんのめる徳間。「何だ!?」 背中を押される感覚、止まらない徳間に対し狐理子は膝蹴りを顎に命中させてそのまま掴んで後方に巴投げの要領で投げる。ブースターで空中加速し床と膝で挟み徳間の顎を砕いた。「グ……」 徳間の背中には狐理子のブースターが取り付けてあった。接触した際に取り付け機を見て作動、徳間の体勢を崩して投げ技に持ち込んだのであった。『あれはフォックス忍法噴射操躰だよ!』 狐理子のSliMEコンキチから得た情報フォックス忍法の情報をなゆかに伝え続けるポポリン。「さぁこれで止めでござる」 電磁警棒を首筋に当てる狐理子。しかし徳間は血だらけの顔面で笑みを浮かべる。「ニィ!」 ブリッジで狐理子を撥ね飛ばす徳間。目が血走っている。「……こんな所で奥の手を使う事になるとはな」 徳間の全身の筋肉が盛り上がる。「逃がさんでござるよ」「ククク……止められると思うのか? そしてお前たちは詰みだ、これより24時間365日ブラックヴァリーの恐怖に怯えるがいいいつでもどこでも狙うぞ?」「いいのでござるか? 秘伝書の事」 「秘伝書? ああ、上の連中が騒いでるアレか。俺には関係ないな」「……なるほど、お前は下忍か。ならばここで始末しても問題ないでござるな」「なに? お前まさか……」「小物に用はないでござるよ!」 狐理子は掌のブースターを向けて閃光を放つ。その隙に徳間の背後に回り電磁警棒の柄から飛び出した針を耳に刺しこんだ。「グゲ……」「(コンキチ! 頼むでござるよ!)」『ガッテン!』 針を伝って耳から頭に侵入するコンキチ。前頭葉にたどり着く。「良し……これで無力化完了……」 徳間は虚ろな目で棒立ち状態。「もう大丈夫でござるよ」 狐理子の声をきいて研究室に入るなゆか。「それどうなってるの?」「完全無気力状態かな……もうこの男は二度と忍者として活動できないよ」「え!」 さらりと衝撃的な事を言う狐理子に驚くなゆか。「そんなことして大丈夫なの?」「これが最適じゃないかなぁ……下手に命取ると後処理の問題もあるし」「えぇ~……」 ああ、狐理子は裏社会の人間で忍者なのだとなゆかは目の前で起きた出来事に打ちのめされる。「コンキチを回収……っと。この徳間は残念だけどはずれだったね。上忍を釣れないと意味ないから通信機を取り付けて解放かな」「逃げなくて大丈夫? 誰か来たら……」「そうだねー自分一人なら何とでもなるけどなゆかはそうも行かないよね、じゃあSliMEで姿を変えて堂々と逃げよ」「う、うん」 ランダムで生成した誰でもない人間に変装してなゆかと狐理子は研究室から立ち去る。残された徳間は虚ろな表情で研究室の片付けを始めていた。「あの徳間下忍で何の収穫も無いと思ったけど一つだけあったね」「そうなの?」「薬物だよ。この街でまだ出回ってないやつ。奴の血液をコンキチに採取させてSliMEネットワークを通じてデータベースの照合をしてもらったんだ」「あ、もしかして途中で覚醒して狐理子ちゃんを弾き飛ばした時に使った?」「そう、奥の手とか言ってたからブラックヴァリーの間でしか使ってないのかもね。回収したこれはクリムゾン様にお渡しする」『なゆか、心拍数上昇。眼鏡装着して』「う、うん」 慌てて眼鏡を装着するなゆか。変装したなゆかと狐理子は大学構内から外へ。建物の影で変装を解除する。「ここまでくればもう大丈夫かな」 狐理子は髪を結びながら言った。「まだドキドキしてる……ねぇ狐理子ちゃん、徳間教授本当に大丈夫なの?」「日常生活は送れるよ。ただもう忍者としては無理だね、そもそもあの男が本物の徳間教授じゃない可能性だってあるんだよ」「そうなの!?」「それよりもなゆか、サキュバスハーフの力凄かったよ! 一つ分かった事もあるし」「え、何々なに?」「徳間は恐らく催眠術のような者をなゆかに仕掛けてきたんだ、でも跳ね返した。最初急にあの男が怯んでたでしょ?」「そういえば!」「なゆかのサキュバスハーフの力は精神系の術に耐性があると考える。他者に命令されない自由に欲望のまま生きる夢魔(サキュバス)の性質なんだと思う。これって結構すごいことでね、裏社会の抗争では知らない間に催眠光や催眠音で催眠術にかかってしまう事ってあるんだ。でもなゆかにはそれが効かない、そしてサキュバスハーフの力をコントロールできれば……超一流のスパイになれる可能性が! SliMEも持ってるし」「えぇースパイ! なんかカッコいい!」「ちょっとクリムゾン様に報告するね。いや、なゆかにスパイさせたいんじゃなくてサキュバスハーフの力の事も言わなきゃいけないんだ」「そうなんだ」 なゆかは少し不安を感じたが自身の力が覚醒しつつある事に興奮しすぐに引っ込んだ。続く
Sep 7, 2025
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