異能者特務機関:TMI 第 4 話「首狩り斬鬼2」
タクシーで吉岡警部補の自宅に向かうアリナ。灯りはついている。
「……」
タクシーから降りたアリナは妙な気配を感じ取りガントレットを構える。
「デヤァッ!」
突如アリナの目の前に黒パーカーの男が出現、金属製の竹刀型特殊警棒を振り下ろしてきた。
「!!」
アリナはとっさに左後方に回避、ガントレットに仕込まれたベヤリング弾を指で弾き右肩に命中させた。
「ぐあっ……」
続いて黒パーカー男の大腿にベヤリング弾を撃ち込むと竹刀型特殊警棒を落として膝をついた。
「吉岡警部補ですね?」
「クソ……痛てぇ……!だ、だれだお前……首狩り斬鬼の仲間か?」
ゆっくりと起こすアリナ。黒パーカーの男は肩ををさすって答える。
「いいえ、異能者特務機関: TMI から派遣された終夜アリナです。お話をしたくてきました」
アリナは特別捜査官の ID カードを取り出して言った。
「TMIか……異常に攻撃的な気配を感じたのでな、てっきり奴の仲間だと。それにしても俺の攻撃を初見で対処するとはな……」
「気を張っていましたので」
「こんなところで立ち話もなんだ、俺の家に入って話そう」
「はい」
閑静な住宅地の中に吉岡警部補の家はある。
「家族は当分の間嫁の実家に行ってもらってる、首狩り斬鬼の事件が解決するまではな。家事は義手のリハビリにもちょうどいい。コーヒーでも飲むか?」
そういうと手袋を脱いで金属製の右腕を見せつけた。
「お構いなく」
「じゃあ早速奴の話をするか」
「ええ、お願いします」
ソファに身を預ける吉岡警部補。アリナは正面の椅子に座る。
「この右腕は首狩り斬鬼にやられたってのは聞いてるな?」
「はい」
「俺は剣道大会の優勝経験もあって自信もあったんだ。斬りかかられても絶対に対処できるってな。奴の行動パターンを分析し部下に監視カメラを見張らせ現れるのを待った。俺のテレポート能力ならこの街のどこに現れても 5 分以内に到着できる。今まで犯人を逃がしたことは無かった」
吉岡警部補はコーヒーを口に含む。
「……で、 5 日目に奴を見つけた。その後の事は……説明をする前に監視カメラの映像を見て欲しい」
机のノート PC を開いて映像を再生する。
雑居ビルの薄暗い路地裏。刀状の刃物を持った人物と若い男が映っている。刃物を持った人物は後ろを振り返り人間離れした跳躍で飛び上がりカメラの視界から消える。直後、吉岡警部補が現れ竹刀型特殊警棒を振り下ろした。空を切る特殊警棒、中段に構えなおす吉岡警部補、突如右腕がまるで役目を終えた打ち上げロケットの様に落ちた。何が起きたのか理解できない様子のままテレポートでその場から離れる。
「 TMI のお嬢さん、どう思う?」
そこで再生を止めた。
「おかしいですね」
「……そうか。あんたはそう感じるんだな」
***
―同時刻北海道警察署内
「これが吉岡が首狩り斬鬼と遭遇した時の映像です」
上山刑事部長は投影機の再生を停止して言った。
「首狩り斬鬼は吉岡の特殊警棒を回避し右腕を切り落としました。腕の断面は驚くほど綺麗に斬り落とされ腕さえ回収していれば再生できていたと医師は話していました」
「……なにかひっかかりますね」
「そうですね」
哿とフローレンスがつぶやく。
「首狩り斬鬼はどうやって吉岡警部補の腕を切断したのでしょう?」
「憶測ですが……テレポートの瞬間斬りつけたのではないかと」
上山刑事部長は映像を少し戻して両者が映りこんでいる場面で停止させる。
「この時に攻撃してきたのだと考えます」
更に上山刑事部長は別の資料を表示させる。他の事件の詳細が記されている。
「首狩り斬鬼は同じように斬りつける犯行を繰り返しています。突如現れて斬りつけそして消える……もみあいになったことは一度も無いのです」
「そうですか……テレポーターとしての意見を言わせていただくと、とても不自然な犯行の仕方です」
哿は言った。
「僕なら現れた瞬間に斬りつけます。そうすれば相手は何が起きたのか分からないままです。首狩り斬鬼はわざわざ姿を見せつけるようにしてから斬りつけて消えているかのように見えます、そこがひっかかりました」
「ほう」
「私からもよろしいですか?」
フローレンスが言った。
「吉岡警部補の右腕の切られ方から見るに彼の右側に立ち、上から刃物を振り下ろさなけば不可能です。見てください、吉岡警部補が現れたのは首狩り斬鬼の後ろ。振りかって両者は正面で向かい合います。その後首狩り斬鬼は飛び上がり吉岡警部補が警棒を振り下ろします。この瞬間に斬られたのなら右腕の断面は斜めになるはずです。飛び上がりながらの切り上げでは真横の断面は出来ません」
「……そういわれて見れば確かに。お二人の意見を参考に資料を作り直し捜査会議で提出してみます。明日は犯行現場に案内します」
***
―吉岡家
「この映像ですと貴方は姿を消した首狩り斬鬼に対して攻撃しているように見えます」
アリナは映像を一時停止していった。
「……そうだよな、そう見えるよな?」
「あと、この間合いでは首狩り斬鬼の刃物は届かないです」
「俺の目で実際に見た状況は映像とは少し違うんだ。奴が振り返り俺がテレポートする所までは同じだ。俺の竹刀型特殊警棒は奴の刀っぽいものを打ち付けたはずだった。だが手ごたえは無くおかしいと思った時には右腕は切断されていた」
「首狩り斬鬼が飛び上がったのを見ていないということですか?」
「そうだ。わざわざ飛び上がった後の何もない空間を打ったりしない、奴は目の前にいて竹刀型特殊警棒が当たる寸前まで動かなかった。奴がある程度の速度の物質に対して発動するテレポーターであっても映像の動きはおかしい」
「先に首狩り斬鬼が飛び上がり、貴方が攻撃を仕掛けそして右腕を失う……」
アリナはしばらく映像を眺めながら考える。
「これは一度リセットして考え直す必要がありそうです。監視カメラの映像データを頂いてもよろしいですか?それと一つ聞きたいことが。貴方の証言は捜査に反映されていないのですか?」
「データは持って行ってくれていい TMI に協力は惜しまないさ。俺の証言はあんまり信用されてない、映像の方を信用するんだとさ」
「そうですか」
アリナの耳の通信機が反応する。
「はい」
『アリナさんそちらはどうですか?』
「吉岡警部補から話を聞けました。哿さんの方は?」
『資料を見ていくつか気になった点がありました。ホテルに戻って話しましょう』
「分かりました」
***
『吉岡警部補は異能者強度カテゴリー3の空間置換テレポーターだね。以前彼に接触し勧誘したんだが断られてしまってね、警察官として生きたいとか。それから時々連絡を取ってたんだ。今回の事件を知るきっかけになった』
ジェームズがテレビ電話越しに言った。
『テレポーター自体が珍しい異能者だけど彼の場合連続使用ができないのと実際に目で見える場所に限られ距離は 20 メートルまでだから TMI での判定はカテゴリー3だ。』
TMI が独自に定めている異能者強度は 7 段階ある。
カテゴリー0(異能者の兆しはあるが発現していない。もしくは一般人)
カテゴリー1(スプーン曲げやコップの水を波打たせる程度の弱い能力)
カテゴリー2(ある程度日常生活で活かせる弱い能力)
カテゴリー3(ある程度日常生活で活かせる強い能力)ここから TMI のリスト入り。
カテゴリー4(超常現象を起こせる程度)哿、フローレンス。
カテゴリー5(軍隊を相手にできる程度)アリナの他に 8 人、計 9 人がTMIにいる。
カテゴリー6(国を脅かす程度)過去に一人認定されている。
『首狩り斬鬼が異次元移動テレポーターだと仮定するとカテゴリー4になるねぇ。別の能力かもしれないがね』
「長官、北海道警察の上山刑事部長も異能者だったんです。能力は離れた人の声が聞こえるもの程度の範囲は隣の部屋くらいまでらしいですが……」
哿が言った。
『んん?それはおかしいねぇ、聞こえるだけってのは無いんだ基本的に。テレパスの能力っていうのは送受信できるものだよ、何か脳にダメージを受けたりしない限りはね』
「では上山刑事部長は声を出さずに指示も出せる……と」
『そうなるねぇ……でも受信しかできないって本人が言い張れば証明は難しいよ。 TMI 最強のテレパスのあの子を使えばすぐにわかるんだが』
「いえ、今はそこまでしなくても大丈夫です。あの子は 23 時間の睡眠が必要なので無理はさせれません」
「長官」
『なんだねアリナくん』
「わたしは首狩り斬鬼がテレポーターではない可能性が高いと考えています。その根拠は……」
アリナは吉岡警部補の家で映像を見た時の違和感をジェームズに伝えた。
『なるほどねぇ……アリナくんの意見も参考にしてこっちでも調べてみよう。もし現場検証にサイコメトラーが必要ならいつでも言ってくれたまえ派遣するよ』
「長官、私からも」
『なんだねフローレンスくん』
「首狩り斬鬼と繋がっている警察関係者がいるかもしれません。なのでホテルも油断できませんTMIの作戦用ワゴン車の手配をお願いします」
『TMIの特別車両なら対異能者装甲でテレパスの干渉も受けなくて済むからね、安心だ。分かった用意しよう』
「アリナを休ませてあげたいのです。彼女は北海道に入ってから警戒を 1 秒も解いていませんから」
「大丈夫ですフロー、 3 日間はこの状態を維持できます 3 日以内に終わらせましょう」
「私の能力でさっきアリナを見ましたがストレスが尋常ではありません見過ごせません」
『私としてもTMIに 9 人しかいないカテゴリー5のアリナくんにベストコンディションで働いてもらいたいからねぇ。分かった明日の朝には車を用意しよう他にリクエストは?』
「では、名物のジンギスカンというものを食べさせていただけますか? 10 人前ほど。それでストレスも軽減され消費したエネルギーの補充にもなります」
アリナは旅行者用のサイトを開いて長官に見せつける。
『いいだろう!すぐに手配する!』
アリナはジェームズの言葉を聞くと少しだけ表情を緩め立ち上がった。
「首狩り斬鬼を探しに行きます」
『当てはあるのかね?』
「ええ、おそらくわたしを狙ってくるでしょう」
『ほう、何故だね?』
「……」
アリナは【上山刑事部長が怪しいとわたしは考えています】と目の前にあったメモに書いてジェームズに見せる。
『勘かね?』
「はい」
アリナは【上山刑事部長に異能者であることを問いかけた時心拍数が上がったのを感じました】とメモに書いて見せた。
『それだけでは確証できないねぇ……だが君の勘は軽視できない』
その時ホテルの部屋の扉がノックされた。
「……」
アリナは哿に合図する。
「……はい」
哿はアリナの腕をつかみ扉の外へテレポートさせる。扉の前に立っていたのは黒覆面姿の細身の人物。
「お前は誰です?」
「!?」
背後に現れ声をかけるアリナ。慌てて振り返る黒覆面、手には黒く塗られたナイフ、アリナはベヤリング弾を 2 発構え、吉岡警部補の時よりも強く弾き出す。
「グッ……」
ベヤリング弾を膝と肩に受け床に手を突く黒覆面。すぐに立ち上がり黒いナイフをアリナに投げつける。半身で回避したアリナ更に力を込めたベヤリング弾を発射。
「シャアアアアッ!」
黒覆面はとっさにしゃがむ。頭をかすめ金属製の扉にベヤリング弾が突き突き刺さった。
「!?」
一気に間合いを詰めるアリナ、頭を掴みにかかる。黒覆面は頭を下げて回避、そのまま前方宙返りをして踵でアリナを狙う。
「はっ!」
体を捻って回避するアリナ、遠心力を利用し加速させた左裏拳を黒覆面に叩き込んだ。
「ギャアッ!」
黒覆面が壁まで吹き飛ばされる。アリナの裏拳をガードした腕は粉砕され関節の無い所で曲がっている。
「逃がしませんよ」
ガントレットに仕込まれた炭素ワイヤーを飛ばすアリナ。黒覆面の右足を捕らえる。
「!?」
サプレッサーの取り付けられた拳銃を取り出す黒覆面。アリナは一気に引き寄せ銃を撃たせる間もなく胴体に拳を撃ち込んだ。
「ガ……」
黒覆面は意識を失う寸前、何かをかみ砕いた。
「!!……哿さん!フロー!」
テレポートで出てくる哿とフローレンス。
「フロー!この者の治療を!」
「分かった」
手をかざすフローレンス、だがすぐに首を振る。
「駄目……既に死んでる、即効性の毒を使ったみたい」
「そんな……」
哿も駆け寄り覆面をめくって取り外す。口から緑の液体が垂れていた。
続く
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