VAMPIREEYE78 「リトライプラス」
「やられて……たまるか……」
『おや、立ち上がるのです?それで何か出来るとでも?もはや君には爆裂するまでの時間これまでの人生を振り返る事しかできないというのに。ああ、大事な人との最後の別れですか?いいですよご自由に、私の目的は虐殺ではないのでサヨウナラ』
飛び上がって塀を超える灰色の獣。屋敷を包んでいた火柱は瞬時に消える。
「吹雪……さん……」
激痛と熱さに耐えながら二郎は這うように縁側から屋敷に上がる。
「ぐうう……」
体が千切れ飛びそうな痛みが走り意識を失いそうになる。障子戸を開けて部屋に入ると血痕が続いていた。二郎はそれを辿っていく。
「吹雪さん……」
戸を開けるとうつ伏せに倒れている吹雪の姿。大量の出血により畳は赤く染まっていた。
「そん……な……」
一目見て吹雪が絶望的な事が理解できた。二郎の義手が霧のように散り薄くなっていく。
「あ、ああああああ……」
吹雪の横に膝を落とす二郎、ゆっくりと抱き起こす。全身から爆発するように血液を噴出させて吹雪は絶命していた。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」
義手は消滅。それと同時に二郎の全身から血液が噴出し意識が途切れた。
***
『駄目だったか……』
『今回初めての道(ルート)だったが』
『どこで変わった?』
『分からない……途中までは順調だったはずだ』
複数の声が聞こえる。
『やりなおしか……』
『この道をまた進めるのか?』
『やれる事はなんだってやるべきだ』
『あのグレイビーストとやらの対策を取らねばなるまい』
徐々に声の男たちの姿が見え始める。全員黒ずくめ……何もかもが黒かった。
『白峰華月の復活成功、連合との協力、 V エナジーの覚醒。ここまでは成功した』
『ああ、そこまでの道は確立できた。イレギュラーの波を起こさない限り外れることはないだろう』
『何一つ成し遂げられなかった道では吹雪は1年後まで生き延びれたというのは皮肉なものだな』
『だがどうする?二重スリット実験の謎と同じだ。グレイビーストによる死を観測したことによってまた別のルートができた可能性は大だ』
話す全員が同じ声同じ背丈。
『これまでとやることは同じだ。未来を過去の木城二郎に直接教える事によって起きる量子変化を起こしてはならない。道を示してやる程度に留めなければ』
『だがどうする?グレイビーストに対抗する手段など 1 カ月そこらで得られるのか?』
『やるしかあるまい。誰か心当たりはないのか?』
『教会は信用できない、協力者は求められん……そうなると連合か?吸血鬼らか?』
『術に詳しい者……もしくは対抗するなにかを制作できる者』
『勝田博士はどうだ?京都にいるはずだろう?』
『装置、義手の制作に協力してくれた天才科学者……河童の博士勝田波留夫……』
『二郎を勝田博士に会わせた所でどうする?他の道の情報は教えられんぞ?他の道で白峰華月の情報を過去の勝田博士に話した時の事を思い出せ』
『完全に違う過去に変わっていったな。黒谷ジークベルトは現れず、木城蓮也は間に合わず白峰霄は殺害され……白峰家と二郎の縁は薄くなり吹雪も死亡した』
『不完全とはいえここに白峰華月を復活させる記憶を持ち帰れたのは大きかったがな。だが量子変化が起きてしまい吹雪生存の道探索はますます困難になった』
『勝田博士はジーニアスレイジの一人だ。情報を与えることによって起きる変化で他の者との繋がりが生まれるかもしれん』
『待てそれなら……義手に勝田博士の意識を乗せて送れないか?未来観測者はあくまで木城二郎一人。修正も容易なはずだ』
『元々この義手の制作にかかわっていた勝田博士なら……いけるか』
『勝田博士の意識を乗せて過去の勝田博士に触らせて理解させる。 20 年分先の記憶を見せられどうなるか予想もつかないが』
『それで行くか』
『ああ』
『ではまた』
漆黒の男たちは木城二郎に似ていいる。年は 30 代に見える。
***
―京都地下碁盤の目町にある研究施設。
「よし、装置は正常に作動した、義手の装着をお願いするよ木城君」
「はい、勝田博士」
ひげを蓄えた中年の木城二郎、横には眼鏡をかけた猫背の河童の勝田波留夫。義手を取り付ける二郎。
「う……」
木城二郎に電流のような衝撃が走る。一瞬にして様々な記憶が入ってきた。
「何か観測できたかね?」
「はい、大丈夫です博士(また駄目だったのか……俺は……)」
「異常はないかね?」
「問題ありません。博士、次の実験に義手に装置に組み込みたいのですが」
「ほう?どんなものかな?」
「人の記憶を書き込む量子チップです」
中年二郎は白衣のポケットから袋を取り出した。
「ほほう……」
「博士の記憶も量子チップに乗せたいのです。どうかお願いします」
「記憶を過去に送る実験。ある意味でのタイムトラベルかフムフム……僕の知り合いが研究していた分野だねぇ興味はあるが大丈夫かね?この義手は君用に開発したものだけど」
「実は……」
中年木城二郎はかいつまんで事情を話した。情報を得るだけでなく過去に干渉し成功してその記憶を保持している事も。
「フムウウウウン!僕の意識を乗せて装置を発動することによって君に新しい記憶が足されると!だがしかしそれだと君の目的は果たせるのかね?過去をいくら変えても今この時代に変化は起きないわけでしょ?この実験はあくまで量子領域から過去の情報を得る手段だしねぇ」
「この実験が成功すれば白峰家は蘇りますそうすればこの世界だって……」
「ムムムムム!?……お、そうか!吹雪ちゃんが生きてる間に過去の僕が早く装置を完成させれば義手に意識を乗せることが出来る!!完成した時点で義手に記憶は上乗せされるからそこからこの時代に意識を持ってこれれば後は華月たん、いやかづたんと同じ方法で吹雪ちゃんは蘇生可能!!」
「はい」
「ようしやろう!君のおかげでかづたんはこの時代に復活できた!過去のような無敵じゃ無い、か弱い存在だけど僕はとても感謝している。恩に報いるよ!!」
膨大なエネルギーを必要とする白峰華月はこの時代ではほとんど活動できず幼児の姿で一日の殆どを寝て過ごしている。
「……実験する前にちょっとした疑問があるのだけど。過去の僕はどうなると思う?君のようにどこかで死亡したら思念体となって統合されるのかな?」
「過去に装置が誕生するので想像もできないような並行世界が生まれる可能性がありますのでなんとも……過去の博士しだいでどうなるか……俺には分かりません」
「それもまぁ面白いかな……この時代の世界は崩壊、地球はめちゃくちゃだ。過去にできる並行世界はせめて平和になって欲しいね」
「そうですね……」
中年二郎は義手を取り外して装置にセットする。量子チップを装置に取りつけた。
「勝田博士お願いします」
「よおし!僕の記憶を量子チップに書き込んじゃうぞー!!どのくらいかかるかな?…… 8 時間か、まぁ寝てる間に完了するか」
「俺は装置のチェックをしています」
「頼むよ、ああそれからかづたんからメールが来たらよろしく頼むよ」
ヘッドギアを装着して横になる勝田博士。中年二郎は量子チップへの書き込みを開始する。
『うまくいくだろうか?』
『いくことを願っている。これまでは装置が完成するまでの 20 年間、吹雪を守り切るのにずっと失敗している』
『過去で装置が出来たのにも関わらず吹雪を死なせて失敗したら?』
『装置が出来てしまう事によっておそらく誕生する並行世界の俺たち木城二郎も連鎖に苦しむ事になるだろう』
『そうとも限らんぞ?あの時代だからこそできる事もあるはずだ希望はある』
『半吸血鬼化をコントロールできていないあの時代の二郎は義手の力を制御できるのか?』
『吹雪が生きていればそれも心配しなくて良いだろう』
『それもそうだな』
『過去の吹雪を救い今に吹雪を復活させる!』
義手の中の木城二郎思念体たちは決意を改めた。
***
『よし、少年二郎が校舎からこっちを見ているぞ』
明命館高等学校の校舎裏に続く通路から思念体の一人が姿を現して存在を示す。
『ここ数日この黒い人影が気になっているはずだ必ずここに来る』
教室を抜け出した少年二郎。
「あれ?どこに行った?…そこか」
校舎裏にある古い祠の前に思念体は立つ。そして祠の前の地面を指差しする。ここに現在と同じ装置と義手の座標を入力して置いている。
「そこに何かあるのか?」
うなづく思念体。少年二郎は義手の硬さを活かして地面を掘っていく。 30cm 程掘ったところで金属の感触があった。
「箱?」
慎重に掘り出す少年二郎、腕一本分の長さの全く錆びていない箱が出てきた。不思議なことに蓋が全く見当たらない。最初から開けることを想定されてない作りかのようだ。
「なんだこりゃ…んん?よく見ると箱に模様が刻まれてるな…」
思念体に目をやると箱を抱えた格好で両端を手のひらで押さえて回す動作をする。少年二郎は男の動作を真似して箱の両端の面を手のひらで押さえて回すようにさする。
「ん!?」
箱に溝が現れた。次はその溝をなぞれと男は動作で示す。二郎はその通りに箱をなぞるすると箱は二つに分かれ中から黒い金属の腕が出てきた。
「これは鎧の腕の部分!?いや、義手か?」
頷く黒い思念体、二郎はその黒い腕を手に取る。
『頼む…』
黒い腕に触れた瞬間、二郎の頭の中に声が聞こえてきた。
「え?何だ?」
『頼む…どうかあの人を守ってやってくれ…』
「この声…お前なのか?」
二郎が男を見ると頷いた。
『私の肉体はもはや存在しない…それを託すことしたできない』
「それ?この義手の事か」
『頼んだぞ…白峰家の未来を…』
「白峰家!?どういうことだよ!おいっ!」
『それを装着すれば解る…………これでようやく眠りにつける…』
黒い男は満足な笑みを浮かべて消えていった。
『これでいいか』
『少し芝居がかりやしてないか?』
『あの年ごろにはこう言うのが効くんだ』
『流石自分の事はよくわかってる』
『さてここからがこれまでと違うぞ?今回は義手には機能説明の他に勝田博士の事も含まれている。装置はバックル剣に姿を変えて肌身外さず持つから心配はないはずだ』
『この後は……速水恭一と出会いそこから吸血鬼沖田と対決か』
『どうなるかな?勝田博士の記憶を持っているんだ大きく変わるはずだ』
少年二郎は校舎裏で速水恭一と喧嘩した後和解、その後戸惑った様子で知っているはずのない番号に電話をかける。
「もしもし、勝田博士ですか?」
『誰だね?この番号と僕の名前を知ってるとは?』
「木城二郎です、あなたと会って話したいことがあります。 V エナジーと量子観測装置についてなのですが……」
『…………適当な事を言ってる訳じゃあなさそうだね。しかし教会の執行人の息子であるだけの君がなぜそこまでの事を?』
「会って話します。その前にすぐに沖田先生の攻撃を中断させてください電波もじきに通じなくなりますので」
『……いいだろう、沖田先生には中止と言っておく。じゃあ後でこっちから連絡するよ』
電話を切る勝田。二郎は小さくため息をついた。
「ちょっと」
声と同時に二郎の携帯が手から離れた。振り向くと奥寺舞子が立って携帯を持っている。
「聞こえたわよ木城君。沖田先生が攻撃?中断?なんでそんな事言ってる訳?」
「返してくれ奥寺!事情は後で話すから!!」
「何必死になってんの?あやしい……」
そこに速水恭一と白峰吹雪が現れた。
「どうしたどうした?」
「土蜘蛛……」
それを見た奥寺舞子はあからさまに嫌な顔をする。
「あんたたちに用はないの、あっち行ってなさいよ」
「なんだなんだ?ツンツンしやがって」
「土蜘蛛おとなしくしてないと……」
「あ~ウッザ!!ほら返すわよ!ふん!」
携帯を投げつけて糸を飛ばして校舎の窓から教室に戻っていく奥寺舞子。
その様子を見ている思念体。
『これは……予想もできない道に入ったか?』
『分からん……しかしこれまで通り白峰華月復活と連合との協力に V エナジー覚醒には導かねば』
続く
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