VAMPIREEYE83 「血と宿命」
―桃山城近くのマンション
霄を乗せた蓮也のバイクが到着する。地下駐車場から特別エレベーターで最上階へ。
「とても変な感じ……本当にここはマンションの最上階?」
霄は窓一つないフロアーを見て言った。
「日光を入れないようにしてあるんじゃないのか?さぁこっちだ」
エレベーターを降りて進んでいくと高級ホテルを思わせる大理石の廊下に赤い絨毯が敷かれていた。一番奥の扉の上には監視カメラその横には物騒な銃口を光らせるタレット。戦闘機にも搭載されるようなタレットは不審者を見つけ次第ハチの巣にする。
扉の前に立つと自動的に開かれた。中は大正時代を思わせる和洋折衷の空間が広がっている。それを見て霄は少し前の白峰家を思い出していた。
「来たか」
声がした。幕を通り抜けた先、部屋の中央にアンティーク調の長テーブル。その両側に男たちが立ち、最奥の椅子に足を組んで座る吸血鬼の女性。その横に金髪長身の男。
吸血鬼の男達と白峰華月、黒谷ジークベルトである。
「霄、こうして会うのは初めてだな。白峰華月だ」
「せ、先代!?……本当に……」
「緊張しておるな?ここにお前の敵はおらん安心するがよい。勝田、何か菓子と茶を持ってきてやれ」
「よろこんでー!」
小走りで部屋を出ていく勝田。
「皆座ってくれ」
一斉に腰を下ろす男達。蓮也は霄の隣に座った。
「雪名から我の事を色々聞いているか?それともお前の父で教会の男、蔵人からか?」
「それは……」
「なぜ今さら復活してるのか、何をしようとしてるのか知りたいのであろう?」
「あ……ええ、まぁ」
勝田が玉露の茶ときんつばを持って霄と蓮也の前に置く。
「さぁどうぞ、霄たん、蓮也君も」
「我が滅びる事になったのは教会の二大勢力、大天狗長門組と葛野忍の陰陽師団が原因だ。木城紫蓮に白峰蔵人、雪名も関係している。奴らにまんまと唆されたのだ」
「……」
「白面金毛九尾退治の為に我は先頭に立って戦った。だがそれが罠だったのだ。元々西の白峰家、東の陰陽師団で闇の住人を抑えてきていた。もちろん争うだけでなく闇の住人側の協力や同盟関係、不可侵条約を結ぶなど平和的解決も行ってきた。そこに海外から【教会】が入ってきたのだ。それまでも執行人とやらはこの国に入り込んで活動をしていた、だが 50 年前ついに支部を置く事を決め本格的に上陸してきた。能力の高い者たち、化学力、資金力、日本政府と裏で繋がっていたのが大きかった」
「そのような話初めて聞きます先代」
「そうだろうよ……まず初めに陰陽師団が教会の傘下に入った。以前から進めていた京都地下の都市計画を教会の資金力で一気に進め完成させ強力な 24 の結界を張りそこに教会の支部を設置した。人間側のメンバーが多い教会に反発が大きかった闇の住人らだが、大天狗長門組が半分仕切るという話になり落ち着いた。ここで白峰家に協力していた大半の家が教会所属となったのだ。当時我はまだ当主では無く、虚弱な母上だった。傘下を迫り陰陽師団や大天狗長門組の説得や圧は続き、ついに母上は当主の力を我に託して力尽きた」
蓮也はきんつばと茶を口に運びながら聞いているが、霄はそれどころではなかった。
「我は木城家、黒谷家、水元家、吉良家、須原家、子神家を中心に他の家とも協力しこれまで通り外敵や闇の住人との交渉、戦闘を続けて行った。当然教会は気に入らない」
「子神ってお父さんの家ですね、先代」
「子神蔵人、雪名の夫の旧姓だな。教会は白峰家と折り合いをつけてやっていくかに見せかけ、厄介な案件を押し付けてくるようになってきた。我は日本中を飛び回ることになり、留守の間は木城家と子神家に任せることが多くなっていった。それからしばらくして我は共に行動していた刀工の男と夫婦(めおと)になった。立花陽太郎だ」
「陽太郎お祖父さん……」
「陽太郎は面白い男であったよ。刀工でありながら魔術の使い手でもあった。我は陽太郎から魔術を学び自分の術へと昇華していった。魔法使い、魔女と縁かあるとか言っておった。一歩離れた目線で物事を見て助言してくれる軍師のような存在であり、また我を喜ばせるのが上手な男だった。やがて雪名が生まれしばらくして陽太郎はこの世を去った。白峰家の子を作るという事は魂を削る行為なのだ。陽太郎は自分の全ての魂を使い切るつもりで我に雪名を産ませたのだ」
大きくため息をつく華月。
「魂の強さは生まれ持ったもの、どうにもならない。雪名の夫、子神蔵人はありない程の魂の強さを持ち三人も雪名に産ませた。霄(そら)、吹雪、霞(かすみ)をな。これまで白峰家の子が二人以上生まれた事などなかったから我は当時驚いたものだ……話が逸れたな戻そう」
横に居た黒谷が赤ワイン注いだグラスを華月に渡す。
「ここにいる男達は、近藤、斎藤、沖田、谷川、佐久間、木戸、河上、勝田。陰陽師団の葛野忍の配下にならなかった人間側の白峰派の家の者たち」
深く頷く黒谷。
「私の黒谷家は代々忍者の家系。教会に知られずに同志を集めることに成功しました。分裂した黒谷の過激派らがブラックヴァリーなどと名乗り数を増やしここ十年ほど活動しているようですが、里を離れた私にはもはや無関係です。華月様、お話の続きをどうぞ」
黒谷は静かに言った。
「雪名が生まれ、白峰家は安泰するかに思われた。だが、雪名が成長し子神蔵人と夫婦になった頃から雲行きが怪しくなってきた。雪名と蔵人は教会に属して白峰家はやっていくべきだと度々我に言うようになった」
「はい、その頃から私、黒谷ジークベルトは華月様の支えになるべく尽くしておりました。華月様は歴代白峰家でも最強のお方、大天狗長門組、陰陽師団にとっては脅威だったのでしょう。真っ向から華月様に対抗できるものなど両陣営にいなかったのですからね」
「雪名らの言い分も分かった。我がやりすぎるせいで教会との関係が良くないと。大人しくして教会に属していればいらぬ争いを生まぬと。だが我にしてみれば、これまでの暗黙の了解を破り好き勝手をして自分らの思い通りに人間も闇の住人も支配下に置いていってる教会に従うなどありえない事だったのだ。その証拠に、妖怪連合などというものを酒呑童子が起こしてるではないかと」
「ええ、これはよくありません。妖怪連合というものは人間を一方的に支配しようとしてる。共存する姿勢を見せながらも裏で操る算段なのです。教会側の闇の住人を引き抜いていってはいますが人間側は皆無。結果争いは増える一方」
黒谷は空になった華月のグラスにワインを注いだ。
「ならば先代はどうするつもりなのです……」
霄は一口だけ茶を口に含んで言った。
「教会をこの国から撤退させるもしくは主導権を我が握る。元の状態に戻すのだ。それで全てうまくいくとは言い切れないが次の世代に繋ぐことができる。白峰家も関係する家も存続できる」
「二大勢力を潰さなくても……」
「いいや駄目なのだ。陰陽師団の代表葛野忍が表社会で権力を持てば白峰家は消滅する。奈良時代より続いた家が消滅するのだぞ!」
「何故ですか?」
「奴にとって都合のいい手を組む相手は大天狗長門組。白峰家の代わりに大天狗長門組を国に認めさせ、後は碁盤の目町で飼い殺しにするつもりだ」
「それの何がいけないのか……私にはわかりません。お母さんは普通の人として生きてくれればいいと言ってましたし、私も家族を守れる力さえあれば十分です。多くの敵と戦ったり争ったりなんて必要ないと思います。当主は碁盤の目町でずっと過ごすことになったとしても……当主を継ぐのは一人、継がなかった白峰家の者はやがて吸血鬼の力を失いただの人となって寿命を全うして死んでいく平和に生きれればそれでいいのでは?」
「ふ……雪名と同じような事を言いおる。『広い世界の事より自分の手の届く範囲の幸せを守りたい』と何度も言っておった。その結果がどうだ?今の状況を考えて見ろ。霄、お前の周りは平和か?雪名は蔵人は何をしている?お前は何が出来ている?」
「それは……」
「我とて滅ぼされ偉そうなことは言えないが……諦めたりなどしないし敵とは戦う。強き者が前に出て大切な物を守るなんてものは自然界では当たり前だ」
「……」
「……我は碁盤の目町の結界の中で白面金毛九尾は戦った。奴とて国を亡ぼすのが宿命とはいえあの時点ではこの国の滅亡など考えていなかった。だがやるしかなった、核爆弾よりも危険な妖怪を野放しにはできない。数回の戦闘で弱った奴は葛野忍と蔵人の連携で封印された。我も満身創痍の状態だった、そこに大天狗長門顕彰に術を掛けられ動けなくなった所に木城紫蓮から刀を受け取った雪名が我の心臓を刺したのだ」
「!!」
「泣きながら何度も何度も謝っておったわ。我に刺さった刀は代々白峰家に伝えられてきた霊刀だ。使用者の力を増幅させる物。雪名は【停止させる力】を持つ者。我の再生、魔力を傷口から停止させ更には当主の力を奪った。最後の力で我は刀に意識を移した。霊刀は白峰芙蓉の血と神鉄で作られたもの、何とか成功し完全消滅はまぬがれた。体は灰となり雪名が全て吸収してしまった」
「そんな……」
「その後にお前たち三人が生まれたのだ。何も知らずに都合のいいように話を聞かされただろう。あの白面金毛九尾との戦いは仕組まれたものだったのだ。また同じような事が起き無いとも限らないぞ?今度は雪名が狙われ始末されるかもしれん、あるいは次世代のお前たちか」
「……先代は当主の力をお母さんから奪うつもりですか?」
「ああ、奴が持っていていい事など何もない。我に返してもらう、お前もしくは……新たな子が次の当主にふさわしい存在となった時に譲る」
「新たな……子?」
「お前の子、もしくは我の子よ。まだ先の話であるがな」
黒谷はそれを聞いて深く頷いた。
「我々は人間よりずっと長生きし、若い時期がその寿命のほとんどだ。我のは今は幼体だが完全復活すれば人間でいう所の 20 歳頃の見た目になる。我は 120 年の時を生きてきたが 100 年間ずっと 20 歳だ」
華月は周囲の男達を見る。
「この者たちも徐々に若返っておる。最終的には 20 歳程度に落ち着くだろう」
華月はワインを飲み干すと霄の横まで歩いていく。
「一気に色々と話しすぎたな、休憩するか?勝田、霄と蓮也に部屋を案内してやれ」
「アイアイサー!」
立ち上がる霄と蓮也。
「華月さん」
「なんだ蓮也?」
「今話した内容は二郎は知っているのか?」
「ああ、二郎には学園で聞かせた」
「そうか」
「霄、この話は吹雪と霞にはそのうち我から聞かせてやる黙っておけ」
「……はい、私からなんてとても話せないですし」
二人は勝田に連れられ別の部屋に移動する。
「自分の部屋だと思ってくつろいでね霄たんに蓮也君~」
案内されたのは畳の部屋であった。ちゃぶ台と座椅子が置いてある。霄と蓮也は靴を脱いで入った。
「白峰家の離れに似てる……」
「そうなのか……」
二人は座椅子に座る。蓮也は何となく TV をつける。
「北海道の爆発の事ばっかりやってるな……そういやアメリカでも最近テロが起きてるんだってな」
「爆発……私、ここに来る前に襲われて稲荷山トンネルで少し暴れてしまって……」
「大丈夫だ、さっきの部屋にいた人らの内、二人は警官だし上手く処理してくれるだろう」
「無関係の人巻き込まなかったか気になって……」
「そっちか……相変わらずだ霄は」
「蓮也さん、私の事昔みたいに名前で呼んでくれるようになって嬉しかった」
「昔はよく遊んだものな。あの時霄はよく笑ってた、いつの間にか一緒に遊ばなくなって苗字で呼ぶようになってしまったんだった」
「中学に入ってから急に周りも男女を意識し出して何となく……かな。洛庵高校で見かけた時一度話しかけたけどお互いちょっとよそよそしかった」
「ああ、照れくさいのもあったんだ。お互い見た目も変わったしな」
「声変わりしてて背もすごく伸びてて驚いた」
「俺も驚いた、小学生の時のイメージがあったからな。その……成長してて」
「それって……?」
「変な意味じゃない、急に女性らしくなったから驚いたんだ」
「背はあまり伸びなかったけどね」
「華月さんを見てると……霄と似てるなと思うんだ雰囲気は全然違うけど。滅ぼされる前の姿の写真見てああ霄もこんな感じなるのかと思ったよ」
「……私はお母さんより先代に似てるんだ。お母さんに似てるのは吹雪の方だ」
「俺は……華月さんよりもどっちかと言うと霄の方が……」
声が徐々に小さくなっていく蓮也。
「え?」
「なんでもない」
「うん……」
そのまましばらく何も話さず数分間 TV を見つめる二人。
「何が正しいのか解らない……お母さんの選んだこの国の新しい平和維持に参加する事なのか、吹雪のように教会で名をあげて内側から変える道に進む事なのか、霞のように人間社会で出世して体制を変えさせる道に進む事なのか……先代の言うように戦う事なのか」
「吹雪と霞そんな事を考えているのか……」
「ええ……だから吹雪は躍起になって任務をこなしてる。霞は勉強して政治家を目指してる、一度芸能界に入るのも手だとか話していた。私は傍から見れば姉妹の中で一番勉強が出来て運動神経にも優れ教師の評判も良い姉なのだろう……でも実際は何も出来ない白峰家で一番の役立たずだ」
「そんな事言うな。霄にだって出来る事はあるはずだ」
「何が出来るっていうの?」
「まだわからないが一緒に考えて行こう、試して行こう。即断即決即行動が必ず良いと限らない。じっくり考えればいい……」
「うん……」
「今は出来る事を一つずつやっていかないか?」
「そうする」
「じゃあ霄……」
様子を見に来た華月と黒谷に霄は杯を用意してくれと言った。白峰家の者が血の力を与える儀式を行うためである。
「良いのか蓮也?霄の血を正式に受けて契約を結べば人間に戻ることは難しくなるぞ?後の事を考えると我は勧めないがな……」
杯と台と小刀を持って来る黒谷。ゆっくりと蓮也と霄に近づく華月。
「お前たち夫婦(めおと)になる気はないのか?蓮也が夫になるには人間でなければならん。毎月仮契約の更新を続ける事を我は勧めるぞ」
その言葉に顔が赤くなる霄と蓮也。
「……仮契約でどのくらいの力を発揮できるんだ?」
「半分程度。だが成長の伸びしろは半吸血鬼の方があると言える。それと一つ気を付ける事がある、更新を怠って暴走すればお前の意識は消えただのケダモノ化した鬼となる、もう戻れん」
「白峰家の力を貰い逃げなどできないようになっているのです。正式契約すれば安定はします。主(あるじ)の意思でいつでも始末される存在となりますがね」
黒谷が言った。
「私は父が西欧の吸血鬼のハーフですが華月様に命を救われ正式契約した者。この命は華月様のものです」
誇らしげに胸に手を当てる黒谷。
「霄はどうしたいのだ?」
「だったら……仮契約にしておきます先代」
霄は少し恥ずかしそうにそう言った。
「蓮也もそれで良いか?」
「ああ」
華月の指示で台を向かい合わせに正座する霄と蓮也。横には見届け人の華月と黒谷。
霄は懐紙を咥え、小刀で親指を刺して杯に血を垂らす。そして懐紙で指と小刀を拭って鞘に納め自分の右側に置いた。
蓮也は杯を両手で掲げ一礼、 2 回に分けて血を口に含み飲み干した。
VAMPIREEYE137「救世主と少年」 Jan 15, 2022
VAMPIREEYE136「異次元の扉」 Jan 14, 2022
VAMPIREEYE135「起死回生」 Jan 12, 2022
PR
Free Space
Freepage List
Calendar
Category
Comments
Keyword Search