VAMPIREEYE119 「二郎と占い師」
―1日前
碁盤の目町中央塔
壁一面に取り付けられた無数のモニター。葛野忍は黒谷月の姿を探していた。
「んん……?」
明命館高校の映像を確認中、二郎の姿に目が止まった。
「この少年は木城二郎……何だ右腕が何か気になる……無視していいものではないと小生は感じる……」
二郎の画像を拡大する。
「……ただの偶然とは思うが」
そして画像を切り抜き空中で葛野忍が所有する純白の左腕の画像を横に並べる。
「……似すぎている」
二郎の右腕義手の画像と葛野忍の純白左腕は左右と色を反転させたかのように瓜二つであった。
「サイバネアームが偶然似ていただけに過ぎないとは思うが……何か気になる」
二郎の過去の画像を浮かび上がらせる葛野忍。
「半年前、まだ右腕は生身……いつからあの少年はあの腕を……」
塔のスーパーコンピューターに検索をかけさせる。
「これは……小生が鍵(左腕)の封印を解いた日と同じ……」
―現在
「確信めいた予感がする。あの少年の右腕とこの左腕を近づけてはならないと」
葛野忍は順調だった計画に僅かな不安要素を見つけた事に苛立ちを覚える。
「今すぐあの少年を始末するか……いや、少年を始末した事であの右腕が他の者に移る可能性も無いとは言えない。それに昨日調べた限りあの少年を取り巻く環境は複雑。何か予想だにしない事態を引き起こすかもしれん。今は計画を進める事こそが最優先、監視は続けなければならないが」
結界の中で浮いている純白の左腕を眺める葛野忍。
「鍵に必要な力はあと少しで溜まる。邪魔な妖、人間どもを始末し、ようやくここまで来たのだ【彼ら】もその日の為にグレイマンを用意した」
「忍様」
部屋の隅から染み出るように現れた長身の男。
「怨京鬼、何事です?」
「白峰雪名がまた……」
「ふん、あの女も何かを感じ動かずにはいられないのか。良いでしょうすぐに行きます」
葛野忍と長身の男は扉の無い部屋から壁をすり抜けるようにして出ていく。
***
二郎は時々特殊サングラスをかけて周囲を観察しながら義手の反応にも気を付けて探索を続ける。
「う~ん……こんなんで見つかるのかな不安だ」
碁盤の目町突入作戦まであと三日弱。
吹雪を白峰家を守ると誓った二郎。どうすれば守れるのか危機は去るのかずっと考えていた。いつの間にか事件に巻き込まれ変わっていく状況。
「グレイマンと宇宙からの侵略者……エクレシア(教会)とグレイマンは協力関係にあることは解ったんだけど……そんなのから吹雪さんたちを守り切れるだろうか」
華月の強さや、その周囲の者達の優秀さは二郎も驚くばかりであったがそれでも不安はぬぐえない。本当に義手さえ完成させれば好転するのかも解らない。
二郎は携帯で MAP を見ながら探索を続ける。近代的な地区を抜け旧時代の建物が多く残る住宅街へと足を踏み入れる。
「なんか落ち着くなぁこの辺」
観光客向けに外見的には昔ながらの建築様式を思わせその実ハイテクな市街地とは違い昔からの建物が残っている地区はドローンも少なくパトロールロボドッグも見かけない。
二郎は公園に入り一番高い遊具に上って特殊サングラスをかけてみる。住宅街の中にほんの少し光っている建物を見つけた。
「ここからだと結構遠いな……迷わないようにしないと」
二郎は携帯で地図を見ながら光っている建物を目指す。入り組んだ路地を通り周囲の住民に聞きながら進み屋根のある通りを抜けた先に目的の建物はあった。
「銀色の……猫……か?」
猫と呼ぶには少し違和感があった。横にある電動自転車と大きさがほぼ変わらない。
「デカすぎる……でもそんな猛獣がこんなところにいるはずないし」
特殊サングラスをかけてみる二郎。
三階建ての古いビルはうっすらと光っていた。気が付くと巨大な猫は消えていた。
「何だったんだろう?」
建物に近づく二郎。特殊サングラスをかけて再度見てみるが今度は何も変化は起きない。
「あれ?光ってない……なんでだろう」
建物の周囲を探索する二郎。
「(何か手がかりになりそうだったのにな。魔女のタチバナメイカさんと関係してるかもと思ったけど)」
他にあてはない。とりあえず二郎はこの場所を携帯でマーキングして周囲を更に探索する。二郎は先ほどとは違い人通りがほとんどない事に気が付いた。
「わからないけど何かありそうなのに」
二郎はいったん離れて建物を特殊サングラスで見てみる。するとほんのりと光っている。
「うーん……やっぱりあの建物何かある」
再び建物に接近し義手で触れてみようと考えた時、ビルのシャッターが空いた。
一瞬身構えたが、出てきたのは髪にメッシュを入れた派手なメイクのスタイルの良い女性だった。革のジャケットにタイトなボトム、ヒールの高いブーツを履いていて。アクセサリーは多かった。
「(あ、ここのお店の人?かな)」
「こんにちは、ここで何してるの?」
二郎の右腕義手に一瞬視線を向けた女性。
「この辺ウロウロしてたみたいやけどどうしたん?迷った?」
「いえ、人を探してまして……タチバナメイカさんて人に会いたくて」
二郎は正直に言ってみた。この人が探している魔女の関係者なら嘘をついて後々問題になる事は避けたかった。
「へぇ……その人この辺にいるの?」
驚くほど姿勢が良く通る声。目を合わせられると見透かされてる気がした。
「それがハッキリしなくて……この辺にいるってのは聞いたんですけど」
「ふ~ん……誰に聞いたん?」
女性は煙草に火をつけ指輪の宝石を気にしている様子だった。二郎の義手が少し反応した。
「それは教えることはできないんです、名前も知らない者で……でも信用はできるんです。その者のいう事に従わなければいけないって……すみません意味わからないですよね」
実際黒い影の男達は名前も知らなかったし、勝田の事はうかつに名前を出さない方がいいと考えた。
「うーん……」
考えている女性。二郎の義手は反応し僅かに振動している。
「(この人もただの女性じゃない……勝田さんに相談して出直そうかな)」
頭を下げ「すみません」と立ち去ろうとする二郎。それに対し女性は、
「ちょい待ち」
「はい?」
「アタシ占い師やねん。せやからそのタチバナメイカさんの居場所占ってあげるわ。キャンペーン中で先着 3 名様無料や。君が 3 人目よ」
女性はシャッターを開けて店から小さなテーブルと折り畳み椅子を出した。
「さ、座って」
「はい……」
女性はタロットを使って占いを始める。
少し話をした後、二郎と占い師の女性は近くのファストフード店に移動する。
その様子を離れて眺めている男。葛野忍の部下であった。二郎に気付かれず追跡していたのであった。
「コルルルルルル……」
獣唸り声が聞こえたかと思うと突如眠気に襲われ気を失った。気が付くと全裸で路地のボミ捨て場に転がっていた。
「俺は一体……ここはどこだ?」
フラフラと歩きはじめる男。自身が全裸だと気付かずに通りに出たところでパトロールロボドッグに見つかり逮捕となった。
ファストフード店で注文をする二郎と占い師。
「あの……何とお呼びしたら」
「ああ、アタシは立花冥珂。アンタの探してる者やっちゅうことや」
「えっ……!?」
「ゴメンゴメン、騙すつもり無かったんやけどこの街はけったいな連中が多いし用心に越したことはないからねぇ」
パトカーのサイレンが外から聞こえる。
「あっちの壁際の席いこか喫煙席やけど匂い大丈夫?」
「大丈夫です、父も吸っていたので」
「さて……アタシに会いたかった理由とアタシの事教えた連中は気になるけど、アンタもアタシが本当に本物の立花冥珂か気になるやろ?」
「その……」
「ええよええよ、質問に答えてくれるだけで。嘘ついてるかどうかはアタシ解るしねぇ」
二郎は言葉の一つ一つが頭に響くようだった。会話のノリは昔ながらの大阪の女性ではあったが、仕草も姿勢もまるで隙が無いように感じた。
「(義手がずっと反応している……これは立花さんが常に何かしているって事なのか?)」
「その腕、見たことないもんやわ。アンタが純朴な少年やなかったら義手が勝手に反応してるって思わんと対処してたところやな」
「す、すみません。この所制御できない時がありまして……」
「で、その腕の事でアタシを探してたん?」
「いえ、実は……」
二郎は出来るだけ人物の名前を出さずに自分の起きている状況、何が目的で立花冥珂を探していたかを丁寧に話した。
「ははぁ~そういうことねー……大体解ったわ。やっぱり虹色のほうき星の暗示はそういう事かぁ」
魔女は煙草に火をつけて煙をゆっくりと吐き出す。煙はネコの形になりテーブルで耳をかいた。
「こんなマジックみたいなんで信用はできひんやろうけど……」
「俺には十分スゴイ魔法に見えますけど」
「ふふふ……アタシが悪い魔女やったらどうする?」
「悪い魔女さんならこの店には来ないと思います」
「……アハハ、そうかもねぇ。アンタをつけとった男は知ってる?ウロチョロしとったから記憶消してほっぽり出してやったけど。ほれ、こんなん持っとったで」
冥珂はテーブルの上に壊れたイヤホン、破れた呪符を置いた。彼女の左手にはいつの間にかタロットカードが一枚出現していた。
「付けられてたんですね俺……(エクレシアの仕業かな)」
「商店街とその周辺はアタシの領域にしてあるし変なんきたら一発でわかるで。面倒やけどまぁまぁ穏便に出てってもらってる」
「この辺に妖の気配がないのもサイバネ者を全く見ないのも立花さんの影響ですか?」
「まぁそうかな。ごく自然に拒絶する形で近寄らせへん方法やね。でも完全に隠れてるわけでもないねん、一般の無害な人らとはアタシは占いのおばちゃんとして近所付き合いしてるんやで」
「おまたせしましたー」
店員がハンバーガーセットを二つ運んでくる。「ごゆっくりー」笑顔でトレーを置いて去っていく。
「あの子はマチコちゃん、サイバネ DV 彼氏に付きまとわれて泣いてたからちょちょいと二人に暗示をかけて別れさせた。男は警察に自首させてマチコちゃんの傷は治してあげた」
「へぇ……」
「あっちに居るタブレット触ってる眼鏡のおっちゃんはタクヤくん。失業のショックからアル中になって家族を困らせてたからアルコールを飲みたく無くしてあげた。仕事も見つかったみたいやね」
「はぁ……」
「そっちのすみっこの男の子は窃盗団のメンバーに……っと話が脱線したね。まぁまぁこんな感じでお節介焼きながら調査を兼ねてこの街に滞在してるんやけども」
「あの、立花さん。厄介な事をお願いしてすみません……」
「フフッでも例の女の子と家族どうしても助けたいやろ?」
「はい、でも頼むだけなんて虫の良い話……何か俺にできる事があればいいのですが」
「良い子やねぇ、そしたらお代変わりにアタシの話聞いてくれる?ちょっと長くなるけど」
冥珂は自分の過去を語り始めた。
***
葛野忍は神名 L 咲夜と紙人型で連絡を取っていた。
「咲夜、あの少年の右腕の事、小生に黙っていましたね?」
「ああ~……あの腕。面白いでしょう?でもそれが何です?貴方には関係ないのでは?」
咲夜はベッドで黒いペディキュアを塗りながら言った。式神の梨花が塗りを確認する。
「しらばっくれるのはおよしなさい。あの右手は小生の所持する鍵の左腕にあまりに似すぎています。まるで鏡映し、白と黒の陰陽、対となる存在なのではと考えています」
「グレイマンにとって鍵は重要ではないのですよ。それと対になる腕が存在しててもそれが何だというのです?しょせんはこの惑星の都合ですよね?」
「重要でしょう、鍵の腕で門を開き【あの者達】を呼び込むのですから」
「鍵で開く門、そんなものはただの抜け道ですよ。過去にアレイスター・クロウリーがプラチナキーで開いた時、彼らは最終実験をしました。それまではグレイマンを使い、アバターを通じてしか調査活動してなかった彼らはついにこの惑星を開拓する価値があると判断し本格的に乗り出したのです。だから抜け道など必要ありません。直接来る事になれば少し時間が伸びるだけですよ」
「な……んだと?必要ない……!?」
「残念でしたね元師匠。門を使いこなし彼らとの交渉材料に使おうと考えていました?」
「咲夜……貴女は……!」
「あら、怒りました?少しキツイ言い方をしましたね。でも元師匠、安心していいですよ、貴方はグレイマンに任命されるでしょう、丁度グレイマンは今空席がありますしね」
「―それはいい事を聞きました。それならば貴女を始末して小生がグレイマンに成る事も可能なのでは?」
「あはははははは……!それは無駄な事ですよ。どの道グレイマン同士はこの惑星の支配権領域を巡って争うのですからここで私と貴方が争う意味はありませんよ。やりたければその時にしません?」
「……ふむ、ここで貴女を潰すより、同等の立場になった後叩きのめす方が楽しそうですね。ところでこの場に長門顕彰がいて聞いていればどうなっていたと思います?」
「それは愚問ですよ。どのような反応をするかは明白、言いたいように言わせておくだけです。ああいった輩はグレイマンに向かないのでいずれ【彼ら】が始末するでしょうしね。黒谷月にやられてなかったとしても先はないですよ。元師匠もどこかで長門顕彰を始末する算段を立てていたのでしょう?」
「流石は元弟子、小生の事を解っていますねぇ。何の為に碁盤の目町に小生がいるのか本当の目的を長門顕彰は知らないままです。その昔、白峰華月を葬ったあの時から小生は備えているのです」
「備え……白峰華月が討った九尾の骸……ですよね?」
「一度アレを見せただけで理解できてしまうとは、優秀ですね元弟子。優秀過ぎるほどですよ。才のある者でも十年かかるものを貴女はたった 1 ヶ月で出来るようになってしまった。小生が嫉妬するほどの逸材でしたよ貴女は」
「誉めるなどらしくないですね」
「誇らしいのですよ、物心つく頃から見ている者として」
「不意に見せる兄貴面、変わってませんね……でも、私にとっては神名の家の者よりは貴方の方が家族と言える存在だったでしょうね」
「ふふふ……」
人型が咲夜の横に移動する。
「九尾の骸を使って貴方は長門顕彰、白峰華月を超える存在へと成るその為に左腕と門が必要なんですね」
「門を開いた時に発生する虹色の光のエネルギーの研究はしてきましたからね」
「アレイスター・クロウリーの二の舞にならない事を祈りますよ」
「さて話を戻しますが、あの少年の右腕の事ですが……」
「分かりました部下には生け捕りにするようにいっておきますよ。【彼ら】が来た時調べてもらいましょう。そちらは大丈夫なんですか?白峰雪名の事は」
「ええ、説得して静かになりました。あと三日大人しくさせていればいいので」
「そうですか、それではまた」
人型は力を失いベッドから滑り落ちる。咲夜はそれを尾で突き刺して灰にした。薄ら笑みを浮かべる咲夜の口からは獣めいた伸びた牙が覗いていた。
続く
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