VAMPIREEYE120 「センジョーVSグレイビースト」
「咲夜さま、完璧です」
ペディキュアの仕上がりをチェックしていた梨花が言った。これはただの塗りではない、咲夜の力に反応し呪(しゅ)を高めるものである。禹歩(うほ)と呼ばれる呪法に用いる舞踏の足使い。それを普段の歩法に変換する為の術式を仕込んだ塗料であった。
ベッドから飛び降りる咲夜。直立不動から流れるように足を踏み出す。緩急織り交ぜ見る者を圧倒する禹歩を踏む。ペディキュアは輝きゆっくりと光は消えていく。
「お見事な禹歩でございます。ペディキュアに仕込まれました」
「さて、今日はもう休むわね梨花。明日はセンジョーに乗り込むのだから」
「はい、おやすみなさい咲夜さま」
***
咲夜の泊まっているホテルの一般客は既におらず、今や連合の息のかかったならず者(半妖サイバネ者)や傭兵(裏社会の半妖)で埋め尽くされていた。彼らは脳に小型爆弾のチップを埋め込まれ逃亡や裏切りは処刑される存在。
ぬうりひょんを討たれたセンジョーはすでに次の手を打っていた。
「全員配置につきました」
プラズマライフルを構えた男が専用の無線で話す。
『0:00丁度に開始だ』
そう言ったのは全身を神名製のパワースーツに身を包んだ金熊童子・ 金河潤美 。
このホテルはセンジョーの系列会社であり、従業員はすべて連合の者。圧倒的な連携力と行動の速さ。長門顕彰が消えた事によってエクレシアの力は弱まり、連合は動きやすくなっていた。
一斉退去を命じられて出た客の中には TMI のイグネイシャス・ファイマンが居た。
「映画の撮影が始まるからっていきなり夜に出て行けってなぁ……代わりのホテル用意してくれたけど何か妙だ」
ボストンバッグを手にしたイグネイシャスはタクシーを呼んで乗り込んだ。
「まーいっか……亀ちゃんに話聞きに行く所だったし」
イグネイシャスは『亀姫』と表示された連絡先にメッセージを送る。
タクシーは交通量の多い大通りに入って行った。
仙丈隼磨はその昔センジョーを立ち上げる前、徹底的に京都の人間裏社会組織を叩いた。人間には真似のできない方法で関係者家族老若男女全てを始末した。有無を言わさず取引も無く害虫を駆除するかのように一人残らず。逃げた者は何処に居ても探し出し、かくまった者も知る者も人間は全て消した。大した騒ぎにならなかったのは、代わりに連合の妖を人間になりすませたからである。周囲から運よく生き延びたとされる者は実は全てセンジョーの息のかかった妖たちのなりすまし。そしてその事を探る者や反抗的な半妖には脳にチップを埋め込んで監視した。当時の警察に捕まるのは既に入れ替わったなりすましのセンジョーの息のかかった妖たち。前に逮捕され塀の中に居る裏社会の者達は事故や病気を装って全て塀の中で始末した。
エクレシアが気付き動き出した時には全てが終わっていた。連合は強引な勧誘をしない代わりに所属しない妖らを突き放し、人間になりすましての社会の居場所も仕事も得られないようにした。結果犯罪に走りエクレシアに処される。
徐々に街でセンジョーに歯向かう妖はいなくなり、裏社会から完全に人間は排除され京都の裏社会組織はサイバネ者のSSSのみとなっていた。それも都合よく利用する為に存在しているに過ぎない。
仙丈隼磨はセンジョーを立ち上げた後は表人間社会に進出。完全に溶け込み、やり手の青年実業家となっていた。次の知事候補で当選確実と言われている。
突如現れた灰色の軍勢は目障りだった。
むやみやたらと武力を使うのではなく、首謀者を探し出し始末することに決めた。
博打は打たずに一手ずつ確かめながら策を講じた。
神名L咲夜を追い詰めるべく、仙丈隼磨は包囲網を敷いた。
仙丈隼磨の敷いた包囲網は想定できるほぼ完璧なもので相手が【グレイビースト】で無ければ王手をかけていた状態であった。
―失敗すれば後が無い。
そう言った心配は無用であった。作戦の失敗をも視野に入れて動いている。
仙丈隼磨=酒呑童子は、源頼光一党に敗北してから慢心や驕りといったものを捨て、予言めいた未来予測にて行動していた。
条件さえ整えれば望む未来をつかみ取ることが出来る。未来を確定することは困難だが最悪の未来は避けることが出来る。勝てる確証はないが負ける事はない。
仙丈隼磨は今世に転生してまずこの能力に気が付いた。源頼光一党に首を切られる前は、無かった能力。これまでの業を悔いた自分、次こそは失敗しないと誓った自分、様々な思いが交差し転生した時、能力を身に着けていた。
「作戦開始まで5、4、3、2、1、作戦開始」
仙丈隼磨から作戦指揮を任された 金熊童子・ 金河潤美 が通信で告げる。ホテルに配置されたセンジョーの戦闘員が一斉に動き出す。フロアー上下エレベーターシャフトに屋上は封鎖、外壁は戦闘ステルスドローン。咲夜のスイートルームからはアリ一匹も逃さない構えであった。
「……」
咲夜は気配を察知する。梨花はスリープモードから覚醒。
「咲夜さま」「敵ね」
スイートルームの扉が開いたと同時にゴロゴロと突起物の付いたボールが複数投げ込まれる。神名製のプラズマスタングレネード。
青緑の爆光を放ちスイートルームを包み込む。音と光だけでなく強烈な電場を発生させ機械類にもダメージを与えるグレネード。咲夜は吹き飛ばされ、梨花は体の制御を失いそのまま壁に激突後沈黙。
続いてレールガンを構えたアーマー兵が突入。特殊なサイバーゴーグルを装着したアーマー兵は光と煙の中、咲夜を見つけレールガンを一斉掃射。厚さ1mのコンクリートを軽々と貫通する弾丸が次々と放たれ咲夜に命中。通常の人体なら一撃で爆散する威力を持っていたが咲夜は鮮血を飛び散らせるのみであった。
「撃て撃て!効いてるぞ!!」
「グラアアアアアアッ!!」
咆哮をあげ前方回転跳躍する咲夜。一瞬で全身にダークグレイの体毛が生え回転しながら鋭い体毛針を連続発射、レールガン兵達に襲い掛かった。
「ガアッ……」「ぐふ………」
アサルトライフルを防弾する装甲を咲夜の体毛針は容易く貫いた。
「何っ!?」「ひるむな!!」
負傷したレールガン兵たちを退かせ、前に出る盾を構えたレーザー銃兵達。手にしている高密度のシャワー状のレーザー銃を構える。しかしトリガーを引くよりも速く、咲夜の咆哮が襲い掛かった。
「グガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
空気を引き裂き劈く轟音は兵士らの生身にダメージを与えた。ヘルメットの中で目鼻口耳から血を噴き出して膝から崩れ落ちる。
呪(しゅ)を乗せた破壊の咆哮は恐怖と爆音の衝撃で体を硬直させ無防備な内蔵に呪(しゅ)を叩き込む。強力な耐性や術を持つ者でなければ防ぐことは不可能。
「ガアアアアウッ!!」
残る目の前の六人のアーマー兵を爪と尻尾で引き裂きながら廊下に出る咲夜。そこには冷凍放射兵が三人構えていた。
「は、速いっ!」「撃て!!」
冷凍放射で咲夜の足元の床が凍結する。足の凍結が始まるよりも速く咲夜は跳躍、天井に爪を突き刺しスイング、尻尾で冷凍兵の首を撥ね飛ばした。
「グルルルルルル……」
咲夜は非常階段から屋上に出る。そこには金熊童子率いるアーマー兵はプラズマライフルなどの銃火器を構えていた。
「グルルルルル……高火力の銃火器を使い数で押す。成程理にかなった戦術ですね」
「もう逃げ場はないぞグレイビースト」
「それはどうですかね?捨て身になってかかって来るのならどうぞ。皆殺しにしてしまうかも」
「ここでお前を仕留めれば新たな犠牲者も出ずに済む。その為にここにいる全員が決死の覚悟で挑んでいる」
「はは~ん……決死の覚悟ですか。流石に私も無傷では済みそうにないですね」
邪悪な笑みを浮かべる咲夜。
右手の指をスナップさせて鳴らすと先ほど蹴散らしたアーマー兵が屍人兵となって屋上に上がって来る。
「さてどうします?」
「……貴様」
金熊童子はアーマーヘルメットの中で歯を食いしばる。
「私を相手にするという事は灰色の軍勢を相手にするという事。そしてそれは私さえいればいくらでも兵を増やせるという事。更に更に」
『スレートグレイパワー』
咲夜の背後からくすんだ藍灰色の襤褸切れを纏った男が現れた。
「さぁぬうりひょん、最強とやらを見せてください」
「アア、とても気分がいい……やってやるさ」
襤褸切れのフードからイタチのような獣の顔を覗かせるぬうりひょん。
「ぬうりひょん!貴方は連合を裏切ったのですか!!」
「ハハ、ちげーよ。だがこれはどうにもならない。グレイビーストの灰色獣の力で絶対支配されてる。ここにいる俺は前の俺とは違う、グレイビーストによって生み出された獣の一体なのさ金熊」
「それならば、グレイビーストを斃せば支配から解き放たれるという事!」
腕を前に突き出して合図する金熊童子。プラズマライフルの一斉掃射、青白い閃光が迸り、咲夜に命中。
「何だ?何かおかしい……」
プラズマ弾は咲夜に命中しているものの。表面を滑り弾いている。先ほどまで咲夜の全身を包んでいたダークグレイの体毛はアルマジロめいた鱗に変化、鏡面構造の全身はプラズマを弾く事になった。
「それならっ!近接装備で!!」
金熊童子の兵全員が超合金バトンやミニチェンソー、パイルバンカーを構える。
「アハハハハハ……いいですね!ですが、私一人に集中しても大丈夫なのですか?ぬうりひょんや屍人は待ってくれませんが?」
咲夜の後ろに控えていたぬうりひょん、屍人が一斉に突進を開始。
「私を包囲していい気になっていたようですが、罠にかかったのはそちらですよ金熊童子。本当はもっと連れてくると思ったのですが」
咲夜は獣の手で印を結んだ。
「急急如律令!」
ホテル建物全体が黒い波動に飲み込まれる。包み込まれた内部の空間は新月の夜のような闇に包まれた。
「私がただの暴力を振るう獣だと?そう考えていたのならあまりにも浅慮。最強最高の陰陽師にして道摩法師でもあるこの私が、この私が妖などに負けるはずがないでしょう!」
「体が重い……熱い……」
「アハハハ!この暗黒の帳は全ての魔力を持つ者に影響する。息をするだけでも毒。殺虫剤で満たした箱で、もがき苦しむ虫のように、のたうち回りなさい」
「ぐ……う……」
次々と倒れ伏す金熊の兵たち。
「この中では光伝送通信すらできませんよ?詰みましたね?体は動かない助けは来ない、残された道は虫のように死ぬか、灰色の軍勢になるかです」
「誰が……貴様などに……」
膝を突きながら睨みつける金熊童子。
「いいですねその反応!エクレシアの源藤高雅も同じような反応でしたよ。でも結局はグレイパワーに支配されたのです!」
ゆっくりと近づき頭を踏みつける咲夜。
「ただ支配するだけでは面白みがない、ですので……」
咲夜は乱杭歯を覗かせて笑みを浮かべた。
***
ファストフード店
冥珂は昔話を二郎に聞かせ、二郎は相槌を打ちながら真剣に聞いていた。
その後話題は現在の京都と二郎自身の事に。
「フゥー」と大きく煙草の煙を噴き出した後、窓の外を眺める冥珂。
「あの立花さん?」
目の前の二郎が言った。
「ん?どないしたん?話は聞いとったよ」
「いえ、何か辛そうでしたので」
「なんでもないよ、ちょっと昔の事思い出しただけ。君の話に戻ろっか……」
「はい」
「君は色んな者に関わってかなりややこしい事になってるね。せやけど目的はシンプルや。好きな子と家族を守りたい」
「そ、そうです」
「君の守りたい子のお母さん。その人にアタシが会うのはかなり難しいね。でも……アタシの弟子ならいけると思うねん」
「はぁ……」
「というのも、アタシの弟子は君のいう『教会』って組織の人間と知り合いなんよ」
「そうなんですか!」
「弟子の電話番号教えとくわ。今は東京におるけど近いうちに京都に来るんよ……そいつの名前はね……リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲ」
冥珂はメモと弐千円札を置くと煙草を消して立ち上がった。
「じゃあね少年、後はそいつと話してな」
「あ、ちょっと立花さん」
冥珂は振り返らずに手を振ってその後、煙のように姿を消した。
二郎はすぐに立ち上がって周囲を観察。特殊レンズで見てみたが何の痕跡もなかった。
「とりあえず……メモは貰ったし勝田さん達の所に戻ろうかな」
二郎は念のためにメモを携帯の写真で取り、メモはボタンの付いたポケットにしまった。
大通りに出てタクシーを携帯で呼び、シェルターに向かう。
―都メタル
二郎がシェルターに戻るとラウンジには黒谷ジークベルト、勝田波留夫、自動人形の茉白、サイボーグ吸血鬼の冬華、そのマスターの谷川克政が待機していた。
「よくやった二郎君!まさか魔女に会えるとはね!!それで話はどうなった?」
「それが……」
メモを勝田に渡す。
「ふぅん?電話番号?」
「魔女立花さんのお弟子さんの番号とか名前はえっと……」
「えー……じゃあこの番号がリティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲの連絡先ねぇ」
「??」
全員が勝田に視線を向ける。
「あーーー……その、なんだ、リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲってのは僕と同じジーニアスレイジのメンバーでね。七大魔女レヴィ(立花冥珂)の弟子なんだよ」
「立花さんはそのお弟子さんに全て任せればいいとか」
「なるほどねぇ……リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲがいれば碁盤の目町を攻略できるだろうね……師匠のいう事は聞くだろうから必ず来てくれるよ」
「どんな人物なのですか?」
黒谷が言った。
「黒谷氏と似た性質を持つ吸血鬼であり魔術と科学を合わせて使いこなすエンジニアであり魔術師の女さ。実際には会ったことが無いんだけどね」
ホログラムを出現させる勝田。フードにガスマスク姿の小柄な女性。
「素顔は親しい者にしか見せないそうだよ。問題は……彼女が極度の男性嫌いな所でね……普通の会話すら拒否するほどだ。だからここに来た際には水元か冬華ちゃんに案内お願いすることになるね」
「癖の強そうな人ですね」
「根は善良だと思うから扱いさえ注意すれば大丈夫なはず。それじゃまぁ……早速連絡を取ってみようか……二郎君、キミがかけるかい?」
「はい、俺が立花さんに紹介されたのでそうします」
続く
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