VAMPIREEYE122 「反撃開始」
「ねぇマネージャー、動画の続き無いの~?」
頬をふくらましていう萌絵。
「残念ながらありませんが、その後の詳細を知ることはできますよ。皆さんにも関係ある事なのでお連れします」
「ふぅ~ん……次の仕事の話は?」
「勿論します。大阪での撮影の件です」
萌絵はそれを聞いて大人しく車のシートに身を預ける。
「マネージャー、動画に映ってはった一人は警察官では?ウチ、見た事あります」
燿子は運転席の横に設置されたモニターの画像を扇子で差して言った。
「そうです、斎藤勇雷警部。少し前まではただの人間でしたが今は違うようです」
「こっちの可愛らしい女の子はどなたですの?」
「詳細は調査中ですが……黒谷月と名乗っていました。横にいる金髪の男性、黒谷ジークベルトの関係者かと」
「へぇ……黒谷」
燿子は興味深そうに目を細める。
「知ってるの燿子?」
舞子はチューインガムを口に放り込みながらいった。
「白峰家に仕える隠密集団を輩出している家です。といっても表向きは調査会社。滋賀県甲賀市にあります。忍者の里のスタッフとして働いてる者もいるとか」
「忍者……白峰家を支える何でも屋ってやつなのかな?その人間が二人、梅小路のバトルに参加してたわけね。それにしてもこの黒谷ジークベルトっての本当に忍者?戦い方忍術っぽくないんだけど」
「どうなんでしょうねぇ」
「私も現代忍者の事知らないし何とも言えないけど」
「詳しい事はセンジョーに着いてから知ることになるでしょう」
茨木は淡々と言い放った。
重装警備兵の立っているセンジョーのゲートを通り抜け駐車場に入るワゴン車。壁の一画が開きそこに侵入する。そのままワゴン車はエレベーターで引き上げられ最上階へ。
「スゴイです舞子さん!」「すっげー……秘密基地じゃん」
「鬱陶しいパパラッチとか待ち伏せを防ぐために事務所のある階には車ごと行けるの」
「こちらです」
茨木童子についていく六人。大型モニターのある会議室に通される。
会議室の席に着く六人。しばらくすると茨木童子が扉を開ける。そこから現れたのは大柄で体にジャストサイズの高級オーダーメイドスーツを着たオールバックの男。
酒呑童子・仙丈隼磨であった。
「社長!?」「社長だ……」「お久しぶりです」「生で会うの久しぶりっ」
ヴァルキリーの四人が声を上げた。
「元気そうで何よりだな、そちらの二人は初めまして。センジョーグループ代表取締役社長の仙丈隼磨だ」
「は、はじめましてっ!周防美古都です!」
「壁山颯真といいますっ!」
慌てて立ち上がって挨拶をする二人。
「どうぞ座ってくれたまえ」
そう言うと仙丈隼磨は腰を下ろし茨木童子・真柴樹里に目で合図する。
「では……始めます」
茨木童子はこれまでの事をまとめた資料を動画で大型スクリーンで流す。
「……これがこの街の現状。つまり戦争中って事だ。と言ってもセンジョー VS 灰色の軍勢じゃない。この街を守る為には人間の協力も必要不可欠、連合に属さない連中とも力を合わさなければならない」
仙丈隼磨はリモコンを操作して梅小路公園でのバトル映像に持っていく。
「ここに映っている黒谷ジークベルト、黒谷月、斎藤勇雷らとコンタクトを取った。奴らも灰色の軍勢とやりあっている。人間の味方であるはずのエクレシアは裏で灰色の軍勢と繋がっている事が判明している。人間の犠牲者だけでなく、妖の犠牲者も増え続けている。で、連合は黒谷らと組む事にした。灰色の連中を排除するまでの間の関係だ」
仙丈隼磨はリモコンを操作して動画を停止させる。
「黒谷らは旧白峰家派だ。エクレシアやセンジョーが現れる前にこの街を統治していた連中だ。エクレシアと灰色の軍勢を追い出した後は昔のようにこの街を支配するつもりだろう。連合とは戦争にはならないとは思うが……」
仙丈隼磨は白峰家の事はセンジョーを成長させた時から考えていた。だからこそ裏人間社会を壊滅させた後は表人間に進出し白峰家とは違い表社会での権力を拡大させてきた。
白峰家と全面衝突する気は無い、白峰家が復興するなら裏社会に入らせればいい。争うのではなく誘導し監視する。小競り合いは起きるだろうがそれは適度なガス抜きだと考える。お互いの役割がハッキリすれば必要以上に争う理由など無い。
「まぁ、ややこしい事はこっちで処理しておく。ヴァルキリーはこれまでどおり仕事をこなしてもらう。そっちの二人は連合に所属してゆくゆくは仕事もしてもらう。いいかな?」
良く通る声で仙丈隼磨は言う。
頷くヴァルキリーの四人。美古都と壁山は目を白黒させながら茨木童子の用意した契約書を受け取る。
「難しく考える事は無い。野球チームだとか、町内会だとかそういうもんだと考えてくれ。ヴァルキリーのように仕事をするようになったらまた話をしよう」
「は、はい!」「おおお、オッケーっす!」
「美古都、壁山君、タブーさえ侵さなきゃ一杯得する事あるから」
「舞子さんタブーってのは?」
「同じ連合所属の者とモメない事。何か不満や相談事があるなら連合の相談窓口に連絡する事。守れない者はキツイペナルティが課せられる、あんまり酷いと最終的には処分ね。詳しい事はその貰った紙に書いてあるから」
とはいうものの、舞子らヴァルキリーは連合の者とは知らずに喧嘩したことが何度があった。
しばらく契約書に目を通す美古都と壁山。
「将来的にはセンジョーのコネで就職できたりするんですね……なるほど」
「就活しなくていいのはありがたいっすね。ハンドボールに専念できるし」
ヴァルキリーの四人は送信された資料に目を通している。
「あの社長……黒谷についてなんですけど」
燿子が静かに言った。
「なんだ?緋川」
「動画で見る限り人間が出来る範囲を超えていると思うのですけど……これが現代忍者なのですか?」
「忍者ではないな……二人とも妖の者だ。黒谷ジークベルトの方は西欧の魔法使いを思わせる。もう一人の黒谷月は……魔力の質的に鬼だな」
「鬼ですか……」
「黒谷ジークベルトの素性はハッキリしてなくてな。黒谷月にしてもそうだ。それと……」
仙丈隼磨は別の資料をヴァルキリーのメンバーに送信する。
「大天狗・長門顕彰は倒れた。そいつらの手によってな。日本最強の妖とも言われていた存在をやりやがった」
「!?」「えっ!?」「嘘……」「マジですか!!」
送信された資料にはボロボロに拷問された烏天狗の飯田迦楼羅が映っていた。
「こいつが全部吐いた。エクレシアの戦力は半減したといってもいい」
「大天狗を斃せるほどの力を持つ連中なんて……」
「そんな力を持つ存在は多くない。映像から見るに黒谷月ってのは白峰家の関係者だろうよ、白峰家の連中に似ている。黒谷の里は代々白峰家に仕えてきた。エクレシアに懐柔された現当主白峰雪名に見切りをつけ分家から血をひくものを覚醒させた――と考えてもおかしく無い」
「では突然旧白峰派が動き出したのは」
「この黒谷月の存在が関係しているのは間違いない。俺たち連合としては厄介な大天狗を消してくれてありがたいと思っている。エクレシアの妖メンバーを仕切っていたのは長門顕彰だったのでな。ナンバー2の飯田迦楼羅もこちらの手に落ちた。残るは陰陽師・葛野忍だが……正直長門顕彰よりも厄介だと俺は考えている」
「最強の陰陽師・葛野忍……」
「奴と奴ら陰陽師団は退魔のエキスパートだ。連合とは相性が悪い。これまで何度も苦汁を飲まされてきた。何人もエクレシアに捕らえられ碁盤の目町の収容所行きにされている」
全員がため息をつく。
「そして最新情報だが……俺の直属の部下、金熊童子・金河潤美が死んだ。グレイビーストの手によってな。グレイビーストは元人間の陰陽師。超常的な力に加え陰陽術も操る」
「社長その情報は……」
茨木童子が慌てて言った。
「いいんだ真柴。グレイビーストの情報は連合全員が知っておくべきだ。金河の率いてた部隊はただの妖なら成す術もなく制圧できるだけの力は持っていた。それを突破した、それがどういう意味を持つか理解する必要がある。これ以上犠牲者を出さない為にもな」
仙丈隼磨はヴァルキリーに視線を向ける。四人はその意味を理解した。むやみにグレイビーストに挑むべきではないと仙丈隼磨の目は言っていた。
「センジョーは人間側とも良い関係を築いている。一部の退魔の専門家とも繋がりを持っている。例えばこの男、土御門道鳴(つちみかどみちなり)」
仙丈隼磨は男のプロフィールをスクリーンに映し出す。
「この男は葛野忍率いる陰陽師団、そして神名 L 咲夜と同門。現在フリーとして活動している。センジョーはこの男に仕事を依頼した。専門家には専門家をってやつだ」
「信用できるんですか?その人」
燿子はスクリーンの土御門道鳴の画像を睨みながら言った。
「フリーってのは信用第一だ。それをなくちまえば生きてはいけない。人間だけを相手にするのならインチキ退魔師であろうが詐欺師であろうが通じるだろうがな」
「確かに……そうですね」
「土御門道鳴は『反社会的活動だけは断る』が絶対条件。後は金さえ出せば動く、上手く使えばいい」
「土御門道鳴はいつ頃来はりますの?」
「今夜到着の予定だ。それまでお前たちは大人しくしておけ」
***
日が落ちすっかり夜の気配を感じるようになった時間。
国道沿いにある大型電化製品店の屋上から先にある都メタルを見つめる男。
「間違いねぇ……間違いねぇよなー……じっくりと観察した。試しに高機能のバレにくい屍人も送ってみた……あのビルは当たりだぁ」
三人の妖の男を合成された魔獣太郎。つぎはぎだらけの全身はスポーツウェアで隠している。
「生意気にも半径一キロ圏内の動きを察知してやがる……上から行くか下から行くか」
魔獣太郎は手を双眼鏡のように当て都メタルを観察する。
「下から行くするか……へへ、大将この魔獣太郎敵陣に一番槍で突撃しますぜ!!」
独り言を発し、爆発的な跳躍で大型電化製品店から飛び降りる。建物の屋根を飛び移り都メタルの前の通りに降り立った。
「やってやる……やってやるぞー!!」
背負った大太刀祢々切丸を抜き、正面門に進む。警備のロボット犬が立ちふさがった。光を発し魔獣太郎をサーチする。
「サイバードッグごときがこの俺を止められるものか」
大上段から袈裟切りを放つ。鋼鉄製の門とロボット犬を一撃の元に切断する。
「グハハハハハハ!!名付けて魔獣流斬鋼剣!!」
ゆっくりと大股で侵入する魔獣太郎。数十機のロボット犬が現れる。
「無駄だというのに……おんや?」
魔獣太郎は足元が赤く光っていることに気が付いた。途端に体に凄まじい重力を感じる。
「ヌウ!」
「……流石に気付くのが早いな」
影から現れたのは右手をかざした沖田実満、肩を回す木戸剛照。
「黒谷一党の吸血鬼どもか」
「ふん……旧白峰派と呼べケダモノ」「さぁ~てやりましょうか沖田さん」
次の瞬間強烈な打撃が魔獣太郎の顔面を捉えた。キックボクシングのような構えをしている木戸は 5m は離れていた。
「ちっ……」
魔獣太郎は見た。一瞬にして木戸の手が伸びてすぐに縮んだ。
「あら?いまいち?今の一撃結構本気でやったのにねぇ……」
木戸がつぶやいた。
「それじゃ倒れるまでやるしかないよねぇ」
超高速の伸縮打撃が魔獣太郎を打つ。大太刀を構える隙も無く連続で放たれる。
「エキスパンドバルカンパンチ。僕はねぇ自分を含め色んなものの硬さを変えられるんだ。だからこんなこともできるのさ。それとここは僕が社長を勤めてる会社だし僕が守らなきゃねぇ」
「木戸さん……戦いは得意じゃないとおっしゃっててこれとはいやはや恐ろしい」
「ははは、このくらいやりませんと皆さんの足を引っ張ってしまいますから」
「ズエェェェイ!!」
打撃を撃ち込まれながら接近し力任せに大太刀を振るう魔獣太郎。木戸は体を半分に折り曲げて回避する。魔獣太郎は走り抜けた後、標的を沖田に変え大太刀を振り上げる。
「!?」
膝から力が抜け転倒する魔獣太郎。地面から伸びる赤い光が全身に纏わりついている。沖田は指を動かして魔獣太郎に更に赤い光を絡ませる。
「なんだこの光は……」
「私のエナジードレインと魔力操作術を組み合わせたもの。あのお方に血を頂いたおかげでこれまでとは比べものにならない速度で術を発動できるようになったので貴様で試させてもらった。私はうれしい」
「けっ……そうかこの光はテメェの術か……だがこんなものは!」
地面を殴りつけて自分の魔力を爆発させる魔獣太郎。自分自身にも衝撃を受けたが魔獣太郎は沖田の捕縛から脱出した。
「魔獣よ、貴様は屍人を作るだけでなく人間の首をむざぼり力を増しているのだったな。この街の人間から得た力は奪わせてもらう、そしてこの街を統治するにふさわしいあのお方へ献上する。犠牲者も貴様などの力となるより、あのお方の力となる方が嬉しいに決まっている」
壁、オブジェクトの柱、地面から赤い光の帯が伸びて魔獣太郎を捕らえる。
「グッ……この光……力が抜かれる、コノ!」
「触れないであろう?物質では無いエナジードレインの光の力は引力に近い」
沖田の術で動きが鈍る魔獣太郎に木戸の拳が炸裂した。今度は拳を巨大化させ車並の大きさにして打ち込んだ。
「エキスパンドミサイルパンチ……ノコノコと都メタルに来てくれるなんてねぇ。ここはありとあらゆるトラップ、術が仕掛けられてるし警備だって固いんだよ」
「ヌグ……」
撥ね飛ばされた魔獣太郎はコンクリートの壁に激突。
「ヌググググ……三獣合体魔獣太郎を……見くびるな!」
体が盛り上がり巨大化する魔獣太郎。ため込んだクビ団子パワーを全開にする。
「力こそ強さ!!パワーで粉砕してくれる!!」
獣のように腕を地面に着け四つ足のステップで迫る。口にくわえた祢々切丸で沖田を狙う。だが沖田は既にその場には居らず、切り裂いたのは紙で出来た人型の束であった。
「ドコダァ!!」
叫ぶ魔獣太郎、足元から体が沈んでいく。
「地面を柔らかくしておいたよ」
木戸は七三分けの髪を撫でつけながら言った。
「魔獣、貴様はちょうどいい、対グレイビーストの模擬戦にな」
上から降りてきた沖田はふわりとオブジェクトに着地する。
続
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