VAMPIREEYE132 「災悪」
―晴明神社
全ての結界隔壁が解放され晴明神社にある見えない扉から坂道の地下道を進む華月ら。
「気をつけろ、何かが来る!」
「 KOOOOOOOOON !!」
下から迫ってきたのは鈍い銀色に輝く4m程の塊。華月は前に出て厚さ 1m の魔力の盾を出現させた。
「 KOOOONNNNNN !!」
「むっ……」
塊の高速突進を受け止める華月。そのまま地上に押し返されていく。
「華月様!」
追いかける黒谷達。地上に出て見たモノは巨大な九尾の怪物であった。
狐を思わせる半獣人、二本の腕と脚、頭部は無く首部には葛野忍の半身。
「クハハハハハハハ!!ほんの僅か遅かったな!!あと 1 分貴様らが速ければ勝利していただろう!!」
「葛野忍か……その姿、九尾の骸を取り込んだな?」
華月はゆっくりと着地して言った。
「白峰華月!よくもぬけぬけと復活したものよ!!貴様の役目は昔に終わっている今更出てきて何のつもりか!この九尾との再戦を望むか?」
「阿呆が!我が復活したのはやり残したことがあったからだ!!それをやり遂げるまでは死んでなどいられるものか。お前の始末などついでの事!!」
「デカい口を叩くのは昔と何も変わっておらんようだ。あの時とは違うぞ?貴様は周囲に助けられ碁盤の目町に九尾を追い込みようやく斃した。今回は九尾に加え最強の陰陽師である小生が合体、更にこの白金の右腕!!貴様が勝つ要素など一つも無い!!大天狗を斃して思い上がっているのかな?」
「……葛野忍、雪名はどうした?」
「クハハハハハ!あの女には仕事を与えました。それにかかりっきりですよ、碁盤の目町中央塔でね。小生が戻るまで少しでも気を抜く事が出来ない状態ですから。早く貴様たちを始末して戻ってやらねば。その後にたっぷりと可愛がってやりますよ」
「一体何を」
「見に行けば分かりますよ?華月、貴様にはどうしようもできない!どうにか出来るのはこの小生だけ!」
「なんだと……」
「勝利宣言をしておきましょう!貴様らは小生を倒すこともできなければ下に居る雪名も碁盤の目町の連中も京都市内も何一つ救う事は出来ない!!小生の勝ちです!!」
「我らを甘く見るな」
赤黒い魔力で全身を覆い葛野忍九尾に突進する華月。
「冬華!沖田!碁盤の目町に入れ!!下の状況を勝田らにも知らせるのだ!!ここは我と黒谷が受け持つ」
「はい!」
「クハハハハハ!!無駄なあがきをするがいい!!」
華月の突進パンチを尾で受け止める葛野忍。
「小生は咲夜と違って肉弾戦は好みじゃないんですよね、急急如律令!!」
尾から 27 枚の人型紙が現れ小型のグレイビーストが次々と出現した。
「クハハハハハハー!!オリジナルの咲夜には及びませんが十分な強さです!!この右腕の力があればこんなことも可能なのです!!」
葛野忍本体が右腕を掲げている。
「……」
華月は赤黒い光弾を葛野忍九尾にぶつけながら離れて着地。 27 体の量産型グレイビーストを睨みつける。
「華月様………流石に分が悪いですね……あの量産型 GB (グレイビースト)を私が全て引き受けられればいいのですが」
「黒谷……九尾の骸を取り込んだ葛野忍に拳を打ち込んだ感触での奴の強さだが……我と同程度だった」
「……そんなまさか!」
「長門顕彰以上の脅威だアレは。我も最初から全力で掛からなければなるまい」
「それならば応援を呼びましょう、市内の鎮圧に出ているもの全てを!」
「転送するのか?」
「魔力消費は激しいですがやむを得ません……」
「ここであの敵相手に呼ぶのか」
「皆覚悟は出来ているはずです、力を合わさなければあの怪物は斃せません」
ジリジリと迫って来る量産型 GB27 体。
―都メタル
「緊急事態です!晴明神社に九尾の骸と同化した葛野忍、更に大量の量産型グレイビースト出現!!」
作戦室の隣で休んでいた二郎たちの前に飛び込んできたのは水元来海。
一気に絶望の空気に変わる部屋。
「そんな!華月さん達は!?」
「現在華月様と黒谷さんが交戦中、碁盤の目町には冬華さんと沖田さんが向かってます」
作戦室に戻る二郎、吹雪、刀耶。
「これは不味いですね……一旦撤退してカヅキを中心とした戦略を練らなくては」
大型モニターを見つめているリティーシャが言った。
「あああああ……かづたん………無茶してはいけません……」
頭を抱えた勝田。
「勝田さん!?どうしたんです」
駆け寄る二郎。
「長門顕彰と戦った時も無茶をしてたんです。かづたんは全力で長い間戦える状態じゃない。当主の力を持って無いかづたんはあっという間に魔力切れしてまうんです。魔力が切れると……自分自身の生命力を削ることになる。出力は全盛期以上にはなってるけど容量は当主だった頃の10分の 1 程度」
「そんな……!!」
「そうじゃなければこれまでの敵はかづたんの性格的に全部自分で戦って解決しようとするでしょ?」
「たしかに……」
「長門顕彰戦の時は黒谷さんが烏天狗らから吸い取った魔力をかづたんに送り続けたので生命力を削らずに済んだんです……今回はそういう訳にはいきません」
「どうすれば……!?」
「黒谷さんからつい先ほど通信がありました。市内に出ている全員を招集すると」
「そうですか……」
リティーシャがナイトケースハートに身を包んでいる。刀耶もナイトケースを。
「やはりここは一時撤退ですよ!カヅキを失いたくなければ!!」
リティーシャは 4 つの端末を操作しながら言った。
「既にセンジョー側にも状況を伝えてあります華月には前もって了承を得てます」
「リティーシャ……」
「こういう状況になると予測して師匠は私を送ったのですね。確かに師匠には向いてない案件です」
その時別の通信が入ってきた。冬華と沖田からであった。
『こっちも大変なことになってます……雪名が……』
『冬華さんから映像を送ってもらいますそれで説明を私が』
モニターに映し出されたのは中央塔、そしてその中。
雪名が青白い球状のエネルギーフィールドを展開し両手で光さえ飲み込む漆黒の物体を魔力を注いで抑えている様子だった。
『雪名様はあの漆黒の物質が広がるのを防いでいます。あれは異次元の扉だそうです』
沖田が言った。
『私たちがたどり着いた時漆黒の物質はもう少し大きかったのですそれを雪名様は抑え込み自らの凍結の能力の領域を作り中に入られ……あの漆黒の物質が雪名様の領域を超える大きさにまで広がれば何が起きるか想像もできないと。葛野忍曰く異次元の扉だと』
沖田は汗をぬぐいながら説明する。
『解除する方法は分かりません……葛野忍に閉じさせるしか今の所確実な方法は……』
『このままじゃ……雪名は何れ限界を向かえてしまう!!いくら当主の力を持っていても長い事あんな状態で耐えられない……どうすれば……』
いつも冷静な冬華が狼狽えている。
勝田、水元、リティーシャの表情が曇る。
「あああああ……どうすればどうすれば!」
「いやです!!嫌です嫌嫌嫌ああーーーーーー!!雪名様ああああああああああ!!!」
頭を掻きむしる勝田、半狂乱状態の水元。
「こうなったら……私が碁盤の目町に行きます!刀耶!!付いてきてくれますね?」
フル装備状態のリティーシャ。
「おう!絶対に何とかしようぜ!!」
「ここは任せましたよハル、クルミ。ジロウできればあなたも一緒に。その右腕が役に立ちそうな気がします」
驚くほど冷静な口調で言うリティーシャ。
「分かった!」
「じゃあわたしも一緒に!お母さんを助ける手伝いをしたい」
吹雪が名乗り出る。
「分かりました、フブキ貴女はセツナの娘。きっと手助け出来るはずです」
飛行ユニットを装着する刀耶。しがみつく二郎。吹雪はリティーシャの用意したランドセル型に変形したナイトケースクローバーを装着する。
「碁盤の目町のセツナの事は私たちに任せて下さい。ハル、クルミはカヅキたちの支援を」
「わ、わかった!かづたんは僕が守る!!」
「本当は私も行きたいのですが……私が行っても……雪名様の事お願いします!こっちは絶対何とかして見せますのでそっちも……あ、せめてこれだけでも持って行ってください」
水元はボトルをリティーシャに渡す。
「雪名様にも誉めて頂いた秘薬です。塗れば傷薬に、飲めば解毒体力回復に使えます」
「その効果はトーヤ達で実証済みですものね、ありがたく使わせていただきます」
***
―晴明神社
「クハハハハハハハ!どうした華月!!いつもの威勢はどこに行った!!」
葛野忍九尾は巨大な九本の尾を操り破壊エネルギーと薙ぎ払い、突きで華月を近寄らせない。
「(一撃一撃に呪が込められている、物理的にも重い。あの時の九尾よりも厄介だな)」
華月は攻撃を受け流しながら魔力で形成したハンドキャノンで葛野忍本体を狙う。赤黒い弾丸は白金の右腕の前で軌道を変え周囲のビルに炸裂した。
「んん~~??どうしたのかな?そんな小さな攻撃で通じるとでも?長門顕彰とやった時はもっと激しかったのでは?」
「よく喋る奴だ。昔からそこが気に入らなかった」
華月は背と足の裏から赤黒い魔力のジェット噴射で加速、空中を飛び回りながら尾の攻撃をバレルロール回避。ハンドキャノンで尾の付け根を狙う。
「おおっと!痛い痛い!!チクっときましたよ。その調子で小生を斃せるかな?」
「我を甘く見るなよ」
突き刺さった弾丸が螺旋回転。九尾の体を抉っていく。
「ウガアアアッ!!このチビめええええ!!!」
四方から 4 本の尾で貫きに掛かる。華月はトンボ返りで回避、赤黒い魔力を掌に、尾に触れながらの表面を滑る。
「この離れろぉっ!」
「フン!」
尾の一本に赤黒い線を引いた華月、離れながらハンドキャノンをそこに撃ち込んだ。
「イギャアアアアアアアアアッ!!」
赤黒い線はハンドキャノンの着弾に連鎖して爆発。尾が裂ける。
「ぎゃあああああ……つ、痛覚遮断!!よくもやってくれたな!!」
「我を甘く見るからそうなる」
「……やはり巨大な体は慣れませんね。お前の相手をするにはやはりなじみのあるサイズでなければ」
首部に出ていた葛野忍の半身が吸い込まれる。それと同時に九尾の体は縮んでいく。あっという間に身長 2 メートル程の人型となった。
狐の面を思わせる頭部。豪奢な模様の狩衣。 8 本と傷ついた 1 本の尾。白金の右腕。白い肉体は筋骨隆々で二十歳前後を思わせる張りがあった。
「おお、おおおおおおおっ!!まるであの頃の小生の肉体のようではないか!!うむうむ、初めからこうすれば良かったのだ。咲夜は良い参考になりましたね」
狐面の装甲の奥で金色に輝く目。
華月と葛野忍との戦闘中、黒谷ジークベルトは羽を生やした量産型GBと空中戦を繰り広げていた。
「量産型とはいえ狂暴な獣、捕まれば一巻の終わりですね……」
空中を飛んで逃げながら魔法を撃ち込む黒谷。決定的なダメージは与えられていない。
「ギシャアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「同時に 3 体までが限界……やはりここは……」
一体の量産型 GB を青白い閃光が貫いた。
「お父様!お母様!!私も参戦します!!下の雪名の状態は私にはどうにもならず、沖田さんに見張ってもらってます」
右腕を砲身に変形させた冬華が碁盤の目町から上がってきた。
「下の状況の映像は今お父様お母様に送ります」
量産型 GB に閃光を放ちながら背中のビットを飛ばして二人に渡す。
受け取ったビットから下の状況を得た華月、黒谷の眉間に皺が寄る。
「クハハハハハハハ!絶望しか無いでしょう??だから勝利宣言をしたのです!!」
「いや、希望ならある」「ええ……」
「今更何をあがいても無駄です。私を斃して下の異次元の扉を閉じさせますか?絶対に私は従いませんよ?そもそも斃せないでしょう??詰みですよ?受け入れて服従しなさいそうすれば飼ってあげなくもない。救世主の下僕としてね!!」
「葛野忍!神名 L 咲夜がどうやって敗れたのか知らないのですか?」
黒谷は不敵な笑みを浮かべる葛野忍に言い放った。
「ええ、見てませんからね?あの女は慢心から油断して敗れたのでしょう、こだわりなど捨てて一気に街を獣園にしていればすぐに終わったものを」
「いやいやいや、神名 L 咲夜は全力を出し切って敗れました。つまりこちらには切り札があるのですよ」
量産型 GB は葛野忍の周りに降りて唸り声をあげている。
「ハ!切り札?そこの華月がそうなんでしょう?華月さえ排除すれば小生に怖い者など無い。センジョーの連中など異次元の扉が開けばどうでもいい事です」
「我は切り札では無い、見落としているのならそれでいい。黒谷、皆を呼べ」
「承知致しました」
黒谷は背後に黒い渦を出現させる。最初にそこから現れた人影は―
霄、蓮也、谷川、茉白、霞、吉良、須原の 7 名。
「まだ来てくれますよ」
次に現れたのは―
舞子、萌絵、燿子、妃羅莉のヴァルキリー 4 名。
そして最後に現れたのは―
二郎、刀耶、吹雪、リティーシャの 4 名。
続く
VAMPIREEYE137「救世主と少年」 Jan 15, 2022
VAMPIREEYE136「異次元の扉」 Jan 14, 2022
VAMPIREEYE135「起死回生」 Jan 12, 2022
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