VAMPIREEYE137 「救世主と少年」
二郎は葛野忍の言葉を思い出す。開けるときは外から中の扉を開けられるのだと。
「中からじゃなく扉は外から開けられた。閉じるときは逆に中から?……ということは中に入って外に向かって鍵を突っ込んで回す……のか?」
「……ククク、白金の腕が欲しい答えをくれるでしょう?木城二郎……だがお前は……」
葛野忍は苦笑いで言った。
「アンタも付き合ってもらうよ葛野忍。白金の腕の先輩としてね」
二郎は足元に倒れる葛野忍を右手で掴んで言った。
「止めろおおお!!小生はこの星の救世主となるのです!!消えるわけにはいかん!!」
「だったら一緒に扉を閉じてこの星を救おう」
「やめろおおおおおおお!!」
葛野忍を異次元の中に突っ込む二郎。
「…………………………………………!!」
異次元空間で叫ぶ葛野忍、出ようともがく。扉に近づくとまた入ってしまった。
「ああああああああああああああああああああっ!!」
「……よし……」
意を決して異次元の扉に入る二郎。ゆっくりと。
そして振り返り、中から扉を眺めると外の景色はまるで鏡のように左右反転していた。
「白金の腕のおかげか普通に居られる……葛野忍のようにならない……」
扉の前で激しく回転し出現と消えるを繰り返している葛野忍。
「白金の腕の中にある鍵を扉に……」
扉に映っている二郎は左右反転した二郎。左手に持った鍵は右手に持つ。
「いや、きっとこうじゃない。このままじゃ鍵同士ぶつかって回せない……」
鍵を持ってゆっくりと後ろ向けに扉に近づく二郎。背中を何かが押す感覚があった。
「ゆっくり下がって……」
二郎の目の前の景色が変わった。見たことも無い砂嵐の荒野。扉をくぐったであろう顔までは存在し、その先の両腕は無い。
「……」
ゆっくりとそのまま下がる二郎。やがて腕が見えてくる。そして左腕の鍵が半分ほど見えた所で回した。
「何か感触があった」
目の前の荒地の空間に 2m ほどの純白の球体が出現する。それは徐々に小さくなっている。
「きっとあれが元の次元に戻る……」
磁石で反発するかのように押し返される二郎。
「なんだ……」
左腕が特に強く反発している。
「そっか……この腕はここに置いて行った方がいい」
左腕を外す二郎、驚いたことに中の自分の左腕は消えていた。
「……!?まぁ、仕方ないのかもしれない」
反発する力に抵抗して右腕を差し込む二郎。義手を通じて中の様子が見える。
「元の次元だ!皆だ!皆が見える!!うおおおおおおおおおおおっ!!」
純白の球体はゆっくりと小さくなっていく。
「―――」
後ろで声がした。
「なんだ?」
「――――」
***
―晴明神社前
二郎と葛野忍が異次元の門と共に消えて数秒後。二郎の右腕が何も無い宙から現れた。
「二郎くん!!」
吹雪が叫ぶ。
出現した右腕はバックルを掴んでいる。出現した右腕はそのまま宙に浮いて停止。
「ジロウ!早く出てくるのです!!何をしているのですか!!」
叫ぶリティーシャ。
「二郎!」
華月が叫ぶ。
「二郎!」「木城君!!」「木城君!」「木城くーん!!」「がんばれー二郎くーん!」「もう少しですよ二郎くん!!」「ファイトダ!!」「木城君っ!」「木城さん!!」「木城二郎君!!」「木城君早く!!」「二郎さん!!」「木城君……!」「二郎ー!!」「木城二郎さん!」
全員が次々二郎の名前を呼んで叫ぶ。
しばらくして宙に浮いたバックルを握った腕は落ちた。二郎の姿は無いまま。
***
―翌日
東京から戻ってきた二郎と蓮也の父親である木城紫蓮が京都に戻ってきた。
都メタルで昨晩の出来事を全てリティーシャと蓮也から聞く。
「あと 12 時間早く京都に戻ってれば……」
「まだ二郎は死んだと決まってねえよ親父!アイツは戻って来るって!!」
ソファから立ち上がって叫ぶ蓮也。
「そうですよシレン、あの義手とバックルの出現の仕方は何か二郎の意思を感じました。きっと戻ってきます」
「……ああ、二郎は戻って来る……信じよう」
―碁盤の目町
華月一行と白峰家は碁盤の目町に居た。
混乱してた碁盤の目町は雪名と華月によって鎮圧。その後、華月派と雪名派による話し合いが碁盤の目町中央塔で行われる事となった。
「言いたいことは全て言い切る。いいな、雪名」
「ええ、母上。お互い積もる話もあるので存分に話し合いましょう」
周囲には笑顔ながらお互いの視線で火花が散っているように見えた。
話し合いは長引き 12 時間の間続いた。途中で休憩をはさみ食事をしながら。
―センジョー
「社長、京都市内の鎮圧が終わりました。避難住民への支援物資を開始します」
「ああ」
葛野忍戦に参加しなかったセンジョーの者たちは京都市内で暴れていたグレイビーストの残した獣狩りをしていた。
「これから忙しくなるぞ……ヴァルキリーには早速仕事が入ってる明日からだ」
「承知致しました」
「一般には秘密の碁盤の目町の工事にセンジョーが関われるようになった……面白い」
「ええ、センジョーグループはまだまだ大きくなります」
―京都駅近くのホテル
「それではこれで失礼します、私たちは大阪に向かいます。師匠に呼ばれているので」
「イグネイシャス君元気でな!」
タクシーに乗り込むリティーシャ。顔の映像を表面に映し出した特殊マスクを装備している。刀耶は奇妙な柄のシャツを着ている。
「ああ、リティーシャさんも刀耶君も元気でね!」
手を振る白い TMI 製のパーカーを着たイグネイシャス。
タクシーが見えなくなるまで見送った。
「さて……今日中に本部に戻らされるし京都市内の観光行っとくかな」
振り返ると木箱を持った細い女性とぶつかりそうになった。
「おっと失礼」
「いえこちらこそ」
すれ違う二人。
イグネイシャスはどこかで見た人物だなと首をかしげてもう一度振り返るも既に女性は人混みの中に紛れ見失ってしまった。
「気のせいか……何も感じなかったし」
イグネイシャスは地下街に昼食を取りに入って行った。
イグネイシャスとすれ違った女性は地下駐車場の車に乗り込み木箱は助手席に置いた。
「梨花……」「もう少しの我慢ですよ……」
梨花と呼ばれた女性は全身機械に生体スキンをかぶせた存在。木箱を開けると螺旋状の拳大の棘と【 神名 Leandra 咲夜】と書かれた人型紙が 入っていた。
***
―1週間後
アジトにしていたマンションに戻る華月と黒谷と冬華。閉じ込めておいたはずの黒焦げの長門顕彰の姿が消えていた。
「……マンションのモニターにも姿は見えませんね」
「僅かに残る魔力の残滓……このセキュリティの中、何者かが長門顕彰を連れ去った?」
奥の部屋で座っている和風ドレスの小さな華月。黒谷はタキシード、冬華は純白のゴシックドレス姿。二人は部屋を調べている。
「華月様……?」「お母様?」
口をへの字にして肘をついている華月。
「雪名どもめ……我らが碁盤の目町に入ることになるとは……」
「まぁまぁ、ここはお互い譲ったので……」
「そうですよお母様。今回の事件で誰も分家入りしなくて済んだのですから。次期当主を決めるのは最年少の霞が 18 歳になるまで保留、それまでは雪名が務める事になったのは皆納得できるもので良かったじゃないですか」
「長門顕彰が消えたのは気になりますので誰かに調査させましょう。さぁ華月様引っ越しの準備です要る物と要らないもの決めてください」
「うむ……」
「勝田さんらが用意してくれた碁盤の目町の博物館を改装した立派な和洋瀬中の館。良いところだったでしょう?」
「ああ………」
「お母様?」
「地上で行動する時はまた黒谷月の変装しなくてはならんとは……」
「仕方ないですよ、 ID は黒谷月なんですから」
「すぐに慣れますよ華月様、お姿もその内戻るでしょう」
「まぁ……そうだな」
―都メタル
白峰邸を新築するまでの間、雪名ら白峰家は都メタルのシェルターに住んでいた。
「ほんとにすっごい快適ねーここのシェルター」
ワンピースを着た雪名はソファに寝転んで言った。
水元来海が汗だくになって帰ってきた。両手には紙袋の山。
「只今戻りましたよ雪名さまぁああああ!!水着沢山買ってきましたよー!!……後で地下のプール行きましょうね!」
「いいわね!行きましょう!!」
「雪名様、皆さまアイスティーをお持ちしました」
スーツを着た吉良が運んで来た。
「ありがとう吉良。はぁ~楽、もう当分和服は着ないわ……新しい白峰のお家もここみたいにしてもいいかも」
そこに荷物を持ったスーツ姿の須原が入ってきた。
「雪名サマ、お荷物です。イギリスの蔵人様からです」
小包を置く須原。
「なにかしら?」
丁寧に包み紙を開ける雪名。霄、吹雪、霞が眺めている。
「もうすぐ帰れるって言ってたくせにもうちょっとかかるだなんてねー……あら」
ネックレスが入っていた。
「手紙も入ってるわね、なになに『結婚記念日に―』」
覗き込もうとする霞、雪名はダメと言って閉じた。
「いーじゃんお母さ~ん!」
「ダーメ、これは夫婦だけの手紙よ」
『結婚記念日に帰れなくてすまない。せめてプレゼントだけ送るよ。今度こそ来週には帰れる。事件解決に頼もしい助っ人が現れたからね。 G.D. Ⅲ(白魔団)のメイガスが現れたんだ。彼が来て一気に解決にすすんだ、だから後処理が終わり次第日本に戻る。白峰蔵人』
「帰ったらいっぱいお話きかせてね。こっちも色々あったんだから……」
雪名は手紙の入った小包をもって個室に入っていった。
それを見てる霄は笑顔を浮かべていた。
「お母さん楽しそう、良かった私も嬉しい」
「完全にリラックスモードだよね。クールなお仕事モードは当分ないかも?」
クッキーをかじりながら霞が言った。頷いてアイスティーを飲む霄と吹雪。
一息ついたところで吹雪の携帯が鳴った。
***
―木城家
家の敷地内になる小さな道場で刀を振る蓮也。それを見ている紫蓮。
「蓮也、ここまでにしておこうか。そろそろ準備始めよう」
「ああ」
「あなたー!蓮也ー!!ちょっと手伝って~!!」
「母さんが呼んでる……」
「凪子のやつなにをやってるんだか」
道着のまま台所に向かう蓮也と紫蓮。そこには台に乗った状態で上の棚戸を支えている凪子の姿だった。
「手離したら落ちてきちゃう!は、はやくなんとかして……」
「何やってんだよ母さん……準備は俺たちでやるって言ってたじゃないか」
「やれやれ……」
「だってじっとしていられなかったのよ」
蓮也と紫蓮は凪子をリビングに戻らせる。
「親父、桶とザルは俺が用意しておくから庭の台のチェック頼む」
「ああ、流しそうめんなんて久しぶりだからな」
玄関のチャイムが鳴った。凪子はすぐに携帯のカメラからインターホンの映像を
確認する。
「あなたー!蓮也ー!帰ってきたわよ!!」
「予定より早かったな」「おお、そうか!」
凪子が玄関の引き戸を開けると全身に白い紋様が入り、一回り体格は大きく、半分髪は白くなり右腕に銀色の義手をつけた少年が立っていた。
「ただいま」
「お帰り二郎!!」
一部完
VAMPIREEYE136「異次元の扉」 Jan 14, 2022
VAMPIREEYE135「起死回生」 Jan 12, 2022
VAMPIREEYE134「超極寒領域」 Jan 10, 2022
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