DHHU その 31
「やった……これでジンガの配下は全て斃した!」
「真邪王の気配はまるで無かったな、魔女を見捨てたのか?」
「華月様お手当を……」「華月様治す~」
切断した左手と髪を回収したジークベルト。その横には自らの肉を千切った滑田。
「失礼しますよ華月様」「ん」
滑田は肉を華月の左手と頭に当てる。すると溶け込むように吸収され左手は瞬時に再生、髪は元の長さに戻った。
「何度見ても驚かさせる」
「えへへ……これしか取り柄が無いから」
ジークベルトはそっと黒渦空間に左手と髪を収納した後、頭を抱えて膝をつく。
「あああああ……申し訳ございません華月様……あんな事をさせてしまうとは。魔術が使えないだけで魔女に遅れをとってしまうなど筆頭従者として不甲斐無く……」
「喚くでない、魔女の仕掛けたあの状況で対応できる者など多くないだろう。全員無事であったことを喜べ。我はこの通り、もう何とでもないではないか」
「うおおおおおん!」
華月に抱き着くジークベルト。
「落ち着け、いつも冷静なお前が珍しい」
「あの時、魔女の弾丸が華月様の心臓に命中していたらと思うと……」
「あの弾丸は脅威であったな。誰に命中していても不味い状況であった、あの時奴はケンを狙って放った。我が受け止めて良かったのだケンに命中していればそこで終わりであった、ジークベルトが受けていれば我との連携で魔女を追い詰める事は難しかったであろう、滑田が受けていれば負傷者は治療できず命を落としていたかもしれん」
「ですが……」
「もう良い、この場でこれ以上反省会は不要。ギルドに戻るぞ」
***
京都、財団のギルドの一室。
「――と、いう訳だ。ケンも東京へ向かって欲しい」
セイは真邪王が用意したジンガの適合者が東京にいる事を説明した。
「財団は奴らを追い詰めているんですか?」
「ああ、だからなりふり構っていられないのだろうな。財団は真邪王の邪体保管庫の警備強化もしなくてはならない。長引けばこちらが不利だ、ユウとケンのパーティーでジンガを捕らえ真邪王の野望を打ち砕く」
「はい! 今のパーティーメンバーなら……やれます!」
ケンは華月、ジークベルト、滑田の姿を頭に浮かべる。
「次の任務だが……東京へはケンの今のパーティーメンバーでは行けない……」
「ええっ !? 」
「華月は行動を制限されている身、京都からは出られん。従者のジークベルトは彼女からは離れない、滑田はセンジョーから派遣された者だ京都内のダンジョン攻略までが契約条件なのだ」
「そんな……」
「その代わり……東京には華月の娘、冬華がいる。冬華には自動人形の茉白、そのマスターである吸血鬼・谷川克政が付いている。この三人と合流し新たなパーティーを組みジンガを捕らえるのだ」
「はい……」
「心配するな、華月と上手くやれたお前なら大丈夫だ」
部屋を出るケン。リビングには華月、ジークベルト、滑田が座って待機していた。
「みんな……突然なんだけどパーティー解散になった」
ケンは 3 人に説明する。
「仕方ない事だ。なに、そんな顔をするな。今生の別れではあるまい京都に来ればまた我と会う事もあるだろう。滑田も京都住みだしな」
「う、うん……」
「土産話待ってるぞ」「そうですよ、きっとまた会えますとも」「うんうん」
「みんな……」
「冬華、茉白、谷川なら大丈夫だ。皆頼りになるきっとお前を支えてくれる」
***
東京銀座。
アンティークショップが入っているビルから出てきた冬華、茉白、谷川。
「……通信が入りました。おじさま(勝田波留夫)からです。勇者ケン・シーアがこちらに向かっています、合流しパーティーを組み【凶】のジンガを捕らえる作戦に協力するようにとの事」
サイドテールの髪、背中の開いたドレス、華月に似た容姿のサイボーグ・冬華が言った。
「財団は自分達のメンバーを使わずに我々を指名したと言う事ですね」
高級ビジネススーツに太い縁の眼鏡をかけた谷川が言った。
「先生、これはチャンスです」
髪から足の先まで純白、ゴシックドレスの自動人形・茉白が言った。
「先生の最高傑作の人形であるこの茉白が活躍すれば先生の評価も上がるというものです。そして茉白と先生の絆を見せつけましょう」
茉白はつま先立ちで回転して言った。
「――おじさまからお母様らの戦闘データを入手しました。ホテルに戻り情報共有しましょう」
飛び上がる冬華、足の裏と背中からバーニア噴射。飛行形態になる茉白それに捕まる谷川。三人は飛んでホテルに向かう。
「あれは……」
ホテルの前に紫色の光を放った怪人が見える。全身タイツのようなスーツに触角。
「――データ解析。【凶】の者と推測。戦闘モード起動」
怪人の背後に着地する冬華、掌を向けプラズマブラスターの発射準備待機。
「そのまま答えなさい。【凶】の者ですね?」
「ゲゲゲゲゲゲ……飛んで火にいる夏の虫ってか?財団の関係者だな?【凶】の名を口にする者は全員始末する!」
ブリッジから触角攻撃。電光石火の不意打ちであったが冬華は回避。
「不意打ちのパターンは予測済みです」
「邪体を狙うと財団の者が現れる……確かなようだ!」
「邪魔ですよ」
足をチェーンソーに変形させた茉白が上空から怪人の背中を切り裂いた。
「ぎゃがっ!」
「ふん!」
続いて下りてきた金属アーマーに包まれた谷川の飛び蹴りが脳天に炸裂。
「ぐげ……」
空中反転した谷川はアーマーのバーニアで姿勢制御、頸椎にクロスチョップを叩き込む。
「クソやべぇ……話が違うじゃねえかよ集まって来る雑魚をぶち殺すだけじゃ……」
膝をつく怪人。
「【凶】の呪符によって怪人化したサイバネですか」
「げっげっげ……なんか知らねーおっさんに【チケット】貰ったんだよぉ……トブぜこれはよー」
「機械率 50 %……なるほどサイバネ障害を発症しドラッグに依存してる典型的なパターンですね」
冬華はスキャンしながら呟く。
「サイレンの音が聞こえます誰かが通報したようですね」
「げっげっげ……パクられてもサイバネ障害特権で執行猶予の弁当付きだぁ……仮にテメーらをぶち殺しても 2 、 3 年で娑婆に戻れるだろうよ」
「そうですか、ならばここで駆除してもよいですね? 私は機械率 99.99 %のサイボーグです。手が滑って殺害に至ってもサイバネ障害ですよね?」
「フかしてんじゃあねーぞ! 機械率 99.99 %なんざ聞いたことねえ!そんなもん脳だって生身じゃいられねーだろうが!」
「その辺の人間と私を同じに考えないことですね。生まれた時からサイボーグの私はあなた達とは次元が違うのです」
「そんな奴存在するかー!」
男は叫びながら触手を伸ばす、猛然と襲い掛かった触手は冬華の眼前で急停止した。
「は? なんで……」
「スキャンは完了しています。あなたの体のサイバネ部分は私の意のままです」
触手を曲げ足首を掴ませる、そのまま引き絞りエビぞりの状態で体を折り曲げていく。
「このまま二つ折りになればいいでしょう。サイバネ暴走により自死ですね」
「グガアアあああ……やめろ……」
「あなたに呪符を渡した男のデータも眼球から得ました。もう用はありません」
「ギイイイイイイアアアアアアアアッ!」
エビぞりで二つ折りになる男。サイバネ部分から火花が走っている。
「長居は無用ですホテルの部屋に行きましょう、茉白、谷川先生」
部屋に移動する冬華、茉白、谷川。
「お母様の京都での戦闘、【凶】のダンジョンについて――」
冬華は光伝送通信で茉白と谷川の持つ端末にデータを送る。
「勇者ケンを守る方法。【凶】の真邪王やジンガの呪術に対抗する手段――」
「流石です冬華、先生もそう思いますよね?」
「ああ、どの案もよく考えられている……一つ気になる点があるとすれば冬華様は京都にバックアップを用意しているからと無茶をする可能性が高いところですな」
谷川は太縁眼鏡を上げて言った。
「それは自身の性能を限界まで引き出して次のアップデートの為の有用なデータを得る為です。そこに何か不満でも?」
「真邪王の邪眼はコピーする力を持っていると京都から送られてきたデータに記載されています。冬華様をコピーさせるわけには……」
「私は私の事を熟知しています。コピーには負けません、なので問題ありません」
「直接対決される場合ならそうでしょう。しかし真邪王は別の用途で冬華様のコピーを使用する可能性があります。貴女なら行わない非道な行為もやって見せるでしょうそこが不安なのです」
谷川は冬華の力をもってすればサイバネ者の集団扇動、都市の機能破壊、大量殺戮兵器の自動化など例をあげて言った。
「文明社会において冬華様の力は絶大です。かつて居た世界的サイバーテロリスト『G』など貴女の前では勝敗にすらなりえない。今の冬華様であればグレイビースト事件はもっと早く解決できていたでしょう。それほどの力なのです」
「言いたいことはわかりました谷川先生。……そうですね敵に手の内は晒さないに越した事はない。作戦パターンを変更します」
「宜しくお願いします」
白峰冬華は華月とジークベルトの娘でありサイボーグボディを作った勝田波留夫の事は勝田本人の希望もあり『おじさま』と呼んでいる。親友である自動人形・茉白のマスター谷川克政の事は今の所、華月の従者の中で一番信頼をしている。
谷川克政は従者の中では一番長く冬華との時間を過ごしている。彼は冬華の事を次期白峰当主に申し分無いと評している。他の候補者、霄、吹雪、霞とは比べものにならないとさえ。万が一冬華が選ばれなかった時……何が起きるかは用意に想像できた。
過去に華月の娘である雪名がエクレシアに従わざるを得なかったとはいえ華月を完全消滅寸前にまで追いやった。その事に関して華月本人よりも周囲は憤っており何かのきっかけで爆発し現当主側を滅ぼすつもりでさえいる。
冬華の当主落選はその引き金になると谷川克政は考えている。そして華月もそれを止めようとしない事も解っている。冬華は両方を念頭に置いていると感じている。当主に選ばれると 99 %思っているが1%は現当主側を滅ぼす構えだと。
現当主側もそれを薄々感じているのか当主選に向けての意気込みをあまり感じない。エクレシアの建前上、当主選をする姿勢を見せているが実際は冬華に譲る気なのだと谷川克政は考えている。
「(冬華様が当主になればエクレシアの束縛から華月様は自由となる)」
作戦会議を終えると冬華はベッドに横になりスリープモードに。半自動システムに切り替える。人間と同じサイクルで睡眠をとり思考を整理する。これは勝田波留夫の助言で実行していた。人間らしさを失わないように通常の時間を生きている者の気持ちが解るようにと。その代わり意識を分割し待機させいつでも動けるようにしていた。
冬華は誕生してまだ 1 年にも満たない。経験不足を補う為にスリープ中に時間を圧縮しシミュレーションしていた。
データから抽出した旧白峰邸で幼いころから育ち学校生活を送りながら白峰家の者として闇の住人とのやり取り。白峰華奈、華月、雪名とデータに残っている限りのシミュレーションを自分に置き換えて過ごす。
存在しないはずの記憶を経験として得ていく。
自我の崩壊、人格破壊に繋がりかねないと勝田波留夫は注意したが冬華は生まれながらにサイボーグの自分はシミュレーションであることを絶対に忘れないと言い放ち進めた。
冬華にとってこのシミュレーションは演劇や映画を見ているようなものだと。
――翌日
冬華の受信システムに着信。
『冬華ちゃん、おはよう』勝田波留夫の声。
「システムオールチェック、起動。おはようございますおじさま」
『今日から勇者ケンとパーティーを組んでの作戦だね。何か必要なものがあったら遠慮しないで言うんだよ』
「いつもありがとうございますおじさま。何かあればすぐに連絡いたします」
『じゃあね、作戦がんばってね』
「はい」
ベッドから体を起こすと茉白は化粧台の前で谷川と身支度をしていた。
「おはようございます冬華。きょうも良い朝ですね」「おはようございます冬華様」
「おはよう茉白、谷川先生」
冬華は自分の冷蔵バッグから血液パックを手に取りストローで一気に飲み干した。
「朝食完了。勇者ケンとの待ち合わせまであと 1 時間ですね」
バスルームに向かう冬華。シャワーを浴び自らの発熱で濡れた体を乾かし髪をサイドテールに結ぶ。鏡の前でボディスーツと背中のあいたドレスを纏い準備を終える。
―― 1 時間後ホテルのラウンジ。
黒いビジネススーツの財団の男と共にカーボン調のパーカーを来た少年、勇者ケンが現れた。
「ケン・シーアです」
「白峰冬華です、こちらは茉白に谷川克政」
銀髪に金色のメッシュが入ったサイドテールの冬華を見てケンは握手すべく右手を出した。
「宜しくお願いします」
「こちらこそ。京都での活躍はデータで拝見させていただきましたよ」
握手に応じる冬華。触れた瞬間からデータ解析を開始。
「お母様、お父様と一緒に作戦をされてどうでしたか?」
「えっと……うまく言えませんが素晴らしい経験でした」
「そうでしょうお母様は歴代白峰家最高の存在、お父様は黒魔術の他に多才でよく気が付く紳士ですものね」
「はい……」
「どうかしましたか?」
「いえその……華月さんの娘さんと言われてちょっと戸惑ってしまって」
「ああ、今お母様は幼い姿になってしまってますものね 100 歳を超えていますが。私は見た目は貴方よりも年上ですがまだ 1 歳にもなっていませんよ」
「不思議な感覚です……」
「挨拶はこのくらいにして部屋で打ち合わせをしましょう」「はい」
冬華の顔は華月に似ているが雰囲気はまるで違う。茉白は人形そのもので谷川は優しくて真面目そうな大人に見えた。
続く
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