DHHU その 32
「緊張されなくてもよいですよ。お母様とパーティーを組んで戦ってきたのなら私たちはもう同士ではありませんか?」
部屋につくとリビングに案内して冬華が言った。財団の者はケンと別れホテルのロビーへ移動する。
「え、ああはい。そうですね」
冬華と目を合わせようとしないケン。茉白と谷川はソファの端に腰を下ろした。
「……んんっ」
咳ばらいをする冬華。
『どうしたケン、そよそよしいではないか』
華月の声、口調を完全コピーした冬華が言った。
「え」
『適度の緊張感は必要だが萎縮はするでない。のびのびと話そうではないか』
「そう……ですね」
「……成程、わかりました。お母様の人との距離のとり方、歯に衣着せぬ物言いが貴方にとって心地よいのですね」
「えっと……」
「ではまず勇者ケン、貴方の話を聞きましょう。ここにいる 3 人はまずそれを聞きたいです」
冬華はケンの話に相槌を打ちながら質問をし全て録音していく。
「その歳で立派な事です」
「いやそんな冬華さんなんてまだ 1 歳にもなってないのに俺より落ち着いてて……」
「実年齢は 1 歳未満ですが、睡眠中のシミュレーションで白峰家 3 代の人生を体験している最中ですのでケンよりも人生経験豊富と言えます。その影響でしょう。歳の事を持ちだしたしたのは迂闊でした、ケン貴方を一人の人間として接しなければならないのに」
冬華は脳内で巻き戻しケンに対して言ったことを変え複数の反応パターンをシミュレートする。そして思考パターンと口調を変えなければならないと出た。
「……」
「冬華さん?」
「なんでもないですよ、ケン。共に【凶】を斃しましょう! 私は貴重な経験値を得ることができます。次の白峰家の当主として様々な経験を積みたいのです!」
「え? うん」
冬華の急な変化に戸惑うケン。
「これが本音です。私は経験が欲しい、そして国内にそんな危険な組織がいるのなら排除しておきたい。財団とも繋がりを持ちたいです今後も友好的でいたいです」
「う、うん! 俺も白峰家と知り合えてよかった!」
「ケン、貴方のカードの事とか教えてほしい実戦でスムーズな連携を行うために。お母様のように瞬時に思い切りのよい判断を私はまだできないから」
「いいよじゃあまずこのファランクスのカードはね――」
打ち合わせを 1 時間ほど行い、ケンは隣にとった部屋に戻って行った。
「おじさま」
冬華は勝田波留夫に通信を試みる。
『何だい冬華ちゃん』
「 V ドライブの拡張ユニット 2 機を明日までに用意できますか?」
『先日テストを終えたばかりのやつだね……かづたん様の動きを再現したくなったの?』
「勇者ケンと作戦行動を共にするにあたって、お母様の戦闘スタイルは取り入れていきたいなと考えています。なぜなら彼はオリジナルカードの構想にお母様の影響を受けたと発現していたからです」
『んん? 意味がよく分からないねぇ』
「勇者ケンの中でお母様の存在はとても大きくなっているので私はお母様の娘であることのインパクトを強く与えたいのです。私も勇者ケンの記憶の中で無視できない存在になりたいのです」
『なるほどなるほど……』
「おじさま?」
『いや、気にしないでね冬華ちゃん、君の成長っぷりに思わず嬉しくて顔がにやけてしまっただけだよ。京都のかづたん様の元を離れて正解だったと言える。かづたん様にジークベルト殿、僕や他の従者がいる環境では皆が望む冬華ちゃんの型にはまってしまっていた可能性があるからね。外部の人間である勇者ケンと接触して自分で案を出し僕に相談してきたことが嬉しいんだ』
「そうなのですか」
『以前の冬華ちゃんなら真っ先にかづたん様やジークベルト殿に聞きその通りに動いていただろう疑いもせずにね。イレギュラーがあれば対応できずに暴走してたかもしれない。僕にパーツを頼む時も必要ですとしか言わなかっただろう』
「その可能性はあります」
『自分で考え相談相手を選び検討する。これがスムーズに出来ている事が素晴らしい。自分の能力に振り回される様子も無いし良い成長をしているよ、それで V ドライブ拡張ユニットだけど……すぐに佐久間殿にでも送らせるよ。朝までに間に合えば良いかな?』
「いえ、自分で取りに向かいます。飛べばすぐですので」
『そうか、じゃあ用意して待ってるよ』
通信を終える冬華。
「……茉白、貴女が羨ましいと感じる事が多々あります」
冬華の問いに首をかしげる茉白。
「茉白は先生の理想の人形であり続けるそれだけです」
「それです、貴女にはゆるぎない信念、理想像がありそれに向かって試行錯誤できる」
「冬華にはないのですか?」
「迷いがあります」
「迷い、悩みこそ人間らしいではありませんか。そこから成長するのでしょう?人形には必要ありませんが」
「……」
「ですが理解はできます。茉白は先生に捨てられて存在意義を失う事が耐えられない。先生に飽きられないように愛し続けて貰えるように試行錯誤する。うまくいってるかわからない時は不安を感じます。冬華は自分の芯が何か掴みかねていていると推測します」
「私の芯」
「人形の茉白が言う事は参考にならないかもしれませんが、譲れないものが何か冬華もあるはずでは?」
「私の譲れないもの……」
じっと手を見つめる冬華。
「……いいですか、冬華様」
谷川が言った。
「貴女の悩みは華月様も幼い頃感じていたものです、きっかけは覚えていないとおっしゃってましたがある日突然電撃が走ったようにひらめいたとの事です」
「ある日突然……」
「うまくいかない魔力操作、白峰家の縛りで思い通りにならない、理解者もいないそんな日々の中でひらめいたらしいです、丁度今の華月様の肉体と同じ年齢 9 歳頃だと」
「しかし谷川先生、私はあと 2 年で完成しなければなりません、当主選を勝つために」
「完成する必要などありませんよ。華月様と冬華様は違う、貴女に期待しているのは白峰家の未来です。どのように導かれるのかと従者一同は期待しているのです」
「確かに私とお母様は違う」
「生まれつきサイボーグの冬華様はこの時代に適し未来へと繋がる道を示せるはずです。プレッシャーを与えるつもりはないのですが私はそう考えています」
「……谷川先生は私が当主になった時、従者として付いてくれるのですか?」
「華月様は茉白が生まれるきっかけになった最高の存在です、最高の存在を見て聞いて感じて着想を得て茉白を作ることができました。この恩は一生をかけて返すつもりですので。しかし華月様が望むのであれば冬華様に付く事になるでしょう」
「自分の従者は自分で選べという事ですか」
「そうでもありません、華月様に仕えている従者の殆どはジークベルト殿が集めた者達です。白峰家に縁があり華月様を支持していた家の者中から厳選したのです。結果とてもよい関係になりました従者同士のトラブルもありません。なのでジークベルト殿に頼むのも一つの案ですね。それと白峰家には古くから仕えている御三家がおりますので」
「御三家……須原家、吉良家、水元家ですね。お母様が当主の時も御三家は仕えていたのでしたね」
「かといってそこから選択しなければならない決まりはありません。従者はいつの間にか集まっている、そのくらいの気軽さで良いのかと。貴女に魅力を感じ仕えたいと希望する者が必ず現れるはずです」
「そうですか……」
冬華は一旦問題を置いておく事にする。他の事をしている時にノイズが入るのを避ける為である。誕生して 2 ヶ月ほどは情報処理が追いつかず拡張パーツを着けて対応していたが勝田波留夫に思考分裂による仕分けを提案され問題は解決した。最初に誕生した冬華の思考をメインとし他に 5 つの思考を持つようになった。
『分裂した思考を切り離し独立した AI としてみるのも将来面白いかもね』
と勝田波留夫は言った。神名からの技術提供のバイオプリンターで生体ボディも作っているのでAIを搭載した冬華の子たちを作ることも可能だと言う。
***
ケンは冬華と話をして意外と親しみやすいと感じていた。
偉大な親を持ち後を継いで立派になりたいとお互いに考えている。
ケンは父親のセイに憧れ、華月に生涯忘れる事が出来ない程の強烈な衝撃を受けた。
冬華との出会いに少し運命を感じていた。
『ケン様』
財団の男から通信が入った。
『渋谷にダンジョンが発生しました。 3 万人を超える人数がダンジョンに吸い込まれたとのことです。財団は動けるギルドメンバーを総動員しました』
「なんて事だ……ジンガと真邪王はもうなりふりかまっていないのか」
『……それと、今入った情報ですが財団の邪体保管庫がある建物が襲撃を受けています!ユウ様が近い為そちらに向かって貰います、ケン様は渋谷のダンジョンへお願いします』
「わかった!」
通信を聞いていた冬華、茉白、谷川はケンの目を見て頷く。
「みんな、渋谷のダンジョンへ行こう!」
「屋上へ行きましょう、そこから飛べばすぐです」
屋上へ移動するケン達。ヘリポートへ出る。
「茉白が谷川先生を、私がケンを掴んで飛びます」
谷川を後ろから抱えて飛び上がる茉白。羽を広げて滑空する。
「行きましょう」
「大丈夫、俺も飛べるよ【不死鳥の剣士】でね!」
不死鳥の剣士を召喚、その背中に乗る。
「そうでしたかでは行きましょう」
先頭を飛ぶケン、続く茉白&谷川、冬華。
「あれは……」
ドーム状に展開した黒いオーラが渋谷を包み込んでいた。
「なんて規模のダンジョン……本当に真邪王とジンガはここで決着する気なのか」
「通常、このように目立つものなのですか?」
冬華は黒ドームをスキャンしながら言った。
「いや、普通は建物の扉とか通路の間とかに入口を作るものなんだ……こんなに大きくて一般人に目立つダンジョンの入口なんて初めてだよ」
「次々に車、人々が黒いドームに入って行ってるが」
谷川が言った。
「マズい……【凶】のダンジョンで邪気にあてられたら一般人は正気を保てない……魂まで蝕まれたらもう元に戻れないモンスターになってしまう……だけどこんな大規模な入口全て封鎖できないどうすれば……」
「今までこのような展開をしなかったのは向こうにもリスクがあるからなのですよね?」
茉白が言った。
「うん、こんな展開の仕方すればダンジョン主にはとんでもない負荷がかかる。入口をでっかくすればそれだけ邪気が霧散しやすくなるしダンジョンが消滅しないようにしなきゃならないから」
「どうやら新宿でも同じようなダンジョンが発生してたようですね」
冬華は周囲の人々の携帯電話にハッキングを仕掛け新宿御苑のダンジョンを撮影した者を発見し写真をコピーしてケンに見せた。
「――これはユウが対応した方のダンジョンか……奴らはもう世間に隠す気はないんだな……それほどのリスクを冒してでもやり遂げる覚悟か」
『ガオオオオオオオン……』
黒いドームの中から複数の人間が合体した巨人が現れる。
「まさにお構いなしですな……」
谷川は眼鏡を触って言った。
『ガオオオオン』『ギャオオオオオン』『ゴオオオオオン』
次々と合体巨人がドームから現れる。
「取り込まれた渋谷の一般人は数万人……大惨事になりますよ」
既に警察車両、消防救急のサイレンが鳴り響いている。
「突撃しよう!ダンジョン攻略は速ければ速いほどいい!」
ケンが叫んだ。
「出現するモンスターは無視して攻略に舵をきる判断……流石勇者。追いましょう茉白」
「はい先生」
急降下してドームに向かうケンを追う谷川&茉白。
「あの三体だけでも潰しておきます」
右腕を変形させた冬華。プラズマキャノンのチャージを始める。
「爆散した後始末は誰かがするでしょう」
三体の合体巨人にプラズマ弾を撃ち込む。命中したプラズマ弾は巨人の全身に広がり爆散させる。
「これで犠牲者の数は少しは減るでしょう」
ケン達を追って黒いドームに急降下する冬華。ダンジョンに入る。
続く
DHHU外伝その8 Jun 13, 2025
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