DHHU 外伝グレイ・イーター編その3
「お前は念爆者です、わたしはそう認識しました。排除します」
嘘をつけないアリナが自己暗示をかける事は難しい。過去の記憶をフラッシュバックさせ無理やり目の前の相手に定着させ自分を騙す事で自己暗示をかけた。
――目の前に居るのは念爆者。
アリナの体中の細胞が燃焼するようにサイコキネシスを発動する。
「ぐっはああああああっ!」
アリナの正拳突きをうけて弾丸の如く吹き飛ばされるグレイ・イーター。最初に念爆者に放った正拳突きとほぼ同等の威力であった。
「……この星を統べるほどの力を持ったフォームのハリーにこんなダメージを与えるとは!」
「念爆者覚悟」
「サイコビーーーーーーーーーーーーーーーームゥ !! 」
「はあああああああああああっ!」
アリナは正面から正拳突きでサイコビームを迎え撃ち押し返す。
「 90 %」
「なんだと……ならば最強のサイコキャノンでこの辺り全てを吹き飛ばしてやる!」
サイコキャノンの構えをとった時すでにアリナは目の前に詰めている。そして手刀を叩きつけて指を折り、半身の状態からのカギ突きをグレイ・イーターの腹に打ち込んだ。
「おごっ」
アリナの拳の形に凹んだまま腹部が戻らない。アリナは体を捻り後回し蹴りをグレイ・イーターの胸に叩き込んだ。ブーツの踵が胸にめり込み衝撃の強さから打撃箇所から発光する。
アリナのブーツは崩壊。グレイ・イーターは猛烈な回転をしながら後方に飛んでいく。
岩壁を砕き跳ね飛び肉片をまき散らしながら更に飛んでいく。カギ突きのエネルギーと後ろ回し蹴りのエネルギーはグレイ・イーターの中で炸裂しネズミ花火のように飛んでいく。岩壁に衝突するとカギ突きのエネルギーが反応し肉体を破壊しながら跳ね後ろ回し蹴りは体を更に遠くに飛ばしていく。肉体が崩壊するかアリナの叩きこんだエネルギーが尽きるまで止まらない。
『風雷神殺』アリナが祖父から授かった奥義の一つである。
「ぐうううあああああ……止まらねぇ……痛ぇ……このまま崩壊するしかないのか……いや、ここは弱体化を覚悟で肉体を捨てるしか無い……ほぼ 0 からのやり直しになるが喰った経験知識は消えねぇからな……」
グレイ・イーターはナメクジのような体でハリーの鼻から脱出。
「あの肉体はもう使い物にならねぇ……最後に残った力で盛大に自爆してやるか」
ハリーの肉体は地面岩壁を跳ねながら徐々に光り輝いていく。
「ククク……」
自爆の命令を実行しようとした時、アリナを気配を感じ慌てて隠れるグレイ・イーター。
「(マズい……今の奴は身体能力が超人……迂闊な事は出来ん……このままやり過ごすしかないか……)」
アリナはハリーの肉体を追いかけながら違和感に気が付いた。
「気が消えた……」
跳ね飛んでいるハリーの肉体を見て呟いた。
「何かおかしい、あの敵から何かが抜けた……」
アリナは徐々に冷静さを取り戻し目の前のハリーの肉体を正常に認識出来るようになっていた。
ボロ雑巾になったハリーの肉体がようやく停止する。アリナはいつでも迎え撃てる残心の構えで接近。サイコパワーが消えていないのを確認した。
「……フロー、哿さん。わたしの座標まできてくれますか」『わかった』『はい』
通信機で二人を呼ぶ。哿の連続テレポートですぐに到着する。
「フロー、お願い」
アリナはハリーの肉体から目を離さずに言った。そして哿は二人の肩に手を置いていつでもテレポート出来る準備をする。
三人はテレポートでハリーの肉体の横に移動。すぐにフローレンスが治療を始める。
「内蔵がズタズタ……全身骨折……でも死んでない、いける!」
フローレンスの異能の力でハリーの肉体は再生していく。数十秒で元の姿に戻ったが目を覚まさない。
「体は元に戻ったけど……後は詳しい検査をしなければわからないですね」
「長官に報告しましょう。ハリーは確保したと」
「グレイ・イーターは? アリナさん?」
哿が聞く。
「どういう訳か消えました」「私もハリーの治療した時に何も感じなかったです」
「ハリーさんの肉体を捨てて逃げたのでしょうか……」
「恐らくわたしの攻撃を受けた時にどこかのタイミングで……」
「そういえばアリナ! 50 %超えなんてどうやって!」
「詳しい話は後で」
***
「トーヤ、その近くで反応があります」
「薄い反応だなぁ……消えそうだぞ」
アリナがハリーを止めた後、リティーシャと刀耶は荒野でグレイ・イーターの捜索を始めていた。
「今トーヤのナイトケースからの情報をドローンに反映させてますが……靄のようにハッキリしませんねぇ」
「そうなんだよなー……今までこういう時どうしてたんだ?」
「街中であれば同じような靄を探しますね……しかしこの荒野では……」
「グレイ・イーターにオーグルの特性が付いて追いやすいと考えてたんだけど中々うまくいかねえよな」
「そもそもこの靄ってどういう時に発生するんだ?」
「オーグルが生命の危機を感じた時ですね」
「なるほど……この周辺で奴は死にかけた。だけどその後の痕跡が無い……どういう事だ」
「考えられるのはここで飛翔する生物に取り付いたのかと」
「鳥とか虫かぁ……大分厄介だな」
「グレイ・イーターは解りませんが、オーグルは知的生命体に取り付きたいという本能があるので虫とかは一時的な緊急脱出手段かと。やはり人間に取り付くことが目的です」
「グレイ・イーターは喰って強くなるっぽいし荒野じゃあ碌なものがないから……人がいて喰うものが沢山ある街に向かったか?」
「それですね。念のためにこの近くに発信機を置いてマーキングしておきましょう、東にしばらく行くと街があるので他のメンバーに連絡をして向かいましょう」
「大丈夫かリティーシャ? もうすぐ日が昇るぞ眠くないか? ミルクは足りてるか?」
「ナイトケース・ハートを装着している間は平気ですよ。師匠を呼んで街に向かいますよ」
「ああ」
――東の街
「流石に人が多いな……ステルスモードで探索だな」
「今日のエネルギー残量ですと連続使用 1 時間が限界ですから気を付けて」
「リティーシャはどこか建物の中でサポートしてくれ。ところで冥珂さんは?」
「師匠は先にこの街の核となる場所にルーンを刻みに行きました」
「核?」
「まぁ……この街の人々が何となく共通で認識している街の中心地点の事ですね。魔法などで街全体に影響を及ぼしたければ核を抑えるのが基本ですから」
「じゃあ魔法使いはまずそこを取り合うと? 陣取りゲームみたいだな」
「う~ん……大都会なんかは既に守護する何かが置かれてたり監視役がいるのでそう簡単なものでもないんですがこの国は先住民達の呪術を除いて魔法の歴史も何もないのでそうなりますかね」
「手あたり次第探すわけにもいかないし……どうする?」
「とりあえず警察、救急の回線をジャックして動きをチェックします。トーヤは私のドローンと共に空中から街の様子を観察してください」
「それでいいのか?」
「師匠のルーンから街の人々の感情を揺さぶって、私の回線ジャックで動き、トーヤの目視のデータを合わせこの街のどこで普段と違う事が起きたのか分かります」
「すげぇ……」
「この街が小さいからできるんですけどね。オータムホースの第二地区位ですから」
「あ~なるほど。俺たちのミラージュ探偵事務所は第二地区の様子を把握しているものな」
「ええ、ですから普段と同じパトロールと思って飛んでください」
「了解」
――中央ショッピングモール
「はいはいここが街の中心やね……」
冥珂はショッピングモールの中心にある噴水を眺めて言った。
「魔法の痕跡も無し全く何も弄られてない街……そのかわり銃弾は飛び交ったんかも知れんけど」
犠牲者を弔う献花台を見つける。
「怪異なんかより銃の方が恐ろしい街……そんな街に異物が入ってきたらすぐ解るやろうな……スフィンクス?」
冥珂はギターケースに入っている猫型使い魔であるスフィンクスに話しかける。
『冥珂、人間の視線を感じるぞ。お前の格好からここでソロライブでも始まるんじゃないかと勘違いしてんじゃねーか?』
「革ジャンにパンツスタイルにギターケース……確かにね。せやけどこうやって注目されてる方が分かりやすいというか」
『銃撃事件が最近あったっぽいから見慣れない奴を警戒してんのもあるかもな』
「さーて映えスポット撮るふりしてルーン刻んで……あたしの魔力放出しよかな。反応があったらビンゴやしなくてもこの噴水に来たくなるはずや」
『扇動の暗示魔法か……近くに魔女やら魔術師がいたら勘づかれて即バトルだな』
「魔法に縁のない街やしどの道わかりやすい反応見れるで」
『いっそここでマジでギターでも弾くか?』
「アホか聞かせられるような腕してへんって! そもそもギター生成しな無いし」
『箒の姿かえて音響は端末から演奏はエアギターでいいじゃねえか適当に人気バンドのメタルのソロギターパートでも流せばどうだ?』
「なんやアンタ今日はやけにノリがええな」
『そうか? 昼食に食べた肉が上手かったからゴキゲンなのかもな』
「なんやそれ……」
冥珂は箒をギターの姿に変え音響は端末から流しエアギターを始める。徐々に感覚を思い出し音響に合わせコードを押さえる。
『傍から見たらエアギターに見えないぞ』
「いやいや、演奏の癖とか真似できひんし実際あたしが弾いたらこんな音出えへんて」
『冥珂……ショッピングモール北側にほんのわずか反応する奴がいたぜ』
「え、早っ……リティーシャと刀耶君に連絡や! スフィンクス頼むで!」
『おう』
冥珂はリティーシャと刀耶に配っているカードから音声メッセージを送る。
「中央ショッピングモールの北側に怪しい反応アリ !? 」「トーヤすぐに向かって!」
ナイトケースのブースターの出力を上げて加速する刀耶。ショッピングモールの北側駐車場に膝と拳を着いて着地した。
「トーヤその着地するのなんで?」「前も言ったろ? カッコいいからだって」
立ち上がる刀耶、ナイトケースの装備を飛行モードからアサルトモードに変更する。
「さぁどいつだ?」
スキャンを始める。群集の中ひとり緑色のオーラを放っている人物を見つけた。
「アイツか !? 」「確認を!」
ローラーダッシュで一気に加速して対象の前に回り込む。その人物はオーバーオールの小太りの男だった。
「どうだリティーシャ?」「胸にオーグルの反応アリです! ストライクスマッシュで一気にカタをつけるのです!」
「そうはいくか!」
刀耶は右腕の銃口を構えたと同時に小太りの男は口を大きく開け火球を吐き出した。
「くっ!」
刀耶は火球を避けながらストライクスマッシュ銃撃を放ったが僅かにそれ男のハンチング帽を掠めただけだった。
「早えええよおおおおおおおっ! ぜんっぜん喰ってねぇのにモノの数時間で追いついてきやがるとは!」
「グレイ・イーター! お前の中のオーグルが臭うんだよ !! 」
「そーかよ! だがお前ひとりで追ってきたのは間違いだったな! おれは TMI 最強の男ハリー・ハーマンの異能を手に入れたぜ? おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
腰を落とし全身に力を込める。
「ふううう……まだまだ喰う量が少ない……本領発揮とはいかないか。だが逃げ切るくらいの力はあるはずだ! サイコパワーフラッシュ !! 」
全身を虹色に輝かせるグレイ・イーター。
「そしてサイコフラッシュタックルだ!」
瞬間移動めいた速度の体当たりを仕掛けるグレイ・イーター。
「ぐっはぁ!」
ナイトケースの装甲には衝撃吸収膜魔術が刻まれているが限界近い衝撃を受け後方に吹き飛ばされる。
「くっそ……今の一撃で意識が飛びかけたぜ」「トーヤ!何度もアレを受けるのは危険です! 空中に離脱するのです!」
「ふうううん!」
タックルを仕掛けるグレイ・イーター。刀耶は反射的に横に転がって避ける。
「あぶねー……ホーミングなしの一直線攻撃、僅かな溜めアリ……反応できれば避けれるぜ。最高難度のアクションゲーみたいだな」
「なにをのんびりしたことを!」
「飛ぶよりも機動力あげて避けて反撃した方が良さそうだぞ」
「ああもう! もう一度受けたら危ないんですからね!」
刀耶のナイトケースは常人の 10 倍程度まで身体能力を上げる事が出来る。ハリーの全開時の力にはとても及ばないが刀耶のゲーマーとしての勘と腕前でナイトケースの性能を十二分にまで引き出して戦闘できている。
「ここで奴を叩かないとな! 逃げられて大量に喰われた終わりだ!」
刀耶の体がオレンジ色の光に包まれていく。
『刀耶君、あたしも協力するで。ナイトケースの性能あたしのカードからの魔力供給で補助してあげる!』
冥珂の声がする。刀耶は目の前に映る UI を思考操作してナイトケースのステータスを確認する。
「あざーっす冥珂さん! まるでジョーカー着た時のような性能っすよ!」
『あたしも仕掛けつくったらすぐそっち行くで!』
「はい!」
グレイ・イーターの直線的なタックルを回避し続ける刀耶。
「ぬう……まだサイコパワーの扱いに慣れてない……ハリーの記憶から解っているつもりだったがエスパーの異能とは中々扱いが難しい」
グレイ・イーターは突っ込んだトラックを貪りながら呟く。
「やはり只の人型ではこの星の奴と戦うのに不便だな……デカく大きく硬くならないとな……」
続く
DHHU外伝その8 Jun 13, 2025
DHHU外伝グレイ・イーター編その7 Jun 2, 2025
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