ラビット・アンダーグラウンド 10 話
一斉に狐理子達に飛び掛かるブラックヴァリー達。ひとりだけ倉木ひかるに駆け寄る男が、車の中で舌なめずりしていたカガワである。
「ウイーヒヒヒヒッ!」
「サセルカ!」
倉木ひかるに向かって走るカガワの頭部をシャパリュの尾が打つ。
「ゲェ……」
首が捻じれ 360 度回転し吹き飛ぶ。
「ココは任せろ。ジャッカル、フォックス残りをヤレ」
フォックスはテンゾウ、残りのブラックヴァリー 6 人はジャッカルが狙う。
「死ねええっ!」
ジャッカルに一斉に消音器付き拳銃を向けるブラックヴァリー。瞬間移動めいたステップで弾を避けるジャッカル。鍛え上げられた肉体に強化神経、 SliME の筋力サポート、バトルスーツのおかげでジャッカルは LOKI の幹部メンバーに勝るとも劣らない戦闘能力を持っている。 MGM 歌劇団においてジャッカルはパートナーのピューマと並び戦闘担当者である。メンバーを荒事から守り LavaGerden の治安を保つ役目で丹羽家から派遣され昊菜に気にいられ MGM 歌劇団にピューマと共に入る事になった。
「ごぶっ」
ジャッカルの拳が下忍の腹に食い込む。その直後爆裂。ガントレットに仕込んだ弾丸が体内で破裂したのだ。
「てめぇ!」
銃を構える下忍、しかしジャッカルは既にその場に姿は無く下忍の側面から拳を頭部に叩き込む。そして爆裂、肉片が飛び散る。
「このっ!」
ナイフで突く中忍、ダッキングでジャッカルは回避してストレートを腹に打ち込み爆裂させる。
「下がってろ……アイツは私がやる!」
残る中忍を下がらせ前に出るコマダ。ナイフと拳銃を構える。
「そこっ!」
動きを予測し拳銃を打ち込むコマダ、弾丸はガントレット防がれる。ジャッカルは離れた位置でジャブを繰り出す。次の瞬間コマダの肩を弾丸が貫いた。
「何……遠近両用か……ボクシングに似たあの動きに加え拳から放たれる弾丸……」
コマダは肩を抑えながら積んである木箱の裏に移動する。
「クソッ……あんなのを相手にしていられるか! 他の上忍に伝言しなくては!」
コマダが隠れている間に残りの中忍はジャッカルの手によって礫死体となっていた。
「ここは逃げなくては! 私たちは LavaGerden を甘く見過ぎていた!」
倉庫を飛び出すコマダ、追うジャッカル。
「クソッ逃げ切れるか……?」
サイバネ強化し足に自信があったコマダに平然とついてくるジャッカル。
「後 3 分もすれば援軍がくる……それまで……」
ジャッカルの放った弾丸がコマダの足を貫いた。
「うああああっ」
転倒するコマダに次々と弾丸が撃ち込まれる。
「があ……」
「こっちは終わった……フォックスに合流する」
薄れゆく意識の中コマダはジャッカルが去って行くのを見つめ続けた。
「ここまで……か……」
フォックスこと狐理子とテンゾウは倉庫を出た広場で一進一退の攻防を繰り広げていた。
「コマダめくたばったか。所詮奴は諜報担当のくノ一……」
耳に仕込んだ通信機に指を当ててテンゾウが呟いた。
「覚悟するでござるよ! ブラックヴァリー! 暮葉一族の怨み思い知れ!」
「化かすのが得意な暮葉一族……飛び加藤の系譜……お前たち暮葉一族に伝わる【加藤段蔵の秘伝書】の解読、必ずやらせてやるぞ」
テンゾウは背中のバックパックから 6 機のドローンを飛ばす。その内の 2 機に足を乗せて飛翔する。
「サイバネムシ忍法オニヤンマ」
「そんなもの!」
狐理子は手裏剣を放つ、ブースター突撃を幾何学的な軌道で回避するテンゾウ。
「くっ(自分が攻撃する動作と同時にもう回避に入ってる……どういうことだ?)」
ドローンからの銃弾、狐理子は連続側転で回避するが体を掠める。
「(接近すればドローン銃撃は防げるはず、奴も自分ごと撃ちはしまい)」
フォックスブースターで接近する狐理子、テンゾウはスライドめいた空中移動で距離を取る。狐理子が追いかける、テンゾウが距離を取る。
「(あと少しが届かない!)」
「中々の速さだが来るのが解ってれば避けるのは容易い……他の暮葉一族のように貴様は幻術を使わんのか?」
「黙れ!」
狐理子の幻術とは自分にかけるもの。フォックス忍法なりきりの術は暮葉一族の幻術を応用したものである。現在狐理子がなりきっているのは里の長である自分の父であった。
「(なんで……体が重い……)」
『キリコ! 肩と大腿に食い込んでいるマシンがあるよ!』
SliME コンキチからの警告。ドローンから放たれた弾丸が掠った部分であった。
「ククク……サイバネムシ忍法マダニ……」
狐理子に食い込んでいるのは 2 ㎜ほどの小さな足の生えた機械。医療用のマシンを改造したものである。テンゾウは改造マシンを操り狐理子に毒を打ち込んでいた。
「有象無象のブラックヴァリーとこのテンゾウを一緒にしてもらっては困るな。首領の不動了痲なき後、ブラックヴァリーを率いるのは我が天蟲党だ!」
「そんなくだらない事の為に暮葉一族の里を襲撃したのか……」
「素直に従っていればよいものを抵抗するからだ……さぁどうする? 徐々に体の力が抜けていくだろう? 思うように動けまい。大人しく秘伝書を解読しろそうすればお前の好きな店の従業員も今後襲わないと約束しよう」
「……(解読すればその後殺される。そして暮葉一族は絶滅する。秘伝書の秘密も守れずすべて失う。そんな事になるくらいならいっそここで奴を道連れにして……)」
「ギャギャギャギャー!」
緑色のぬいぐるみが倉庫から飛び出してきた。シャパリュ(ギィ)だ。
「援軍か……なんという邪気、妖の類か」
「ガギャアアアッ!」
シャパリュの背負っているランドセルからサイバネアームが展開、手にはアサルトライフルが装備されている。
「おっと……サイバネムシ忍法ヒラグモ!」
円盤型の爆弾を投げつけるテンゾウ。バックステップで回避するシャパリュ。爆弾は炸裂し大量の煙を周囲にまき散らした。
「ギギギギギギー!」
「今日はこれまでとしよう。暮葉一族、よく考えるんだな。これからいつでもお前とお前の周囲を狙うからな」
強力な催涙ガスを受けて目と鼻から体液を溢れださせながらシャパリュはグルーミングしている。
「ギャギャギャー……あのニンジャ! 調子にノリヤガッテ!」
「ゴホゴホ……」
狐理子はコンキチのサポートで瞬時にマスクを装着し吸い込んだのは微量だった。
戻ってきたジャッカルは風上から接近し煙を放つ円盤を連続で撃ち海に落として処理した。
「シャパリュ、フォックス……無事ですね」
「ギリギリというところです……」
「ギャギー! あのニンジャコロス!」
***
倉庫街の出来事を離れた建屋の屋上から双眼鏡で眺めている男の姿。七曲キョウヤ。
「いやはや……久しぶりに LOKI 関連のドンパチ。こりゃあこれから街は荒れるぜぇ」
「お前の影響もあるだろう」
キョウヤの背後で低い女性の声がした。キョウヤは振り向くよりも早く特殊合金の鎖が全身に巻き付いた。
「トニトルス……さんですかい」
体を捩りキョウヤの視界に映るのはシスター服をモチーフにした戦闘スーツを身に着けた LOKI 幹部・トニトルス(エリザ)であった。
「主から全て聞いている。お前を監視していた」
「何もしてねえですぜ。見ていただけで」
「だろうなだからこれは警告だ。主を怒らせるな、ハートがいつお前を狙うか解らんぞ」
「なにもしてねえのになんでクリムゾン様を怒らせることになるんで?」
「……少し散歩しようか。頭を冷やす必要があるようだな」
トニトルスは背中から白い翼を広げて跳躍。鎖で拘束されたキョウヤを夜空へ。
「良い眺めだろう? いずれ主が支配する事になる街だ」
「まぁ俺っちには見飽きた景色っすけどね」
トニトルスは旋回して遠心力で鎖を締め上げる。
「ググゥ……」
「よく考えて発言するんだな。アンバーなら酒でも飲みながらお前の話を聞くんだろうが私は時間を無駄にするのが嫌いでな」
「じゃあどうしろと? 俺っちは探偵で街で情報を集めるのが生業なんだが?」
「知らぬ。主を怒らせる行動を取るな、お前が考えて行動しろ。私はお前に助言しに来たのではない」
「今すぐ俺っちを殺さないのは LOKI にとって利用価値があるからでしょ? かと言っていいように使われるのもゴメンでね」
「知らぬ。私はお前に伝えたぞ? 主を怒らせハートの餌食になるかどうかお前の行動次第だ」
急降下するトニトルス。鎖を解放しキョウヤを海に投げ捨てた。
「ブハァッ! 海水は面倒なんだよなぁ……」
海面から顔を出すキョウヤ、トニトルスの姿はもう何処にも無かった。
「さてと……街が荒れるのならもっと盛大にってな! 火種は多ければ多い程面白い、俺っちの仕事も大忙しって訳だ!」
キョウヤはコンクリート製の岸から上がって座り込み携帯を操作する。
「ああもしもし……ええ、そうです……ええ、ええ。実は面白い話がありましてね」
***
保護室に入れられたなゆかはベッドとトイレと洗面室しかない部屋で歩き回っていた。
「この部屋出ても廊下に鍵かかってるし垓の許可なく外出れないしどうしよう」
『携帯は取られたけど SliME ネットワークは使えるしまだ大丈夫だよ』
「このまま朝までじっとしてるしかないのかなぁ」
『朗報だよなゆか、狐理子の SliME コンキチ、ジャッカルの SliME ジェイジェイから LavaGerden の従業員全員無事に保護したって連絡来たよ』
「ほっ……誰が犯人だったの?」
『狐理子に秘伝書を解読させたいブラックヴァリーの天蟲党って連中みたい』
「あ、凄いもうそこまで解ってるんだ」
『すでに天蟲党を探しに動いてるよ』
「徳間教授の時みたいに一般人に紛れ込んで隠れてるのにどうやって探すの?」
『天蟲党の一人を半死状態で確保したから記憶から情報を吸いだしてアジトと人間関係を片っ端からあたるんだよ。警察のサイバー捜査と同じ方法かな』
「えーすごいそんなのまでオーナーさんは持ってるんだ」
『そうだよ』
「こんなに大きな事件が起きたら警察も動くし天蟲党も動き辛くなるんじゃないの? なんでこんな派手に動きいたのかな?」
『普段は一般人になりすまして個々で動いてるから捜査の手が及ばないと考えてるんだろうね。逆に LavaGerden はちょっと困ったことになるかも。被害者出てるから店に聞き込みに来るかもね』
「大丈夫なの?」
『家宅捜索でもないし従業員に話を聞きにくるだけかと。早くて明日か明後日だろうし、それまで店側は対策を取るはず』
「どうしよう、明日明後日店に行かない方がいいかな? だって垓と店で鉢合わせになるかもしれないし……」
『なるほどその可能性もあるよね。ポポを使って変装すれば大丈夫だと思うけど。それかホールに出ないでキッチンに回るとか。 SliME ネットワークで相談するね』
「ごめん、ありがとう」
なゆかは一旦ベッドに座って気持ちを落ち着ける。
「上手い事サキュバスハーフの力を使ってここから出ようとも思ったけど後々大変な事になりそうだよね」
『なゆかの力に魅了されて外に出した警官は処分受けるだろうね。なゆかは警察にマークされる事にもなるね』
「だよねぇ大人しく朝までここに居るしかないか~……でも何にもする事ないよねこの部屋。 TV も本も何も無いし」
『じゃあポポの SliME ネットワークに保存されてる映像でも見る? 歌劇団の講演とか演者視点で見れるよ』
「あ、それいいかも! ……でもそれは今じゃなくて……狐理子ちゃんとジャッカルさんが今日何があったのか見たいかも」
『それはおススメできないよ。普通になゆかが見るとショックを受けるようなスプラッタな映像も流れるし。なんせブラックヴァリーが何人も死んでいるからね』
「徳間教授の時に思ったんだ。何もできずにパニックになって見ているだけなの駄目だなーと。狐理子ちゃんとかジャッカルさんのプロの動きを見て色々分析してみたいの。死体が映るところはポポがいい感じにぼやかして?」
『好奇心の強さと勉強熱心ななゆかが本気で戦闘学んだら凄い事になるとポポは思うよ。確かに護身は知っておいた方がいいしいい感じになゆかに見せるよ』
「うん、お願い」
『なゆかはまだ慣れてないから念のため反射反応で体が動いて怪我しないようにベッドに寝て視聴して』
「解った」
***
―――なゆかのマンション。
「さて……」
なゆかの部屋に侵入する男。警察の捜査の為だと大澤垓は管理人から鍵を入手していた。
「男の気配は無いか……?」
洗面所に入る垓。歯ブラシを手に取り戸棚を開けて見る。
「あやしい物も置いてないな」
全自動洗濯機が洗濯乾燥を終えたランプが点いているのに気付き扉を開ける。
「最近の行動が怪しいからな……変な連中に影響をうけてないか身に着けているものである程度判断できる……」
T シャツにショートパンツ、ワンピースに下着と次々とりだして広げて観察する。
「異常はないか」
全自動洗濯乾燥機に戻す垓。次にトイレに向かう。タンクの蓋を開けて中を確認した後ゴミ箱を開ける。
「おかしなものは無いか……ドラッグなどはやってないか」
寝室兼リビングに移動する垓。冷蔵庫、食器棚、クローゼット、タンス、机の引き出し、本棚をくまなく調べる。
続く
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