ラビット・アンダーグラウンド 12 話
少年からの攻撃ターン、なゆかはドリブルしている少年の目を見つめる。
『あれ、なゆか……』
うっすらとサキュバスハーフの力を発動させる事を意識するなゆか。少年はなゆかの目から視線を外せない。
「……」
片足に体重をかけるなゆか、反応する少年。手を前に出すなゆか反応してボールを下げる少年。
「……よし」
なゆかの動きに反応する少年、バランスを崩したところをボールを奪うなゆか。
「やったぁ!」
「やるじゃん……俺がアンクルブレイク起こすなんてよ」
「じゃあ次は私が攻撃側ね」
なゆかは視線誘導でフェイントを行いあっさりと少年を抜いてゴールする。
「なんだ今の!」
「うまくいった、君素直だからかかりやすかったんだよ」
なゆかはいたずらっぽく微笑む。
「次はそうはいかねえぞ」
防御側のなゆかは少年の動きに合わせて先読みした動きを見せる。まるで少年がされなくない事を解っているかのように。
「くそ、抜けねえ……」
「隙あり!」
ボールを奪うなゆか。次の攻撃ターンではうごいてもいないなゆかに反応してジャンプする少年を抜かしてゴールを決める。
「なんで! 今ジャンプしたはずじゃん!」
「そう思わせたんだよ」
振り返るなゆか、少年はなゆかの一挙一動に惑わされ動悸が高鳴る。
「さぁ少年、ここでボール取られたら後がないよ?」
「わかってるよ!」
ドリブルする少年、腰を落として体を揺さぶるなゆかの姿を見て集中できない。
「はい取った!」
「え!」
「じゃあラスト私の攻撃ターンね」
ゆっくりとドリブルするなゆか。少し口を開けて舌を見せたり離れてワザとらしくターンして見せる。うごけない少年、なゆかは離れた所からシュートを撃ってゴールを決める。
「そんな……」
「私の勝ちー!」
呆然とする少年にボールを返して立ち去るなゆか。
「ジュースはまた今度ね」
茂みに入って変身するなゆか。
『なゆか力を制御出来てるね。安定してるよ』
「やっぱり? うんうん、成功成功。みんなのおかげかな」
『と、言うと?』
「私じゃない誰かになりきるのが大事で、演じることでサキュバスハーフの力を怖がらずに使えるんだ。狐理子ちゃんのフォックス忍法なりきりの術がかなり参考になってるの。後は MGM 歌劇団の人達とかポポリンが見せてくれた映像とかね」
『誰かになりきってあの少年をサキュバスハーフの力で操ったんだね』
「う~ん……まぁ……サキュバスハーフの力の使い方を色々試したかったんだ。魅了ってなんだろう惑わせるってなんだろうって考えた時に相手の望んでる事望んでない事を知る力なんだって。洗脳とは違う相手に自分の意志で動いてもらうんだよ」
『人間の感情に訴えかけて誘導するって事かな』
「まぁ~……大体そうなのかな。好きにさせるだけじゃなくて恐れさせたり同情させたり庇護欲掻き立てたりもできるか試してみたいね」
『急に凄い成長だね、なゆか』
「う~ん……これってさぁサキュバスハーフの力を認識した時から何年も出来ないかなーどうやったらできるかなーって心の奥で考えてたからね。皆思春期の時に『特別な力を持った自分』を妄想したりするじゃん? それだよ、私はいまそれが現実となって爆発してるんだよ」
『なゆかの新たな一面を認識したよ。今の感じで日常は過ごせないんだよね?』
「うん、今は変身してるなゆかじゃない存在だからできてる」
『いいと思う。日常と使い分けることで心の安定にも繋がるはずだし』
「 MGM 歌劇団のメンバーになって思いっきりサキュバスハーフとして解放したい! 私じゃないもうひとりの私になってね」
『なゆか、ちょっとポポ達のデータ見過ぎて影響されてない?』
「どうかな~でも人生で一度くらいやりたいことやってみたいじゃん」
マンションの近くまでパルクールで飛び跳ねて移動し路地裏で変身解除してオートロックの扉を通る。
「藺藤さん」
声がした。オートロックのパネルのスピーカーからであった。
「え? その声は……管理人さん?」
「そうです。昨日警察の方が来て捜査するとかで来られてたけど……」
「え! なんで !? なにかあったんですか?」
「よくわからないけど爆発事件に関係あるんじゃないかって……藺藤さん巻き込まれてないか気になってね。一応オーナーにも連絡しておきましたよ」
「あ~……はい、わかりました。ご心配かけました(このマンションのオーナーってクリムゾンさんだよね)」
なゆかは管理人との会話を終え部屋に向かう為エレベーターに乗る。
「どういう事なんだろう……狐理子ちゃんの追ってる忍者と関係あるのかな? それとも LavaGerden に関係ある?」
『 SliME ネットワークからの情報だと今警察は爆破事件を追っていて LavaGerden に来る可能性も高いと。そしてこのマンションに訪れた警察官は……大澤垓だね』
「え! 垓が !? 」
『監視カメラの映像を確認したよ。なゆかの部屋に入ってるね、 30 分くらいで出たけど何をしてたのか気になる』
「うぅ……嫌だなぁ……ポポリン何か怪しいもの無いか徹底的に調べようよ」
『いいけどカメラとか盗聴器が仕掛けられてた場合ポポの姿とか声知られない方が良くない?』
「それもそうか……でもさ、完全に存在消すんじゃなくてポポリンが高性能ペットロボットという事にしておけば迂闊な事してこなくなるんじゃない?」
『そうだけどその場合どこでポポを手に入れたって事説明しないといけなくなるんじゃない?』
「う~ん……じゃあさ、一時的に預かっているとかどう? どうせ警察が捜査してるのなら LavaGerden で働いてる事も隠し通せないじゃん。 LavaGerden の人から預かっているとかはどうかな?」
『ポポが警察に押収されるのが一番良くない展開だからそれはどうかな』
「じゃあどうすれば……」
『ポポは AI 搭載のぬいぐるみって事にすればいいよ。今時普通だしこの街を支配してる院瀬見の製造タグつければ怪しまれないよ』
「ポポリンって KAMINA 製なのにね」
『 KAMINA 製だと院瀬見に狙われちゃうよ』
「えっとポポリンは AI 搭載の院瀬見製犬のぬいぐるみって事で」
『うん』
なゆかは緊張しながら自分の部屋の鍵を開ける。そしてわざとらしくカバンからぬいぐるみに変身させたポポリンを取り出してリビングの椅子に置いた。
「ただいまポポリン」
『ただいまなゆか』
「(ポポリン、その場から部屋中スキャンできる?)」
『(いける範囲内だよ、少し待ってね)』
なゆかはカバンを下ろすと冷蔵庫を開けてじっと見つめる。
「なんか少し配置が変わってる気がする……」
冷蔵庫を閉め早歩きでタンスに向かう。
「……やっぱり変わってる気がする」
なゆかは垓が部屋中を調べてる様子を想像して吐き気がこみ上げてきた。
「気持ち悪くなってきた……(ポポリン、スキャンどう?)」
『(妙な信号を発信してる物を確認したよ。場所教えるからなゆかが確保して)』
「(大丈夫かな?)」
『(掃除する体で回収しよう。それなら自然だよ)』
「(おっけー)はー掃除しよ気分転換に……」
ハンディ掃除機と粘着ローラーを手にポポリンの指示で発信機を探すなゆか。
「(は? ないよポポリン!)」
『(相当小さいみたいだね。しかも移動してる、追ってなゆか)』
部屋中追いかけ回してついに粘着ローラーで蟻のようなものを捉えたなゆか。
「(これかな虫みたいなの)」
『(それだね)』
「(叩き潰していい?)」
『(駄目、ポポが解析するから)』
なゆかはポポリンをベッドの横のクッションに置き粘着ローラーのシートをクッションの横のゴミ箱に捨てた。
「(これでいける?)」
『(いけるよ)』
「(もうカメラとかなにかないよね?)」
『(ないよ)』
「(じゃあシャワー浴びようかな)」
なゆかは着替えをタンスに取りに行くが思い直してクローゼットに買い置きしてあった新品を取り出す。
「気持ち悪いから全部一回洗濯しよう……今は新しいの下ろしたの使お……」
シャワーから出るとポポリンは解析を終えていた。
『(警察が作らせた AI 搭載超小型監視カメラだね)』
「(うわ……警察の備品私物化して使ったんだ)」
『(どうするなゆか、これを警察に持って行って大澤垓を問い詰める?)』
「(えーどうしよう……大事にはしたくないかな。でももう垓の事普通に接するのは無理だよねそれに……)」
『(それに?)』
「(しばらくはこの部屋に戻りたくないかな。でも行くところ無いしどうしようかなって)」
『(大学の友人らに泊めてもらう?)』
「(そうするとポポリンと接しにくいじゃん)」
『(狐理子に相談する?)』
「(そうする……)」
***
「なゆか、適当に座ってくつろいで」
狐理子は茶を沸かしながら言った。
「うん」
なゆかは目の前にあるちゃぶ台の周りに並べてある座布団に腰を下ろした。
なゆかから連絡を受けた狐理子は第三区にある小さな商店の 2 階を隠れ家にしていた。変装してなゆかを迎えに行き上がらせた。
「さっきの話、最高にキモいねなゆかの幼馴染み男」
「流石にドン引きだよ……ちょっとあの部屋はしばらく無理」
「好きなだけここに居ていいよ」
「ここの商店って狐理子ちゃんの知り合い?」
「全然、フォックス忍法でここの行方不明の娘になりきってるんだ。十年ぶりって言われたよ」
「え、大丈夫なの? 十年経ってたら見た目とかも……」
「まぁまぁ今時サイバネスキンもあるし元の顔の要素残してれば誤魔化せるよ。元々親子の会話殆どなかったみたいだし。後はこの部屋に残された娘の子供の頃の物を見てコンキチと協力して思考パターンを考えてやり過ごしてる」
「バレない?」
「フォックス忍法なりきりの術は本人だけじゃなくて相手にもそう思わせるから違和感あってもすぐにそういうものなんだって認識するよ」
「すごい……私も同じような事できるかな」
「あ、それってさっき言ってたサキュバスハーフの力の?」
「うん、まだまだふわっとしてるんだけど MGM 歌劇団に入って磨きたいんだ」
「デビュー楽しみだよ」
「なんか忍者とか警察とかゴタゴタし始めたから LavaGerden の公演大丈夫かなって心配してる。倉木さんも巻き込まれたじゃん?」
「うん。今日 LavaGerden でその辺どうするか皆に説明するみたい。さっき歌劇団のメンバーから連絡来た」
「そっか、私も SliME もってるけど歌劇団メンバーじゃないからそっちの情報こないんだね。ポポリンも迂闊に漏らさないし」
『なゆか、今日のカフェのアルバイトの前に話があるって今クリムゾン様から連絡来たよ』
ポポリンがタイミングを見計らったのように言った。
「む、狐理子ちゃん、私も LavaGerden で説明あるみたい。今日は大学休むつもりだからそれまでちょっと街を散策しようかな。ポポリンも居るし大丈夫。荷物だけここに置いてっていい?」
「いいよ。帰る時は言ってね鍵渡すから」
「うん」
なゆかと狐理子はそれぞれ SliME で変装して商店の住居から出る。
「じゃあ夕方 LavaGerden でね」
「おっけー」
狐理子は人間離れしたスピードで駆けて去っていく。残されたなゆかは携帯を取り出し地図を確認する。
「第一区とかあんまり歩いたことないんだよね。この街にきてから家と大学と LavaGerden しか行ってないし」
『散策するのはいいけど食事とかどうするの? お金殆ど持ってないでしょ?』
「家に寄って何か適当に食べるよ。流石に狐理子ちゃんの冷蔵庫の中身使うのは気が引けるし」
『大澤垓と出くわさない?』
「外歩くときは変装してるし部屋に入る前に周囲をよく確認するよ。後行ってみたいのは第六区かな」
『一般人が行くところじゃないよ。トラブルに巻き込まれるよ』
「ちょっとだけなら大丈夫じゃない? ポポリンも居るしいざとなったらサキュバスハーフの力で……」
『なゆかそれは少し楽観的すぎ。武器も戦う術も持たないのに』
「え、そんなやるかやられるかの殺伐とした場所なの?」
『そうだよ。この国の法律が通用しない危険な地区なんだよ』
「じゃあ今日はやめとく」
続く
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