2003.02.23
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オレは慌てた。慌てたが、無表情を装った。
窓の下にいるミミミへ向かって、どうしたの?と訊いた。
訊いたがミミミは、「寒い」と言っただけだった。
右を指して、玄関へ回れという合図を送った。
玄関へ行き照明を点けた。扉を開けるとミミミが立っていて、
軽く笑いながら白い息を吐いた。
家の中へ招き入れた。
どうしたの?
ミミミはオレの質問には答えずに、家の内装を見渡した。

「一人で住んでるんだって?」
オレも、彼女の質問には答えなかった。
香水だかシャンプーだかの匂いが鼻を刺激した。
それほど強い匂いではないが、女がすぐ傍にいることを本能へ伝達するには、
十分すぎるほどの匂いだった。
ミミミは、首のところだけ毛皮になっている白いブルゾンを脱いだ。
もともと熱がりなタチだから、部屋はそれほど暖かくはしていない。
長そでの黒いTシャツとブルージーンズ姿になったミミミは、ベッドにもたれる
位置に、ぺたりと座った。そこはオレの場所だ、と言いたかったが、止めた。
なにか飲む?
「ミルクココア」

ココアないから、コーヒーでいい?
「いいよ」
マグカップにインスタントの粉を入れて、ストーブで沸かしていたやかんから
お湯を注いだ。砂糖とかは?
「たっぷり」

入れて差し出した。
おいしいとも、まずいとも言わなかった。

どうしたの?
「どうしたの、って?」
そういわれると、ゆるいTシャツの襟元や細長い手足に目を奪われていたことに
気付いた。抱くために口説くには、不安な要素が多い。しかし不安を一つずつ
解消していったら朝になってしまう。はたしてこの女は、オレに抱かれるために
ここへ来たのだろうか。少なくとも今は、日中裸で遊ぶような女には見えない。
オレは酔っているが、最優先事項を特定するのは得意だ。最低でも2つ、質問に
答えてもらわない限り、ミミミとは先へ進めない。
あのクスリ、どうしたの?
「え、ああ、あれ?気持ちよかったでしょ」
どうしたの、って聞いてるんだけど。
「わたしが、作った」
作った?
「そう、わたしが開発した」
2度同じことを聞き返すな、というような表情をミミミは一瞬見せた。
で、オレらはその実験台はわけ?
見下されたような気がして、とっさに皮肉で返した。
「そういうわけじゃないよ。4年もかけて作ったし、安全性は立証されてる」
誰が?なんのために?という質問をするつもりだったがオレはあてずっぽうで、
山之内製薬?
と、適当な製薬会社の名前を言った。
「ぶぶー、ジョンソンアンドジョンソン」
あっさり、答えが出た。
勝手に新しいクスリ、持ち出していいの?
「いいの、もう辞めたから」
いいはずがない、とオレは思ったが、どっちでもいい話のようにも思えた。
ミミミを、抱きたくなってきたからだ。

焼酎に入れる氷を持ってくるため席を離れた。
戻ってきて座った位置は、さっきよりもミミミに近い位置だ。
それでもまだ、間合いには入っていない。抱き寄せるには、不自然に近寄る
ステップが必要で、その動作の時に逃げられる可能性もあるし、よしんば
拒まれなかったとしても、慌てて体勢を崩すかもしれないという不安もある。
昼、テルたちと来たときとは違い、積極的に向かってくる気配もない。
ミミミを抱くまでには、もう少し自然な距離と時間が必要だった。
昼、なんで裸だったの?
「え、見てたの?」
初めてミミミが、狼狽した態度を見せた。
狼狽に、つけこむつもりで、
見てた。いつもすること?
といった。しかしミミミは、
「いつもはしない。新薬の実験。新薬っていっても、モルヒネカクテル。
 モルヒネをジンとコークで割っただけなんだけどね。カラコはあれ、好きみたい」
そんなに、ハイになっちゃうの?
「ハイにはならない。どちらかというと、ダウナー系。モルヒネはもともと麻酔用だし、
 あのね、犬に噛まれても痛くないかね、身体にブルーベリージャム塗って噛ませ
 ようとしたんだけどね、舐めてるだけで全然噛んでくれなかったの。実験失敗。」
喉がカラカラに渇いてきた。
鼓動が強くなってきていた。
オレは犬のように這ってミミミへ近づいたが、ワニのように見えたかもしれない。
両手でコーヒーカップを握っていたが、かまわずオレは唇を目指した。
じっとして動かなかったから、難なく口づけを交わすことができた。
ミミミは落ち着いていてコーヒーカップを傍に置いてから、舌を入れてきた。
オレもそれに応えた。
Tシャツの背中を探ったとき、ブラの固い紐の感触が指を伝った。
そのときオレは、サディスティックな気持ちになった。





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最終更新日  2003.02.24 00:03:57
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