2003.08.18
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欲しくて欲しくてたまらなくなったら、何が何でも手に入れなきゃならないという

その欲しい対象が自分自身にとって必要かどうか見極めたり、入手後の生活
は合理的かどうかとか、合理的でないと予測した場合、物欲が解消されない
ことで生じるストレスとどう折り合いをつけるかといったようなことを延々と考え
た挙句に、買うかどうするか決める。
このとき、金銭と商品の交換レートが等価であることを納得したうえで買う決断
をするのと同じ理屈で、欲求にかかる全てのコストが解消のベネフィットとも等
価でなければならないとも思っている。金銭以外の欲求にかかるコストとは、

ことで、解消のベネフィットとはまさに、商品がもたらしてくれる利益つまり快楽
や所有する喜び、他人にたいする優越感などである。
コストに対するベネフィットは常に等価かそれ以上でなければならない。

ファミコンを買いに行った。
1983年の発売開始より20年、多くのユーザーに親しまれ続けてきたファミリー
コンピュータは2003年9月、部品調達の困難を理由にメーカーは生産を終了
する。一方オレは、古本屋チェーンのジャンクコーナーで、ファミコンのカセット
が売られているのを偶然見かけた。ベースボールとだけ書かれたシンプルな
青いカセットを見てオレは、急に懐かしくなり、心を奪われてしまった。
同時期に起こったこの二つの出来事がオレに示したのは、ファミリーコンピュ
ータへの強い憧れと、所有したいという欲求だった。

の方しか置かれていなかった。欲しいのはスーパーファミコンではなく、ただ
のファミコンだった。通販のサイトでは、在庫切れで注文できないようだった。
間違ってケーブルだけ購入してしまった。
ネットで調べた。秋葉原にあるマニア向けのゲームショップでファミコンが売ら
れているという情報をつかんだ。


JR秋葉原駅から徒歩1分のところに存在する目的の店はすぐに見つかった。
店の前には、アニメの女の絵が書かれたポスターがいくつも貼ってあって、
ワゴンでは最新のゲームソフトが格安価格にて売られていた。
階段を使って2階の中古ゲームコーナーへ上がったとき、2階の踊り場で男
の歌声が聞こえた。聞いたことのない歌だった。見ると体重80kgもありそう
なメガネの坊主頭が、アニメの女のポスターを見ながら一人で歌っていた。
ぶよぶよとした体格のおとこは赤いリュックを背負いチェックのシャツをきちん
とズボンの中へしまっていた。その男を不気味に思ったと同時に、本当にここ
でファミコンの本体が売られているのかどうか不安になった。奇妙な坊主頭が
1人で歌を歌っている2階をなんとなく素通りし4階まで上がっていってしまった。
しかしどうやらファミコンが売られているのは2階で間違いなさそうだった。
降りるとまだ、奇妙なデブが歌を歌っていた。

「ファミコンの本体、あります?」
店員に聞いた。
「只今新品しかございませんが、」
店員が答えた。
中古でも新品でもどちらでもいいと思っていた。中古というのはあの、白と赤の
古い昔ながらのタイプを指すのだろうか。1993年、販売開始から10年目の秋、
ファミコンはモデルチェンジした。筐体は小型化し、デザインに無駄がなくなった。
テレビへの接続方式はアンテナ線ではなく、AVケーブルになった。
しかし全てが合理化された結果、ハードの外観は、すっかり味気のないものに
なってしまった。
味気のない、しかし合理的な新品を買った。AVケーブル、アダプターは別売り
だった。総額で、1万円をわずかに超えた。

次にソフトを探した。
夕方から夜にかけて暗くなる途中の秋葉原には、オタク以外にもいろいろな人種
がいた。アジア人、メルセデス、ホスト、サラリーマン、キャンペーンガール、卸業
者、街を歩く人をまとめて表現する言葉が見つからなかった。無国籍でも、雑多
でもない。ここは紛れもなく日本東京だし、歩行者たちは一様に、はっきりとした
目的を持っているように感じられた。
雲行きが怪しくなってきていた。いつ降ってもおかしくない空模様だった。8月、
東京はいつまでたってもパッとしない。

スターフォース、ドンキーコング、テニスなどを買った。箱や説明書も付属していた。
欲しかったロードランナーやパックマン、ゼビウスなどは見つけられなかった。
1本1000円や、良品になると5000円クラスの値が付けられているソフトもあった。
もっと100円や高くても500円で買えるものだと思っていたから、予想外の出費を
強いられた。ハードが生産終了となる今後は流通の絶対数も減り、価格が高騰
していくのかもしれない。
早く必要なソフトをかき集めておかなければならないかもしれない。

ロードバイクの荷台にファミコンを乗せ、秋葉原から御茶ノ水を経て飯田橋経由
で家へと向かった。
子どもの頃はよく、新しいゲームを買うと、家までの道のりですでに興奮していた。
今、そういった高揚感が湧いてくるといったようなことはめったにない。このときも
そうだった。まずは事故なくこのおもちゃを家に運び入れることが重要だ。
家へ帰り、実際に懐かしいゲームをプレイすることを想像した。思ったほど懐かし
くないだろうことや、昔ほど興奮しないであろうことも、買ってしまった時点でなんと
なく、予想してしまっていた。それでもいつもより慎重に運転したし、路面からくる
振動にも必要以上に気を使った。やがて家に着いた。

慎重に開封した。箱は大切にしまっておこうと思った。
使っていなかったテレビをひっぱりだして設置した。ファミコンを接続し、その配置
を決めるのに時間を費やした。書斎兼物置部屋は、ファミコン導入のためにレイ
アウト変更を余儀なくされた。全ての設置と接続と、配置が完了した時点で初めて
ドンキーコングのカセットをセットした。
テレビのチャンネルを外部1にセットし、ファミコンの電源を入れた。
画面は暗いままだった。テレビ側の設定には間違いはない。
リセットボタンを何度も押した。それでも画面は暗いままだった。
電源を切りカセットを抜いた。
赤いカセットの下のほうの、端子が露出している部分に向けて、息を吹きかけた。
思わず、苦笑いをしてしまった。
これは、儀式だった。
20年変わらない儀式をファミコンは、ユーザーに課し続けている。
感慨深かった。
儀式を終えたファミコンは、巧くドンキーコングと接続した。
黒地のあの懐かしいタイトル画面と、ピロピロした音が、鳴った。





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最終更新日  2003.08.19 11:49:05
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