2004.08.06
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
障害の原因はつまり、「ディレクトリが1個足りない」ということでたったこれしきのことであるともいえる。
パソコンでは「フォルダ」と言われている概念が、UNIXではディレクトリと呼ばれていて、呼び方は異なれどいずれもファイルを格納するという点で本質的には同じだ。
そのたかだか「ディレクトリ」を1個追加するために、結局丸1日という膨大な時間がかかり、一連の作業に関わった人間は通算10名を超えてしまった。
大変な騒ぎになった。
その大騒ぎを経て障害対応が終わったわけだが、ディレクトリを1個追加するだけなら3秒で終わるはずのところを、なぜ丸1日もの時間が費やされたのか、なぜこれほど多くの人間が、この障害に関わらなければならなかったのか、ということを説明してゆくその前に、このシステムをとりまく環境の役所的な側面や、そもそも銀行としての官僚的な体質について述べておく必要がある。金融機関の宿命ともいえるべき徹底してミスを嫌う文化とその責任の所在だけを明確にしたがる官僚的体質が、最終的に「ディレクトリ1個に10人がかり丸一日」という愚劣で非合理で不必要な仕事を生み出すことに繋がってゆくのだが、言い換えればこの一連の緩慢な動作群こそが、ぜい肉をたっぷりと蓄えた日本の銀行の象徴であり本質であるとオレは思うのである。

当初、某所から某所へデータを送り届けるだけの機能しか持たないこのシステムを一見したときオレは「なんだ、チョロいな」という感想を周囲に漏らした。他の開発者は口々にこのシステムに関わることの困難を訴えていたが、このときのオレはなぜそこまで困難であるのか全くわからなかった。AサーバーのデータをBサーバーが集め、Cサーバーへ転送し、Dサーバーへ書き込む。全部で4つのサーバー間のデータフローを、1個のジョブがコントロールするという、いたってシンプルな設計だったからだ。
オレはこれに、転送タイミングを速めるという機能を追加しつつ、全体を再構築するというそれしきの仕事を請け負った。

再構築させたジョブは完成し、テストではいくつかの問題を露呈させたもののことごとく解消し、滞りなく終わった。あとはこの成果を、本番運用機に搭載するだけだった。
しかしその搭載方法を聞いたオレは、愕然とした。

そういった煩雑な手続きがあるとは聞いていたが、たがか依頼申請、と楽観視していたオレは、合計10枚の申請書を書かなければならないとしても、1日あれば十分と思っていた。

やがて申請書の画面を開いて書き始めようとしたときすぐ、オレの楽観が間違いであるということに気付くと同時に、仲間の開発者が口にしていた「困難」という言葉の本当の意味を悟ったのだった。
申請書はおもに、プログラムやファイル・ディレクトリを配置したり、削除してもらうためなどに使われる。
テストした状態のファイルやディレクトリを引き渡すことと同時に一覧表としても提出しなければならず、極端にいえば仮に提出した一覧表に記載漏れや記述ミスがあった場合、間違ったままの情報が本番に載るということだ。だからミスは許されない。許されないからこそ、慎重に書き進めなければならない。そして書き上げた10枚もの申請書は、起票→再鑑→検印→承認という厳重なチェック機構を経て、ようやく運用担当部署に届く。

書き方の不手際により何度も何度も差し戻され、ようやく承認者を通過したのは、申請書を書き始めて1週間も経ったころだった。承認者はそうとう「偉い」立場にあらせられる部長様らしいが、オレはそいつの顔も名前も知らない。
やがて運用担当部署のスタッフから電話がかかってきた。承認まで通過したはずの申請書の内容に不備がある、とのことだった。その後そんなような指摘を2日にわたり3度も受けた。
ということは、再鑑・検印・承認という3重4重のチェック機構が、全く見落としているところに不備があったということだ。このチェック機構はほとんど本来の役割を果たしていない。ただ紙が渡ってきたからハンコをついたというだけの、ガキの使いのような仕事をするだけのポストで高禄を食んでいる男が銀行には何人もいる。
ということにオレはここで始めて気付いたが、あとの祭りだった。本番サーバーに搭載するオレの成果物は、すでにオレの手からは完全に離れ、凍結させられている。
あらかたのミスはチェックされることなくあらゆる関所を通過していって、今まさに本番稼動中のサーバーを侵食せしめようとしている。

運用担当から3度もの不備指摘があったということは、運用担当にも見つけられない不備が残存している可能性は大いに考えられる。しかしもう書類はオレの手を離れている。
オレがこの日まで持ちつづけてきた、「障害が起こるに違いない」という悲観的観測と、危機意識との間のジレンマの根拠はそういうことだったのだ。


これを銀行員の上司に説明するのが小男の今日の最も重要な仕事だ。

書類をそろえた我々は、あとは「部長様」の登場を待つだけとなった。やがて午前11時半、部長様が現われた。
「ディレクトリが足りない」という原因が判明してから、すでに3時間経過していた。オレとキュートな銀行員、小男のマネージャとそして部長様。この場にいる4人のほかに、運用担当者と技術サポートが一人ずつ。計6人の人間が関わっている。
この夏オレの一番長い日は、まだ折り返し地点にも到達していない。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2004.08.06 16:55:35
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

プロフィール

中村不思議

中村不思議

コメント新着

こすりつけ最高@ Re:スタバのシステム(12/19) アンサンは子供かw ワラタ
matt@ EOtreObDxV abL0Th <small> <a href="http://www.FyL…
julian@ pPCuopGUcaf RqblVS <small> <a href="http://www.FyL…
julian@ oswFaiYJFq fna2qr <small> <a href="http://www.FyL…
julian@ ckbcLNACqEX uhcs84 <small> <a href="http://www.FyL…

バックナンバー

2025.11
2025.10
2025.09
2025.08
2025.07

キーワードサーチ

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: