KUMA0504さん
>男は議論すればするほど暗くなっていくのでしょうか。
-----
まじめに議論すればするほど、間違った結論が出るというのはありがちな話ですね。「殺すのはイヤだ」というあたり前の感情が出発点にならないと・・・とは言うものの、そんな理屈が通用する世界ではないでしょうが。

(2007年01月21日 00時01分24秒)

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2007年01月13日
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カテゴリ: 洋画(07)
「麦の穂をゆらす風」 
1001367_02.jpg
監督 : ケン・ローチ
出演 : キリアン・マーフィ 、 ポーリック・デラニー 、 リーアム・カニンガム 、 オーラ・フィッツジェラルド
IRA(アイルランド共和軍) の歴史は複雑だ。 アイルランド独立戦争の現代史を評価しようとすると、 袋小路に入り込み出てこれない。
ひとつだけわかるのは、アイルランドに独立の大義はある。ということだ。民族独立権は、人類が獲得してきた歴史的な権利であると、私は思う。大英帝国が冒頭に示すような集会禁止条例を盾にした暴行等、数限りない民族独立権への侵害には怒りを覚える。主人公デミアンも結局それらに我慢できずにIRAに身を投じる。

しかし、映画は独立の大義を高らかにうたわない。デミアンは「僕は一線を越えたかもしれない」とつぶやく。イギリス軍兵士を初めて殺したときではない。情報を敵に漏らした友を命令のために射殺したときである。

大義はどこかで微妙に歪められる。(いや、歪められているかどうかという判断もこの独立戦争に対して私は判断できない。)兄弟は個人の力ではどうしようもないところに自分をおいてしまう。それが歴史の中を生きる、ということなのだろう。

同じように兄弟相殺しあう映画としては朝鮮戦争を扱った「ブラザーフッド」があり、圧倒的な暴力描写で私を押し切ってしまった(この年の私のベスト3)。あるいはギリシャの内戦で双子の兄弟が殺しあうことになった「エレニの旅」では、丘の上の会話の神話的な描写がある(この年のマイベスト1)。そして、この作品では、IRAと自由国軍との内戦は非常にリアルスティック、そしてドキュメント的に表現される。ただし、デミアンが兄の最後の説得を冷たい目で見る目にはぞっとさせられる。やりきれないラストだ。

2006年12月30日、イラク政府は「われわれは自主的に、正当な手続きを踏み、前イラク大統領フセインを処刑した」と発表した。その直後からシーア派に対する無差別テロが頻発する。そしてイラク政府はアメリカとともに大規模な掃討作戦を決定する。米軍は二万人の増兵を決定する。この作品の中身は明確にそれまでのイラク戦争を反映しているし、映画が完成した後の世界を予言している。この映画の中身は「今まさにそこにある悲劇」だ。






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最終更新日  2007年10月07日 22時52分09秒
コメント(10) | コメントを書く


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Re:「麦の穂をゆらす風」一線を越えるとき(01/13)  
薔薇豪城  さん
 見に行きたかったのに、見そびれてしまいました。ケン・ローチ監督の「自由と大地」もすごく良かったですね。もっと楽な、他の生き方もあるのに、真摯に取り組むまっすぐな生き方へ寄せる監督の思いが。 (2007年01月14日 08時58分31秒)

Re:「麦の穂をゆらす風」一線を越えるとき(01/13)  
ヨーコ1015  さん
なんともやりきれない、目を覆いたくなる場面ばかりの映画でしたね。何度も声を上げそうになり目を覆い号泣しました。
IRAを描く映画はどれも非情なテロリスト扱いで、世界史に(も)疎い私はこの映画で初めてアイルランドにおけるレジスタンスが理解できたと思う。ケンローチは英国で非難されたそうだけれど。
たしかに「今まさにそこにある悲劇」へのメッセージですね。
唐突に思い出したのが「ミリオンダラーベイビー」のクリントイーストウッド演ずる元ボクサーの愛読書がケール語だった。ヒラリースワンクが着ている緑色のスタジャンにケール語で書かれた文字。
緑したたるアイルランドの風景と、血の気の多いアイリッシュ、しかし、そこにある知性と誇り高さ。
イラクにしろアイルランドにしろ、その誇り高さが複雑な「その後」の一因にもなっているのかもしれないけれど。決して解決は見えないが、なぜそうなったのかを知る上では私にとって貴重な映画だった。
(2007年01月14日 11時43分27秒)

Re[1]:「麦の穂をゆらす風」一線を越えるとき(01/13)  
KUMA0504  さん
薔薇豪城さん
> 見に行きたかったのに、見そびれてしまいました。ケン・ローチ監督の「自由と大地」もすごく良かったですね。もっと楽な、他の生き方もあるのに、真摯に取り組むまっすぐな生き方へ寄せる監督の思いが。

この映画にもケン・ローチらしく長い「議論の場面」があります。なぜ、あれほど、本質まで突っ込んで議論しながらも、ひとは殺し合いを始めてしまうのか。やりきれない思いです。

男は議論すればするほど暗くなっていくのでしょうか。
-----
(2007年01月15日 12時49分31秒)

Re[1]:「麦の穂をゆらす風」一線を越えるとき(01/13)  
KUMA0504  さん
ヨーコ1015さん
>なんともやりきれない、目を覆いたくなる場面ばかりの映画でしたね。何度も声を上げそうになり目を覆い号泣しました。

やりきれない映画でした。

>IRAを描く映画はどれも非情なテロリスト扱いで、世界史に(も)疎い私はこの映画で初めてアイルランドにおけるレジスタンスが理解できたと思う。ケンローチは英国で非難されたそうだけれど。

この映画によって、私は又IRAがわからなくなりました。マイケル・コリンズを持ち上げる映画があるかと思うと、このように批判する映画もある、うーむ、分からない‥。

>たしかに「今まさにそこにある悲劇」へのメッセージですね。

そう思います。

>唐突に思い出したのが「ミリオンダラーベイビー」のクリントイーストウッド演ずる元ボクサーの愛読書がケール語だった。ヒラリースワンクが着ている緑色のスタジャンにケール語で書かれた文字。
>緑したたるアイルランドの風景と、血の気の多いアイリッシュ、しかし、そこにある知性と誇り高さ。
>イラクにしろアイルランドにしろ、その誇り高さが複雑な「その後」の一因にもなっているのかもしれないけれど。決して解決は見えないが、なぜそうなったのかを知る上では私にとって貴重な映画だった。
-----
「誇り」というのは確かに歴史を動かしているのかもしれませんね。でも今の報道体制では、イラク人の「誇り」なんてどうしても伝わってこない。
(2007年01月15日 12時53分07秒)

Re[2]:「麦の穂をゆらす風」一線を越えるとき(01/13)  

Re[3]:「麦の穂をゆらす風」一線を越えるとき(01/13)  
KUMA0504  さん
ももたろうサブライさん
私は彼らの議論に参加する自信がまったくありません。彼らを前にして「殺すな」と言えない自分がいます。女性なら女性の「資格」でいえるのかもしれません。そう、もはや「資格」と言った時点で私は泥沼の思考地獄に陥っているわけです。
この映画を見てなおさらIRAのことが分からなくなりました。けれども、知らん顔ができなくなったのも事実です。だって、もうデミアンやテディを知ってしまったのだから。
高村薫の小説「リヴィエラを撃て」をもう一度読みたくなりました。 (2007年01月21日 00時44分20秒)

Re[4]:「麦の穂をゆらす風」一線を越えるとき(01/13)  
KUMA0504さん
>高村薫の小説「リヴィエラを撃て」をもう一度読みたくなりました。
-----
「リヴィエラを撃て」もとても切ない話でしたね。
(2007年01月21日 07時21分34秒)

Re:「麦の穂をゆらす風」一線を越えるとき(01/13)  
哲0701  さん
>一線を越えたんだ

これがこの映画のキーワードであり、
同時に観客につきつけるものだと
思いました。

トラックバックをさせていただきます。 (2007年01月21日 12時11分21秒)

Re[1]:「麦の穂をゆらす風」一線を越えるとき(01/13)  
KUMA0504 さん
哲0701さん
ケン・ローチ監督の問題意識が、アイルランドの独立の是非にあるのではなくて、現代批判にあるということがあの場面でよく分かります。 (2007年01月22日 12時51分41秒)

Re[5]:「麦の穂をゆらす風」一線を越えるとき(01/13)  
KUMA0504  さん
ももたろうサブライさん
「リヴィエラ」で印象的な台詞があります。
ジャックは《伝書鳩》に階段を上る夢の話をする。「人はみな生まれた時に自分の階段を上り始めるんだ。……」彼の階段は十二で傾き、十五で大穴があき、やがていつか《リヴィェラ》に会えるだろうと言う。そして自分が死んでも更に登りつづけ、父親に会い、戦争で死んだ先祖に会い、歴史上の人物に会い、「階段の最後はきっとまだ神も人間も住んでいなかった頃のアイルランドの大地だ。草と風と空だけがある……」
最後には何の穢れも無い祖国が残る、というのです。彼らが夢見たもの。それはそういう祖国で子どもを育てる、ささやかな幸せだったのだろうと思います。そういう幸せなら、今現在の日本にはある。大切にしたいと思います。 (2007年01月22日 13時01分47秒)

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