再出発日記

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2011年02月19日
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カテゴリ: 水滸伝

仙蔵は、すでに出かけていた。伝えてきたのは、仙蔵が連れていった板場の若いものである。
「そうか」
ほかに言葉はなかった。
利之は部屋に戻った。お勢が、火鉢に炭を足していた。
「洗心洞から、隣の屋敷に大砲が撃ち込まれたそうだ。それから外へ出たらしい。門弟数十人。それが、次第に増えているという」
「どういうことでございます、それは?」
「つまり洗心洞の叛乱に加わろうと、人が集まり始めているということだ」
叛乱という言葉に、お勢は息を呑んだ。言った利之も、背筋が寒くなるような心地がした。
「洗心洞の建物は燃えている」
「まあ」
「洗心洞から出た連中は、救民という旗を掲げているそうだ」



「杖下に死す」北方謙三 文芸春秋社

1837年2月19日。大阪で「大塩平八郎の乱」が起きた日である。幕府は当時「大塩騒動」と言った。利之は「叛乱」という言葉を使った。後世の歴史家は「乱」という言葉を使う。「騒乱」と言い、「戦争」と言い、「革命」と言い、「運動」と言う。思うに、評価は世間と時が決める。そのときの行動責任は本人にあるだろう。それはエジプトの「革命」でも同じ。

「林蔵の貌」 に繋がる江戸時代の歴史モノである。ときは天保「大塩の乱」前夜の大阪。幕府お庭番村垣定行の妾腹光武利之は父より大阪探索を命じられる。大阪の町で光武は大塩平八郎の息子格之助と知り合う。剣のみ強くて自分をもてあましていた光武は真面目一遍の格之助と付き合ううちに「友達」というものを知るのである。(わりと重要な役で間宮林蔵も登場する)

ここで大塩平八郎は中心人物ではない。ただし、常に正義を唱え、知行合一と救民を唱える「正しい人間」として出てくる。彼の理想は、ついには洗心洞塾での陽明学講義だけにとどまることなく、直接行動に向わざるをえない。そして彼の思想はあくまでも体制内変革の急進派であり、幕閣の思惑のなかで潰えざるをえないのである。最後の最後に「乱」が思うように行かなかったときに、平八郎自身はどのような心境にいたり、大塩親子はどのように自害したのかは、ついにこの物語の中では語られなかった。この本の中で語りたかったのは、理想ではなくて、理想を信じて付いて行った「友達」への追悼だったからである。

光武は作者の分身である。さしずめ、大塩平八郎は核マルとかの自称革命家の幹部、格之助は彼らについていって消えていった作者の友達なのだろう。

最後は武士を捨てた光武が、大阪の川べりで包丁を研ぎながら料理人修行をしているところで終わる。波乱万丈の光武の半生に比べてあまりにも平凡な終わり方だろうか。決してそうではない、と作者は言いたいのだろう。





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最終更新日  2011年02月19日 09時37分14秒
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