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2011年05月28日
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カテゴリ: カテゴリ未分類
まろさんが書いた記事 にコメントを書き始めたら、少し長くなりすぎたのでこちらに書きます。

例によって、答の出ない難問を生徒たちにぶつけていますね。
<すぐれた個人による王政と衆愚制、どっちがいいか?>
この設問で私が真っ先に思い出すのが、田中芳樹著の「銀河英雄伝説」です。ことあるごとに同様の問いが出てくるのです。この全10巻の小説は稀代の英雄ラインハルト・フォン・ローエングラムの皇帝成り上がり過程であると共に、自由惑星同盟という今や衆愚政治に陥った機構の中の少佐に過ぎないヤン・ウェンリーが時としてラインハルトを凌駕する才能を見せる「衆愚政治に希望を見出す過程」でもあるのです。とはいっても、ヤンは途中で戦死します。けれどもヤンの息子ではなく、弟子であるユリアンが最終的にはラインハルトの死後銀河世界の次世代リーダーとなりそうなところで終わるという仕掛けです。著者はこの設問に対しては、長い目で見て衆愚政治に軍配を上げていることは明らかです。

この小説の真の主人公は実は物語のト書きで時々現れる「後世の歴史家によると」というような言葉なのです。この銀河英雄伝説で扱われた時代はたぶんほんの20年ぐらいでしかありません。その間に独裁政治と衆愚政治は戦われて、独裁政治の中から革命が起こり、「優れた人物による王政」が一時行われるということになります。しかし、一人の人間にとっては一生を左右する20年であったとしても、「歴史」から見たらほんの一時でしかありません。中国モノが得意な著者は、中国の聖賢政治が中国三千年の歴史から言えばほんの一時だったということを知っているのです。

しかし、厄介なのはだから無条件に衆愚政治を選ぶべきだ、と言えないところです。

この設問でもうひとつ思い出す物語として「スターウォーズ」シリーズがあります。エピソード1~3は、健全な民主制に見えていた共和国が、実は次第と腐っていきシス卿の陰謀によって独裁政治に変貌していく過程でもあります。貴族民主性の象徴であったアミダラ姫の死と英雄アナキン・スカイウォーカーがダースベイダーへ暗黒面にとらわれていくラストは、民主制の脆弱性を描いて非常に面白い。このシリーズは結果としてアナキンとアミダラの双子の兄妹がシス卿を倒して、世界を「安定に導く」ところで終わるのですが、実際にその後どのように安定していくのか、全然具体的ではありません。結果、この設問に対しては全然具体的に答えてはいないのです。

現代の日本は形としては、象徴としての天皇を持つ「擬似王政民主的国家(私の造語。本当はどういうのか誰か教えて。共和制でないことだけは確かでしょ)」です。「震災は天罰」だとか「徴兵制導入賛成」だとか言う人が選挙でらくらく都知事に選ばれたり、専門は理工系で原発の危険性を良く知っている市民活動家出身の首相がメルトダウンの最も危険な時間帯に国民ではないどこかに気兼ねして判断できない状態に陥るなど、独裁制と衆愚制の臭いぷんぷんの現代政治状態ではあります。


王政を支持する7番の意見は実は非常に説得力があります。
7 一人の意見で進んでいくから議論もなくて、時間もかからないでスムーズ。思い切ったこともできる。王は何らかの理由を持って王になっているんだから民衆から不満も出にくい。
特に現代は時間との勝負です。いくらいい結論が決まったとしても、ぐだぐた意見を戦わせて決まったときには一年経っていたという事では、特に震災関係では遅すぎるということになりかねません。でも彼は「民衆から不満も出にくい」といっているけど、それはどうかな。


16 物事を連続的に進めていくのであれば議会のない王政が間違いなく良い。確かに多くの人の意見を聞く事も大事だが、必ずしもすべてが正しいとは限らない。意見の対立はさらなる対立を引き起こし、遅延行為となるだけだ。今の橋下知事のように、他を寄せ付けない絶対的な方針を貫いていけるのであれば王政のほうがよい。
これもやっぱり物事が直ぐ決まることを重視しています。でも橋下知事の方針をきちんと精査したらこれと同じ結論になるだろうか。

王政支持の意見の中で気になるのは、9番や12番のように、人任せで自分の意見なんて「どうせ反映されないのだから」とか「きっといい方向に導いてくれるだろう」という根拠のない希望的観測が混じっているところです。

一方衆愚政治支持もやっぱり不安ですね。現実がそれをトレースしているのだから、不安は増すばかりです。けれども17番の意見
17 みんなが政治に参加できるという点で将来に希望があるから。一人の人間の考え方が変わるということはないけれど、この授業のように、他の意見も聞けば考えも変わって発展するかもしれない。
ホントそうです。これを書いて思い知りましたが、やっぱり高校生と私の哲学的な思考の差なんてほとんどない。歴史を齧ると、人類ってやつは重要な問いには何千年経っても答え切れていないのです。ただ、時々大きな間違いを起こすかもしれないけど、未来に希望が持てるのはやはり民主制だとおじさんである私などは思うわけです。

丸山真男は言いました。
「大日本帝国主義の「実在」より戦後民主主義の「虚妄」に賭ける」(「増補版現代政治の思想と行動」後記)
民主制は理想的な政治形態じゃない。けれども丸山でさえ「賭け」たように、将来に残すとしたら、私は民主制に賭けたいと思う。





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最終更新日  2011年05月28日 23時58分48秒
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コメント感謝いたします。  
まろ0301  さん
 この問いを同時代の史料で補足するとすれば、アリストテレスの『アテナイ人の国政』(岩波文庫)が、そしてヘロドトスの『歴史』(岩波文庫)の中に収録されているダリウスが政権を握った時の、「今後、ペルシアはどのような政治体制をとるべきか」についての、独裁、少数支配、民主制の政体比較論でしょう。
 大学の講義なら確実にその方向へと流れるでしょう。
 ただ、私は、彼ら高校生の日常生活の中に、両者を比較し、どちらかを選択するカギがないかというところにこだわりたいと思っています。
 ご指摘の『銀河英雄伝説』、『スターウォーズ』、さらに彼らが体験してきた学校生活、クラス、クラブの中での価値観の形成、読んできた漫画、また友人関係・・・。
 アリストテレスの「人間は国家的動物である」とは、単純に「人間は単独生活者ではなくて群れを成して国家を形成する動物である」という意味と、「人間は自分が生活している社会(国家)のなかで価値観を形成していくものである」という両様の意味を持っていると思います。
 自己の価値観がどのように形成されてきたかについて自覚的に目を向けさせる必要を感じます。
 民主社会のメンバーであるとはどういうことか。「主権在民」都はなんなのか。「お任せ民主主義」とはなんなのか。
 1933年に「民主的な選挙」によって独裁者を選んでしまったドイツ国民のこと。
 いろんな機会を捉えて、様々な切り口を提示してみたいテーマです。 (2011年05月29日 01時13分34秒)

Re:コメント感謝いたします。(05/28)  
KUMA0504  さん
まろ0301さん
「歴史」ぜひ読んで見たいと思います。
私の大学の専攻は日本思想史なので、ギリシャ哲学にはちょっと疎いのです。
私としては、やっぱり日本の哲学的課題を考えようとしたならば、日本人の言説を研究しないと駄目だ、と思い込んでまあ嗜好が今に至っているというわけです。
(2011年05月29日 21時35分22秒)

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