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2015年04月27日
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テーマ: 本日の1冊(3693)
カテゴリ: 加藤周一


「しかし、それだけではない。」小森陽一対談集2 シネ・フロント社

他にも興味深い対談はあるのだが、ドキュメンタリー映画「しかし、それだけではない。加藤周一幽霊と語る」を撮った桜井均との対談に、多くの学びがあったので、その紹介を最優先する。まだ映画は観ていない。観るべきだと切実に思った。買うしかないのか⁉

小森陽一 いま夢幻能とおっしゃいましたけど、複式夢幻能の場合、旅をしている法師なり、歌を詠む人なりが、まずその土地の人、現実に存在していると思われる人と出会って、いろいろ語らっていると、実はその人はすでに亡くなった、非常に深く重い過去を抱えていた誰かの霊であって、その後はその霊が自らを語り始めていく。それが複式夢幻能ですが、この映画全体はそういう形式を、結果としてなのかもしれませんが、入れ子状に組み込んでいます。幽霊と加藤さん、加藤さんと私たち、という具合に。(12p)

桜井均 2004年に「9条の会」の呼びかけ人になられた。あのとき、もしかしたら中西さんに「加藤、今だ、行け」というふうに背中を押されたのかなと、僕は勝手に思ったんです。
小森陽一 私もそう思いました。つまり、霊の「乗り移り」というか、戦後ずっと加藤さんは中西さんの幽霊と対話をつづけていたんだと確信しました。(18p)

桜井均 (2006年東大駒場での講演会の)最後の方で「船が沈んでいくときに何を思うかというときに、残った人たちが十分生きてくれることだ。それには平和じゃなけりゃ生きられないでしょ。戦争やって何をするんですか。なんのために戦争するんですか」と強く言うところがあります。あれは最初、中西さんの話をしているんです。南方で船が沈んでいくときに中西さんがそういうことを思っただろうと。ところが途中から完全に中西さんと加藤さん自身が重なって「私」と言っている。
小森陽一 ある種の憑依、あるいは憑霊ですね。(22p)

今まで、ここまで中西哲吉という敗戦数ヶ月前にフィリピン沖に沈んだ加藤周一の友人のことが、形を持って現れたことはなかったと思う。加藤周一を語る上で重要な人物だとは思っていたが、どのように重要なのかはこれでハッキリわかった気がした。いや、小森陽一と桜井均に加藤周一の霊が憑依して、語らせたのか。

しかしそれだけではない、他にも重要な指摘が続く。

小森陽一 非常に文学的に重要なことを桜井さんはおっしゃったと思います。つまり、「今=ここ」というのが、一方では日本的現世主義というか、神道には教義がなくて今この瞬間に祝詞をあげればそれでいいというおさえ方がある。その態度は過去を切り捨て水に流し、未来も考えず、この場だけ辻褄をあわせればいいということにも一方ではなる。だけどそれとは逆に、過去を全部「今=ここ」に引き寄せているがゆえに、この瞬間に未来全体に責任をとるという自覚のもとに行動するという「今=ここ」主義もあるわけです。加藤さんの姿勢、たぶん「9条の会」の呼びかけ人になったときの決断は、後者の「今=ここ」主義だったのだと思います。(略)そうすると、そういう点でも「日本文学史序説」を今の桜井理論で読み直す必要がありますね。(略)石田梅岩の心学を論じているときも、彼は庶民むけには現世ご利益主義みたいになるけれど、自然観はすごく深い、と加藤さんはおっしゃっる。あの矛盾した言い方を解く大事なヒントをもらった気がします。
桜井均
小森陽一 その両方を一緒に考えてらっしゃるのでしょうね。何度もそういうことがありました。(33p)

桜井均 僕はドキュメンタリーを作ってきたものですから実証主義的なところがあって、数えてみたら「しかしそれだけではない」という言葉が「夕陽妄語」で25回以上出てくるんです。他にもいっぱい出てきます。
小森陽一 (「夕陽妄語」を手にして)この付箋のところですか。
桜井均 そうです。そこを読んでいくと話がそこから急転直下、きりもみ状態で深まっていくんです。だから反語の「しかし」じゃないんですね。ただ「それだけではない」と言えばいいんだけど、語呂として「しかしそれだけではない」と言っている。(略)一回断定して、もう一回相対化するという、もう一つの眼があるんですよね。(略)もう一個の目で見ると、そこにいろんな人の想念がある。そこには、いくつもの一回性があって、言っておかなければならないことや人がたくさんいる。
小森陽一 加藤さんは、理不尽な死に方を強いられた一人ひとりのことを思っていらした。映画の中でも「なんど謝ればいいんですかというけれど、死んだ人みんなに謝らなければいけない」とおっしゃっていて、固有名を持った死者の一人ひとりが大事なんだということを加藤さんは強調されています。そういう思いにぐっと入ったときに「しかしそれだけではない」が出てくる感じですね。
桜井均 いつも自分を相対化しながら「もっとあるんだぞ」という感じなんですよね。中西さんの話はレストランなんかでしない方がいい。これだけは許せないんだと、ほんとに興奮して机を叩くんです。バーンとね。そうすると周りのお客さんがびっくりしちゃうわけです。あの顔で怒るわけですから。
小森陽一 ほんとに怖いですから、加藤さんの場合。
桜井均 実は実験で二回ぐらいやってみたんです(笑)。すると、条件反射的に机を叩くんですよ。
小森陽一 それがつまり、加藤さんの友人に対する記憶の身体化の在り方なのですね。(37-40p)

桜井均 若い人の中に、そういう人が結構いるわけです。そういう人がこの映画のどこで反応するかというと、先ほど触れた「橋渡し」のところなんです。加藤さんが「どんなちっぽけな人間でも、この世界に意味を与えることのできるのは自分なんだよ」ということをおっしゃっるでしょ。あそこに反応する若い人が意外と多いんです。(略)
小森陽一 そうだと思いますね。つまり、自分の中に独自の価値体系を持たずに、すべてまわりから評価されるだけ。とりわけ日本の点数競争だけの学校社会的な成績主義の中だけでしか自我形成ができていない。中味のない数値だけだから焦燥感をかきたてられる。だけど、どんなに焦燥感にかられながらやっても、所詮は他人の評価だから、全然自信にはならないわけですよね。その逆転現象が、ある時期まで流行った「自分探し」です。その言葉に騙されて、せっかく正社員で入社したのに、突然辞めてフリーターになってしまう。1990年代から若者たちが「自分探し」をさせられてきたとすると、「世界に意味を与えることのできるのは自分自身の意識だ」という加藤さんの言葉は、自分を一気に外へ開かせる力を持っています。さらに次の瞬間、もっと自分が問われることになる。世界に意味を与えられるかというと、簡単ではない。非常に鋭い問いかけになっていると思いますね。
桜井均

私も「序説」の読み直しと、「妄語」の中の「それだけではない」をもう一度読み返す必要を感じた。この対談(2010年)の概要は知っていたのだが、その全容は価値が全く違うものだった。やはり概要は概要だった。

加藤周一はたった5分間の「那智瀧図」のために根津美術館に赴き断っていた美術品に対するコメントを言う人だった。ガラス越しにではなく、直に絵を見るために苦労を厭わない人だったのだ。概要を知るということと、全文を読むということと、直に話を聴くということと、直に対話するということは全くレベルが違うんだということを再認識した。もはや直に話を聴いたり対話することは叶わない。ブログに書く場合は、全文を読んだ時に限ることを改めて決意する。


2015年4月23日読了





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最終更新日  2015年04月27日 18時32分43秒 コメント(2) | コメントを書く


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